|
テーマ:仮面ライダー響鬼(317)
カテゴリ:日記
刹那
響鬼はその剣の放つ輝きに魅せられてしまった。 己が放った紅蓮の剣を受け止めて尚、冴え冴えと美と畏怖を孕んだ輝きを魅せるその剣に。 ──それが、致命的な隙を呼ぶ。 「爆ぜよ」 ジャキの放った呪の言霊と共に眼前が真紅の輝きに覆われ、次の瞬間巨大な熱と衝撃が響鬼の胸を貪り食らう。 「がはっあ?!」 その衝撃に響鬼の巨躯が宙を舞い、一瞬の浮遊感の後、背をしたたかに大地に打ちつけられた。 「か、かはっ…」 息ができない。 胸に激痛を超えた痛みが走る。 響鬼の胸甲は弾け飛び、その胸には肉を焦がしてケロイド状の傷が穿かれていた。 あまつさえ、焦げた肉の下から僅に胸骨が覗いている。 常人なら、生きている事が奇跡な状態であった。 まずい── 響鬼は悶え苦しみ、薄れ行く意識をかろうじて繋ぎ止めながら、必死に立ち上がろうと足掻いた。 だが、体が思うように動かない。 心の蔵が、痛みを伴ってかろうじて動いているだけだ。 じゃりっ ジャキがゆっくりと近づいてくる。 「これまでだな」 「…冗談、まだまだ」 激痛の中にあっても、響鬼は意識──闘志を保っていた。 だが 「いいや」 ジャキは音叉剣を逆手に構え、高々と振り上げた。 「──終わりだ。 無益な殺生は好まん。 が、お前の『鬼』は殺させてもらう」 「な…に?」 「悪く思うな」 閃 ガキィィイイン ジャキの切っ先がバックルにめり込み、音激鼓が真っ二つに割れた。 そしてその切っ先は更に響鬼の下腹部に深々と突き刺っていく。 「………が、あぁああああっ!!」 響鬼の仮面がまばゆい光を放った。その光が消えた後、響鬼の素顔が顕にされていく。 その顔は脂汗に塗れ、深く苦痛を刻んでいた。 ジャキはすぅっと剣を抜き、その刀身を収めて身を翻した。 もはや響鬼を省みる事すらしようとしない。 「……お前の『鬼脈』を破壊した。 もう、お前が『鬼』になることは無い。 さぞ無念だろうが…」 もはや雌雄は決した。 「殺しはしない… せめて残りの生を『人』として生きていくがいい」 そう言ってジャキはヒビキに背を向けて立ち去ろうとした── だが 「……お、い、 待てよ」 ジャキの歩みが止まる。 「止めておけ」 ジャキは振り向きもせず、悼むように呟いた。 「もうお前に戦う力など残ってないだろう。 これ以上は無意味だ。 お前も妻子ある身なら、それ以上悲しませるような真似するな。 それに──」 そしてゆっくり振り返った時、その無貌の仮面から息を呑む気配がした。 「なに…っ?」 そこには、血の気を失いながらも文字通り鬼気迫る形相で立ち上がるヒビキの姿があった。 「莫迦な……」 ありえない。 確かに自分は『鬼脈』を──『鬼』の力の源となる元を断ったはず。 なのに、何故この男は立てる? (まさか…『外された』のか?!) あの状態で、あの僅かな瞬間に急所をかわしたとでもいうのか。 「……どした? あまり見くびってもらっちゃ困る」 ジャキの背に冷たいものが走った。 ヒビキの『鬼迫』に気圧される様に、ジャキは僅かにあとずさる。 そこに生まれる一瞬の隙。 一体何処にそんな力が残っていたと言うのか。 ヒビキは烈火を振り上げ、雄叫びを上げてジャキに肉薄した。 振り上げた烈火から眩い炎が吹き上がる。 「はぁああああああっ!!」 どんっ! 烈火がジャキの顔面を捉えた。 その瞬間、烈火の先端が爆裂してジャキの巨躯を吹き飛ばす。 一転 二転 ジャキの身体が大地の上を鞠の様に跳ねた。 瀕死の身で放ったとは思えぬ、あまりに凄まじい一撃だった。 だが、そこまでがヒビキの限界だった。 薄れゆく意識を繋ぎ止めておくことが出来ず、ついにヒビキは膝をついた。 だが、そんなヒビキ最後の一撃もジャキを仕留めるには至らなかった。 「……恐ろしい男だ。 これほど鍛え上げている『鬼』に出会えるとはな」 よろめきながら、ジャキは立ち上がっていた。 その仮面は烈火が爆裂した衝撃で焼け爛れ、亀裂が入っている。 その亀裂から光が漏れた。 その光は輝きを増しジャキの顔を覆いつくしていく。 「見事だ」 そしてその光が消えた時、ヒビキはそこに信じられない顔を見た。 「……嘘だろ」 それは朦朧とした意識が見せた幻覚なのだろうか。 でなければ、極上の悪夢か。 「……なんで ザ…ン…さ……」 その悪夢を脳裏に刻みつけ、ヒビキの意識はついに暗黒の淵に沈んだ。 素顔を曝したジャキは、倒れ伏したヒビキをじっと見ていた。 ──その顔。 ザンキと全く同じその顔に、悼むような色が浮かんでいた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|