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「楊令伝5」北方謙三 集英社文庫 「方臘殿に、お伺いしたい」 燕青は、階を見あげて言った。 「この乱で、血が流れすぎた、とは思われませんか?」 「燕青、叛乱では、血は流れないのか?」 「多すぎたのではないか、と申し上げております」 「ひとりの血も、百人の血も、同じだ。一万であろうと、百万であろうと、俺の信徒どもは、死ぬほうが幸福だと信じたのだ。大地は血と同時に、信徒の喜悦も吸った」 「わかりません」 「わかる必要はない。俺は叛乱を起こして、面白かった。生きて生きて、生ききった、といま思える。教祖だけやっていては、そんな思いは得られなかったと思う」 「流れた血が多すぎました」 「どれほど多かったのだ。半分だったら、それでよかったのか?」 「いえ」 「血は流れるものだ。生きていれば、血は権力に吸われる。その権力に刃向かって流した血ならば、吸われる血よりましだっただろう、と俺は思う」 「言い訳に聞こえます、方臘殿」 「燕青、言い訳をしているのは、おまえだ。梁山泊は、これから宋と闘うのだろう。その時に流れる血の言い訳を、いまからしているのではないか」 一瞬、そうかもしれないと燕青は思った。志のために流す血、と言える。しかし、方臘は笑い飛ばすだろう。 「流れる血に意味はない。血は、ただ流れるだけだ。それが、連綿と続いた、人の世というものだ」 方臘は再び背を向け、階を上っていった。 方臘対童貫の戦に決着がついた。方臘側の犠牲、70万。ほとんどが信徒で、抵抗もなく死んでいった。燕青は、この小説では珍しく、何度も何度も繰り返し方臘に詰め寄った。ここでの問答は、この巻だけの問題ではなく、所謂「革命」の何たるかを問う永遠のテーマだからだろう。もちろん、ここでは結論は出ない。 この巻で楊令は一挙に「水滸伝」以上の革命拠点を占領してしまう。しかし、それでは終らない。これから、「革命」が始まる。 │<< 前日へ │翌日へ >> │一覧 │ 一番上に戻る │ |