第09話-3

・・「三日三晩」そういう言葉は彼らの戦いの時間を表わすのに相応しかった

太陽系とその周囲・・できる限りの敵を掃討したユニオンリバー社

後で数えてみれば、倒したガーディアンの数は20にも及んだ(一体一体の性能を考えれば、すさまじい数なのはおわかりだろう)

この内ゼファー・・ロディ一人で倒した数が12というのは驚異的なのだろうか

ガーディアンの猛攻はもちろん、宇宙中で巻き起こっている


・・そんな中、太陽系内のS.Gや戦いに参加した一同は最後の休息をとっていた


派手に破壊されたギア、戦死者の遺品を握りしめる者、休む間もなく他のガーディアンを倒しに出発する者

・・そんな光景が広がる地球の地表に、妙に達観した表情のリィズがいた

傍らにはレオネもいたが、彼女は何故か頭に大きなたんこぶができている

リィズの愛機グランド・スパイラルは警察の兵器としては驚異的な力でガーディアンを倒したものの、敵の攻撃で左目~左肩にかけてと右足が融解していた

パイロットであるリィズが無傷だったのは不幸中の幸いである


「・・レオネ、あんたも不幸よね」

「・・・・・いたぁいですよぉ~・・・(泣)」


実は先ほど転んだだけの話であって、彼女の乗った旗艦スカイ・イージスが攻撃を受けたためではない

・・S.G第八実験小隊のメンバーは彼女以外が全員無傷の勝利という、奇跡に近い状況だった

しかし他小隊のメンバーや民間から戦死者が出ている事を考えれば、手放しで喜んでいい事ではない


リィズは陽が高く上っているのを恨めしそうに睨みつける

レオネもつられて、たんこぶをさすりながら見上げる


・・正午になろうとしている・・もう残り時間は少ない・・


今の所ユニオンリバー社が倒したものを除いて、S.Gや民間でガーディアンを倒せたという例はない

・・フォトンサーフィングブレードやドーマのキャノン、ユニバリスのネイルといった特殊な兵器はロストテクノロジィの副産物

その設計図を送ったとて、短時間で完成させるのはシュウやサクラのような人間でなければ不可能だろう

リィズは愛機スパイラルの右足と引き替えにガーディアンの相干渉フィールドを破ったが、偶然が重なったための結果でしかない

修理・・試作機故の交換パーツが用意してあり、それを換装してシステムチェックを行えばあっという間に元通りになる

リィズはそれまで(とは言ってもたかが20分程度だが)休憩をとっていた


・・空を見上げながら彼女は、自分にできる事をやるためにヨーロッパへ向かおうと思っていた

・・ユニオンリバー社の行動に賭ける、ガーディアンとの戦いで「それしかない」と直感していた

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・・数十分後・・ユニオンリバー社には、恐らく会社設立以来の多人数が揃っていた

社員一同、ロディ、メイ、セラ、シュウ、サクラ、ネス、シード、ガンマ

S.Gのリィズ、レオネ、遅れて合流したラルフ

事務所にいた詩亞とフィア

そしてシュウ達の呼びかけで集まったゲイル、ゼオとそのメイド、ハルナとアキナの総勢17人のメンバー


・・皆が思い思いの位置に座った所で、シュウが彼らを事務所に集めた理由を話し始める


「・・この緊急事態にわざわざここへ来てもらったのはこれをお渡しするためです」

「これは?」


ゲストメンバーそれぞれに渡されたのはギアのOS書き換えソフト

・・ロディ達に渡されていない理由は、すでにその内容が各々のギアに書き込まれているからである


「マスターシステムを相手にするのに、通常兵器しか積んでいないのでは意味がありません」

「そこでコレを書き込んで、全機にサイシステムを積んじゃおうってワケにょん♪」

「時間がありません、急いでOSのセットアップを・・・準備が終わり次第目的地まで「飛ばします」から」

「おう、じゃあ急いで・・・って「飛ばす」・・?」

「はい、飛ばします」


深く考えない事にして、本当に時間が切羽詰まっているので書き換え作業を始める一同

「・・サイシステムのレクチャーは必要ありません、一言で片づきますから・・

「アレはな、「気合」がそのまま力になるシステムなんや」

「ホントにか?」

「・・本当なら面白そうなシステムなんだけどね・・♪」


リィズもゲイルも半信半疑でディスクをセットし、システムをギアのOSにインストールする

・・インストール画面には小さなシードのマスコットが現れて、一人漫才をしている

横に残り時間が表示されているが、あまりにもくだらないネタを連発するマスコットに目がいってしまう(汗)


「・・シュールな時間だな」


ゲイルは思わず、苦笑いでコメントした


「ところで、どうやって「飛ぶ」のよ、目的地まで?」


リィズはそれを見るのに耐えかねて、質問をシュウにふっかけた


「簡単ですよ、ブレードバッシャーの「主砲」の干渉作用を利用して送りこみますから」

「ふ~ん・・」

っておい!?主砲だとっ!?

「時間はないんです、今ブレードバッシャーはセルムラント港に降ろしてありますから、インストールが終わったらそちらへ移動してください」

「大丈夫よん、敵を倒すなんてぞーさもないんだからぁ~♪

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「ロディさん、問題ないですね?」

「ああ、いつでもOKだぜ!」

・・ゼファーが前進し、浅瀬の海に立つ

背後には港に横付けされたブレードバッシャーのブレード部分が開き、主砲発射の時を待っている

「メイちゃん、セラちゃん、ガンマくん?」

「はーい」

「大丈夫です」

「覚悟はもとより・・」


ドーマ、ユニバリス、デストロイもその背後でスタンバイする


「リィズ&ラルフさんも大丈夫ですね?」

「漫才コンビみたいに呼ぶのはやめてよね・・・問題ないわ」

「俺も、空さえ飛べれば大丈夫。」


グランド・スパイラル、グラス・バード・・ラルフの鳥型に変形するギアと共に、大型のリィズのギアもスタンバイする


「・・後の皆さんは聞くまでもないですか。」

「いつかの償い、しっかりとさせてもらうよ」

「ゼオ様、ぱぱっと片づけてくださいな♪」

「そーよそーよ!どどんとでかいのかましてやって!」

「おう!お前らもしっかりやれよ!」

ガイストレイス、リベリオンも武装を背負い込み、ブレードバッシャーの前に立つ


シュウ、ネス、シード、フィア、詩亞はブレードバッシャーのブリッジから、そのギア達の背中を見守る


「がんばってくらさいにぇ~♪」


サクラが言い終わった瞬間、シュウが拳銃のようなユニットを構えた

ネスの手がコンソールを滑り、シードがボタン操作を数回行う


「空間干渉レンズ作動」

「ブレードバッシャー周囲空間の相転移効率、+20%」

「メインエンジン臨界、主砲「メイオウ」発射カウントスタート」

「了解、カウント10・・スタート」


「今更聞くのもナンだけどよォ・・主砲ってのはどういうモンなんだ?」

「そうですねェ・・普通に撃った場合は「宇宙から存在を消滅させる」くらいの出力ですね」

「俺降りる!降ろしてくれッッ!」


なんて言っている間に主砲・メイオウは放たれ・・・ロディ達の視界は、一瞬真っ白な世界に包まれた

・・次に目を開けた時には、目の前に見たこともない惑星・・いや「衛星」がそこに存在していた

宇宙空間まで一気に飛んできたのだ、と理解するや否や、その衛星が変形を開始した

・・ロボット?

・・巨大な兵器・・・

こちらが何が起こっているかを理解するより早く、その「兵器」が行動を開始した


『全機散開!』


リィズが命令口調で叫ぶより速く、皆は逃げおおせていた

散開したロディ達はそれぞれに「衛星」・・「兵器」「ロボット」を見て、驚愕する


『シュウ!こいつが・・親玉か!?』

『ええ、それを・・「エリクシル」を倒せばガーディアンは全てただのオブジェと化すハズです』

『・・行くぜ!』

『おう!』


皆の声が重なる


『全機サイシステム起動!』


・・それぞれの機体が超高速で機動を開始する

ガーディアンの「親玉」・・その衛星は完全に変形を終え、巨大なひとつの「ガーディアン」である事をこちらに確認させた

ガーディアン・メインシステム「エリクシル」・・


『ユニクロンかよ・・ったく、何にせよこりゃ上等だぜッ!!』

『仕掛ける!』

『・・だな!』



ロディ、ゲイルが突っ込んでいく

後方からはガイストレイス・・本来三人乗りの、その本来の性能を発揮した機体が一斉射撃を行う

パイロットにガンナー2人、それがこの機体のスタイルだ


『・・しかし・・効いてないんじゃないのか、これは?』

『ならもっと撃ちまくるだけですよ、ゼオ様!』


・・と、右のシートにいたハルナが言うと・・左のシートではアキナが騒ぎまくっていた


『攻撃!攻撃!攻撃ぃぃぃ!!』


ガイストレイスの左半分の兵器が景気よく発射される

ハルナが圧倒され、ゼオは少しだけ「こいつ連れてきてよかったのかな?」と不安になる

トリガーハッピーな少女が撃ちまくった分は、エリクシルの胴体付近に着弾する

・・だが・・例によって相干渉フィールドが展開しているため、実弾もエネルギー兵器も全て打ち消されてしまった


「・・なんだ~・・・・全然ダメじゃん」


アキナは撃ちまくって、それを食らってバラバラに吹っ飛ぶ目標物を見るのが好きな恐ろしいヤツである


「スタンの大将!・・あのバリアみてーなモンはどうすりゃ破壊できるんだ!?」

「P.Sブレードで直接叩っ切れるが、一時的だ・・完全に撤去するとなると・・」

「できるのは私のデストロイだけでしょうな」


かく言うデストロイには、エリクシルの砲火の火線も、味方からの流れ弾ですら効いていない

・・同じ物がついているのだから当たり前か。


「ガンマ!一カ所でいいからフィールドに穴開けろ!一斉に攻撃叩き込んで終わらせる!」

「おう、そりゃ景気の良い話じゃないか♪」

「そうね、早く終わらせてお茶でも飲みましょ!」

「チャンスは一瞬、機会は逃さん!」


ガンマ・・デストロイが砲火を全て打ち消しながら、巨大なエリクシルへと向かっていく

サイシステムをフル稼働させた全機はそれに続き、本体にとりついた


「PHASE INTERFERENCE FIELD・・LEVEL MAXIMUM!!」


銃、砲、槍、各々の武器を構え・・

フィールドが相殺されると同時に、一斉に放った


どっ・・・・

爆発、閃光、破片・・・

様々なものが到来し、「それ」が崩壊した事を告げる

ずぅぅぅぅぅぅ・・・・・

ばきばき・・と折れて、バラバラになっていく装甲、内部の機材が大音をたてて砕け散る


「やった!?・・・ぜ!!」

「ふぇ・・?あっさりすぎない・・?」

「・・大丈夫、内部で連鎖崩壊が始まって、もう80%は大破してるよ」


ロディとメイの問いにシュウは映像と、ガーディアンのネットワークから得た情報を元にその結果を伝える

・・あれだけ大騒ぎしたのが、嘘のような早急の決着

・・もっと早く見つけていれば、心配だの覚悟だのせずに済ませられたハズ・・


「・・ある意味期待外れだった・・」

「撃ち足りない!!」

「はっはっは・・随分と物騒なのだな・・(汗)」


ゼオ、ハルナ達、そしてゲイルもほっとため息をつく


皆の顔が満面の笑み、あるいは安堵によって得られる、ゆるんだ表情になる

ゼファーをはじめギア各機も、その武器を格納してサイシステムを停止、通常稼働の状態に戻った


・・画面ではまだ、エリクシルの大爆発が明るく輝いている


「これでもう、心配事はねェんだな」

「お兄ちゃん・・♪」

「やった~!!!」


皆が歓喜の声に沸く
恐らくそれはガーディアンが停止した事で、宇宙のあちこちで聞こえているであろう声・・


最悪の日々・・10日間は、ついに終わる

残り1時間、わずかの所で間に合った


「よっしゃぁ!!帰って祝杯と行こうぜ!」


・・ロディ、ゼファーがそう言って両手を振り上げた時だった

異変が、一瞬にして宇宙を凍らせたのは


「!?」


エリクシルの爆発が、止まって見える

爆発の炎がアクリルで再現された模型のように、その光球の形を止めている

そして・・最も爆発に近い位置にいたゲイルのリベリオンが、その異変の影響を最初に受けた


「き・・機体が動かん・・!?」

「ど・・どうした、ゲイルの旦那よ・・?」

「リベリオンのモニターが全て止まって・・・・ち、違う!私も!?」


ざっ・・という雑音、ノイズで・・リベリオンとの交信はできなくなった


「よく見ろ・・うっすら青い光が広がってきてる・・」


リベリオンは爆発したワケではない、と言うことは、ウィルスのような「パイロットを直接狙う何か」
仮にウィルスだとしたら、コクピットのゲイルは・・


「全員離れろ!・・ってジジイ!?」


遅かった

すでにゼオ、ハルナ、アキナの乗るガイストレイスは、海に沈むように青い光の中に浸かっていた


「そんな・・動けない・・!」

「このっ!トリガーが引けないなんて!」

「スタンの大将、よくわからんが・・逃げ切ってくれよ?・・どうやら俺らもやられたらしい・・」


ガイストレイスも、爆発等に襲われる事はない、ただ静かに・・全ての時を止められたように、宇宙空間に漂っている

・・いや、漂っているという表現も正しくはない、その何もない場所に接着されたかのように、固定されている


「ひ・・光が速くなってる!」

「なんなのコレ!?」

「わかんねぇけど!!」


・・しかし・・

ロディを含め、その宙域で戦闘していたメンバーは皆、光に飲み込まれてしまった

無理もない、「光」なのだ

人類は、亜空間航法以外で光速を越える事はできない

さらには今、亜空間航法ができる装備もなく、可能な宙域でもない


「止まる・・!?何でだ!?」

「動いてくれよゼファー!!・・根性だ!!出力全開!!」

「相干渉フィールドも無駄のようですな、流石に光とあっては・・」


そして・・

その宙域、星々、あるいは全宇宙へと広がる光が・・・

わずかの瞬間、ほんの数瞬で全てのものを停止させた


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