教育対策研究所の主張〔下〕
この連載の最後に、不登校からちょっと離れて、子育てについて述べ
た文章を掲載します。「教育に忠実だった不登校児は多い」と前回掲載
した文章のなかにありましたが、今回も、教育に忠実だった子がある反
応を示した例についての、私なりの考えです。
〔下〕TVっ子 丸山の テレビで教育対策
●『決死の大告白! 許してください・・・私の罪3』より
A君は、小さいときから塾やお稽古事にほぼ毎日通わされ、やめた
いと訴えても殴られたりするのでやめられないため「良い子」で通し
ていた。しかし中学生になると一変。"不良仲間"と共に夜遊びの毎
日。怒る両親に「おれはあんたたちのオモチャじゃねえ!」と叫んで
暴れるまでに。16才のときついに家出。悪行三昧で鑑別所暮らしも経
験したが、17才になると改心し、一人暮らしをしながら働くようにな
って両親への感謝の気持ちが芽生え、両親に謝ってまた一緒に暮らし
たいと番組に協力を依頼してきた。父は出張中だったが、母は怒りを
表わしながらも、平謝りの息子の帰宅を認め、父に口添えすることを
約束した。 --1999年7月9日(TBS)
この番組は、いわゆる「特番」です。内容は、整形手術で顔を変えて
いたことを隠していた女性が彼氏に打ち明けたり、家を飛び出して芸能
人になった若者が実家に帰って両親に自分の夢を認めてもらったりなど、
相手に謝って許してもらおうとしている人に協力する"ドキュメント・
バラエティ"です。
そのなかでこのケースは、現代によくある、教育熱心な親とその子と
のすれ違いの話でした。特に、A君が親への反抗心から非行に走ったと
思われるため、身につまされた視聴者が少なくなかったかもしれません。
A君は、なぜグレてしまったのでしょうか。
視聴者の多くは、わが子のためを思って教育を与えてきた両親の愛情
がわからない、彼の極悪さに原因を求めたと思いますが、それは酷な見
方です。
彼が両親に向かって叫んだ「おれはあんたたちのオモチャじゃねえ!」
という言葉に注目してください。おそらく彼は「自分は意志のない人形
のように扱われている」と感じていたのでしょう。このような彼の気持
ちを、無視すべきではありません。
A君の非行は、教育への反応だったのです。学校以外の教育を無理や
り受けさせられていることへの不満が、思春期になって爆発したわけで
す。
しかしだからといって、原因はご両親の教育方針の謝りであると言い
きれるほど、ことは単純ではありません。
現に「小さい頃お稽古事に通うのが大好きで、3つの教室に週6回通
っていた」などと述懐する人がときどきいます。また、漫画の『巨人の
星』を地でいくような、掛布雅之さんや橋本聖子さんのような親子もい
ます。この事実を前にしては、A君のご両親に原因を求める議論は説得
力を失います。
結局、親の教育方針が"ハマる"かどうかは、親の教育の仕方や与え
方の良し悪しではなく、親子の組み合わせ--子どもの個性と親の育て
方が合っているかどうか--にかかっているとしか言いようがない、と
いうことになります。
たとえば、わが子に塾通いを勧める親と勉強好きな子どもの組み合わ
せなら、子育てはうまくいくでしょうが、子どもが勉強ぎらいだった場
合は、その子が思春期になって何らかの反応(非行とは限りません)を
呈する可能性が高くなる、と考えられるわけです(もちろんこれは、親
子関係に限って言えばの話です。ほかの要因もたくさんあります)。
このように青少年問題は、たいてい子どもの性格や教育の良し悪しで
はなく、おとなと子どもの組み合わせや、子どもと教育との関係から生
まれると言っても過言ではありません。したがって、わが子に教育を与
える際には、良い教育であるかどうかより、わが子との関係(相性)が
良いかどうかを第一に考えることをお勧めします。「良い教育より、
良い関係」です!
(ニューズレター『きょうたいけん』3号1999年8月1日より)
●
私は、子どもの幸せを決定する要因は、教育それじたいの善し悪しよ
りも、子どもと教育との関係の善し悪しのほうが大きいと考えています。
つまり、親御さんは「よい指導をしよう・よい教育を与えよう」と、
善かれと思ってわが子を育てるわけですが、子どもは子どもで「自分の
感覚に合ったプロセスと方法で育ちたい」という欲求(ニーズ)を、自
分に善かれと思って持っています。
この両者の感じ方がかみ合わないと、親の指導や教育に、子どもが反
抗することになります。ただ、これは思春期を迎えた子どものいる、多
くの家庭が通る道でもありますね。
ここで確認しておきます。子どもが反抗するのは、彼らが親の愛情が
わからないわがまま者だからではありません。子どもが「自分の感覚に
合ったプロセスと方法で育ちたい」という欲求(ニーズ)を、自分に善
かれと思ってつらぬこうとするために表れる反応なのです。
したがって「よい指導をしたりよい教育を与えること」よりも「子ど
もが、親の指導や教育に反抗したとき、どう対応するか」ということの
ほうが、子育てには大切だ、ということになるわけです。
この点は、いずれ詳しくお話したいと思います。
以上で、教育対策研究所に関する連載を終わります。
◆ お詫びと訂正 ◆
前回のコラムで、掲載した文章の出典を記載しませんでした。出典は
下記のとおりです。お詫びして訂正します。
(ニューズレター『きょうたいけん』7号2000年8月1日 より)
さて、今年度のコラム欄はこれで終わりです。
一昨年10月の当メルマガ創刊以来、コラム欄では、半年ずつ、
* 私自身の体験をつづった"体験記4部作"
* 1回1テーマで意見を述べる"1話完結形式"
* 私自身の体験とその後の市民活動を通じての意見
という形式で書いてきました。
つたない文章でしたが、多くの皆様にご愛読いただき、感謝にたえま
せん。ほんとうにありがとうございました。
◆ お 知 ら せ ◆
新年度(4月)からの当メルマガは、私の個人誌と、当スタジオのオ
フィシャルマガジンのふたつに分かれることになりました。
このコラム欄は、私の個人誌のほうに引き継がれ、これまでどおり、
子どもの不登校とおとなのひきこもりへの理解と対応について、当事者
と相談員の両方の立場から、意見・提案を書いていくことになります。
どうか引き続きご愛読くださいますよう、よろしくお願いいたします。
また、当スタジオのオフィシャルマガジンは、新刊として4月より発
行予定です。どうぞお楽しみに。
:筆者:丸山 康彦(まるさん)
スクールソーシャルワーカー(訪問子ども援助職)。高校時代、
不登校と留年の末、入学7年後に卒業。高校講師・ひきこもりを経て、
1999年4月に個人事務所「教育対策研究所」を開設。2001年10月に
当ヒューマン・スタジオを設立し代表に。