監督、主演、編集 マイケル・ムーア
なんともうまい編集である。インタビューで相手がさりげなく「そういえば、医療費だけじゃなく(フランスでは)妊娠中の子守も保障されているわ」といえば、その直後にはその取材場面に切り替わる。そうやって次々と皆保険のない米国と手当ての厚いカナダや、欧州やキューバとの違いを浮き立たせる。ムーアにとって都合のいい事実だけを並べている。「だからこの映画は偏向している」と言う感想ならばその人は正しい。けれども、「だからこの映画は間違いだ」と言うのなら、それは大間違いだ。やはりこれは見事なドキュメンタリーである。偏向した(主張のある)事実をこれでもか、というほど見せる。ドキュメンタリーの王道だろう。しかもエンタメで楽しい。内容は深刻だけど、なぜか楽しい。おそらく、落語と同じである。演じている人間は絶対に笑わないが、内容はえらく皮肉が効いていて,くすくす笑が絶えない。
ラストタイトルで、(フランス人の言葉だけれどもと言う但し書きが一呼吸遅れてついてやはり笑うのだけれども)「アメリカ人は偉大だ。なぜなら自らの間違いを正すことが出来る」と付く。あるいは、ムーアは言う。「アメリカ人は今迄だってほかの国のいいところを取り入れてやってきた。ワインだってそうだろう?」その通りだ。近年、カリフォルニアワインの充実振りは目を見張るものがある。
日本には健康保険がある。けれども、この映画を見て気がつくのは、どんどんアメリカに近づいていっているという現実である。日本もほかの国のいいところをどんどん取り入れてここまでやってきたのだ。タダ、医療に関していえば、アメリカのいいところだけを取り入れてきたのだろう。ホント人事じゃあ、ない。「なぜアメリカ政府はフランスの悪口ばかりを言ってきたのか。フランスのこの現実を知らせたくなかったからだ。」それは日本にもいえている。フランスのこの福祉の充実振りを、あなたは知っていた?私はこれほどまでとは知らなかった。