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EMBRACE OF LIGHT

EMBRACE OF LIGHT

1st 開戦と困惑

麻都は早歩きで、自宅に向かう。その後を青年はついて行く。

麻都「何でついて来るの!?」

歩きながら麻都は青年に問いかけた。それに対し青年も歩きながら答える。

???「いまいち現状が把握できないからな。お前の隠れ家で情報収集を」

麻都「何でアタシの家な訳!?」

???「見たところ、お前は敵ではなさそうだしな。」

敵?何の事だか分からず、どうにか撒けないかと模索していた時

「ォォォォォォォ・・・・・・」

森林の奥から人間とは思えない恐ろしい雄叫びが聞こえた。

麻都「・・・・な、何?」

声のした方へと目をやると、何やら人影の様なものが見える。だんだん近づくにつれ、その影ははっきりと姿を現してゆく。

その姿に麻都は絶句した。確かに足は自分の物と似ている。だが、そこから上が妙だった。本来の腕の場所には、なぜかうねうねした物体。頭は、人間のそれではなく、[首]というものが見当たらないくらいに均一化されていた。言うなればそれは

麻都「た・・・タコ・・・・?」

の様に見えた。

「コォォォォォォォォ・・・・・・・」

奇妙な軟体人間は、その容姿に合わせたかのような音を口らしきものから出す。ギョロリとした目は間違いなく麻都を見ていた。

麻都「ひっ!!」

麻都は腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。青年はというと

???「・・・・・・」

何かを見極めるかの様な鋭い目つきで相手を威嚇している。

麻都「ちょ!ちょっとアンタ!こここ怖くないの!?」

麻都はビクビクしながら青年に問いかける。その様を見ることもなく

???「・・・お前よりは慣れている。」

そう告げた。慣れている?麻都は青年の言葉に疑問を抱いた。二人がやり取りをしている間もこちらに近づいていた軟体人間は、とうとう麻都の数メートルまで寄っていた。

麻都「!!ちょちょちょちょっと!!来てる!こっち来てるよ!!」

麻都の思考回路は、もはや臨界点など遥か下に見える程にまでなっていた。裸で倒れていた青年、その青年が出した不思議な光の円、そしてトドメが目の前にいる明らかに奇妙な物体。あまりにも摩訶不思議な事が起こりすぎたのだ。

お前よりは慣れている・・・・

麻都は青年の言葉を思い出した。アイツなら、今のこの状況だけでも打開してくれるかもしれない。

麻都「あ、アンタ!慣れてるんでしょ!?だったら何とかしてよ!話し合いでも何でもいいからさぁ!!」

???「その必要はない。」

そう告げると、青年は普通の人間ではありえない跳躍をした。

麻都「・・・・・・へ?」

麻都は空高く舞い上がった青年を見上げた。その手にはまたしても不思議な光を放つ円。青年はその円の中に手を入れて呟いた。

???「ゴースト・・・」

言葉と同時に円から抜き出る手。その手には闇と同化する程黒い銃が握られていた。青年はその銃口を軟体人間に向けて・・・

???「眠れ・・・・タコ野郎」

トリガーを引く。黒いマズルフラッシュと共に打ち出された物。それは銃弾ではなく

「ォォォォォォォォォ!!!!!」

あの物体と同じ、いやそれ以上におぞましい雄叫びをあげるものだった。

麻都「幽・・・霊?」

???「少し違う。」

麻都の呟きに空から戻ってきた青年は即座に否定する。

???「厳密には[精霊]だ。少し妙な姿だがな。」

銃から飛び出た[精霊]と呼ばれた物は、軟体人間めがけて体当たりを繰り出す。その一撃によろめきながらも体勢を立て直す。だが、精霊の攻撃はまだ終わっていなかった。人間ではまず無理な程大きく開かれた口。その口で今度は腕を噛み千切ったのだ。

「キシャァァァァァァァァ!!!!!」

腕を無くし、叫ぶ物体。だが、啼き止むのを待つ事なく精霊はもう一方の腕を噛み千切る。次は足、残ったもう一方の足、そして体。順々に噛み千切っていく精霊。そして、最後の頭はその精霊の腹に収められた。その光景を麻都は恐怖で顔を引きつらせながら見届けた。

事を終えた精霊は、満足したかの様に闇へと消えていった。

麻都「・・・・・・・・・・・・」

麻都は言葉を失っている。テレビで見る様な光景を目の当たりにしたのが原因だった。

???「・・・・終わったぞ?」

麻都「終わったぞじゃなぁい!!!」

青年の言葉によって麻都は正気を取り戻した。

麻都「何あれ!?」

???「だから精霊だと言っただろう。」

麻都「あああのウネウネしたのはどうなったの!?」

???「知らん。頭は食べられたようだがな。」

麻都「何でそんな怖い事をさらっと言えるかなぁ!?」

???「さあな。慣れてるからだろ?」

麻都「何で疑問系なのよ!?」

麻都は息を切らした。そして、自分の中で一番の疑問になっている事を口にした。

麻都「・・・・アンタ、何者なの?」

???「ゼロ・・・・傭兵だ。」





          [2004年 12月 東京 麻都自宅]


親元を離れ、一人暮らしをしている麻都。だが、今現在は少し違っていた。

帰り道で出会った青年「ゼロ」。奇妙な軟体生物を倒した彼が今居る。全てが終わり、自分がゼロという名前だと告げた直後、間髪をいれずに彼はその場に倒れてしまった。ゼロがひどく疲弊している事に気づいた麻都は放っておけず、そのまま彼を自分の家へと運んだのだ。

麻都 (・・・・何やってるんだろ?アタシ。)

自分の行動に疑問を持ちつつゼロの寝顔を見守る。

ゼロ 「・・・・・うっ・・・」

ゼロが目を覚ます。今の自分の置かれている状況が分からないのか、気だるそうに辺りを見回す。

麻都 「アタシんちよ。」

ゼロの声無き疑問に麻都は冷静に答える。

ゼロ 「・・・・・お前が運んだのか?」

麻都 「そ。感謝しなさいよ、結構重かったんだからアンタ。」

ゼロ 「・・・感謝する。」

麻都 「感謝するならアタシの質問に答えなさい。」

ゼロ 「拒否する。」

麻都 「何で!?」

ゼロの即座の拒絶に麻都は声を荒げた。

ゼロ 「知ればお前も巻き込む事になりかねない。」

麻都 「巻き込む?」

麻都は疑問を持ちながらも薄々と解っていた。先程の奇妙な生物。あれと関係があるのだろう。

麻都 「・・・確かにさぁ、あれは怖かったけど・・・一応見ちゃったワケだし・・・・関係なくもないんじゃない?アタシ。」

ゼロ 「・・・・・・・・」

ゼロは何かを考えている様な顔になる。やがて麻都を見つめ

ゼロ 「最低限の情報なら良いだろう。」

麻都 「よし」

麻都は聞いてみる。ゼロの正体、あの怪物の正体そしてゼロが生み出したあの光の円。

ゼロは淡々と答えていく。ゼロ自身は、少々特殊な傭兵らしい。あの怪物はキメラビ-ストという。光の円は[ポケット]と呼ばれる特殊な空間らしい。

麻都 「・・・・あのさぁ」

ゼロ 「何だ?」

麻都 「もう少し詳しく教えてもらえないかなぁ?」

ゼロ 「最低限の情報しか教えないと言ったはずだが?」

麻都 「限度があるでしょ!!」

麻都は本日何回目かの我慢の限界に達した。ゼロは躊躇する事なく

ゼロ 「ところでお前、等価交換という言葉を知っているか?」

麻都はバカにされた気分に捕らわれた。等価交換・・・一つの物事に対して同等の代価を云々というやつだ。そこまで考えて麻都はハッとした。

ゼロ 「お前の情報を俺に提供してもらおうか。」

麻都の予感は当たった。

麻都 「な、何よ?」

ゼロ 「ここは何処だ?」

麻都 「はぁ?何言ってんのよ。ここは東京でしょ?」

ゼロ 「東京・・・だと?」

ゼロはわなわなと震えだし、そして例の[ポケット]と呼ばれる物から、あの黒い銃を取り出し麻都に向かって構えた。

麻都 「な、何!?何なのよ!?」

ゼロ 「嘘をつくと為にならないぞ?正直に言え。」

麻都 「ちょ、ちょっと!嘘ついてどうすんのよ!?本当に東京よ!!」

麻都は証拠を取り出す。自分宛に届いた親からの手紙であった。その住所は間違いなく東京都と書かれていた。

ゼロ 「・・・・ばかな。東京はこんな小奇麗な場所ではなかったはずだ。」

ゼロはもちろん、麻都までもが混乱してしまった。

麻都 「・・・どういう事?小奇麗じゃないって。」

ゼロ 「・・・・俺の知っている東京は・・・・廃墟だった。」

麻都 「・・・・は、廃墟?」

唖然とする麻都。だが、ふとカレンダーに目をやったゼロはさらに驚愕する。

ゼロ 「・・・にせん・・・よねん?」

麻都 「?・・・・2004年がどうしたの?」

ゼロ 「今年は何年だ!?」

麻都 「は?いやだから2004年だっ」

言い終わる前に再び銃口を向けられる麻都

ゼロ 「嘘をつくな!」

麻都 「だ、だから嘘ついてどうすんのよ!」

麻都は何故こうまでゼロが怒るのかがわからなかった。ひとまずはゼロにどういう事か教えてもらう事にした。

彼は、今度は素直に答えた。

彼のいた[時代]、それはいまから20年前の1984年だと言う。だが、技術はこの時代よりも若干劣る位で、雰囲気が違う事以外はほぼ似ているのだという。自分は[ある人物]を探して東京に来ておりそこで意識を失ったと話す。

麻都 「・・・ちょ、ちょっと待って?20年前?」

麻都が疑問に思うのも無理はない。20年も前の青年が、今もその若さのままでいられるわけがない。空想の設定を使ってそれが可能という事にしたっておかしい。20年も前なら、現代の文明と似ている訳がない。

ゼロ 「・・・・異世界。」

ゼロは何か答えを導き出した様だ。

麻都 「え?」

ゼロ 「原因は不明だが・・・どうやら俺は未来の・・・しかも俺の居た世界とは違う場所に来てしまったようだ。」

麻都 「な!・・・何言ってるのよ!?」

麻都は否定の言葉を口にするしかなかった。ここで肯定してしまっては自分の中の常識が崩れてしまいそうだったからだ


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