「名もなき毒」宮部みゆき 文春文庫
宮部みゆきの作品は、ここ10年無駄に長くて辟易していたのだが、これは良かった。「火車」を初めて読んだときのような充実感を感じた。
ここには、犯罪になるかならないかぐらいの、性質(たち)の良く無い「悪意」が描かれる。一人は、原田いずみ。新人アルバイトでトラベルメーカーである。最初は
「ミスを指摘すると、以前はすぐに謝って直していたのに、言い返すようになった。手の込んだ言い訳も並べるようになった。やがて、それを通りこして攻撃的になって来た。」というぐらいのモノだった(これでも大変な事だ)。私は似たような人を知っている。ある範囲を越えると、私には、理解不能に成る。
原田いずみは、やがてとんでもない行動も起こす。この作品では、その他、他の人物の殺人などの犯罪も描かれるが、それと日常の悪意或いは「名もなき毒」との違いは何なのか、私たちに問われることになるのだろう。
そんな「名もなき毒」を相手にしていた「探偵」北見一郎の意思を継ぐかの様に杉村三郎は呟く。
あなたは、事件の後始末に疲れたと言った。もううんざりだと言った。もっと早く、後始末が必要になる前に何か出来ないかと思ったのだと言った。それはいわば、この世の毒を浄める仕事だ。
果たして、杉村三郎がそういう日常探偵を始めるかどうかは分からない。しかし、続編は書かれているという。
そこに「希望」はあると、宮部みゆきも思っているのだろう。