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再出発日記

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2006年04月19日
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昨日のエントリーでは「神と戦争の関係」まではたどり着くことが出来なかったのですが、今日紹介する作者は神様のことをしっかりと勉強してかかれたみたいで、この小説を手がかりにして、私は無理にそこまで話を持っていこうとしています。
神のふたつの貌
『神のふたつの貌』文芸春秋 貫井敏郎
一応ミステリなので、仕掛けが有る。でもミステリとしてはお勧めではない。ちなみに一番最後は漫画版『デビルマン』の最後の場面をフィーチャーしている。神をテーマにした小説だからそれでもいいのだが、ちょっとした遊びごごろだろう。

一章で、教会の牧師の12歳の息子早乙女(非常に早熟な考えを持った子供)と青年部のリーダー久永と神についての問答が有る。ここの教会はプロテスタントなので、清教徒であるブッシュの論理とは少し違うかもしないが、日本人にとってはあの穏やかなキリスト教徒たちが何故歴史的にも戦争を繰り返すのか、ひとつの回答になっていると思うので、長くなるが要約してその問答を再現したい。

久永は早乙女の疑問を要約する。「神様が人間のことを愛しているなら、どうして戦争が絶えなかったり、辛い思いをする人がいつまでもいなくならなかったりするのか、不思議なんだろう。それは神様なんていないか、いても人間のことを見捨てたせいじゃないか。そう考えたんだろう?」そうだ、と早乙女は応える。自分も神はいると思う。正確にいうなら、造物主だ。神は世界を創りたもうた。だが、神の御業はそこまでのことだ。神は自ら創り上げた世界に、徹底的に不干渉の方針を貫いている。その態度は、見捨てたので無ければ、冷徹な傍観者のそれだ。まるで飼育箱の中のマウスを観察するような視線、それが人間に向ける神の目ではないだろうか。「違うんだ。そうじゃない。神は最初からずっと、人間に期待を寄せているんだよ。不完全な人間が、神の放つ波動をきちんと受け止められるようになることを、長い間ずっと期待しているんだ。」しかし、人間を不完全に創ったのはやはり神だ。それなら最初から完全な存在に創ればよかったのに。「完璧な存在ならわざわざ創り出す必要が無いじゃないか。人間は不完全だからこそ、神に近づこうと努力するんだ。完全だったら努力なんて無意味だ。人間を愛するのは、人間が努力するからなんだよ。」

久永は零細スーパーの主人。このような真面目なキリスト教徒は無数にいるだろう。

「人間はもともと神の放つ波動(神からの愛、人間からの祈り)を受け取ることが出来た。でも人間は神を裏切り、楽園を追放された。」
これは創世記に記載されているアダムの原罪のことである。蛇から知恵の実のことを教えてもらい、食べる。そして楽園を追放されるのである。原罪は「人殺すことなかれ」等の10戒とはレベルが違う。神と波動の交換が出来なくなること。人間が自ら善悪の判断が出来るようになるということ、なのである。

早乙女は質問する。神は裏切られたとき、見捨てることにしたのではないか。
「いや、地球上の生物で神と波動の交換が出来るのは人間だけだ。そのように神は人間を作ったんだ。そのような特別な存在を神は見捨てはしない。たとえ不完全であろうと、波動の交換をやめはしなかった。だからおれたちは、神が存在していることを知っているんだよ」「そこで早乙女君のいう疑問だ。何故この世に悲惨なことが満ちているのか。その答えは、人間が不完全だからという一点に尽きる。いつか人間は、かってのように神が放つ波動を100%受け止められるようになると思う。そのときはこの世から全ての不幸が無くなっているはずだ。俺はそう信じている。」

えっ!と無神論者の私は思う。じゃあ、神様から100点満点をもらうまでは、この世に戦争は無くならないということ?戦争が起きるのも、人間の信仰が足りないからなの?

そんな疑問はよそに、早乙女は久永に質問する。それならば神はただ傍観しているだけでないのか。どうして導いてくれないんだ。「神は万能だ。だからこの世の不幸を全てなくすことも出来る。けれどもそれは人間が自分の力で実現しなくちゃいけない。そうしなけば、波動を浮け止めることが出来るようにならないんだ。」「人間は肉体と霊のふたつで出来ている。人間は生まれる前は霊だけで存在している。そのときに、どんな人間でも神と契約を結んでいるんだよ。人間はその契約は忘れてしまうけど、この契約にそむくことは出来ない。神との約束は、それだけ絶対のことなんだ。だから不幸に陥る人はそれは神との約束だからだ。」それは納得できない。早乙女は初めて首を振った。「そうだろうね。誰だって肉体を持つ身ではそう考えるはずだ。でも霊だけのときには、あえてわが身に不幸を与えてほしいと望むことだってあるはずだよ。だってそのほうが、より真摯な祈りを神にささげられるし、その結果、より美しい波動が得られるようになるからだ。人間の本質である霊にとって、肉体の寿命はほんの一瞬のことだ。そんな一瞬の不幸よりも、より恒久的な神の波動を望むのも当然だろう。」

早乙女はこの後、神を理解したいがために幾つかの行動を起こす。その中には殺人も含まれている。物語はそうなのであるが、私は何故ブッシュが戦争を起こして何万人ものイラクの民を殺しても罪の意識を覚えないのか、その『仕組み』を理解したように思えた

自然の中で人間は唯一神と波動の交換が出来る特別な存在である。

人間には原罪がある。

『人を殺すこと無かれ』という道徳律より原罪を償う方が優先される

人間と神の間には契約がある。

この契約の善悪は人間には判断できない。

肉体時の不幸は一瞬、神との生活は恒久的である。

ということは、もしイラクとの戦争が『正義』ならば、殺人は許されるし、自分が戦死するのも契約のうちということになる。神と波動の交換が出来ないイラクの民や私たちは「不幸な民」なのだろう。

貫井敏郎はもちろん無神論者である。その立場からこの小説を書いている。彼なりに殺人とはどういうことなのか極めたかったのだろう。相当勉強の跡がうかがわれた。神の声を聞くために、何でもする主人公を配して、罪とは何なのかを考えさせる力作である。一方貫井は戦争論まで広げていない。広げたのは私である。キリスト教に詳しい方から反論があれば嬉しいと思う。





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最終更新日  2006年04月19日 17時45分41秒
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