030.科学のカタチ [ 宮﨑徹×養老孟司 ]
本のタイトル・作者科学のカタチ [ 養老 孟司 ]本の目次・あらすじ第1話 於 鎌倉 養老邸 2021年3月いにしえの「死」をいだく街、鎌倉いつもいた「まる」との別れ二人の獣医師との出会いから、ネコの体の「ごみ掃除」を研究 ほか第2話 於 鎌倉 養老邸 2021年5月新型コロナワクチン接種は「壮大な実験」専門家でないからこそ「ご破算で」ができる科学者と政治家の感染症対策会議は「バベルの塔」みたいなもの ほか第3話 於 東銀座 時事通信社 2021年11月AIM研究への寄付金、2億円を超える幼虫・蛹・成虫でゲノム構造が異なっている点が多々あった「なぜ完全変態しなければならなかったのか」という謎は残る ほか巻末レポート 養老先生へのご報告引用「なぜだろう」と興味が湧いたこと、好奇心をかき立てられたことに対して、心の赴くままにその答えを追い求めていく。これが、本来の自然科学者のあるべき姿です。感想2023年030冊目★★★面白かった。養老先生の今回の対談相手は、「タンパク質「AIM」の研究を通じて、腎臓病や認知症をはじめさまざまな現代病を統一的に理解し、新しい診断・治療法を開発することを目指している」免疫学者・宮﨑先生。宮﨑先生の著書『猫が30歳まで生きる日』は、その研究内容がネットで紹介されるやバズり、多額の寄付が押し寄せたのだそうだ。私はこのネットニュースを知らなかったのだけど、すごいね。日常にある「当たり前のもの」って、もう大概分かっていたりするのかなと思ってるけど、違うんだな。知らないことがたくさんある。宮﨑先生は、アメリカで免疫学の基礎研究をしていた頃、血液の中に存在するあるタンパク質の遺伝子を見つける。これが、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)。AIMは、体の中に溜まる「ごみ」にくっついて、「ここにごみがある」と示す札のようなもの。そこにマクロファージがやってきて、AIMごと「ごみ」を食べ、効率的に掃除する。2013年に六本木ヒルズで行われた一般向けのセミナーで、宮﨑先生がふと「猫にはAIMがない」と漏らす。それを獣医の人たちが質問し、研究がスタート。研究の結果、猫にもAIMの遺伝子は存在するが、作られたタンパク質が活性化しない(ごみのありかを知らせる「札」として機能しない)ために、腎臓のごみが掃除されず詰まってしまい、腎不全を起こすことがわかってきた。AIMはふだん、血液中にある「免疫グロブリンM(IgM:Immunoglobulin M)」抗体が5つ組み合わさってできた「五量体」とくっついているが、「ごみ」が溜まってくると、五量体から外れて「ごみ」へ向かっていく。しかし猫は、ヒトやマウスの1,000倍の強さでIgMと結合しているため、尿中に移動できない。へえええええ!!!!!私が飼っていた猫も、腎臓が悪かった。猫には多いと獣医に言われたが、そういう理由だったのか。で、この本はその内容についての対談がメイン…のはずだったんだけど、ひょんなことから「昆虫が完全変態するの、意味わかんなくね?」という話になり、「幼虫から蛹、成虫になるときにゲノムが変わっているのでは?」という仮説を立てて、それを宮﨑先生が対談の最後に研究成果として養老先生に発表するという謎展開。笑でもこのあたりの話も面白かった。科学者って好奇心の塊だし、それを確かめずにはいられないんだね。確かに、毛虫が蝶になるのって、不思議だ。子供のころに納得できなかったものね。おたまじゃくしが蛙になることだって。毛虫は蝶になるときに、蛹の中でいったんドロドロに溶けてもう一回再形成されるらしいんだけど、ここらへん養老先生が「もともとは寄生された生物が共生した結果、あとから出現しているのでは?」という説を仰っていて面白かった。すごい発想〜。そして門外漢の宮﨑先生が立てた仮説は、昆虫学者たちからは「何を馬鹿なことを」と思われて相手にされなかった。しかし調べてみると、幼虫・蛹・成虫でゲノム構造が異なっている点が多々あった。世界は知らないことで溢れているんだな。というよりは、私達が「知った(つもりになっていること)」のほうがうんと少なくて、それで世界を知ったような気になっているだけなんだろう。そういえば、この本のタイトルは『科学のカタチ』。それはまさに、引用部のように「なぜだろう」を追い求めていくことなんだろう。そういうものなんだよ。と、長じるにつれ、世界を既知のものとして捉えるようになる。けれどもう一度、幼子の目で世界を見れば。世界に「なぜ?」を問い続けること。生きている間に、そのすべての答えを得ることは出来なくても。『ヒトの壁』で、養老先生が言っていた。「世界は「こうなった」という結果の集積であって、そこでなにかが問われるとすれば、いったい「どうしようとしたのか?」という問いであろう。」解答から問題を遡る。私達は何の「答え」合わせをしているのか?それってめちゃくちゃワクワクする。これまでの関連レビュー・世間とズレちゃうのはしょうがない [ 伊集院光×養老孟司 ]・養老先生、病院へ行く [ 養老孟司×中川恵一 ]・ヒトの壁 [ 養老孟司 ]・地球、この複雑なる惑星に暮らすこと [ 養老孟司×ヤマザキマリ ]・年寄りは本気だ はみ出し日本論 [ 養老孟司×池田清彦 ]ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。にほんブログ村