およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群をヒトは古くから畏れを含み、
いつしか総じて『蟲』と呼んだ。
(2014年1月に放送された特別篇の続きです)
☆前半はこちら→
日蝕む翳
★2014年4月~12月「蟲師 続章」→
蟲師 続章 あらすじまとめ
★2005~2006年放送の「蟲師」→
蟲師 あらすじまとめ
蟲師 特別篇 日蝕む翳 (ひはむかげ)
だいぶ良くなってきたヒヨリはお花畑の花を摘んできてほしいと言ったがヒナタは場所がわからなくなったと答えた。友だちが誘いに来てもヒナタは遊びに行かずにヒヨリと過ごした。ヒヨリといるほうが楽しいからと言うヒナタにヒヨリは嘘つきと言った。
外で遊ぶのが好きだったのに自分だけ外に出られるのが後ろめたいから? 私がかわいそうだから? そんなふうに思われたくないとヒヨリ。じゃあ私はどうしたらとヒナタが言うと、私と代わってよとヒヨリ。できないなら私の前からいなくなってよ。ヒナタがいるだけで私も本当はこうだったのにと思ってしまうとヒヨリは泣いた。
ヒヨリの病を治す方法は見つかっていなかったが、日食を元に戻せれば病を治す糸口も見つかるかもしれない。父はヒヨリにそう話すとひとりにして悪いがしばらくの間こらえてくれと言いヒナタも一緒にギンコの手助けをすることにした。
ひとりで留守番をしていたヒヨリは家の外に出てみたが体は何ともなかった。昼間、外に出るのは何年ぶりだろう。作物は枯れ不安な顔をしている村の人たちを見て、日の光が浴びられないだけであんなに暗い顔をして、私の気持ちが少しはわかってるでしょうね。いい気味だわ、このままずっと日食が続けばいいとヒヨリは思った。
ヒナタが言っていたお花畑へ向かうヒヨリ。山道で息がきれた。このあたりまで来て具合が悪くなりヒナタがおぶってくれて家に帰った。大変だったろうな。ヒヨリは足を滑らせて下に落ちてしまった。気づくとそこはきれいなお花畑だった。光る花が咲いていた。すごい、ヒナタの言ったとおりだ。一緒に見られたらよかったなとヒヨリは思った。
ヒヨリが花を摘んで家に戻る途中にギンコと会った。この時期に咲く花じゃないから日蝕みの根があるせいかもしれない。場所を教えてくれないかとギンコは言ったがヒヨリは嫌よと答えた。このままではさらに影が大きくなって蟲ばかりの不毛の土地が増える。早く手をうたないと手に負えなくなると言うギンコに私にはこのままのほうがいいものとヒヨリは言った。
お前だって他の人と何も変わりはしない。直接日にはあたれなくても憎くても物を食うだろう。日の光によって生かされている。お前はあの蟲にそっくりだなとギンコ。あの日蝕みという蟲は日食のときしか地上に出られず地底に潜んでいる。何のために地表に現れるのか、蟲の中には生涯闇に潜んで光を必要としないものもいる。
日蝕みが地表に現れるのは日の光を必要としているからで地底にのみいては生きていけないものなのではないか。だが根の部分は光を浴びると消えてしまう。だから核の部分は蟲を集めて影を作り根を守りながら日の光を浴びている。お前も似たようなものだろう。だからこの薄明りの世界が幸せに思えた。だがこのままお前が戸を閉ざした座敷に居続ける限り、今にこの薄明りも闇に閉ざされるぞ。
自分が影響を受けなかったのはヒヨリが影を作って守ってくれたから。私なんかいなければよかったのにね。ヒナタのまわりに蟲が集まって来た。蟲と共に行くヒナタ。姿が消えた。家に戻らないヒナタを探しに行く。日食の影響なら蟲の見える者にしか見えなくなっているかもしれない。蟲が見えるんだろうとギンコはヒヨリに言ったが、知らない、すぐ帰って来るわよとヒヨリは言った。
3日が経ったがヒナタは見つからなかった。いなくなってなんて本気で言ったんじゃなかったのに。ヒナタもヒヨリを探した。お天道さんはいつでもちゃんと昇ってきてくれるのが当たり前だと思っていた。いったいどうしたらいいのかと話す村の人たち。そうだヒナタは絶対どこにも行かないと思っていたからあんなこと言ってしまったんだとヒヨリは思った。
私にとってヒナタはお天道さんの代わりだった。なのに、ごめんねヒナタ戻って来て。ヒヨリはお花畑でヒナタを見つけた。ヒナタはヒトの目には見えない姿になっていた。どうしたら元に戻れるのかとヒヨリはギンコにたずねた。まずは日蝕みを絶つこと。そうすれば蟲が散り影響も薄くなる。後はずっとそばにいて根気よく話しかけることだとギンコは言った。
ヒヨリはギンコをお花畑に案内した。花の下を掘り返すと日蝕みの根があった。これを日のあたる土地まで持ち出せばいい。皆で根を樽に詰め荷車に乗せて日があたっている丘まで運ぶ。影が追って来たが力を合わせて影を抜けた。蓋を取ると日蝕みは空に上って消えお天道さんの影が散った。光が戻った。
日が戻ったぞ、これでまたやっていけるとヒヨリに告げる父。外から日が差し込んでいたがヒヨリは眩しくなかった。外に出てみた。日の光を浴びても何ともなかった。日蝕みが作り出す波長は通常は心身に障る光だが月蝕みの影響を受けた者には効用があったということかもしれないとギンコは言った。
じゃあこれはもう必要ないなとギンコは日蝕みの核のかけらを出した。これ自体は生命を活性化させる強い力を持つ。使い方によってはヒトにもいい作用をもたらすと聞いてヒナタにあげていいかとヒヨリ。ヒナタは首を横に振った。いらないのと聞くとヒナタは頷いた。
そこまでこちらの言葉に反応しているのなら元に戻るのは時間の問題だからそれまでしっかりそばについているようにというギンコの言葉にヒヨリは頷いた。わかってる、今度は私がヒナタを照らす番だ。じゃこいつはどうするかな。ギンコは化野をたずねた。
思惑は外れたと化野先生。蟲は見えず普通に日食が始まってあっという間に終わった。これといって何事も起りはしないという化野にギンコはそれは何より、何事もないのが一番だと言った。日食が終わった後に多少患者が増えた。薬をやったがいまひとつだと化野先生。送った文を読んでないだろうそれは蟲が原因だから一緒に送った薬で治るとギンコが言うと化野先生は慌てて出かけて行った。
日食の間に何をしていたか聞きたいから待っていろと化野先生。ギンコはもう行くよと言った。このあと、その話をしに行かにゃならんところがあるんでな。
ギンコから無事終息したと文が届いたとたまが淡幽に知らせる。見せたいものがあるので近々こちらに報告に来るそうですとたま。近々か、あいつの言うことはあまりあてにはならんからな、気長に待つとするかと淡幽は言った。
昼寝をしていて少し寝すぎたギンコ。いい天気だ。今日も何事もなく進めりゃいいが。また歩き出した。