2-27 最初の花火が上がる時***27***エミは待ち合わせ場所に有芯が現れると、嬉しそうに顔いっぱいで微笑み、くるりと一回転してみせた。蝶のような黄色い帯結びが見え、それが濃紺のなでしこ畑を飛んでいるようだ。エミらしくない色だな、紺なんて・・・と、有芯は思ったが、さほど気にもしなかった。きっと、気分を変えたかったんだろう。 「ねぇ、見て。・・・どう?!」 「へぇ、似合うじゃん」 「えへ、でしょぉ~~?!」 エミは、有芯が浴衣姿を褒めたので上機嫌だ。しかし、有芯は内心複雑だった。 あれからエミは、有芯に奇妙なほど陽気に電話をかけてきた。 ―――別にいいよ、抱けなくても。私、ゆうが好きだから別れない。・・・ダメかな? 有芯は考えた。ダメと、言えばよかったんだろうか。 しかしあの時点で、正直に「お前には何の興味もない」とエミを振るのと、好きでも何でもないけどそのまま付き合うのと、どっちが酷な選択だったんだろう。・・・ああやめだ、面倒くさい、何も考えたくない・・・。 「ゆーう?」 「ん、行こうぜ、腹減った」 「うん。・・・ね、腕組んでいい?」 上目遣いで自分を見上げるエミを、微妙な心もちで見下ろしながら有芯は言った。「いいよ」 嬉しそうに腕を絡めてくるエミの心境が分からず、有芯はあさっての方向を向くと反対の手で頭をぐしゃぐしゃかきまわした。 「嫌だった?」 気付くと、軽い微笑みを浮かべながらエミが自分を見つめている。有芯もつられて軽く微笑んだ。 「全然?」 会場につくと、屋台が賑わい、人でごった返している。有芯ははぐれないようエミの手を握ると、また朝子を思い出しそうになり、一瞬目を瞑ってエミの手を強く握った。 「ゆう、痛ーい!」 「ごめん、・・・ごめん」 戸惑うような目でエミに見つめられ、有芯は自分が世界一の甲斐性なしに思えた。 「おっす、雨宮」 「おう」 有芯は当り障りのない笑いを浮かべ、すれ違う旧友達に挨拶した。さすがに出身高校の近くである祭りなだけあって、高校時代の知り合いが多く来ている。 すれ違う男達の多くが、エミを振り返り見とれているのに、有芯は気付いていた。しかし、やはりそれに何の感情もわかない。 「キャー、エミじゃん、久しぶり~! ・・・彼氏?」 「うん!」 エミは嬉しそうに、友人の前だというのに平気で有芯の腕に絡み付いてくる。有芯は苦笑しながらエミの頭をぽんぽんと叩いた。きっと、仲のよいカップルに見えるに違いない。 エミの友達が去り際に他の女の子と「やっぱ彼氏だって」「ウソーかっこいい~」とうわさをしているのを聞き、彼は大きくため息をついた。 俺もまだ捨てたもんじゃないらしいな。でも今は誰にもてようが全然嬉しくねぇ。 その時、突然ドンッ、という大きな音と共に3尺球が上がり、エミが歓声を上げた。パラパラと落ちる火花が流星のように辺りを照らす。 「うわぁ~、きれいー!」 しかし、観衆全てが花火に視線を注ぐ中、有芯ともう一人の人物だけは、最初の花火を全く見ていなかった。 有芯の視線の先には、目を見開き息を飲んで、ただ彼を見つめる朝子がいた。 28へ ジャンル別一覧
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