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ブタと秋ちゃんと電波塔と…昨日から何かが変だと思っていた。そうだ、絶対に何かがあったに違いないのだ。 例えば全て夢だとか。 幻覚が見える薬を注射されたとか。 ちょっとだけ、 ほんのちょっとだけ、 現実にありえない事が起こっているだけなのだ。 そう思って昨日は少し早く寝ることにした。 いま目の前で繰り広げられているこの光景が、何かの間違いだと信じて。 『ブタと秋ちゃんと電波塔と…』 朝目が覚めると、豚の貯金箱が軽快な挨拶をくれた。 「おう秋、遅い目覚めやのぅ。」 朝から強烈な頭痛が私めがけて飛来する。 最近の幻覚はどうやら音声出力も可能らしい。 天使の羽で物理法則を無視して飛行するその謎の物体は、 昨日の晩、不思議な轟音とともに窓ガラスを割って飛来したのだ。 「そうか、最近の幻覚は物理的な質量を持ってるのか。」 「まだそんな事言うてるんか。」 「日本って偉大だな。」 「何に感心してんねん。」 そういいながら、私の頭の上でタバコを吹かす。 正直重いし煙たいので今すぐどこかに消えてほしい。 が、今ここで両手を振って煙たがってしまったらそれこそ私は電波さんだ。 ふと、電波という言葉で親しい友人の顔を思い出す。 「電波って空気感染でもするのかな…」 「するんちゃうかー」 明らかに面倒臭くなって適当なことを言い始める豚である。 やばいぞ私。 幻覚と会話してる。 とりあえず洗面所で顔を洗って制服に着替える。 少し遅い食卓に着きながら、例の親しい友人をどう詰問したもんかと思案する。 ふと机の上に目をやると、豚の貯金箱が私の朝食を摘んでいた。 「こら!」 と言いかけてノド元でこらえる。 危ない危ない。 というか、 目の前で食事をする両親にはどう見えてるんだろうか。 私は、科学者なら喜んで飛びつきそうな疑問を検証する勇気もなく、 いつもどうりに学校へ向かうことにした。 教室に入った瞬間に謎が解けた気がした。 朝から幸せオーラを振りまいている友人を見て確信する。 ぁぁ、ここが爆心地か。 やっぱりか。 普段から夢が見えるとわけのわからない電波ドリームを言い放つ電波塔の周りでは、 メルヘンの生き物がもう尋常じゃないことになっていた。 その電波塔がメルヘンを過剰に振りまきながら私に飛びついてくる。 「ねぇねぇ秋ちゃん聞いて! 私ね!和樹君と付き合うことになったの!!」 ぁぁウザイ。雪崩の様に押し寄せる花畑がウザイ。 「わかったから落ち着いて。ゆっくり説明して。」 昨日の状況が知りたい。 そういう私の言葉を聴いて、手をもじもじと動かしながら要領の得ない説明を始める。 「あのね。昨日は朝から導火線が赤い糸でね。」 「ふむふむ。」 内容が電波なのは普段どうりなのでスルー。 「追いかけていったら火がついて。まっすぐがクネクネで。」 わからなくなって来たぞ。 「ぐるぐる回って、お風呂みたいな、でも一番星で!?」 テンションが上がるほどにメルヘンの量が増加していく。 このまま溺れてしまいそうな錯覚さえ覚える。 例えるなら降水量か不快指数。 不快指数なら梅雨の雨の日の教室よりもひどいかも知れない。 「落ち着いて! 溺れ死んじゃうから!!」 「う、うん。それでね? 和樹君と二人で、好きだって言ったら。ドカーンって。」 そこでひとまず友人を引き離して深呼吸をする。 要領はまったく得ないし電波だし、メルヘンは雪崩のような不快指数だけど。 これでようやく謎が解けた。 やっぱりこいつが爆心地なんだ。 恋が成就してテンションが高くなったのか、 過剰な幸せがメルヘンのダムを堰切らせたのか。 なんにせよ。 それが原因で感染したとしか考えられない。 そうだ。 私のせいじゃないぞ。 それが分かっただけでも、今は少しは安心できる気がした。 放課後になって、終業の鐘が憂鬱に悲鳴を上げ始めた頃。 爆心地は恋人の井上和樹と幸せそうに帰ってしまった。 もともと家の方向は真逆だし、一緒に帰っていたわけでもなかったからいいんだけど。 女の友情ってこんな風に壊れていくんだなとしみじみと考えてしまう。 「女の友情って儚いな?」 「うっさいブタ。」 言ってしまってから慌てて口を押さえる。 幸いにもみな帰ってしまって誰も居ないようである。 良かったのか、良くないのか。 複雑な気分で机に突っ伏した。 「ねぇブタ。あんたなんで私のトコに来たの?」 横目に、パタパタと物理法則を無視するブタの貯金箱が見える。 なんとなく、なんとなく気になったのだ。 この異常な光景の、なにか、糸口の様な物が掴めるんじゃないかと、 淡い期待が渦巻いていた。 「なんであの子のそばを離れて、私なんかのトコに来たのよ。」 そう言うと、お腹からチャリチャリと音のするピンクのブタは、私の前に降り立って、 思案顔で私の目を見つめる。 「俺たちはな、幸せオーラというか、妄想力というか。そういう力の強いのが好きやねん。」 「好き?」 「好きというかな、居心地がええねん。」 それはなんとなく、今日の爆心地を見ていてなんとなくわかる気がする。 今日のあの子のメルヘン指数は尋常じゃなかった。 でも、じゃぁ、 「私のところに来る意味が無いじゃない。」 比較的現実主義な私だと、まったく真逆な条件のはずだ。 「・・・なんていうかな。」 ポリポリと頭をかくブタが、照れ隠しなのか、タバコに火をつけてから遠い空を見上げていった。 「娘の彼氏と同居する自信の無い父親ってこんな心境なんかなー、ってな。」 一瞬、教室に凪が訪れた。 一泊遅れでブタの心情を理解する。 次の瞬間、お腹の底から笑いが込み上げて来た。 「あはははははははははははははっ」 本当に久しぶりに、心の底から笑っている気がする。 まったく、いっちょまえなブタである。 「なんやねん。笑うなや!!」 あせった調子でブタが静止しようとするが、私の笑いは一向に収まらなかった。 そう言えば、こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか。 心なしか、ブタも少し元気になった気がする。 今までメルヘンや2次元なんて逃避でしかないと思っていたけど、 このブタとなら、少しは仲良くやっていけそうな気がする。 さっきとは打って変わって上機嫌な私は、 どことなく訳知り顔で微笑するブタの頭を小突きつつ教室を出る。 「帰りにアイスでも食べて行こうね。」 そう言って下駄箱を開けると 「話がわかるやんけ♪」 と嬉しそうにしていたブタが、 1通の手紙を見つけてその場で停止してしまった。 いま、私の下駄箱から出てきたような気がしたのは気のせいかな。 そう思いつつ何気なく手紙を拾い上げた瞬間。 どこか知れない場所で、何かが爆発する音が聞こえた。 まさか・・・、 出来るだけ何も考えないように気を付けつつ手元を見ると、 そこにはハートのシールで封がされた手紙が握られていた。 その日から、この町ではひとつの都市伝説が囁かれる様になる。 曰く、メルヘンな生き物が見えるとか。 曰く、それは爆発の音を聞いたものだけなのだとか。 でもそれは、私も知らない少し先の未来のお話である。 |