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2-11 SOUP

***11***

ステキナジョセイ。

有芯は、しばらく宏信の言った日本語について考え、やがて諦めて聞いた。

「・・・何、言ってんだ、宏信・・・?」

宏信は降参だとても言うように肩をすくめ、右の口角をちょっと上げて言ってみせた。「『悔しかったら、立派な大人の男になって、私よりもっともっといい女を捕まえて、幸せになりなさい。私が悔しがるくらいにね』」

「・・・!」

「伝言だよ。朝子さんから」

「・・・あいつ・・・あのやろう・・・バカ女・・・!!」

有芯は涙の奥で笑っていた。どんな暴言を吐こうとな・・・朝子、お前は優しすぎるんだよ・・・! でも俺はお前のそんなところも・・・。

宏信は少しだけ笑顔になり言った。「前、向けたかい?」

「・・・多少な」

有芯は苦笑いをした。もう行ってしまった彼女の意思を聞けただけで、少し心の空洞が埋められた気がした。

宏信が掛けあってくれたおかげか、有芯はその日、午後には退院の許可が下りた。外は、晴れ男に似合いの澄みきった快晴。

有芯は、朝子に出会った日のように美しく光る街へと、一歩を踏み出した。



朝子はぼうっと昼食の入った鍋を見つめ、考えていた。

タイボク君のことだから、ちゃんと有芯に会いに行ってくれたわよね。

・・・有芯。

あなたは今、何を思っているの?

怖い? 苦しい? ・・・悲しい?

この身体には、あなたに抱かれた感触がまだ残っている。あなたが私をどんなふうに抱いたのか、今でもありありと思い出せる。

朝子は自分の身体を抱き締めた。

愛してるわ。もう二度と言えなくても。

ごめんなさい。あんなことしかしてあげられなくて。

朝子はスープの中で踊るジャガイモを見つめていたが、不意にそれが涙で歪んだ。彼女はエプロンで涙を拭うと、再びスープに目を落とし、火を弱めた。

お願い。しっかりして、有芯。

前を向いて、歩き出して。

こんな時、ただ側にいてあげられたら・・・。

そこまで考えた時、朝子は首を振り、頭を抱えしばらく佇むと、気を取り直し味付けした。スープに黒コショウが散り、渦に飲まれる様を、彼女はじっと見つめた。

私がそばにいて、有芯を救えるはずがない―――。

私がいれば、きっと有芯はダメになる。

私は・・・辛くなんかないわ。

私には、幸せな家庭がある。かわいいかわいい息子がいる。

だからあなたもどうか幸せに・・・本気で愛した人だから・・・大好きな後輩だから、もうあの時のように潰れてほしくない。

あなたには、自分で幸せを掴む力がきっとある。それを信じて。もう、自分に負けないで。

朝子はスープをかき混ぜた。言葉にならない彼女の想いが、調味料と一緒に溶けて、消えた。



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