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カテゴリ:読書(フィクション)
『ラッシュ・ライフ』新潮文庫 伊坂幸太郎
おそらくこの本を読んだ人間の10人に一人はやってみるに違いない。ここに出てくる四人の主要登場人物(黒沢、河原崎、京子、豊田)を時系列の表にして落とし、各人が何処で交錯しているのか、確かめてみる作業である。おそらく10人に9人は、そんなめんどくさいことしなくても、気がついている。この小説はあのエッシャーの騙し絵の構造になっていることを。 この絵を少し見てもらいたい。(小さくてごめんなさい)兵士が歩いているお城の上の階段は現実にはありえない構造である。この小説も一点だけ現実にはありえない構造がある。その点を見つけるのがこの本の最大の楽しみになっているのだろう。ただ、表を作ってみてびっくりしたのは、それ以外は実に論理的に構成されているということである。まるでエッシャーの絵のように。 伊坂はやさしい。(以下ネタバレあり。反転してね。) 金で全てが解決するという男には鉄槌を。リストラされて無職の中年男には億単位の当たりくじを。神を求める青年には考える時間と空間を。我がまま女には、人生の苦味を。まるで人生の高みから眺めるように、まるで未来が分かってしまう『カカシ』のように、小説を作ってしまう。 一方伊坂は、金持ちを憎んでもいないし、格差社会をどうこうしたいとも思っていないし、神は信じようともしていないし、タカビー女は嫌いだろうが、ほんとに好きな女のタイプのことは(おそらく)描こうとしない。 彼はなぜ小説を書いているのだろう。そのこが気になってもう少しこの作家の本を読んでいこうと思う。この人の作品はキャラクターが作品を飛び越えて登場するのが特徴なのだが、まさかバルザックの『人間喜劇』を目指してはいないだろうね。もしそうなら人間の描き方が軽すぎる。 付録。気に入ったセリフ。 『リブート?電源を入れなおすことか?』 『そう。再起動することだよ。パソコンを使っているとね、メモリという場所にいろいろな作業用の情報が残ったりして快適に動かないことがあるんだ。そういう時は再起動してあげれば、クリアされてまた動作がスムーズになる。』 『なるほど』 『わたしはね、今日ここでリブートした気分だよ。人生を再起動した。』 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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