およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群をヒトは古くから畏れを含み、
いつしか総じて『蟲』と呼んだ。
(2006年に放送されたものです)
★2014年4月~12月「蟲師 続章」→
蟲師 続章 あらすじまとめ
★前のお話は→
蟲師 あらすじまとめ
蟲師 第19話 天辺の糸(てんぺんのいと)
吹(ふき)の勤めは来年まで。その後はどうするのかとたずねる清志朗(せいじろう) まだ何も決めていないと言う吹に、なら俺と...言いかけてやめて星を観てごまかした。吹が空から糸が垂れているけど何かしらと言った。清志朗には見えなかったが吹はいったいどこからと手を伸ばした。そして吹は消えた。
吹は尾っぽのついたほうき星を昨日みたと言った。光ったり消えたりしながらクネクネ動いていたと空を指さした。そんな彗星がもしあれば大発見だな、見つけてやると清志朗は言った。結局、そんな星が見つかることはなかった。吹は疳の酷い清志朗の末の妹の子守として家に来た。時折そんな不可思議なことを話すので里には白い目で見る者もいた。
姿を消した吹を皆で探す。山の中も探したが見つからず父は子守に疲れて逃げ出したのだろうと言った。清志朗は吹は仕事を放り出すような娘ではないと言い、河原で糸を掴もうとしたら目の前で消えたと話すが、どうせならもう少しまともな言い訳をと言われた。
山の中を歩くギンコ。高い木の上に女の人(吹)がいるのを見つけた。ギンコは吹を木から下ろし薬を作って飲ませる。何も覚えていない吹にギンコが話す。お前は強い蟲の気を帯びて、酷く曖昧なモノになってしまっている。おそらく今は他の人に姿は見えない。手に生えている白い糸に触れたせいだろう。放っておくとどんどん人から離れて行く。
私を助けてくれているのと聞く吹。ギンコは、自分のしたいようにしているだけだと言った。翌朝、少し血色が良くなってきた吹を連れて里を探すギンコ。人の匂いがあるほうが治りも早い。記憶が戻らなければとりあえず近くの里に置いてもらえと言った。
夜、吹が目を覚ますと地面の底で何か光っているのが見えた。今のお前にはよく見えるだろうとギンコ。ここは光脈筋のようで光っているのは光酒(こうき)という蟲が生まれる前の姿のモノが群れを成して泳いでいるもの。きれいと言う吹に目の毒だからあまり見るんじゃないと言った。慣れ過ぎると陽の光が見れなくなるから。
光の川なら上にもあるとギンコは空を指さした。あれは夜も陽の光を浴びて光っているモノ。こっちの川を見ろとギンコは言った。天の川と光酒、鏡に映っているみたいという吹にギンコは似て非なるものだ、見誤らないよう気をつけろと言った。
良く眠って目覚めた吹は、昨日は嬢ちゃん夜泣きしなかったんだと思って思い出した。帰らなきゃ。記憶が戻ったのかと言うギンコにあの山の向こうが私のいた里だと言った。里に着くと、いなくなった吹じゃないかと声をかける里の人。どこに隠れていたのかと聞かれ、隠れてなんかいない、空から垂れた糸を引っ張ったら周りが真っ暗になってと話す吹。またそんな戯言をと里の人たち。逃げておいて怖くなって戻ったのだろうが旦那さんは代わりを雇ってしまったから遅かったねと言われた。
清志朗が吹を見つけて駆け寄る。ギンコに助けてもらったと吹。家に帰ろうと手を引く清志朗に、でも代わりの人がいるから戻れないと吹。清志朗は、なら俺の嫁として戻ってくれと言った。驚く吹に、戻ったら言おうと決めていた、いいだろうと清志朗は言った。
清志朗の父は吹とのことを許さなかった。すぐに認めてくれるとは思えませんからとギンコに言う清志朗。ギンコは吹が消えた時のことを聞きたいと言った。空から糸が垂れていると言って宙を掴むしぐさをしたら宙に舞い上がり空の高みで消えてしまったと清志朗が話すと天辺草かとギンコは言った。
蟲のことを吹は、物陰でじっとしているモノや宙を漂う小さなモノたちと言った。それが見えるものは少ないが、この世界の隅々にまで蟲はいる。あなたにも吹と同じものが見えるのかと聞くと、それを飯の種にしているものでねとギンコ。羨ましいなと言うと吹は幸せ者だなと言った。だが蟲の影響から抜け切れていないから気をつけてやれと言った。
天辺草(てんぺんぐさ)は 空の遥か高みに棲む蟲。普段は尾のついた風船のような姿で光脈筋の上空を巡っている。空中の微小な光を帯びた蟲を食って生きていて夜には蛇行する星のようにも見える。そのため別名、迷い星ともいう。稀に上空の餌に不足すると釣り糸の如く地平近くまで触手を伸ばしてくる。それが糸のように見える。
それに動物が触れると、いったん上空に巻き上げるが飲み込めず放り出す。大概は地面に落ちて命を落とすが吹は運よく木に引っ掛かって助かった。だが強く蟲の気を帯びてしまって人の目に見えないモノになっていた。薬で随分と回復したが、手に残っている糸で空と繋がっている不安定な状態で下手をすればぶり返す。
吹が人に戻るために必要なのは薬だけでなく、自身の人でいたいという思いだろうとギンコ。あんたが、そう思わせてやるんだなと清志朗に言った。肝に命じますと清志朗。長居はできないのでと旅立つギンコに近いうちに祝言をあげるから来てくださいと言って別れた。
しかし、その後とどいた文は、また吹が姿を消したことを知らせるものだった。清志朗をたずね、どういうことだと聞くギンコ。父親はなかなか許してくれず吹は肩身の狭い思いをしていたと清志朗。そうするうちに吹の体が徐々に軽くなって、風が吹くと宙に舞い、地表に留まっていられなくなった。どうすれば降りられるかわからないと吹。じっとしていろと柱に縛りつけておいたがある日、姿を消してそれっきりだった。
お前が繋ぎとめてやるんだと言ったはずだとギンコ。誰よりあんたが今の吹を受け入れられずにいる。あんたが吹を否定したから人の姿を保てなくなったんだとギンコは言った。見えずとも吹は今もここにいるとギンコ。ギンコには天井に吹の姿が見えていた。失いたくなければ受け入れてやれ、あんたしかいない。今もかろうじて吹をここに留まらせているのはあんたの存在なんだろうとギンコは言った。
清志朗は吹が、どうして星ばかり見ているのですかと聞いたことを思い出した。昼間いやなことがあっても、いつも同じところに現れる星を観ていると不思議と落ち着くと言うと、私も嬢ちゃんが泣き止まなくて悲しいときは星を数えて紛らわすんですと吹は言った。明るくなってくると悲しくなる。昼間はどこに行ってしまうんだろうと言う吹に、昼間だって星は本当は空にあるんだぞと言うと、本当に?と吹は言った。陽の光が強いから見えなくなるだけで、ちゃんと空にあるんだぞと言うと、どこにも行かないんだ、見えなくてもずっと空にいるんだと吹は嬉しそうに言った。
清志朗は祝言をあげた。それは奇妙な光景だった。祝言に花嫁の姿はなく、それでも花婿はまるで花嫁がいるかのごとくふるまった。人々は婿のほうまでおかしくなってしまったと囁いた。やがて清志朗は里のはずれにひとり居を構えた。相も変わらずいない嫁に語り掛ける姿に里の者はやがて近寄らなくなった。
けれど、やがて人々は吹の姿を見るようになり、その後は吹の姿を消す癖は、もう二度と出なかったという。
★原作では第6巻にあります。