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テーマ:世界を動かす国際金融(373)
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「ユコス問題」の中心人物であるミハイル・ホドルコフスキーに対し、モスクワのメシャンスキー地区裁判所は5月31日、横領と脱税の罪で禁固9年の実刑判決を言い渡した。なんと判決文朗読は、5月16日から2度の週末を挟んで12日間におよび、「現代ロシアで最長の刑事判決言い渡し」となった。弁護側は控訴すると思われる。 イリーナ・コレスニコワ裁判長は31日、1990年代の国有資産売却の際にホドルコフスキーと同様の罪で起訴されたユコス持ち株会社「メナテップ」のレベジェフ会長の両氏が組織立って、10億ドル規模の詐欺行為を行なったとする検察側の立証を認める判決を下した。同裁判所は、レベジェフに対しても9年の刑を言い渡した。 これにより、政治的迫害として非難されていた同裁判は、開始から11ヶ月で幕を閉じた。 ロシアがホドルコフスキーを逮捕するとともに、ユコスに280億ドル(約3兆220億円)の追徴課税を求めて以降、欧米各国は、プーチン大統領の民主化への取り組みについて懸念を表明していた。ロシアでの一連の騒動を受け、投資家らは昨年95億ドルもの資金をロシアから引き揚げたと言われている。 判決は、ホドルコフスキーが、 1.個人所得税約5453万ルーブル(約2億954万円)を脱税 2.民営化された肥料開発会社の株式を違法に取得 3.ユコスに属すべき資金約26億5000万ルーブル(約101億8326万円)を政商ウラジーミル・グシンスキーに違法に移転した ――など、検察が起訴した11件のうち9件で有罪を認定した。 これに対してホドルコフスキーは、「潔白が祖国で立証されることが私にとっては原則的に重要だ」と述べ、プーチン政権から刑の軽減と引き換えに出国を求める裏取引を持ち掛けられたが拒否したことを示唆した。ホドルコフスキーの父も「素知らぬ顔でここから逃げろとは息子に言えない」と述べ、禁固9年という量刑と出国問題に密接な関係があったことを強く示唆した。 また、ブッシュ大統領は31日のホワイトハウスでの記者会見で、「ホドルコフスキーは公正な裁判の前に有罪が決まっていたように見える。刑務所に投獄されてから裁判を受けたようなものだ」と批判した。 バウチャー国務省報道官はロシアの「法の支配」の現状に憂慮を示し、「ロシアは(投資の減少などで)代価を支払い続けることになるだろう」と警告した。 私は 2005年04月13日の日記で「ガスプロムは、ロシア国営ロスネフチを、76億ドルで6月末までに買収完了する見込みである」と書いたのだが、実はこの流れにも変化が出てきている。 報道を基にして私見などを簡単に説明すると、プーチン政権は、世界最大の天然ガス企業体ガスプロムに国営石油企業のロスネフチを吸収合併させようとして、巨大な国営エネルギー企業体の創設に向けて動いてきた。しかし、ガスプロム側に当初予期せぬ資金問題が起きたことからこのシナリオに狂いが生じ、ガスプロムのミレル社長は、ロスネフチの吸収合併を断念し、ガスプロムの全発行株式の約4割を保有する政府に自社株式を売却することで完全な国営企業となることを明らかにした。 ロスネフチ側が、発行済み全株式の約10%分に当たるガスプロム株を130億ドル(約1兆4000億円)で6月24日までに国に代わって買収する計画であることも明らかになった。 したがってロスネフチは、ガスプロムの株式を直接取得することでガスプロムへの発言権を増し影響力を行使できるようになるはずである。これにより、当初ガスプロムを中心に描かれてきた新国営エネルギー企業体の青写真は、一転してロスネフチが主体となることが決定的となったわけである。 ロスネフチはプーチンが側近のセチン前大統領府副長官を会長に送り込むまで石油業界第6位の影響力の小さな企業だったわけだが、ユコスの6割の石油を産出する中核子会社を吸収したことで一挙に石油生産シェア20%の最大手に躍り出た。 エネルギー戦略の主導権がロスネフチに移ったことは、セチン会長人脈がガスプロムとの暗闘で勝利したことを意味する。ロスネフチとは、「シロビキ」という旧ソ連国家保安委員会(KGB)勢力が牛耳る国営石油企業である。 ガスプロムのミレル社長は5月18日、ロスネフチとの合併を断念したことを明らかにしている。 つまりこうである。 国営ロスネフチは、6月24日までにガスプロムの10.07%の株式を130億ドルで買収する計画を立てた。これにより、国が保有する4割近くの株式とあわせることでガスプロムの国営化が達成されるわけである。そしてロスネフチが、実質的に国営化後のガスプロムをコントロールすることになる、と。 従ってプーチン・セチン人脈は、ユコスが欧米の石油メジャーに吸収されることを以上のようなやり方で防いだと見ていいと思う。もちろん今後の展開しだいではどうなるかは解らないという不安定な状況にあることは間違いないだろう。ただ、ホドルコフスキーはユコス・シブネフチの40%をエクソン・モービルに売却するつもりだったのであり、プーチンによるホドルコフスキー逮捕と事実上のユコス解体によって、ロシアの天然資源を欧米の石油メジャーから守ったのは確かだと見て取れるのである。 ロシアでは“泥棒”のホドルコフスキーなどが逮捕され裁かれているが、「オレンジ革命」をはたしたウクライナでは、“ガス泥棒”のユリア・ティモシェンコが首相に就任するという違いがある。 「美しい」ユリア・ティモシェンコの写真と記事はこちら。 http://plaza.rakuten.co.jp/HEAT666/diary/200502100000/ さて一方、カスピ海石油をロシアを通さず地中海へ運び出すBTCパイプラインが完成し、5月25日にアゼルバイジャンのバクーで開通式が行なわれた。これに対しロシアは、国内産やカスピ海沿岸の石油を黒海から地中海、イスラエルを経てインドなどアジア市場に輸出する南方ルートを計画しているため、これは石油をめぐる新たな「グレートゲーム」の幕開けとなると言われている。 ロシアの南方ルートは、黒海沿岸ノボロシースクまでの既存のパイプラインを生かし、タンカーでイスラエル北部まで搬送、さらにイスラエル縦断パイプラインで紅海へ積み出すというもの。最終的にはBTCに匹敵する日量100万バレルを見込む。 日米欧はBTCパイプラインの完成により、ロシアとOPEC加盟諸国の関与を受けない巨大供給源と輸送路を獲得することになる。 日経の5月25日の記事を抜粋すると カスピ海送油管が開通へ・ロシア迂回し日米欧に供給 新送油管はアゼルバイジャンから、グルジアを経てトルコ南部に抜ける1700キロメートル強を結ぶ。名称は「バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)」ルート。輸送能力は日量100万バレルで総工費は36億ドル。石油はバクー沖合のカスピ海底にある鉱区「アゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)」から供給する。可採埋蔵量は54億バレルとインドネシア1国分を超える。 石油開発事業、輸送事業とも日米欧が国際企業連合を形成、英BPが主な運営主体を務める。日本からは両事業に国際石油開発と伊藤忠石油開発が資本参加している。 以上のようになっている。 いちおうは国際石油開発と伊藤忠石油開発も参加しているが、これらの主体は、記事にあるように「BTC」も「ACG」も英石油メジャーのBPである。日本が「おいしい餌」にありつけるはずがないのである(笑) 以下に、参考までに「BTC」と「ACG」の資料を貼って本日は終わりにします。 【ACG 事業概要】 事業実施主体 BP(英) 可採埋蔵量 約54億バレル(契約期間終了の2024年まで) 生産開始 1997年11月 現在生産量 日量約220千バレル 計画生産量 2005年からの本格生産によりピーク時には日量約110万バレルを計画 尚、伊藤忠は1996年よりACG 事業に参加している。 【BTC 事業概要】 事業実施主体 BTC Co. BTC Co.主要株主BP(英) 総延長 約1,760km 総費用 約36億米ドル 通油能力 日量約100万バレル 通油開始 2005年11月 ● 参加者 【ACGプロジェクト】 SOCAR(アゼルバイジャン) 10.0000% BP(英) 34.1367% Unocal(米) 10.2814% Statoil(ノルウェー) 8.5633% TPAO(トルコ) 6.7500% Amerada Hess(米) 2.7213% 伊藤忠商事(日) 3.9205% 国際石油開発(日) 10.0000% ExxonMobil(米) 8.0006% Deveon Energy(米) 5.6262% 【BTCプロジェクト】 SOCAR 25.00% BP(英) 30.10% Unocal(米) 8.90% Statoil 8.71% TPAO 6.53% Amerada Hess 2.36% 伊藤忠商事 3.40% 国際石油開発 2.50% Agip(伊) 5.00% Total(仏) 5.00% ConocoPhillips(米) 2.50% ※ 関係する日記 石油メジャー(2005年04月16日) http://plaza.rakuten.co.jp/HEAT666/diary/200504160000/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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