ひさしぶりに渡辺あや脚本「ジョゼと虎と魚たち」をビデオで見た。実質脚本家渡辺あやのデビュー作だと思う。

犬童一心監督
出演 妻夫木聡 池脇千鶴 上野樹里 新井浩文 新屋英子
気ままな大学生活を送っていた青年はある日祖母とあばら屋で二人暮らしをしている両足が不自由な20歳くらいの女性に出会う。彼女は自分の名前はジョゼだという。サガンの小説の主人公だ。祖母から「おまえは壊れ物だ」とずっと言われ続けていたジョゼは、一方では祖母が拾ってきた本や教科書で深海魚のような暗闇から僅かに社会を覗いていた。青年はジョゼの作る食事の美味さに驚嘆しながら、次第に興味を募らせていく。ある日、祖母が死んだと聞いた彼は彼女が初めてみせる寂しげな姿に同棲を決意する。
この映画の「衝撃」は最後の五分に尽きる。
おそらく、男性が観たのと女性が観たのでは感想が違っていたのではないか。ジョゼは口は悪いし、身体障害者だし、青年が同棲を決意した時に、「若者の打算」と「若者の優しさ」がこの映画のテーマなのかと私は思った。
ところが、最後の五分で、青年はジョゼから「捨てられる」のである。そういう台詞はでてこない。むしろ、青年がジョゼから離れていくという映像になっている。しかし、観客の男はことごとくジョゼから「捨てられた」と思ったに違いない。男にとっては「非常にきつい」映画だった。
2003年の作品である。妻夫木はこれでブレイクした。上野樹里は高校生だったはずだが、大学生として少し背伸びをした演技をしていてぎこちない。池脇千鶴は三十路の今とほとんど童顔は変わっていないが、ベッドシーンもこなし、圧倒的な存在感を示す。最後の顔は深海の海から青空の下大海原を泳ぐ魚のように生き生きとしている。
渡辺あやの数ある脚本の中でも、私的にはやっぱりこれがベストだ。ほんの僅かな台詞で人生の過去から未来までも想像させる。また、脇役がことごとくキャラがたっている。ジョゼの隣に住む「変態のおっちゃん」や「小学生の少女」までその後の人生を想像させるように描いている。
先週から「カーネーション」はオハラ三姉妹の「ライバル関係」が描かれだした(今までの彼女たちの姉妹喧嘩や丁寧に描かれてきた性格描写があるために非常に説得力のある脚本になった)。これが糸子の人生にどのように絡んでいくのか、朝ドラの「最後の五分間」は果たして訪れるのか。少なくとも、今までもこれからも「聖人君子」のような主人公は描かないだろうと思う。