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once 24 秘められた過去(4)

***24*** 

俺は仰向けに転がったまま、切れた口に溜まった血を地面に吐き出した。

「遅いぜ、智紀・・・」

智紀は拳に息を吹きかけると、俺の方を向いて言った。「お前、バカか?! 一人で何人相手にしてるんだ?! 大会前日に骨でも折ってみろ、朝子先輩に殺されるぞ」

「そう言うなよ。こいつら激弱だから、お前と二人なら十分倒せると思ってなぁ!」

「おい、なめんなよ、ガキの分際で・・・」

「煽ってどうするんだ!? しょうのないやつだな・・・」

俺と智紀は、日ごろ二人で研究した技を尽くして、やつらを倒していった。やがて、時間はかかったが、集団は全員地面に伏した。

俺と智紀も倒れそうだったが、幸いたいしたことはなかった。ただ・・・俺の肋骨のあたりには鋭い痛みがあった。口の中は血の味がする。

ゼェゼェ息をしながら、智紀が言った。「どうするんだ? ・・・全員やったぞ」

俺は胸を押さえながら言った。「ほっとけ」

「さぁ~すがに二人で6人も相手にすると疲れるなぁ~。じゃ帰るから、俺」

「歩いて行けよ、大丈夫かーっ?!」

家への方向が逆の智紀がフラフラと自転車で去っていく姿を見ながら、ヤツの言葉に俺は違和感を感じた。6人・・・?

辺りを探すと、胸を押さえてうずくまっている人影が見えた。植え込みとブレザーが保護色になって今までちっとも気付かなかったが、確かにさっきの集団の一員だった。

「おい」

そいつは明らかにびくりと肩を震わせると、ガタガタ震え恐怖の表情で俺を見た。

「まだ朝子になんかしようっていう気があるか?」

「・・・・・・・」そいつは震えてゼェゼェ言うばかりで答えない。

「答えろよ!」俺はイライラしてそいつを蹴った。さっきのケンカだけではまだ怒りが収まらなかったのだ。倒れたそいつの襟首を掴み、腹を殴り、再び蹴り飛ばした。

その結果・・・

そいつは、まるで人形のように力なく倒れ込んだのだ。普通に殴られたり蹴られたりして倒れる時の人間と、全く倒れ方が違っていた。

「わっ!! ・・・おい、どうしたんだよお前」

そいつを起こすと、俺は凍りついた。そいつが見たことないくらい顔が紫色で、汗をかき、言い知れない恐怖と怒りの表情を見せていたからだ。

死ぬ・・・こいつきっと死ぬ・・・!

俺は震える手で小銭を取り出し、救急車を呼ぶと、その場にいてくださいという救急隊員の声を無視して、走り去っていた。

俺は人を殺したと思った。あいつは俺を恨みながら死んでいったんだと思った。

いつか、警察だかなんだかが、俺の所業を突き止め、俺を拘束しに来るんだろう、と思っていた。

しかし、新聞にも何にも、コンビニでそういうヤツが死んだという記事はなかった。後になって届いた手紙で、俺はあいつが寝たきりになったという事実を知ることになる・・・。

俺はそれ以来、誰の前でも笑えなくなった。朝子の前ですら笑わなかった。脳裏に焼きついた、死ぬ寸前の男の顔にずっと苦しんだ。そして、そんな風になった俺のために悲しんでいる朝子を見るのが辛かった。

それでも何とか学校に通い、部活に行った。でも俺はすっかり疲れて、適当な理由をつけて朝子と別れてしまった。


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