第三幕

シオンが来てから二週間目の朝・・今日も目覚めは爽やかだ


ぶんっ・・


シオンは、その空を切る音で目を覚ます・・

・・外はまだ薄暗い

こんな時間から、一体誰が何を・・?

ベッドからふらりと立ち上がったシオンは窓から下を見て・・音の正体を知った


「・・ロートくん・・・?」


シオンに弟子入りして4日目の少年、ロートが大剣を振り回し、素振りをしている

しかし、当の師匠であるシオンは・・というと・・


「・・もう一回寝ますか・・」


独り言をぶつぶつ言いながら、さっさとベッドに戻ってしまった(汗)


「シオン!・・おるのだろう!?・・さっさと起きんか!!」


しかしドアを何度も叩く音と、大騒ぎするような少女の声で彼はもう一度起きあがる事になった

・・というより、彼はとても朝に弱いようには見えない程早く・・ドアの前に立っていた

いつの間にか寝癖やら身だしなみまで直して、完璧な状態で・・


「おはようございます・・姫様。」


ドアを開けて挨拶をすると・・腕組みをしている、いかにもイライラした様子の少女がいた


「お主はいつもこうなのか!?・・全く・・今日は妾に朝から一日つきあうと約束したではないか!!」


ドレスを着た少女・・リオ姫はシオンが微笑むより早くツッコミを入れた

シオンも彼女の剣幕にたじろぐ


「し・・失礼しました(汗)」

「・・まあよい・・とにかく、さっさと着替えて妾について参れ」

「はっ・・」


敬礼をして、シオンは自室のドアを閉める


着替えと言ってもシオンの場合はたかがマントを羽織るだけ

後は例の鞘・・あれを背負うのだが


「・・まぁ・・姫様とのデートにこれは無粋ですか(笑)」


壁掛けに横にしてあった鞘はそのままにして、シオンは部屋を出た

##########################################

「兄ィ・・本気か?」


自宅・・「工房」に戻ったロートは、弟からいきなりそう切り出された


「ああ・・そのつもりだけど・・?」

「ま・・兄ィがどうしようと関係ないか・・俺は工房、兄ィは騎士団・・どっちも王室関係の仕事だしな」

「心配ならいらないよラウル・・お師匠様がどれだけスゴイ人かは知っているだろう?あの人についていけば俺はきっと「愛の騎士」になれる!」

「(俺が心配してるのはその「愛の」ってトコなんだけどなぁ・・)」

「?」

「・・まぁいいや・・・さっさと集会行ってこいよ、兄ィ」

「ああ。」


こうして・・今日も、セルムラントの平和な一日が始まった

##########################################

第三幕・・「SECOND FIGHT -行くか行かざるか-」

##########################################

・・セルムラント城・中庭・・

いつものようにレストの演説を聴くだけの早朝集会が始まっている

・・しかし、シオンの姿はない


「・・あいつはドコへ行った?・・誰か知っている者は?」


レストが不機嫌な様子で聞くが、皆首を横に振る

・・すると・・一人の騎士が手をあげて答えた


「シオンさんなら、朝早くに姫様連れてどこかに行っちゃいましたよ?」


・・

・・・

・・・・・

静まりかえる中庭・・


「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃっっ!?」


皆が揃って驚きの声を上げる!

・・説明が悪かったのだろう・・今の言葉ではまるでシオンが姫を誘拐でもしたかのような印象を受ける


「さ・・探せっ!!あの不届き者を引っ捕らえるぞ!!」

「バカ者」


ばしっ!となかなかいい音がして・・レストの頭にハリセン(?)が直撃した

頭を押さえながら後ろを振り返ると・・シオンに肩車されたリオ姫がそこで腕組みをしていた


「ひ・・姫様!?」

「レスト・・お主は推理力もないのか?・・「妾がシオンを連れ出した」事くらい想像もつくだろう」

「・・は・・・・はっ!・・」

「そういう事ですから・・では、僕はこれで。」


シオンは姫をゆっくり中庭に降ろすと、先に歩き出した姫について去っていった


「・・・姫様はシオン殿を気に入ったようじゃな」


サイブラスの爺さんが突然口を開いた

・・完全にボケているかと思いきや、いきなり真面目な事を言い出すのが怖い所だ


「・・ま・・シオンがついていればドコへ出かけても安心だろう」


レストは国や王家を守る騎士団長らしからぬ事を言って、今日の集会はさっさと解散することにした

##########################################

「行きたい」

「・・・無理ですよ」

「命令だ」

「・・・・・・あはは・・」

「笑ってごまかすでない、シオン!」


姫はいきなりシオンに「城から連れ出せ」と言い出したのだ

朝起きて城の「見晴らし塔」で周囲を見回し、城中をぐるぐる回って中庭に寄り道し、次は・・・

・・やはり姫という立場故、特別な事がない限り街に出るような事はないのだ

だが、さすがにシオンにもそういう事は出来かねる


「・・弱りましたねぇ・・」

「・・・・こんなささやかな願いも聞いてくれぬのか?・・・・」


強気な態度ばかりとっていた姫が、一瞬だけ寂しそうな声になる

・・彼は何となく、その辺の心境を察したらしい

にっこり笑うと人差し指を立ててこっそり耳打ちした


「内緒ですよ?」

「・・連れていってくれるのか、シオン!?」

「ええ。」

「やはりお主はいいヤツだのう♪・・・さぁ、さっさと行くぞ!!」

##########################################

・・そのころ・・

ユーリィは城の一階・大広間の長椅子に座って、ロートと話をしていた


「お師匠様・・どこ行っちゃったんだろう?」

「正しくはどこへ連れていかれた・・だよね」


二人とも姫の事はよく知っている

・・強引というか、押しが強いというか・・・まぁとにかく、自分の意志を最優先させる少女なのだ。


「・・もしや・・・城の外に行っちゃったとか?」

「まさかぁ(笑)」


・・連れ回されているワリには、さっきから本人らの姿がないような・・

ユーリィはあっけらかんとしていたが、ロートは何となくそんな気がしてならなかった

##########################################

フェブリスの街

シオンと姫は通りを歩いていた


もちろんそのまま歩いていれば姫は街の者に感づかれてしまう、それらしく服装を着替えて、眼鏡をかけて・・


「シオンさん、その娘は妹さんかい?」


食堂の前を通りかかった時、通行人にそんな質問をかけられた


「・・まぁ、そんなトコです」


にこっ・・と笑って、通り過ぎる

##########################################

「・・のう、シオン」

「なんでしょうか?」


眼鏡が気に入らないのか、いちいち角度を変えながら姫が問いかけた


「お主は何故旅をしておったのだ?・・・あれほどの手練れならば専属の騎士でもやっておった方が良いだろうに・・」


シオンは上を向いて・・空につぶやくように、言った


「生きるにはそれがいいのでしょうが、僕は物心ついた時から探したいものがあったんです」

「・・探したいもの・・?」


しばし時が流れる・・・

近くの清流・・小さな川の流れ、その音と回りの生活の声だけが聞こえてくる


はっとしたように、シオンは続けた


「あ、でもそれは姫様でもお教えするワケにはいきません」

「・・そう言わず、試しに言ってみよ・・もしかして妾が持っておるかもしれぬぞ?」

「・・・う~ん・・・・・・・姫様にはちょっと早いかもしれませんよ?」

「わ・・妾を子供扱いするでないッ!!」


カチンときたらしく、言葉を強めて姫は叫ぶ


「それでも・・お教えするワケにはいきませんね」


逃げるように微笑むと、むくれていた姫もあきらめざるをえなかった


「・・まぁよくわからんが、日々を楽しく生きておるようだな・・・お主は」


心から微笑む・・それができる者はそうはいない

シオンはそういう男なのだと、姫は安心したように笑った

##########################################

それから、二人は街の中をぐるぐると巡った

フェブリスが小さな街でも、見るモノ皆珍しい姫にとっては好奇心を満たすのに十分な所だった

いかに言葉は大人びていても、やはり十にも満たない少女

・・シオンは駆け回る楽しそうな彼女を見て、そういう意味で安心する

少し腰を落ち着けようとした時だった


どぉぉぉぉ・・・ん・・・・


「・・・・・!?」


シオンが驚きの表情を浮かべて立ち上がると・・大音がしたのは、彼のすぐ目の前の橋だった

・・街の中を通って、静かに流れている川・・・

その川の流れにそって、魔物が橋を破壊しながら現れたのだ

静かな街は一瞬にして再びの危機にさらされ、周囲は混乱に陥る!


「姫様ぁっ!!」


シオンは真っ先に彼女の元へ駆け抜けた


・・動かない


彼女は駆け抜けてくる魔物を前に、呆然と立ちつくしている

・・何が起こっているか理解が追いつかないのだろう


「・・っ・・・・・・・!!」


振り下ろされた魔物の腕が姫を直撃しようとする

・・間に入ったシオンは、両腕・・ガントレットでそれを受け止め、全身にその重量を受ける


「ぐぅぅぅぅっっ・・・!!」


両腕に負荷がかかり、両足にはそれ以上の重圧が襲いかかる

・・しかし・・


ペンダントが、輝いた


次の瞬間には、今にも押し負けそうな光景はどこへ行ったのかと疑うような状況になっていた

大きく懐をえぐられた魔物が宙を舞い、川へと落下していく姿・・

シオンが放った「拳」が、ただの一撃で魔物を粉砕したのだ


「ったく・・・人が剣を持ってない時に襲ってくるなんてよォ・・」


人が変わったようになった彼はガントレットについた魔物の血を振り落としながら、愚痴るように吐き捨てた


ふっ・・と彼の回りの緊迫した空気が薄れると、彼はまた元の口調に戻る


「姫様・・大丈夫ですか?」


・・・しかし姫は、一言も話す事がなかった

##########################################

「お師匠様が牢獄入り!?」


その話を聞いたロートは耳を疑った

シオンが姫を外に連れ出し、挙句危険に晒して話もできないような状態にしたというのだ


「そんな・・第一姫様が魔物に襲われたくらいでそんな事になるワケ・・」

「・・そうよね・・あの姫様が・・」


ロートとユーリィにはどうしても信じられない理由があった

・・リオ姫は過去に一度だけ、出先で魔物に襲われた事があるらしい・・・

護衛の兵士も次々とやられていく中、その魔物はある人物に倒されたという

・・何を隠そう、当のリオ姫本人にだ。


方法がいかなるものであれ、怖じ気づく事なく魔物に立ち向かった事のある彼女がその程度で喋れなくなるものか?


「・・・何かありそうですね、ユーリィさん!」

「シオンさんのためにも真相を突き止めないと・・」

##########################################

セルムラント城地下・・牢獄


何人かの受刑者が拘置されているが、皆一時的にここに囚われているだけに過ぎない

・・この国ではさほど大きな犯罪も起きていないのだ・・一時的な拘置・裁判と反省処置のみで、ここには重犯罪者はいない

・・しかし・・シオンだけは別視されていた

王の決めた法を破った者として、姫の言葉を奪った張本人として・・ここで判定を待つのみ


「・・・・・」

しかしシオンの口元には、いつものように笑みが浮かんでいた

状況を理解していないワケではないようだが・・?

##########################################

・・その日の夜・・


「・・ついに我が主よりの使命、果たす時が来た・・」


カンテラを片手に、ローブ姿の老人が城の廊下を歩いていた

時間は丑三つ時・・・人の気配もなく、城の見張りは門番が数名いる程度・・

それはこの老人にとってすでに知り尽くした事であった

・・法術士としての肩書きを利用し、今まで何百年と探し続けてきた目的・・


・・紋章(クレスト)・・・紋章騎士団よ!・・貴様らの末裔は今日ここで死を迎えるのだ!


老人は笑い・・・静かに地下への階段を下りていく

・・やがて細い通路を経て、地下にある牢獄へと到着した

今ここにいる者は一人だけ・・・・つまり・・・シオン=カーライルである

「シオン・・・貴様の死をもって我が主に報いる!!


法術を炸裂させ・・老人はその牢を押しつぶした

強力な爆発と閃光とが、堅牢な一室を完全に粉砕する


「・・これで良い・・後はあの方の復活を進めるのみ・・・」

「誰の復活です?」

「!?」


背後の通路・・向こうから聞こえてきた声で老人は駆け出す

細い通路を抜け、地下室から1階へと出る・・


・・そこには、マントを羽織った優男・・もとい、騎士が立っていた

傍らには見習いの少年、救護士の少女もいる


「・・シオン!?」

サイブラス=ランティス・・もう一度問います、答えてくださいませんか?」


サイブラス・・あのボケ気味のご老人だ

彼は老人らしからぬ気迫に満ちた表情で、じっとシオンの事を見据えている

手にしたカンテラを放ると、天井の薄明かりの元に両者はすっ・・と出てくる


「とんだ猫かぶりですね、サイブラスさん!・・お師匠様とリオ姫様を狙うなんて!」

「何が目的なの!・・・・というより、あなたはホントは何者なの!?」


・・しばしの間の後、サイブラスは沈黙を破る


「私は紛れもないサイブラス=ランティス・・・伝説に残る紋章騎士団の生き残りだ」

「き・・騎士団の生き残りっ!?」

「紋章騎士団は全滅したワケではない・・・他の愚者共はくたばったが、私は魔王様との契約で永遠の魂を得たのだ」

「・・ふぅん」


シオンは興味がないような素振りで、その先を問う


「・・そのあなたがどうして今、僕を?」

「契約の条件は二つ・・魔王様の死際の一言!・・紋章・それに携わる全ての消滅!!そして魔王様の復活だ!!」


サイブラスは身の丈ほどのロッドを取りだし、そこに仕込まれた刀で三人に襲いかかってくる

ロートはバックステップで回避、ユーリィは反応が遅れるがシオンの鞘に救われる

鞘を返し、攻撃を弾き・・シオンはなおも問う


「魔王の復活・・そんな事できると思ってるんですか・・・?」

「出来る!・・私はそのために諸国の真似事騎士団を転々としてきたのだ!!」


王が代替わりする度に姿を変え、影で情報を探っていたらしい

・・・シオンはそこまで聞いて・・・すでに姿が魔物のような異形に変わり果てているサイブラスを睨みつける


「サイブラス・・あなたのような者は・・」


懐に用意していた短刀を取りだし、鞘に接続する


「・・俺が斬る!


ペンダントの光・・彼はその力で攻撃的なもう一つの騎士のスタイルへと変貌する


「騎士団長が紋章の力を独占しなければ私は死ななかった!・・死の淵の私を救ったのは紋章ではなく魔王の力!!・・」

「だったらてめェにこれが使いこなせたのか?・・軟弱野郎が笑わせるな!!」



サイブラスのロッドとシオンの剣が交錯し、互いを狙い鋭く閃く


・・しかし・・シオンはどう見ても優勢だ


「何故だ!?・・貴様ごときに・・!」

「ああ、若輩者にやられるのがそんなに悔しいか?・・てめェみてーなザコにやられる程弱くねーんだよ!」


剣がすっ・・・と突き出された

サイブラスの肩を貫き、黒い体液が周囲に飛び散る


「ぐぅぅぉぉぉぉっ!?」

「・・その団長の配慮もわかんねーようじゃ、てめェが弱いハズだな・・」


シオンはペンダントを前にかざして叫ぶ


「こいつの力は半端な野郎には使いこなせねェ!だからそいつは自分が全ての責任を負って戦って果てたんだ!!」

「半端だとぉぉぉっ!!」

「・・ああ、半端だッ!!・・」



しゅっ・・・・と空気を切り裂く音

異形のサイブラスが倒れる


「バカな・・・?」


その身体は真っ二つになり、上半身だけがそこに転がっていた

しかし不死と言っていただけの事はある・・彼は上半身だけでシオンの背後に飛びかかった!


「だが・・貴様がいかに強かろうと私を殺す事は出来ぬわっ!!!」

「・・理(ことわり)は偽り、滅ぶは論理・・・」


シオンが法術を唱えた

サイブラスの動きが止まり、今し方斬られた場所から大量の体液が吹き出す!!


「がぁぁぁぁぁっっ!?」


・・べしゃ・・・と、その中へサイブラスの上半身が落ちて動かなくなる


「貴様・・何を・・・?」

「一部の儀式効果を無効にする法術だ・・・お前、そんなのも知らないで法術士やってたのか?」

「・・儀・・式・・?・・・・ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?


青い炎が燃え上がった

サイブラスを包み込み・・その存在が無かった事になる

・・異形の者の姿は、数秒となく炎の中に消えていった


シオンは剣を地に刺し、マントの襟を直す


「さて、状況終了ですね♪」

「これで姫様も元に戻るでしょう」

「しかしまさか・・騎士団にそんな危ない人がいたなんて(汗)」


三人揃って笑ったはいいが、そのままシオンは倒れてしまった

その後ユーリィとロートは、二人がかりで何とか彼を自室まで運んだという

##########################################

翌日早朝

・・集会のあるハズの時間に、騎士団一同は王の間に集められていた


「昨日の一件はサイブラスによる陰謀、姫はこの通りだ」


王の横から、いつものようにリオ姫が現れる


「皆には心配をかけた・・特にシオン、妾のせいで・・・すまぬな」

「いえ・・姫様がご無事ならば」


にこっ・・と微笑むシオン

王は咳払いをして、結論を言う


「よってシオンは責任を負う必要はないものとする!」


わぁーっ・・と歓声があがり、騎士団の皆はシオンを讃える


しかし・・だ。」


しん・・と再び静まりかえる一同


「・・いくら姫のわがままとはいえ、ホイホイと聞いてしまったお前にも考慮の余地がある・・よって、一週間の・・」


最後の一言を聞いた瞬間、シオンはがっくりと首を落とした

##########################################

朝食の時間・・

いつもの食堂で食事をするユーリィとロートの姿があった


「お師匠様・・つらいでしょうね」

「罰則だからしょうがないわよ・・」


シオンの姿はない・・恐らく自室に閉じこもっているのだろう

彼にとってそれほどショックが大きい罰なのだ


・・入り口のドアが揺れて、レストがやってきた


「あれ・・団長、珍しいですね?」

「ユーリィ、聞きたい事があるんだが・・」


レストはロートの隣のカウンターに腰掛けて、少し身を乗り出して問う


「何故サイブラスが犯人だと思った?・・それが不思議でなぁ・・」


目玉焼きをナイフで切りながら、ユーリィは余裕の笑みで答えた


「簡単ですよぉ・・姫様の様子は明らかに術にかかった状態だったし、そんなの法術士にしか使えないし、でもみんな初級術しか知らない・・だから該当者なんて彼しかいなかったんです」

「それに、あのひとって初対面からヘンだと思ったんですよ・・一度も食事してるトコ見たこと無いから」


・・空腹という感覚もないのだろうか、永遠に生きるというのは


「なるほど・・探偵的に考えれば十分怪しかったワケだな」


ふふん、と得意げに微笑むユーリィ、ロート(でもメシ食ってる)

レストは納得したようで、その場を立った


「・・では、私はシオンの様子を見てくる・・説明ありがとうな」


またドアが揺れて、彼は出て行った

二人はしばらくそちらを見ていたが、すぐまた朝食の続きに集中した。

##########################################

「・・禁止・・禁止・・・・」


ぶつぶつと自室のベッドの上で丸くなってつぶやいているのはシオン

軽装で、今はガントレットもバンダナもマントもしていない


禁止というのは、彼にとって最大の難題だった


「女性に声をかけてはならない」


・・もちろん受け答えもしてはならないのだ

・・・外を歩けば皆が避けて通るし、会話できるのは男ばかり


「・・・人生の生き甲斐が・・・(泣)」


そこまで行くか、オイ


「シオン、私だ」

「あ・・団長。」


入ってくるなり、どんよりした空気でレストが驚いた

声をかけにくそうにしばらく考えていたが・・ようやく第一声を切り出す


「よ・・よかったな、姫様が元に戻って」

「・・ええ。」

「・・・・」


いつものやんわりしたテンションでないだけで何故こうも違和感があるのか?

・・この世の地獄とばかりに、シオンはテンションダウンしていた


「・・お前、たかが一週間話ができないだけでそこまで落ち込むか?」

「・・・はい、命かけてるようなものですから」


・・言い切ったよ、こいつ


レストは苦笑いしながら、彼のホントに真剣な目に一歩退いた

##########################################

「・・暇よのう」

「姫様、いけませんよ」

「わかっておる・・第一シオンとは一週間話ができんのだろう?・・どうやって外に出るというのだ」

「姫様の事ですから、そういうことには悪知恵が働くでしょう」


侍女の言葉に怒ろうとした姫だが・・流石にぴったり当たっている事に怒鳴ってもしょうがないとあきらめた


「・・しっかし・・暇よのう」


小さなあくびをしながら・・姫はひたすら、眼下の街並みに思いを馳せていた


「(・・シオン・・妾はお主が恋しいぞ・・)」


少し頬を赤くしながら、姫がつぶやいた


「(・・お主ならこの暇~な空気からささっと連れ出してくれるだろうになぁ・・・)」


そういう意味で。

##########################################

ともあれ、魔王復活を企む男サイブラスを倒したシオン

一週間後には完全復帰し、今までの倍以上のテンションで張り切ったという


・・セルムラントは今日も平和だ

この一件以降、時折城下町にシオンの妹と名乗る少女が現れるようになった以外は・・・(笑)

##########################################

予告

ユーリィ「あれ・・シオンさん?その眼鏡の娘は誰です?」

シオン「ユーリィ、紹介しますね・・この娘は・・」

ユーリィ「って姫様・・そんな格好しててもわかりますよ、私観察眼は発達してるんですから」

リオ「(ぎく)・・まさかお主・・・・わ、妾の事をばらすつもりか!?」

ユーリィ「いえいえ、言いませんよぉ・・まさか姫様が変装してまで城を抜け出しているなんて・・」

リオ「あわわわっ!!こ、声が大きいぞお主!!」

ユーリィ「あ・・・す、すみません・・(汗)」

シオン「・・これだけは内密にお願いしますよ、ユーリィ」

ユーリィ「・・・・了解です」


相変わらずその日その日を楽しく生きる男、シオン=カーライル

ユーリィ、ロート、リオ姫と街を歩いていた時・・不意に旅人から二つの噂を聞くが・・?

ふらっと出かけた四人の前にあるのは、世にも恐ろしい魔物の巣か、宝が眠るという謎の遺跡か!?

・・行く手にはちょっとした冒険が待ち受けているようだが・・


次回・・

  「DANGER SWAP ADVENTURE
           -危機と冒険の引き替えに-」


リオ「うむ・・楽しいのならばそれでよいぞ!!(笑)」



© Rakuten Group, Inc.