第01話-1

2990年・5月下旬・・

セルムラント共和国は平和な日々を送っていた

他国で未だ起きている民族紛争・宗教戦争・小さないざこざすらも関係ない

ここはそういう、ある意味では呑気な人間の国なのである


特に・・5月の陽気もあって、その平和ぶりに拍車がかかったように見える


セルムラントの海岸線には早い海水浴客が姿を見せ始めていた

かつての大規模な環境変化によるやや温暖な気候と季節変化の到来

この国にとっては結構なプラス要素になったようである

海岸からは港もよく見え、そこには外来からの船や、宇宙からの臨時連絡艇なども泊まっている

風景としても一興、海の青さもまたお国自慢と。


この国の首相はそう言って・・また呑気に笑う


しかし・・海岸線でくつろぐ人々とは裏腹に、どたばたと大騒ぎしている連中もいた

海岸線に静かに・・いや、今は大騒ぎの大音をたてながら建っている事務所


・・「ユニオンリバー社」である。


「マスター、早く荷物積んじゃってくださいよ!!」

「うっせー!必死にこーして急いでンじゃねーか!!」

「連絡シャトル発射まであと20分なんですよ!?」

聞こえてくる会話からは、どうも大急ぎで出かけようとしているらしいが・・


「いいからガレージ開けろ!ラディオンを出せ!!」

「はい、了解しましたよ」


ロディの声にシュウが答え、眼下のガレージからゆっくりとトランスポーターが顔を出してくる

その車体には六輪のタイヤと小さなブレードアンテナ、どう見ても不恰好なサイドインテークなど妙な装備が見受けられる

後部デッキの側面にはやはり、会社のお約束であろう自社のマーキングも施されていた

その車体はシュウの運転で右に曲がり、そのままいったん路肩駐車する

その後部デッキへ大きな荷物を持ったロディが・・

2階の事務所から飛び降りた


どんっ!!

大音をたてて着地・・ややバランスを崩したようだがすぐに立て直し、ドライバーシートにつく。


「何をやってんですかマスター!屋根がへこんじゃうでしょう!?」

「早いんだからいーだろ!」


適当な事を言いながらも急いでラディオンを急発進させるロディ

助手席にはネスとそれを抱えるシュウ

後部にはもちろんのこと、セラ、シード、メイがいるのだが・・


「ふぇぇぇぇぇっっっっ!?」

「きゃっ!?」

「のぉわぁぁぁぁぁっ!?」


急発進のおかげで背後のシートに「どべっ」と張り付いてしまった


「ら・・乱暴運転反対ーっっ!!!」


シードが叫んだ声もロディの耳には入っていない

大急ぎで連絡シャトル発着場へ向かわなくては、宇宙へ上がるのが遅れてしまう

・・そうなれば、物好きから来た久しぶりの依頼も「パー」だ・・


「うっしゃぁぁぁぁ!!イナーシャルドリフト!!」

「うぎゃぁぁぁぁ!?リフティングターンは勘弁やぁぁぁぁぁ!!!」

「マスター!事故ったら高くつくんですよ!?」

「・・いいよ、僕が修理するからさ。」

「お兄ちゃん!次、左カーブ!!」

「任せろ!ゼロの領・・」

「えーかげんにせぇーいっっ!!!」

・・ともかく、今日は仕事があるらしい


今回の目的地は太陽系から少し離れた宙域・・とある産業コロニーでの調査

何でも、ある「違法取引」が行われているらしいが・・


第01話「ユニオン始動」


仕事内容(メニュー):違法取引調査

目的地・標的(ターゲット):工業コロニー「アルト」


依頼人(クライアント):宇宙中央警察機構
           「スペース・セントラル・ガード」(S.G)

注意事項(ワーニング):くれぐれもコロニーに対して攻撃はしないこと
           本来なら我々の行うべき捜査ではあるが、残念ながら圧力がかかりつつある
           君達を信用してはいるが・・頼むから壊すのは最小限に、だ。



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