『沙織の夜』
「ただいま~」
誰もいない部屋の明かりをつけながら沙織は呟いた。
沙織は立川で一人暮らしをしていた。
8畳のフローリングと、2畳のキッチンがついた1DKタイプ、
築3年の鉄筋コンクリート造マンションだ。
電気コンロにユニットバス、部屋は広いとはいえないが、
JR立川駅から徒歩6分という立地条件で
家賃は月8万5千円が魅力的だった為に、半年前に入居した。
婦長といえども、夜勤や残業代がない分、手取りは月額25万円程度、
病院から家賃補助を3万円もらってはいるが、派手好き遊び好きの沙織
にとって、私生活は極めて質素である事が義務付けられている。
沙織は帰宅後、必ず煙草に火をつける。
煙草をひとふかしすると、冷蔵庫に常備しているビールを取りに行く。
キンキンに冷えたビールを半分程一気に飲んだ後、再び煙草を口にくわえた。
「武君、かっこよくなってたな~。学生時代から人並み外れた顔してたけど
更に男らしさが加わって、超好みのタイプになってたわ~」
「一樹君は、武君ほどかっこよくはないけど、悪くはないよね~
私の事かわいいって言ってくれたし。洋服のセンスもおしゃれだったな~」
沙織の中で、いつの間にか一樹の女の子らしいという表現が、
かわいいという表現に変化していた。
「紀子・・・ま、紀子にはしばらく黙っといてもらわないと
後でメールしておかなきゃ・・・」
沙織は、3人の事をそれぞれ考えていた。
煙草の火を消すと、沙織はコンタクトを外し眼鏡をかける。
ピンクの薄手のワンピースから、上下お揃いの黒のスエットに着替え、
テレビのスイッチを入れ、先日インターネットで購入したお気に入りの
赤い座椅子にドカッと腰を降ろした。
「さ~て、まずはどっちにメール入れようかな~」
沙織の一番のお気に入りははもちろん武だが、
一樹の「女の子っぽい」という一言が、
沙織の中でかなり高得点をマークしていた。
「一樹君なら向こうからメールが来るだろうから、
やっぱり武君にメールしてみよう」
沙織は携帯を取り、メールを書き始めた。
=====送信文=====
こんばんは~(o^-^o)
沙織です
今さっき家に着きました~
今夜は楽しかったね~
武君は学生の時よりずっとイケメンになっててびっくり!?しちゃったよ~
4月の歓迎会が今から楽しみだな~
ところで、明日は何時の飛行機なの?
送信
============
沙織の策略その1
メールの最後に必ず疑問視を入れる。
沙織の策略その2
気軽に返信が書けるように、文章は手短に。
沙織の戦略その3
絵文字、顔文字はふんだんに使用する。
「よし!送信した~。一瞬でシャワー浴びよう~
お風呂に入っている間に返信くるといけないし」
沙織は携帯をテーブルの上に置き、慌てて浴室へ向かった。
シャワーを浴びながら、沙織は紀子の事を思い出していた。
「私と武君がうまく付き合うまでは、紀子には協力してもらうしかない
あの事は、絶対に黙っておいてもらわないと、私も同類だと思われちゃうわ」
沙織は、どこまでも世界の中心的人物だ。
武と自分が付き合う為に、紀子と一樹には
一役かって貰おうと勝手に思い込んでいた。
沙織は、シャワーを浴びながら、明日は武の見送りに行く事を考えていた。
「ちょっと寒いけど、やっぱりこの前買った白のワンピにしよう~」
ちょうど同じ頃・・・
一樹、武、紀子も携帯をじっと見つめ、何かをぼんやり考えていた。
この物語はフィクションです
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★ACT4★『同席』
★ACT3★『隣の席』
★ACT2★『みやこんじょ』
★ACT1★頬を伝う一筋の涙
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