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青き天体研究所

青き天体研究所

第二話  四体目の守護者

「まさか学校の地下にこんな設備があるとは……」
「普通の反応だな。それは。」
「そしてあの龍王機でしたっけ?あの機体を助けた機体のパイロットがあのブルースウェア先輩だと思いませんでしたよ。」
「フィスで結構ですよ唯さん。それに葵さん。」

そう言って笑みを返すフィス。
その笑みを返すように唯も笑みを浮かべるが、気が気では無かった。
クスハ、葵、唯がフィスとイリスに連れられてやってきた場所。
それは半年前、この町が連合軍に襲われた時クスハ達が退避したセイン特製のシェルターだった。
このシェルターにはシェルターとしての機能以外にもセインが乗っていた機体―スレイヤーとフィスの機体―リヴァウサーが収容されていた。
それを思い出したフィスは龍王機を直せる設備があると思い、ここに来たのだ。

「そう言えばイリスさん、だっけ?龍の形をした機体は大丈夫なのか?」
「"イリス"で構わない。で先程の問いだがかなり芳しいな。普通の機体なら兎も角龍王機は半生態機動兵器。故に替えのパーツが無いんだ。」
「替えのパーツが無いってじゃあどうする気何だろう?」
「さぁな。現存する機動兵器のパーツを流用するしか無いと思うが、どのように使うかが見所だな。」
「そうか……」

ここに着いたと同時にイリスや今までの事を説明されているので納得する葵。
その横では未だに混乱している唯の姿があった。




フィスとイリスが葵と唯に今までの経緯を話している頃、クスハは傷ついている龍王機の下に居た。
余程心配しているのか不安の色を隠せないでいる。
そのクスハの所に一人の男性が近寄って来た。
誰が来たのかを確認した後、彼の方に振り向き話し始めた。

「ロバートさん、龍王機は。」
「大分参っているね。このまま行けば龍王機は……」
「そんな!何とかならないんですか!?」
「落ち着け、クスハ。俺は"このままで行けば"と言ったんだ。助かる方法だって考えている。」
「本当ですか!?」
「ああ、もちろん。ただし……」

そう言ってロバートは眼鏡を外し、汚れを拭き取る。
汚れを拭き取った眼鏡を再びかけクスハの方を振り向いた。

「龍王機は龍王機では無くなるけどね。」
「何故言う事ですか、それは……」
「そのままの意味だよ。とある人物に言われて持って来た参式のパーツを流用して人型の姿にするんだ。そうすれば龍王機は死ななくて済む。」
「そう、ですか……」
「ただ龍王としての姿は失ってしまうんだけどね。何故するかは君達、クスハと龍王機で決めてくれ。俺達はその指示に従うよ。」

ロバートの話しを聞いて少し肩を撫で降ろし、何故するか考え始めた。
ほんの数分の思考が何十、何時間にも感じてしまう。
そして考えがまとまったのか、クスハの口が開いた。

「……お願いします。龍王機も多分、そっちを選ぶと思うから。」
「そうかい……今から参式のパーツを利用し、修復作業に入るぞ!全員、準備をしてくれ!」

ロバートがそう叫ぶと龍王機の状態を見ていた専門家が一斉に作業に取り掛かり始めた。
その様子に呆然としながらも龍王機を眺めていた。
新たな体、"龍王"から"龍人"へとなる瞬間を見る為に。






「そう言えばフィス先輩、イリスさん。何でここに戻って来たんですか?クスハ先輩からはセイン先輩を探しに旅に出たと聞きましたが。」

フィスの入れた紅茶を飲みながら唯は訪ねる。
その質問を聞き少し苦笑するフィスとイリスだが答える為口を開いた。

「実はある人物にここに戻るように言われたんです。何でも"封印された四体目の守護者"がここにあるとか……」
「封印された四体目の守護者、ですか。何なんでしょうね、それは。」
「さぁな。だが奴が言うんだ。実在するんだろうよ。」
「はぁ。(奴って誰なんだろう?)」

その疑問が浮かんだがイリスから出ている異様な殺気を感じ、聞くに聞けなくなってしまった。
その時………

ドゴォォォン!!

突然起こった爆発音と衝撃がこのシェルターを襲った。
その衝撃で辺りにあった物が倒れてしまっている。

「何ですか!?これは!」
「……出るぞ!」
「ですね。補給も完了していますし。」

激しい揺れに襲われながら、フィスとイリスはそれぞれの自機――リヴァウサーとウィルに乗り込み外へと出撃した。
その流れを呆然と見ながら唯は祈る事しか出来なかった。





外に出たフィスとイリスの目に飛び込んで来たもの。
それは無惨にも破壊されていく町の姿であった。
何もかも破壊していったかのように辺りは潰された家で一杯になっている。

「酷い…」
「確かにな。」

現状の町の様子にそれぞれ感想を漏らす。
虎王機との戦闘でほとんどの人がシェルターに避難していた事が幸いしたのが唯一の救いだろう。
そう思い安心仕切ったその時だった。何処からか青白い光線が放たれたのだ。
それも一つでは無い。
1、2、3、……10、11、12……18、19、20……数える暇等無い数の多さに一瞬、冷汗をかく。

「チッ!」

イリスはその大量の光線に対し舌打ちをし、リヴァウサーの腕を掴んで回避する。
大量の青白い光線がリヴァウサーとウィルの横を掠めて爆発を起こす。
まさに紙一重の回避に今まで溜めていた息を思わず吐き出した。

「落ち着いている場合では無いな……来る!」
「みたいですね。」

イリスの声でハッとなったフィスはリヴァウサーのライフルを構え、迎え撃つ準備を整える。
イリスも同様にウィルの小太刀を二本取り出す。
そしてウィルは取り出した小太刀の内一本を近くの瓦礫に投げた瞬間、小規模ながら爆発が起きた。
その爆発と同時に出てくれ数え切れない程の虫のような姿をした小型ロボットが現れ、すぐに先端の角らしき場所から青白い光線を放つ。
その光線をかわし、投げた小太刀を拾う。

「コードネームバクス……インスペクターが使っていた物が何故?」
「さぁな。だが分かる事は一つだ。」

そう言ってウィルをバクスの奥に居る機体に向ける。
そこに居た物は良く見知った機体だった。

「敵指令機がドール、相手がFATESだって事位だ。」
「…ですね。」

ほぼ同時にリヴァウサーは持っていたライフルの引き金を引く。
発砲、そして爆発。
その音が戦いのゴングとなり戦闘が始まった。




葵と唯はモニターで外の様子をじっと見ていた。
見ている限りリヴァウサーとウィルが優位に立っているが、敵はほぼ無制限に出てくる為時間の問題だと思われる。

「クソ!俺に力が……剣があれば!!」

悔しさ故か唇を噛み締める葵。
外で戦っている二体はこの町の為に戦っている。
だが自分達は見ている事しか出来ない。
それが歯痒く感じてならない。恐らく唯も……。

「クソが!!」

八つ当たりをするかのように近くにあった壁を殴る。
その時……

カチャ

何かの鍵が開いたような音が殴った壁の方から聞こえてきた。
不思議に思い葵はその壁を押してみる。
すると回転扉のように、壁から何かの入口が開いたのだ。

「何だろう?ここ。」
「……行ってみよう。」
「えっ?でも勝手には」
「その時は謝れば良いんだ。それに……」

何か言おうとしたが、途中で止め、進んで行ってしまう。
その行動に不満を言いながら唯も後を追い掛けて行った。


明かりが無い為真っ暗な道を歩き続ける葵と唯。
途中壁に頭をぶつけたりもしたが、何とか広い空間にたどり着いた。

「何ここ。」
「さぁな。だけど分かる事は一つ……」

そう言って上を見上げる葵。
暗くて良く見えないがそこには確かに巨大な何かが直立していた。

「コイツが俺を呼んだって事だけだ。」

意味不明な一言を口に出していた事など気にせず、葵はその巨大な物体を見上げていた。

「なるほど……これは。」
「分かるのか?唯。」

巨大な物体のコックピットらしき所をのぞきながら唯は呟く。

「分からないよ。ただ分かる事はこれが機動兵器で副座式……つまり、二人乗りって事くらいね。」
「……良く分かるな、お前。」
「私の母親の職業、忘れたの?」
「あ~そう言えば。」

葵は分かったようにポンッと手を叩いた。
唯の母親の職業はマオ=インダストリー社でパーソナルトルーパーの開発を担当していた。
その為積もりに積もった仕事を家で消化する事が多い。
唯はその仕事の一部を見ていた為少しだが扱えるようになったのだ。

「……ふむ~GMX-003。聞いた事無い型番だ。でも凄いスペックだよ!」
「そうなのか?」
「うん。これを造った人は天才かも……」

唯はコンソールを動かす為コックピット内に入っていく。
葵もまた興味本位で入っていった。

コックピット内は葵が予想していた以上に複雑な構造になっていた。
何がなんだか分からない葵は唯がコンソールを立ち上げている所の後ろにあった広い空間に座る事にする。
そして待つ事数分、唯の口が開いた。

「葵、もしもだよ。もしこのGMX-003が動くとしたら何故する?」
「何だよ急に……もちろん外に居る敵を倒すだけだ。守りたい者の為に!」

聞いていて恥ずかしいセリフを当たり前のように言う葵。
それを聞いて安心したのか唯は少し微笑を浮かべていた。

「ごめん、愚問だったね。」
「別に気にしてないけどな。」
「フフフ……動かせるよ、この機体。」
「!?本当か!」
「うん。ただしこれだけは約束して。……絶対に目的を、自分の意志を忘れないでね。この機体を動かすって事は人の生死を左右するって事だから。」
「……分かった。」

葵の言葉を聞き安心したのか唯はすぐにコンソールを動かす。

「じゃあ行こ。護る為に!」
「応ッ!!」

その声に答えるように機体の目が黄緑色に光った。





その頃リヴァウサーとウィルは苦戦を強いられていた。
予想通りほぼ無制限にバクスが出て来るので弾薬等が無くなってきたのだ。

「流石に辛くなってきましたね。弾薬やエネルギーが無くなってきましたし。」
「だな。切れ味も悪くなってきたし、マズイな。」

そう言いつつも手の動きを止めない二人。
周りには無数の残骸が散らばっている。

「あのドールさえ倒せば終わるのだが。クソッ!」

イリスの言う通り、司令塔であるドールを破壊すれば全てが終わる。
だが周りにバクスが居る為こちらの攻撃が届かない。
せめて一体仲間の機体が居れば……二人がそう思った瞬間であった。

ドカァァァァン!!

突然現れた機体がドールに跳び蹴りし吹っ飛ばした。
あまりに突然の事で驚く二人。

「な、何あの機体…」

フィスがそう言うのももっともだった。
まず装甲が脆弱だと言う点、そして機動兵器に必ずあると言ってもいい加速装置が見当たらない点がある。
更に武器も見当たらない。
果たしてこれは機動兵器と言えるのだろうか……。

「フィス、あの機体を援護する。このままじゃ負ける確率が高い。なら……」
「分かりました。多少の疑問はこの際目をつぶるしか無いみたいですしね。」

そう言って残っていたバクスを持っていた高粒子ランチャーで一掃する。
だがやはり次々と出てくるバクスに少々うんざりしながら二人は再度戦闘を開始した。





「どう?言った通りでしょ。」
「ああ、ホントに俺の動きをトレースしてるよ。これならいける!」

そう言って葵は敵機、ドールに目を向けた。
実は突然現れた機体の中には葵と唯が乗っていた。
あの後唯にこの機体の動かし方を聞いた後、ほぼぶっつけ本番で勝負に挑んだのだ。

「まさか本当にテスラ研が極秘で開発しているダブルGのものと同じシステムとは思わなかったけど…。兎に角、詳しい制御は私がやるわ。だから葵は敵を倒す事のみに集中して。」
「了解!行くぜ!!」

その声と同時に機体は一瞬のうちにドールに近付き、拳と蹴りのラッシュを浴びせた。
いきなりの攻撃に何もする事が出来ず全ての攻撃が直撃してしまう。
そしてラッシュを浴びせた後、片足を上げ頭部に向かって踵落しを食らわす。

ドスゥゥゥン!!

その一撃を食らったドールは地面へと沈んでいく。

「……良し!これで終わ」「いや、まだよ!!」

唯の声とほぼ同時にドールは起き上がり上空へと飛翔していく。
まだ動ける事に驚く葵を余所にドールは持っていたライフルを乱射しだした。
その突然の行為に何も反応が出来ない。

やられる!――そう思った次の瞬間、弾丸が目の前で四散したのだ。
今起きた事に再び混乱する葵。

「薄い装甲の代わりに。なら、葵!地面を強く蹴って!」
「別に構わないが今の「いいから!」……はい。」

唯に言われた通り地面を強く蹴って跳ぶ。
すると何かのシステムが起動し、空中に停滞しだしたのだ。

「な、何だこれは!?」
「原理を説明している暇は無いよ。今は!」
「そうだった。飛べればこちらのものだ!食らえ!!」

ドールの遥か上空まで移動し、ドールに向かって一気に急降下する。
そして一度一回転し、その遠心力、重力の力が加算された踵落しが再びドールに直撃し勢い良く地面へと落下した。
その衝撃で地面に小さなクレーターが出来てしまったが、これで倒せたならと内心期待する。
だが、

「まだ起き上がってくるのかよ。」

装甲の凹凸が激しくなっているにも関わらずドールは立ち上がってくる。
馴れない機動兵器の戦闘で肩で息をしている為か内心焦りを感じ始める。

「唯、何か必殺技とか無いのか!?例えば近接昇華呪法とか両手に強力なエネルギーを圧縮させて手を組んで突っ込む奴とか空から巨大な剣が出て来てそれを使って相手をぶった斬る奴とか!」
「ある訳無いでしょそんな都合の良いの何て!」

文句を言いながらも何か敵を、ドールを倒す方法は無いかと検索を開始する。
葵の言う通り、この機体は武器を持っていない。
なのでどうしても敵機を倒す為の力がいまいち足りないのだ。
このまま消耗戦になったら確実に敗北する――そう思った時、動かしているモニターにとある言葉が浮かび出した。

(えっ?これは何故言う事なの。)

表示された言葉に疑問を抱く唯。
だが悩んでる暇など無いと思い、葵に指示を出す。

「葵、今自分が思い浮かぶ最強の技を思い浮かべて!」
「えっ?そんなもん一体何の訳に……」
「良いから思い浮かべて!私を信じて!!」
「……分かった。」

何時に無く真剣な声を聞き、葵は言われた通り今の自分が考える最強の技を思い浮かべる。

(拳……貫く……弾丸……)

現段階で思い浮かぶ最強の技のイメージが段々と構成されていく。
それにつられるように機体の右拳が機体から発生されるエネルギーに包まれていく。
そしてそのエネルギーが段々と弾丸のような形へと変化していった。

「……良し!行くぞ、唯。しっかり捕まってろ!!」
「分かったわ。制御装置オーバードライブ!いっけぇぇぇ!!」

弾丸のようになったエネルギーを拳にまとったまま、ドールに向かって突っ込んでいく。
その速さに驚きドールはライフルを乱射する。
だがその弾丸は機体を包み込んでいる特殊なフィールドによって全て弾かれていく。
そして……

「食らうが良い……我が魂の弾丸!炸裂しろ!!」

一気に距離がゼロ距離になる。
この距離なら逃げる事も回避する事も出来ない――そう思った瞬間、その拳をドールに向かって振り下ろした。

「バースト・ブリットォォォ!!」

加速された拳はドールを紙のように貫いた。
貫かれた部分からスパーク音が鳴り響く。
そして拳を包んでいたエネルギーがドール内部で炸裂し、ドールは粉々に吹き飛んでいった。




バスクと対峙していたリヴァウサーとウィルは背中を合わせて戦っていた。
既に弾薬も尽き果て、残っている武器はコールドメタルナイフが二本とウィルの小太刀のみとなっていた。

「本当に、キリがありませんね。」
「だな。だが仕方あるまい。接近戦は出来るのか?」
「一応出来ますが苦手なんですよね……」
「そうも言ってられないがな。……行くぞ!」

そう言って駆け出した次の瞬間、周りを囲んでいたバスクが次々と爆発していった。
まるでコントロールが失われ、自爆しか方法が無かったかのように……。
その様子を見た後二体はドールが居た方を向いた。
そこにはドールが爆散してでた炎に包まれたあの機体の姿があった。
あの脆弱な機体でどのように……そんな疑問がフィスとイリスの脳裏に浮かぶ。
その時、あの機体から通信が入ってきた。
フィスとイリスはすぐにその通信に許可を入れる。

【やっと繋がりましたよ。大丈夫ですか、フィス先輩、イリスさん?】
「ゆ、唯さん!?何でそこに。その前にその機体は一体……」
【えっ?このGMX-003って先輩達の物では無いんですか?てっきり私も葵もそう思っていましたけど……】
「GMX-003…なるほどな。詳しい話は帰ってからにしないか?」
【分かりました。葵、お願いね。】【りょ~かい。】

葵の声が聞こえたと同時にその機体、GMX-003は動き出しシェルターへと向かって行った。
その様子をしばらくの間見て、フィスはイリスにプライベート通信をウィルに入れた。

「彼が、シュウさんが言っていた封印された守護者ってあれの事でしょうね。」
「だろうな。GMX、私達が良く知るものだしな。」
「ええ……行きましょうか。唯さんと葵さんが待っていますから。」
「ああ、分かった。」

そう言う会話がした後、フィスとイリスはシェルターの入口へと移動を開始した。




リヴァウサーとウィルがシェルターに収容され、フィスとイリスはその機体から降り葵と唯の下へと向かう。
途中ロバートが連れて来た整備員に会い、自分達の機体を見てくれるように頼んだりもしたが、ついに葵達が居ると思われる部屋にたどり着いた。
そして中に入り葵達と会話をしようと口を開いた時、聞き覚えのある声が叫んでいた。

「何を考えてるの!もしドールにやられたら何故する気だったの!!」
「クスハ先輩、だけど俺達は……」
「言いたい事も考えている事も私は分かります。ですがそれでもあなた達のした行為は自殺行為です!例え結果が良くても!」
「「………」」
「もう、嫌なんです…。私の親しい友人(ひと)が居なくなるのは……」

今にも泣きそうなクスハの声を聞き二人とも黙り始めてしまう。
自分達のやった愚かな行為に反省しているのだろう。
確かに葵達がGMX-003を動かし、戦った事でフィスとイリス、それにこの町は助かっただろう。
だがそれは結果論に過ぎない。
もしかしたらこの場に居なかったも知れない。

「軽率過ぎた。済みません。」「済みません……。」

反省の意を込めて一言、口に出す。
クスハはうんうんと頷いてはいるものの、未だに目には涙が溜まっていた。

「……どうやら話しは終わったみたいだな。」
「イリスさん、それにフィス先輩も。何時から…。」

どうやらイリスとフィスが入ってきた事には今まで気付かなかったみたいだ。
その事に対して少し苦笑するフィス。
だがすぐに真剣な表情に戻る。

「葵さん、唯さん。貴方達のお陰で助かった事は事実です。ですがクスハさんの言う通り、軽率過ぎますよ。もう少し自分の命を大切にして下さい。分かりましたか?」
「「はい……」」
その返事を聞き再び笑みを浮かべるフィス。
クスハも涙が止まったみたいである。

「さて、これで本題に入れるな。幾つか聞きたい事があるんだが良いか?」

丁度きりが良いと思われる時にイリスが口を開いた。
その声を聞き全員がイリスの方を向く。

「私達の分かる範囲なら。」
「それで構わない。まず聞きたい事はお前達の乗っていた機体についてだ。入手経路など何故でも良い。本当にその機体はGMX-003なのか?」
「はい。それは間違いありません。コンソールに表示されていましたし……」
「そうか……。フィス、当初の目的を達成したみたいだ。」
「そうみたいですね。まさか本当にあるとは思いませんでしたけど。」
「イリスさん、フィスさん。一体何の話しをしているの?」
「こちらの話だ。一つだけ言える事はその機体はセインが造った封印されたものだと言う事だ。」
「ほ、本当なんですか!?それって!」

唯の質問に頷くイリスとフィス。他の二人も驚きの色を隠せないようだ。

「その機体があることはシュウさんに教えて貰った事なんですけどね。」
「シュウさんが……」
フィスの補足に何となく理解するクスハ。
だが葵と唯はシュウのことを知らない為理解が出来ない。
シュウと言う人物について尋ねようとした時、再びイリスの口が開く。

「次だ。お前達はこれから何故する気だ。」
「「えっ?」」

イリスの質問した意味が理解出来ず尋ねる二人。

「機体を動かしてしまった以上、お前達は戦う道を選んだと言う事だろう。だが今なら戻れる。人を殺していないからな。だから聞く。お前達はこのまま戦うのか、それとも平和になったこの町で生きていくのかを。」

イリスの言った言葉の意味を知り葵と唯は思わず沈黙してしまう。
元暗殺者だからこそ聞けるのだろう。
今回はたまたまAIであったが、人だった場合、二人に一生のしかかる罪を負ってしまう。
その事を心配をする。
彼等はまだ汚れを知らないから……。

「私の願いとしては戦う道を選んで欲しくない。だが決めるのはお前達だ。」
「……分かりました。ですが俺は戦う道を選びたい。見ていて力が、皆を守れる力が欲しいと思ったから。」
「葵……」
「だから俺は戦う道を選ぶ。イリスさんの言う通りかもしれないけど、俺は守りたいから。」
「私もです。私も守りたいと思いました。だから!」
「もう良い……」

唯の話を途中で止めさせるイリス。
そして一度ため息をつき葵達の方を向いた。

「そこまで言うなら私は何も言わない。だが覚えておけ。人を殺す事もあると言う事、そしてもし殺した相手が例え悪だとしても人殺しである事には変わり無いと言う事だ。」
「「………はい。」」

返事を聞き微かに笑みを浮かべるイリス。
確信したかものしれない、彼等なら間違いを起こさない、と。

「さて、暗い話は終わりにしましてクスハさん、龍王機の状態は何故ですか?」

話の流れを変える為かフィスは少し明るめな口調でクスハに問い掛ける。
その意図が分かったのかクスハも笑顔を見せ話し出す。

「もう大丈夫みたい。龍王機は私と違って強いから。新しい体も何の抵抗も無く受けてくれたし。」
「新しい体?何の事ですか?」
「それは、秘密です。」

クスハは人差し指を自分の口元に動かす。
その様子を見て安心したフィスは本題に移す。

「ではここでは他の皆様の迷惑になりますし行きましょうか。」
「えっ?何処へですか。」
「私達の仲間が居る軍基地、極東基地です。」

そう言ってフィスとイリスは不適な笑みを浮かべた。


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