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ブログを変えようと思います。 こちらが新しいの → http://kumakiko.cocolog-nifty.com/blog/ ブログペット使ってみたくなったのですよ。
最終更新日
2008年07月07日 15時35分12秒
何の警戒心も無く普通に歩いて路地に進んだギルバートに慌てて追いつき、コソ泥の可能性があるから不用意に近づくなと伝えた。荒事になるかもしれないからな。ギルバートは待たせて俺一人で確認する。 音がした路地は、さっきまで歩いてた月明かりで夜とは言え多少の明るさのある道と違い、細い通りで立ち並ぶ事務所や何やらで月明かりは届かず薄暗い。ランプの火が欲しい所だが、明かりを点けて近づけば逃げられる可能性がある。暗い中を進むしかない。 路地を真っ直ぐ進んでさほど経たず、1階入り口横のガラスの割れている建物を発見した。入り口にある看板には糸巻きをモチーフにした紋章があるから、織物やら布やらを扱う商売に関連した商業ギルドの事務所か何かだろう。 俺は息を殺し、足音をたてないよう慎重に近づく。その間中、建物の中から盛大に荒らし散らす音が聞こえてくる。相当派手に引っ掻き回してるようで音が酷い。まるでデカイ獣が家の中で暴れているようだ。 盗みに入ったのは相当な間抜けか初仕事で興奮したビギナーか。そうでなければここまで音を立てて盗みをしでかす馬鹿はいない。 割れた窓へと近づき中を慎重に覗き込む。さすがに路地自体が暗いわけだから、中は黒く塗り潰された闇でしかなく、音はしても盗人の姿は見えず。だが、音の響きから賊は一人だろう。響く音が複数個所からしない事、音をたててる位置の移り変わりに連続性がある事から間違いない。 さて、中に踏み込んで取り押さえるか、出てくる所を待ち伏せするか。腰に吊った剣に手を掛けた、その時。 これまたド派手な音がして、俺の横の扉が砕け散った。 そして闇から飛び出す影。 「なんじゃ、こりゃ……」 その影を見て出た声は我ながら間抜けなもんだ。だってよぉ、仕方ねぇぞ? 今目の前に居るのはデカイネズミなんだよ。 つか、ネズミと言っていいかどうか迷う。大きさは人間大かそれより若干大きいか。顔の形はネズミのそれなんだが、グレーの毛の所々に白いコブのような物が出来ていて、それは体に比べると細い前足と後ろ足、長い尻尾以外に無数にあって原型を崩しているように見える。 そしてこれまたネズミと言っていいのか迷う要因、体の数箇所から真っ白な産毛みたいなのが生えていて、それが小刻みに震えてやがる。薄暗い中でもその産毛みたいなのがはっきり見えるのは、薄っすらと発光してるからか、そう錯覚しているからか。 とりあえず、まぁ、デカイネズミのような物が俺の目の前に出てきたわけだ。 それは俺から7,8m程離れた位置でしっかりとこちらを見据えて威嚇のような鳴き声を上げている。ちょっとでも動けば飛び掛ってきそうだ。やはり悪い予感ってのは当って欲しくない時ばかり当りやがる。そして今、そいつが飛び掛ってくるだろうと悪い予感がしているから、 当然、そいつは俺に向かって飛び掛ってきた。 7,8mの距離を一足飛びで跳ねて俺へと踊りかかるネズミ。それを右手で抜いた剣で何とか受け止める事ができた。剣と牙が激突してネズミは後方に下がる。 剣に手を掛けていた事が幸いした。ネズミを下がらせた隙にもう一方、左手に右手の剣に比べると小振りで軽い剣を抜く。こうやって両手にそれぞれ剣を持つのが、いつもの慣れ親しんだ俺のスタイル。これでこっちは準備万端、と言いたいのだが何せ暗い。それに相手はネズミ。人を相手にするのとは勝手が違い過ぎる。 飛び掛るネズミを避けて剣を振るうが空を斬るだけ。図体はデカイが何せすばしっこい。暗くて目測もいまいち合わない。こちらが踏み込んで斬りつけても、やはり目測が甘くなっているのか簡単に避けられる。 何度かそれを繰り返して凌いではいるが、正直分が悪い。 こっちはしんどいのだが、さすがは畜生だよな、全然ネズミに疲労は見えない。と言うか、ネズミが疲れてるかどうか何て見た目で分る訳が無い。ともあれ、長くは続けられん。 「援護します!」 唐突に俺の背中側から猛烈な光が広がった。俺は平気だったが、ネズミの方はその光を直視して一瞬怯む。 今の俺は何故急に明るくなったとかそういったのは一切考えない。ネズミが怯んで動かない、チャンス以外の何物でもないこの瞬間、俺はそのチャンスを逃す事なくネズミへと一気に近づいて、逆手に持ち替えた両手の剣を、一息にネズミの脳天に突き立てた。正直言ってあまり気持ちの良いと言えない感触が剣越しに伝わるが、更に捻りと力を込めて貫く! 2本の剣がネズミの頭蓋を貫き通し、地面に突き立った。ネズミは大きく体を震わせ、絶命。 何とかなったな。戦いの間、詰めていた息が漏れる。 後ろを振り返れば、先程叫んだギルバートの姿。片手を頭上に高々と掲げ、更にその手の上には煌々とした明り。 「サンキュ、助かった」 「いえいえ、私にはこの程度の魔術しか使えませんが、お役に立てて良かった」 「しかし、そりゃランプ代わりに使う魔術の光だよな……よく咄嗟にそいつを目くらましにするなんて考え付くよ」 「ありがとうございます」 何事も使いようだよな。まったく、それにしても戦い慣れしてるように見えないのに大した度胸と判断力だ。 「旅を続けていると、何が起きても手持ちの物で対応しないといけませんからね」 「是非その辺りをご教授願いたいね。夜の戦いについてはあんたの知識は俺より上のようだ」 「ええ、良いですよ。ただ、別の意味でしたらそれほど経験がありませんが」 「言うねぇ」 軽口を叩けるぐらいに落ち着いてから、刺さったままだった剣を回収して、倒したネズミをギルバートの光の下でしげしげと観察してみた。デカイ図体に体中に白いコブ、白い産毛。それ以外はいたって普通の溝鼠。大きさ的に普通じゃないから、普通とは言えんか。 「しかしこいつはなんだろうな。今まで見た事もないぞ」 「私も見た事ありませんね。どなたからも聞いた事ないです。そちらは?」 「この街で誰かが見たってんだったら、大騒ぎになりそうだよな」 「ですよね」 二人揃って首を捻る。 荒唐無稽の想像としてなら、何処かで誰かが作ったとか、それが何処からか逃げ出して家荒し。 いや、それは無いな。我ながらガキの妄想と変わりが無い事を思いつくもんだ。 これ以上ここに居ても答えは出なさそうだ。とりあえずは明日に親父さんとこいつの正体と今後を話すか。 「とりあえずはこいつはほっといて、明日の朝にでも……」 「危ない!!」 ギルバートが叫んだと気付いく前に俺は宙に浮いてた。 ―――――――燃え上がる家々の中でそいつらは―――――――― 正直油断しすぎてた。 そう思えたのも、左腕に強く引かれたような衝撃が走り、体が宙に浮いて地面に背中から叩きつけられた後だが。 倒れたままの横に向いた視界が捕らえたのは、倒したネズミの横で呻り声を上げるデカイネズミ。 ―――――――次々と人を襲って―――――――― ちくしょう、もう1匹いやがったんだ。 ―――――――襲われ、倒れた人々は次々に―――――――― それに吹き飛ばされてから訳の分からない言葉とか記憶が浮かんできて考える事を邪魔しやがる。 ―――――――白く崩れて逝く―――――――― くそったれ! 今はそれどころじゃねえんだ……黙ってろ!! 訳の分からない記憶を気力で封じ込めてなんとか立ち上がる。左腕に鋭い痛みが走る。さっきのネズミに齧りつかれたか、引っ掻かれたか、見なくても傷を負ったのが血で濡れて張り付く服の感触で分る。動かすにも痛みが走って剣を持ってどうこうする事なんて出来そうに無い。 利き腕の右腕には問題が無い事だけが行幸か。油断無くネズミを睨みつけながら、右手で剣を抜いた。 こうなりゃ、望みは俺の傍らで狼狽しているギルバートのみ。 「ギルバート、光消して逃げろ!」 「し、しかし」 「しかしも何もねぇ! ここに二人残っちまっても勝算がないんだ!」 「……くっ、分りました」 光を消して走り去るギルバート。それに反応したネズミに対して俺が牽制を加えて足止めする。 走り去る音が消えたから、何とか逃げおおせてくれたようだ。 ギルバートを逃がしたのは当然、英雄的な何かに目覚めたからじゃない。まず、ギルバートにこのネズミ相手に戦うなんて出来ないだろう。出来るならわざわざ光で怯ませときながら、俺に倒させるなんてしていないはず。既に光の中に居たネズミには目が慣れていて先程の手は通用しない。当然、片腕の俺一人でネズミを倒せるとは考えない。 この状態を脱するには救援が必要なんだ。その為のギルバートの脱出。 右手に持った剣を口に咥えて、胸当てに付けられたシースーからナイフを抜き出す。そして、気合と共にネズミへ投擲。 「ふっ!」 ネズミの短い悲鳴。当りはしたが、致命傷には至たってない。もう一本投げつけるが、こいつは外れ。 今の俺は何としても救援となる人へギルバートが到達するまでの時間稼ぎ、そして出来るならネズミの隙を突いての逃走。危険は十分承知の上、だが他に手は無い。 ネズミの突進を軽く避ける。 先程光を消させたのは先程とは逆、明るい所が急に暗くなれば極端に目が暗闇に慣れるのに時間が掛かる。さっきまでネズミの方が光を直視していたからその効果もこちらより長くなるはず。現にネズミの突進は大まかな動きでしかなく、簡単に避ける事ができた。 だが、その効果も僅かの間だ。一度逃げるに限る。 こちらの目が完全に闇に慣れた。チャンスは今しかない。 「んっ!」 ナイフを投擲。そして直ぐに剣を握り直すとネズミへと突進。ナイフを避けたネズミに向かって剣を振り下ろす。当然、ネズミはそれを大きく後ろに下がって避ける。それに対して剣を投げつけて更にネズミを遠ざけると、俺はそのまま、直ぐ横にあった路地に飛び込み走り出した。 攻勢に出ると見せかけての逃走。人間相手には有効な手だ。ネズミに通用するかは賭けでしかなかったが、今の所はうまくいった。 暗い路地は他の路地と複雑に交差し、狭くジグザグに走っている。いつネズミが路地脇から飛び出してくるかもしれない恐怖に耐えながら走る。正直、明確な目標もなく走ったから、下手をすれば先程のネズミが居た路地に出てしまうと言う喜劇としか言えない状況になる可能性もある。だが、それでも俺は何も考えずただ走りに走った。時間感覚も消えうせる闇の中、どれだけの時間走り続けたのかも分らない。 そうして走り続けてなんとか月明りが照らす通りへと辿り着いた。 周りを見渡しても、ネズミの追いかけてくる気配は……ない。 どうにか逃げられた。 そう思って、一息吐いた俺に。 真上からさっきのネズミが降ってきた。 「ぐうぁ・・・・くそったれが・・・・!」 避ける事も出来ずネズミの下敷きになっちまった! 必死に、正しく必死にネズミを振り払おうとするが、ネズミの巨体はびくともしない。ナイフを掴んで突き刺すも、まったく堪えた様子も無い。狂乱状態になった俺はなおも何度も何度もナイフで突き刺すが、それもネズミの前足で弾き飛ばされた。 俺の上に覆い被さったネズミは、デカイ口を開けて俺の頭に齧りつこうとしている。あんな口で齧りつかれてはただではすまない。 万事休す。万策尽きた。 だが、俺の諦めと覆い被さったネズミは簡単に吹き飛ばされる。 「こんばんわ。今夜も楽しそうな事してらっしゃるのね?」 楽しそうに嗤う、白い狂戦士によって。
最終更新日
2008年07月02日 22時38分36秒
2体の15mほどある巨人が動くたびに地面が少し揺れます。 動き回る巨人達の近く、私が居る場所からは遠く離れているので小さく見えますが、師匠とコルネール様が戦っています。 それにしても、巨人、巨大な人形の動きは大きさに似合わずかなり俊敏です。そしてあれだけ大きければ足元に隙がありそうにも見えるのですが…… 師匠が巨人の足元に素早く接近すると、その動きに反応してあの大きな体を屈めて片足を水平に一回転。足払いですよね、あれ。巨人の足一本でも大きな木の幹みたいな太さがありますから、あんな風に振り回されたのが直撃したら人なんて簡単に吹き飛ばされそうです。当然、師匠も下がります。 その隙を突いてコルネール様が代わって接近しようとしますが、今度は足払いの回転を利用して後方に飛びのいてしまいます。そしてもう一体からの赤い燃えた矢に似た物を無数に飛ばす魔術攻撃。コルネール様は接近を諦めて攻撃をいなしつつ火球をドンドン作って巨人に飛ばしますが、巨人の直前に魔法陣が現れ、それに火球は触れて爆発。当然、巨人は無傷です。 先程からこんな感じが続いて、何か決め手と言いますか。先程師匠が人形を片っ端から壊していたのを見ているので、それに比べてそういったのが欠けているような気がします。 「いやはや、まさかこれほどとはのぅ」 遠く離れているはずのコルネール様の感嘆の声が聞こえますが、これは私の隣に居る魔術師の方が巨人に聞こえた音をこちらに伝えているからです。便利ですね。 「全然本気じゃない相手に言われても嬉しくはないな」 コルネール様の言葉に魔術師の方が不満げに眉を歪ませます。 「そんなことはないぞい?」 「何言ってるやら。ほとんど魔術も使わず様子見ばかりしやがって」 「ほっほっ、相手の力量を見誤って負けてはレノールやリア殿が弄ばれてしまうからの」 「だから、俺はそんな事はしないと・・・!」 そして、魔術師の方の言葉がコルネール様に伝わってるのも先程とは逆に声を巨人に伝えて発してるからだそうです。先程、丁寧に魔術師の方から教えて頂きました。それにしても、まだその話を引っ張りますか、コルネール様。 「本当に?」 「だからしないって!!」 一応確認を取って安心します。 「くそ! だったらこちらから仕掛けるまでだ!」 魔術師の方の言葉で巨人が師匠達から見て縦に並ぶと、後ろの巨人からは無数の火矢が四方八方に飛び出し、師匠とコルネール様を左右から包み込むような軌道で殺到します。師匠達の周りに咲く無数の炎の花。それを師匠は前、コルネール様は後ろに下がりながら捌きます。そこで、もう一体の巨人が前に進んだ師匠目掛けて拳を振り下ろし、更に、後ろに下がったコルネール様の頭上には先程まで後ろに居た巨人が跳躍しており、巨人から炎の柱が注ぎ降りました。 お二人の所に同時に遠めで見ても大きな爆発。もくもくと雪煙が上がって何も見えなくなりました。 あ、あの、これはいくらなんでも大丈夫じゃないっぽいような。 「どうだ!?」 「ほっほっ、これまたなかなかじゃの」 それでも、コルネール様の先程と変らない声に胸をなでおろします。ですが、師匠の方は? そこで師匠を殴りつけた巨人がグラリと傾き、腕、足、胴に無数の切れ目が入りバラバラになって崩れ落ちてしまいました。そして師匠は何事もなかったように崩れ落ちた巨人の遥か後方に立っています。 「これで残り1体」 師匠の声も聞こえて一安心。 しかし、バラバラになって壊れた巨人だった物が動いたと思ったら、先程崩れた時を巻き戻したような動きで組み上がっていき、瞬きする間に元に戻ってしまいました。 うわ、何かずるい。魔術師の方は満足そうに笑っていますね。 「さすがと言おうか。だが、まだだ」 「ほぅ、再生能力までもっとるのか。こいつは凄いの。じゃが、もう一体はどうかの?」 コルネール様の言葉が聞こえてきたと思ったら、空気を叩くような音がして先程ので漂っていた雪煙が裂けるように消えて、青白く光る槍のような物がコルネール様から火の矢を放っていた巨人に向かって、あっと言う間に飛んでいきました。 巨人の前にまたも魔法陣が出てきましたが、それは火球を止めてた時と違ってガラスが割れるように簡単に崩れて、槍のような物は巨人に直撃。一瞬後、巨人は後ろに向かって放射状にバラバラになって散らばりました。でも、また先程のように元通り。 やっぱりこれってずるいような。でも、師匠が壊した時とは違い魔術師の方は青い顔をされています。 「こちらもじゃな。いやはや、素晴らしい」 「”神槍”か。まさか一人でそれを使いこなすとは」 あの~、神槍ってなんでしょう? そうお尋ねしたら、魔術師の方は丁寧に教えて下さいました。 戦争の時に城壁を壊したり、竜のように巨大な化け物を退治したりする時に使われる高等魔術で、火とか水といった属性の無い魔術の為に習得が難しく、更に使う場合は5、6人ぐらいの魔術師が1時間ぐらい準備してできるぐらいのものだそうです。普通、あんな簡単にほいほい一人で使えるような物ではないとか。 凄い魔術でコルネール様も凄い方なのだとよく分りました。そして、この魔術師の方は非常に教師向きなのではないでしょうか。説明上手ですし。 「しかし、お前らは神槍でも倒せなかった相手をどうやって倒す!?」 説明して行く内に冷静にもなったようです。私もこうやって隣の魔術師の方に時々分らない事を質問して答えて頂いていると何だか授業をうけているようで、今も巨人と激しく師匠とコルネール様が戦っていてまかり間違えば死んでしまうという現実について忘れてしまいそうになってしまいます。おかげで冷静でいられるのですけど。 最初とは一変して、巨人を砕いては元に戻り、またそれを砕くという状態が続いています。砕く事は出来ても完全に動きを止める事はできませんから、このままだとお二人の体力が先に無くなって戦えなくなってしまうのではないかと思います。そうなると、私達の負けと言う事で、私と師匠があんなこととかされてしま。 「だからしないと!!!」 だそうです。そこは安心できますが、このままだと負けてしまいます。 「大爺、きりがありません」 「そうじゃのう。いっそ、戻れないぐらい消し飛ばしてしまうかの」 「そうですね」 私には激しい戦いの音でうまく聞き取れなかったのですが、何事かを話し合った後、お二人が巨人から随分離れた距離まで移動しました。 「どうした、諦めたか?」 「まずは私からじゃ」 魔術師の方の挑発には応えず、コルネール様が朗々と呪文を唱え始めました。神槍を使った時には分らなかった私にも分るぐらいの膨大な魔力がコルネール様の元に集まっていくのが分ります。 「……消えるがよい」 音も無く巨人の足元にから円形にまっ白い炎が吹き上がります。巨人は逃れようとしますが、炎は巨人に纏わりつくように燃え上がり逃げる事はかないません。そして巨人は炎の中で見えなくなってしまい、巨人を完全に覆い隠して数秒経ち炎が消えると、巨人も消えてなくなってしまいました。元に戻る気配もありません。魔術師の方はそれを見て、言葉も出ないようでした。 「老いた体には堪えるのぅ。もう1体はレノール、頼む」 「はい」 今度は師匠が動き出しました。呪文も何も無くただ真っ直ぐ巨人へと低空で飛行。巨人は師匠を迎え撃つように構えを取り、足を振り払いました。ですが、それは師匠を捕らえる事は無く、師匠はそのまま巨人の周りを高速で回り出し魔法陣を雪上に描き始めます。その魔法陣を作るのは鎌で雪を引っ掻いた後とかではなく、鎌と同じ真っ黒な何か。 当然、巨人は逃げ出そうとしますが、その度に周りを高速で廻る師匠に殴られているのか弾き飛ばされて元の位置に戻ってしまいます。そして出来上がったのは真っ黒な何かで作られた円形の水面。水面としか言いようの無い、波打っているようにも見える黒い何かが巨人の足元と頭上に出来上がっています。 それが完成すると師匠は巨人の頭上に舞い上がり、そのまま真下の巨人の上に浮かんだ黒い水面へ向かって急降下し、黒い水面に飛び込んでしまいました。跳ね上がる黒い水のような物。師匠が見えなくなると同時に巨人の上にある黒い水面は下がり始め間に挟んだ巨人をドンドン下に押し潰していきます。やがて上と下の黒い水面とがくっつき1つとなると師匠が水からあがってくるように現れ、黒い水面は巨人諸共、何の痕跡も無く消えてしまいました。 「なんだ、今のは」 魔術師の方の呟きには誰も応えてくれず、 「私達の勝ちですね」 師匠が無表情に勝利宣言をしました。 私達の勝ちが確定すると、魔術師の方は大人しく縄でグルグル巻きにされ、そのままコルネール様が吊り下げて街道まで戻ると、コルネール様が予め手配されていたそうで魔術学園の方達が馬車を準備して待っていて下さいました。コルネール様と魔術師の方はこのまま馬車に乗って学園に向かい、魔術師を迎え入れる手続きだったり、関係各所への誤魔化しだったりをされるそうです。 そういう事なので、コルネール様とはここで別れ、私と師匠とガトーは家に向かって飛んでいます。 日は大分傾いて、お日様とは逆の空の色は茜色から紺色へと変りつつあり、急いで帰らないと暗くなってしまいそうです。 「師匠、さっき魔術師の方が師匠に聞いてましたよね。最後に使ったのは何だったか、って」 「ええ、そうね」 「コルネール様は魔法だと応えてましたけど、魔術と魔法って違うんですか?」 「そうねぇ」 師匠はちょっと考えてるようで、飛びながらクルリとクルリと何度か横回転。 「違わないと思う。ただ、人によって使えたり、使えなかったりするぐらいかな?」 「じゃぁ、最後のあんなのとか、私にも使えるようになりますか?」 「あ~、あれはどんなに頑張っても無理」 即答されました。師匠と同じ魔法が使えるようになりたかったので、ショックです。 「使えなくても大丈夫。リアにはリアにあった魔術がきっとあるから。それを見つけて使えるようになりなさい」 「は~い」 「それよか早く帰ろうぜ。腹が減ってしょうがねぇ」 「その意見は凄く賛成~」 師匠もうんうん頷いてて、目が合うと私も師匠もクスリと笑いました。
最終更新日
2008年07月01日 22時28分08秒
ガトーを先頭に魔術師の追跡が始まりました。師匠もそれに続き森の中を駆け出します。途中、残りの人形が現れたりしているようですが、師匠は速度を落さず壊して突き進みます。 「居たぞ!」 追跡してさほど時間も経たない内に見つけられたようでガトーが叫びます。私は見つけられずに森を暫く見回して……居ました。こちらを何度か振り返りながら森の中を走る人影が見えます。 「コルネール様! あそこに!」 私は指差してコルネール様に伝えます。魔術師の走る速度はそれほど速くはなく、コルネール様と私はドンドン近づいきます。 十分に近づくと、その魔術師と併走している4つ足4つ腕の人形が10体ぐらい居るのが見えました。そしてその人形は走りながら体だけをグルリとこちらに向けて、1体につき2つの弓に矢をつがえて、 「ぬぉぉ!器用な事を!」 こちらに向かって何本矢が飛んできます。コルネール様が慌てて避けると、其処に向かってまた直ぐに次の矢が飛んできます。 人形は走りながらも凄いスピードと正確さで矢を放ち続けて、コルネール様は私を抱えて矢を避けるのに手一杯になりなかなか近づけません。そして矢を避ける為にグルグルと不規則に飛び回る必要が有る為、私は目が回り始めてしまいました。 「さすがに、リア殿を抱えながらだと厳しいのぅ」 こうなったら完全にお荷物ですよね。 「うう、ごめんなさあい」 「ガトー」 「あん?」 「リア殿を頼む」 コルネール様の言葉が聞こえたと思ったら、私は一人だけで虚空に浮かんでいました。どうも、私はコルネール様が矢を大きく横に避けた所で、ぽいっと矢が飛んでこない所に向けて投げ出されたようです。当然、私一人では飛ぶなんてことはできませんから、放り出された勢いが無くなれば地面に向かって真っ逆様。 落ちる! 「あいよ、っと」 そう思った時には既にガトーにキャッチされて浮かんでいました。そして直ぐに矢が届かない所まで上昇。でも、私の鼓動は物凄い勢いで鳴っています。嫌な汗も頬を伝います! 確かに私はお荷物でしたが人を物のように投げちゃ駄目だと思います! 私が内心で絶叫している間に、私を捨てて身軽になったコルネール様は矢を避けながら応戦し始めました。 先程の火球は使用せず、細長い光る矢のような物が1本、コルネール様から飛び出して矢を放ち続ける人形に向かって飛びます。それを人形は器用に避けて見せると、コルネール様は今度は次々と絶え間なく細長い光る矢を放ち始めました。それを見たガトーが呟きます。 「爺、避けられてむきになりやがったな」 無数の光る矢を浴びせられた人形は必死に避けていましたが、ついに避けきれず何本もの光る矢に貫かれてバラバラになります。それを見たコルネール様は小さく腕を振り上げます。 「何だか、嬉しそうだよね」 「ああ、嬉しそうだな」 他の人形も応戦しましたが、次々と光る矢に貫かれ全て砕かれました。そして森が開けてちょっと大きな空き地みたいな場所でついにコルネール様が回り込んで進路を塞ぎ、魔術師の足を止めました。直ぐに魔術師は逆へ走り出そうとしますが、追いついてきた師匠に阻まれました。ガトーと私も地上に降り立ち、魔術師を囲む形になります。 近くで見る魔術師の方は、結構若い男性の方でして泥に汚れた顔も野盗をやってるとは思えないほど端正で、ちょっとかっこいいかな~っとか思ってしまいもしました。 「くそっ、お前ら一体全体何者なんだ?」 息を切らして悪態を吐く魔術師の方。まるっきり悪役の台詞です。 「私らは街道の東の先にある街に住む者でな。西の街道で悪さする奴がおると聞いて懲らしめにきたのじゃ」 「ここまでです。大人しく降伏するなら酷い目にはあいません」 戦う姿勢のままで啖呵を切るコルネール様と師匠に思わず「おー」とか言いながら拍手しちゃいました。だって、何だか昔読んだ絵本に出てくるヒーローみたいでかっこよかったもの。 そんな私に、師匠は姿勢はそのままで頭をガクリと項垂れて盛大にため息を吐きます。 「リア、緊張感無さ過ぎ」 「ご、ごめんなさい」 でも、コルネール様は嬉しそうですよ? 「なめやがって、もう手が無いと思ってるのか!」 ですから、それはまるっきり悪役の台詞ですよ魔術師の方。と、思っていたら地面が突然揺れ出しました。そして巨大な何かが地面から競り上がってくるのです。 「ここに誘い込んだとも知らずに。今度はこちらの番だ!」 地面から出てきたそれは、もう、空き地の隅に見える木の何倍もの高さがある途方も無く大きな人形でした。それも2体。物凄い大きな物から間近で見下ろされるとそれだけで重圧がかかるような感じがします。 それは見たコルネール様が呆れと賞賛を綯い交ぜにした声で魔術師に問いかけました。 「おぬし、これだけの力があるなら野盗の真似事なんぞせんでも、何処へいっても重宝がられるじゃろうに」 「ああ、俺も昔は国に仕える魔術師だったさ。だが、ここから西の国にその国は滅ぼされちまったんだ」 「それで野盗になって復讐、ですか」 「野盗で稼いだ金で人形を作り、いつかは西の国へ復讐してやろう、ってな。だが、それもお前らが全部壊してくれたおかげで最初からやり直しだ。きっちり対価は払ってもらうぞ!」 け、結構重い理由でやってらしたんですね。 「ふむ。事情はあい分った。ところで、おぬし賭けをせぬか?」 「は? この状況で賭けだと?」 「まぁまぁ、聞くだけ聞いても損はせぬ。それに、おぬしにとって歩の悪い賭けじゃないと思うがの?」 コルネール様の言葉に魔術師の方は少し考えられたようですが、「わかった」と応えられました。 「よし、私らに勝てばそのまま見逃してやる。これは当然じゃな。何ならその復讐とやらを手伝ってやっても良い」 またなんか聞き捨てならない事をコルネール様は仰られてるような気がするのですが。師匠は首を横に振って、目で私に「諦めて」と言われてました。 「そしておぬしが負けたら、」 「負けたら?」 「私がやっとる学園で教師をやってもらう。当然、復讐うんぬんはきっぱり忘れてもらっての」 「何!?」 「おぬしの力を復讐で無碍に散らすには勿体無いと思っておるしの。どうじゃ、悪くはなかろ。それに、どちらにしても私らに負ける程度では、一人で国に喧嘩を売ってもどうにもならん事ぐらい、分かるじゃろ? 」 魔術師の方は言葉を返せず、コルネール様を睨みつけています。暫くはそのままだったのですが、 「……分った。条件を飲もう」 「交渉成立じゃの」 「だが! 俺が勝ったらお前らの命を頂く事だってある事を忘れるなよ!」 「ほっほっほっ、構わんよ。それに若い娘が二人もおるからの、殺すだけじゃなく、楽しむ事もできるわけじゃ。役得じゃのう」 えええええええ・・・・ 「ちょっと!? コルネール様、勝手にそんな事決めないでくださいよ!?」 「なんじゃ? リア殿は私らが勝つと信じてくれんのかえ?」 「信じる信じないとかじゃなくってっ!?」 「ふっ、ふざけるな! いくら今野盗に身をやつしていたとしても、俺はそんな事はしない!!」 何故か魔術師の方に助け舟を出して頂きました。やってる事は、その、あれなんですけど、紳士なんですね。 「では、勝敗条件を決めるかの」 「ああ、俺が負けを認めるのはこいつらを完全に破壊された場合だ。俺の家で昔から代々伝わる家宝みたいなもんだからな、これが俺の全力であり、最後の力だ」 魔術師の方はそう言って山のように聳え立つ2体の巨人を指差されました。これだけ大きいと、これが壊れるとか想像し辛いです 「私らは戦闘出来なくなったら負けと認めよう。それで良いな? レノール」 「構いません」 そして、私は空き地みたいな場所の一番外側に移動させられて、全員から…何故か魔術師の方も一緒になって…魔術や陣を周囲に張り巡らして頂きました。結界と言うものだそうで、魔術から身を守ってくださるそうです。 戦うのは巨人2体と師匠とコルネール様なので、魔術師の方も私の隣で観戦です。 「安心しな。お前さんをさらって逃げたりとかしないから」 ……あ、全然その事について考えていませんでした。 「お前さん、存外暢気だよな……」 色々な方からその評価を頂きますね。そんな事はないと私は思ってるのですが。これでも私、家事とか炊事とかテキパキと出来るんですよ? 「いや、良い。悪かった。何でもないから気にしないでくれ」 魔術師の方は何故か疲れたような顔になりました。本当に何故でしょうか。
最終更新日
2008年07月01日 22時27分51秒
「うわー、たかーい、ひろーい、空がちかーい、木がちいさーい……すっごくさむーい!!」 「こら、じっとしてやがれ! ただでさえ面倒なんだぞ!」 「うぐぐぐ、寒くてじっとなんてできせん!」 さて、皆様こんにちわ。リア・トパーズでございます。 現在は正午ちょっと前。本日は天気も良く、お日様の光も暖かくて、誰もが冬の厳しさから一時的とは言え開放してくれるような日です。それなのに私が寒くて暴れているかと申しますと。 「あっぶねぇ! この高さから落ちてえのかお前は!」 結構な高さを、結構な速度で飛んでいるからでございます。自力ではなく、私の背中に張り付いているガトーが飛ばしてくれているのですけどね。 この時期に飛ぶのは本当に寒くて。高い所ほど寒くなるのは経験から知ってはいましたけど、更に空を飛ぶ場合は周りに何もないから風が吹き放題でじっとして居られない程に寒くて寒くて! それより何より、何故私が飛んでいるかと言いますと、昨日にコルネール様が師匠に依頼された「化け物退治」に無理を言ってご一緒させて頂いてるからです。 もちろん、お願いした際は師匠とガトーから猛反対されましたが、同行されると言うコルネール様の「何があっても守ってやるわい」と言う心強いお言葉に師匠が折れて「それなら、まぁ、良い勉強にもなりますし」と渋々ながら認めて頂いたのです。それでもガトーだけは最後まで反対していましたけど。 後、コルネール様が同行されているのは、件の化け物がもしも魔術師のゴーレムだった場合にその魔術師を説得する為だそうです。 うう、寒い寒い。師匠もコルネール様も同じように飛んでいますが、全然寒くないようで普段と変わりありません。お二人も私も特に普段と変わりの無い格好なのですが。 あ、ちょっと眠くなってきた。 「ガトー、いい加減に風を遮らないとリアが死んじゃう」 「あ? おお、俺は平気だったからすっかり忘れてたぜ」 そんな技があったんですね…… 「そろそろ降りた方が良さそうじゃの」 飛び始めてから1刻ほどの所で、コルネール様の合図で当初の手筈通りに私達は高度を落として、木より低く道なりに飛び始めました。化け物ともっとも遭遇する場所からはまだまだ遠いそうですが、コルネール様と師匠の判断では高所を飛んで近づいては出てこない可能性があるとか。強そうな軍とか向かった時には見つからなかったそうですから、簡単に飛びまわれるような人(そんな人は物凄い人だと昨日知りました)の前にも出てこなさそうです。 更にそのまま四半刻ほど飛んで、今度は歩きです。 街道に行き交う人もなく、先は丘が続くようで道は曲りくねっていて先が見えない。本当に何か出ますよと言わんばかりの場所ですね。 そんな中を私達3人と一匹は歩いています。そして私の右手は師匠、左手をコルネール様に握られおり、ガトーは私の頭の上。このようになってるのは私の安全の為でもあり、相手を油断させる為だそうで、コンセプトは「村から街に買出しに向かって帰る途中の爺と孫二人」……そう見えますよね、この状態だと。ただ、不満があるとするならお二人に両手を握られて元気良く手を振り上げさせられてる私が恥ずかしいぐらいで。後、凄い歩き辛いんですよ、雪が積もってる道で両手が塞がってると。 そうやって暫く歩いていたのですが、道の両脇が高くなり始めて崖になったあたりで何処からか見られてるような。時間が経つにつれて、その感覚は一層強くなってきます。 「……師匠、何か」 「ええ、お出ましね」 師匠の言葉に合わせたように両方の崖の上に人影が現れました。それもいっぱい。それを見た師匠もコルネール様も私を挟んで背中合わせに立ちます。 「ふむ。当りじゃ。ざっと見で50ほどかの?」 「手の込んだゴーレムですね。更に見えない位置に同数ぐらいは居るようですよ」 崖の上の人影は先にコルネール様の言われた通り色々な形をしていました。大半は片手に抜き身の剣を持った何も着せてない顔無し髪無しののっぺりとした質感の灰色の人形でしたが、それより若干大きくて4つ腕に斧を持った人形とか、足が四本あって虫みたい動くのとか、両手がそのまま剣になっているのとか、腕が体より妙に長いのとか、全身を鎧に包んで一見人形なのか人なのか分らないのとかもいて、それらが私達の居る道を挟み込んで立ち並び、見下ろしています。 その光景はかなり不気味なもので、足がすくみました。 「囲まれては色々面倒じゃの。一度突破してまとめあげるか」 多分でもなく、面倒の原因は私なんでしょうね。ええ、分っていますとも、ごめんなさい。 「そうしましょう」 師匠がそう言うと、師匠とコルネール様は走り出しました。天気が良くて大分減ってきているとは言え普通に走る事が困難な程に雪が積もってる道なのに、雪を物ともせず凄い速さです。そして私はと言うと、お二人とも私の手を離さないままでしたから、何て言えば良いんでしょう、雪の上を走るソリみたいな状態で引き摺られてます。痛い、冷たい。 そんな私達の動きを見た人形達はすぐさま道に飛び降りて追いかけてきます。 「あ!」 思わず私は声をあげてしまいました。その内の私達が走て向かう方向に居た2体は覆いかぶさるように飛び跳ねていたからです。私の右を走る師匠もそれを見上げ、このままだと危ない事に気付いていました。師匠は走る勢いはそのままに、私の手を握る手とは逆、空いた右手を上方に向かって振り上げます。 すると、それだけでその2体は弾き飛ばされバラバラなってしまいました。 「私が止めるので、大爺とガトーは魔術師の探査とリアをお願い」 囲いを抜けた所で師匠は私の手を離し、追いかけてくる人形達へ向き直ります。そして師匠の手にはいつの間に、何処にあったのか私の背より高い大きな鎌が握られていました。その鎌は柄から刃まで真っ黒。日の光を反射することも無く、まるで鎌の形に風景を切り取ったように思えました。 「承知! ガトー、探査を頼む!」 「あいよ!」 そして師匠の一方的な攻撃が始まりました。本当に一方的としか言えません。 師匠は瞬く間に迫る人形に走り寄ると片っ端から壊していきます。人形が弱いのか、強いのか、私には検討もつきませんでしたが、まるでガラス細工を床に叩き落すように人形達を簡単に壊していきます。人形の振るう剣を紙一重で掻い潜りながら胴を両断し、鎌を剣で受け止めようとした人形を剣諸共切り捨て、振り上げた大きな斧を砕き、重そうな鎧に包まれた人形ですら軽々と弾き飛ばし、囲まれればその囲いごと斬り伏せ、新たに現れた3m程はありそうな人形も下から順に細切れにして。 今も森の奥からは続々と人形が現れ続け師匠に迫りますが、苦も無く壊し続ける師匠に表情の無い人形にも焦りのような物が見えたように思えます。 コルネール様にしっかりと抱きしめられてる私は、ただただ、師匠の動きに魅入られてしまいました。 「居たぞ! 右手のそれ程遠くない森の奥だ!」 ガトーが叫び、私から見て右の森へと飛び上がりました。コルネール様も私を抱いたまま、ガトーを追って飛び上がります。 眼下に道を挟んで広がる森。葉の落ちた木の隙間から人形が見えます。既に相当な数が師匠によって壊されたように見えましたが、まだまだ人形はいっぱい居るようです。 師匠、大丈夫なのかな。 「ほっほっほっ、同時に扱える数は100ほどかの。それ以上の数を準備して壊されても補充出来る様にするとは、相当に慎重な奴のようじゃ」 コルネール様は全然師匠の事を心配していないようで、何故だか嬉しそうにしています。 「正面の周りより太い木の陰!」 「よっしゃ、私にまかせい!」 ガトーに応えたコルネール様の周りに一瞬で6つの火球が浮かび上がりました。1つ1つが、私が必死に作っていた火球より大きく、魔力の密度については比べ物にならないほどです。 「私もリア殿に良い所を見せたいからのぅ」 「へっ、年寄りの冷や水になるんじゃないか?」 「見て驚くが良い。そぉれ、往けぃ!」 合図と共に6つの火球はそれぞれ違う軌道を描いて、ガトーが示した場所を包み込むような位置へ。そして一点に一斉突撃して爆発。目標になっていた太い木は砕け、爆発に煽られて上空に木片となって飛び散ります。 「コルネール様、人が……」 その爆発の中から飛び出した人影を私は見ました。コルネール様も見つけたようで渋い顔。 「ふむ、防がれたか。加減し過ぎたかの?」 「言わんこっちゃねぇな」 「殺すつもりはなかったからのぅ。それより追うぞ。レノールを呼んでくれ」 「その必要は無いぜ」 ガトーの答えに合わせて、道の方の森の中から魔術の光が上空に向かって打ち上げられました。そして森の中から響いてくる人形の壊れる音は段々大きくなって、さほど待つまでも無く私達の浮いてる足元に師匠が来ました。 「レノール! 魔術師に逃げられてもうた!」 師匠が頷きで応えます。 「追うぞ! レノールはそのまま森を進んでくれ!」
最終更新日
2008年07月01日 22時27分03秒
うう、恥ずかしい。さっきの事は忘れたい。でも、さっき口に出来なかった事をちゃんと言葉に出来るようにもしたい。 まだ頭がグルグルしてますが、師匠のおかげでさっきより落ち着いています。だから、急に泣き出したりなんかしませんよ。 今は昼食も終わってゆっくりティータイム。 さっきのそれで聞きそびれた事を師匠やコルネール様に色々聞いてる最中です。 40年前から姿が変わらない事。 「簡単に言えば私やレノールは普通の人より寿命が長い種族なんじゃよ。だから普通の人だと老いて変わってしまうような時間を過ごしても、そう代わり映えがない」 なるほど。そう言えば街では色々な人を見ます。狼の顔をした人とか、耳が長い人とか、羽の生えてる人とか。私の生まれた村ではそういった人は全然いませんでしたが、それなりに大きい街だと色々な人達が居ますから、師匠やコルネール様もそういった人達なんですね。 では次、コルネール様が師匠の保護者ってのはどういうことなんでしょう。親子ではないのですよね? それを聞くとちょっとコルネール様は難しい表情をされました。何か聞いてはいけなかった事なのかもしれません。 「それは私から」 そう思って無かった事にしようとしたら、師匠が説明してくれました。 「40年ほど前にあった事件で私の本当の親代わりの人……この塔の本来の持ち主のお婆様ね。その方が亡くなってしまったの。それ以来、私は身寄りが無くなってしまって。そこで大爺に世話して貰ってたわけ」 そ、そんな事とは露知らず失礼な質問をしてしまいました。 平謝りする私を師匠とコルネール様は宥めてくださいました。でも、二人で頭グリグリされるのはちょっと痛いです。 「私はレノールの婆さんと昔からの知り合いじゃったからな。それもあってレノールの世話をしてる。それにしてもあの頃のレノールは飯も作れん、掃除もまともに出来ん、見た目通りのお子様でのう。世話が焼けてしょうがなかったわい。それにのう、街で、」 「あー大爺、その辺りで止めて下さいませんか。止めて頂けないのであれば、物理的に黙らせますよ?」 「ほう? 手合わせとな。それはそれは、最近鈍っておったから丁度良い」 売り言葉に買い言葉とはこの事ですよね。思いっきり身構えたお二人から禍々しい物が渦巻いてテーブルの上に置いたティーカップとソーサーからカタカタと音がしてます。止めないとえらい事になりますよね? 「師匠ー! コルネール様ー! ストップ! ストーップ! 家が壊れます!」 今度は私が師匠とコルネール様を宥める番となりました。 ちなみに、ガトーが言うにはこういうのは昔からだそうで、年に一度は塔が壊れる程にやり合うとか。 恐ろしい。そして何事もなかったように座って紅茶を飲んでるお二人って本当に恐ろし、いえ、色々な意味で仲が良いのでしょう。 「ところで大爺、リアを見に来ただけではないのでしょう?」 「察しが良くて助かる。だがのぅ」 ちらりとこちらを見るコルネール様。あの、もしかして私、邪魔でしょうか。そそくさとリビングから出て行こうとしたのですが。 「いえ、どちらにしても後々にはリアにも話さないといけない時が来るのだから、同席してて。さっきみたいに分らなければ質問も。良い勉強になるから」 と言う事で同席させて頂く事になりました。 「さて、では話すとするかの」 コルネール様の一言で、さっきまでの穏やかな空気とは違う何処か張り詰めたような気がリビングに漂いだします。 「最近は大人しかったのじゃがの、西の街道にまた出だしたんじゃよ」 緊張して喉が鳴ります。静かなリビングでその音は私中で大きく響いたような気がしました。 「山賊、とかですか?」 「いやいや、山賊だったら街の自警団や国の軍でどうにでもなる。場合によっては私の学園の生徒の腕試しにも使われるぐらいだしの。稀にレノールに頼む事もあるが、今回は違う」 「え~っと、差し出がましいのですが、今質問してよろしいでしょうか」 「何かの?」 「学園って魔術学校だったりしますか?」 「そうじゃ。私はそこで学園長をやっておる」 はー、コルネール様って凄い人のようだと思ったら、そんな偉い方だったのですね。 「なんか反応が薄いのぅ?」 「先程から驚きっぱなしですので」 ちょっとコルネール様が残念そうですが、慣れてしまったのですもの。諦めて下さい。 「申し訳ありませんが続きをお願いします」 「うむ、それで西の街道に出るのは化け物じゃ。そいつらのおかげで完全に行路が遮断されておってな。自警団を向かわせたが全滅、その次に大規模な傭兵団、軍と続けてみたようじゃが、いずれも接触できておらん。手に負えるのだけ狙うそれなりに頭の切れる化け物のようじゃ」 うわ、自警団全滅ですか…… 「その化け物ってどんなのですか?」 「それがはっきりせんでのぅ、生存者から数は50から100ほどで人型である事、武装してる事、言葉がまったく通じない事までは分っておるが、どんな種族であると言ったところがバラバラでの、まったくなのじゃ」 ほとんどが人間大だそうですが、突飛なものでは3mを超える巨人であったり、1mくらいの小さい体に長い腕が6つあってそれ全部に剣を持ってるとか人型から外れたものだそうで。 う~ん、全然分らない。 「それだけバラバラなのが統率をとって動く。何処かの魔術師が作ったゴーレムね」 これまで黙って聞いていた師匠があっさりと当りを付けたようです。さすが師匠。 「じゃろうな。大方の見方もそれとなってる」 コルネール様も頷いています。……あれ? 今の、この場に居て分らなかったの私だけ? 「そう言うこった。レノールが答えた時点で時間切れ。不正解。勉強が足りねぁな」 ガトーの言葉にうんうんとお二人が頷いてらっしゃいます。いつの間にクイズになってたんですか。 私の質問タイムと出題タイムは終了してしまったので話は師匠とコルネール様との間でトントン進んでいきます。 やる事もありませんので、ほとんど無くなっていたお二人の紅茶を淹れる為に厨房に向かうとします。厨房とリビングの間に仕切りは無いので話もしっかり聞けますし。 「そこで、レノールに頼みたいのは、その魔術師の排除か捕縛じゃ」 「大爺、排除は分りますが、捕縛ですか?」 「そうじゃ。ゴーレムの大量製造に大量操作。これだけでも相当の腕前となる。そのような魔術師は稀少だからのぅ。話が分るようなら学園に迎え入れたいと思っとる」 「ですが、既に自警団員の殺害を行っていますし、そのまま捕まえても処断されると思いますよ」 「そこはあれ。私がどうにか誤魔化して、な?」 何か、コルネール様から聞いてはならない言葉が出てきたような気がします。その言葉を聴いた師匠も額に手を当てて首を振ってますし。 「……分りました。引き受けます。ただ、まだ対象が魔術師であるかは憶測ですし。状況によっては大爺の思うようにいかない可能性もありますけど、良いですか?」 暫く悩んでいたようですが、師匠は引き受ける事にしたようです。コルネール様も師匠の言葉に満足そうに頷いていますし。さて、これで話は一段落したと思いますので、お二人に紅茶のお代わりを注ぎながら気になってた事を質問させて頂きます。 「師匠、質問があります」 「何?」 「ゴーレムって何ですか?」 質問の内容が悪かったのか、先程師匠がやってたように今度はお二人揃って額に手を当てて首を振ってます。もしかしたら、この仕草はコルネール様がやってたのを師匠が覚えてしまったのかもしれませんね、等と考えてちょっと現実逃避してしまいました。ですが現実は私を逃してくれそうにありません。 「レノール、やはりリア殿は学園に入って魔術の基礎を身に着けるべきではなかろうか」 「いえいえ、大爺。ここでもちゃんと教えれば問題ありません。もっとも、基礎の教材なんてここにはありませんが」 「分った分った。私の可愛いレノールとリア殿の為じゃ。後で教材を送ってやろう」 ゴーレム。 魔力を動力として操者の意のままに動く器物の総称。古くは城、墓所、神殿にて人型に組んだ石を動かし門番の代わりとしていた。 最近では人型に囚われず、色々な器具を動かせるように研究がなされ、簡易な自立駆動が容易に出来るようになり魔力の貯蓄技術の発展も合わせて単純作業の自動化による労働力軽減に一役買っており、生活に溶け込んだ魔術技術として一般に広く知られている。代表的な物として、大規模な物では都市部の上水施設のポンプ、小規模な物では自動開閉するドアや柱時計等。 また、人型の制御技術の研究も進められており、ある程度の高度な自立判断能力を持つ物も確認されている。 以上。 この時は教えてくれなかったので、話が前後してしまいますが、後程コルネール様に送って頂いた「魔術の基礎」という本に載ってた内容を抜粋してみました。 この本を読んでいると知らない事だらけなもので、魔術もこんな使い方があったんですね~って関心してたら、「魔術師目指してるならこれぐらい知っとけ」とガトーに怒られたのですが、そう言われても教えてもらった事もないのに分るわけないじゃないですか。
最終更新日
2008年07月01日 22時03分48秒
---------------------- 私は泣き疲れて眠ってしまったリアを寝室に運んでリビングに戻ってきた。 「こんな老いぼれの相手するより、リア殿の傍に居れば良いものを」 コルネール大爺はそうは言うけど、泣いて目元を腫らしてはいたけど安らかな顔で眠るリアの傍に居ても、私が何かしてあげられる事はない。とは言え、念の為にガトーをリアの傍に置いてきたから何かあっても大丈夫だろう。それに大爺をほったらかしにするのも悪いと思えた。 「すまんな」 「それより大爺、昼食は如何ですか。昨日にリアが買って来てくれたサーモンの塩漬けが見事ですよ」 柱時計の指す時刻は普段昼食を頂く時刻より先を指している。 「それは美味そうじゃな。頂こう」 昼食の準備しようと私用のエプロンを着ていると、大爺も厨房へ入ってきた。 「座ってるのも暇なだけじゃからな。私も作らせてくれんかね?」 「久々に大爺の手料理が食べれますね。楽しみです」 「お前は昔は食べる専門じゃったからな。一人で任すと今でも不安を感じるからでもある」 「もう……いつの話ですか」 大爺が慣れた調子で食材を物色し始め、私も其処に並ぶ。せっかく大爺と一緒に作るなら多少は手の込んだ物にしようと思う。時間がかかるが昨日買って来てもらった牛乳があるのでホワイトソースを使ったサーモンのグラタンなんてどうだろう。大爺の方はサーモンのハーブ焼き。簡単過ぎじゃないか。 「若いな。焼き加減によって味に雲泥の差が出るのを見せてやろう」 「こちらも負けません。唸らせてみせます」 食材を切り終えたら各々の料理に専念。二人共に手馴れたもので、そう時間もかからず完成。ただ、やはりグラタンはどうしても時間が掛かってしまった。 「ふむ、見事」 「大爺もさすがです」 出来た料理を二人で舌鼓を打つ。 まだリアは起きてこない。だが、先程からそれほど時間も経ってないから心配は無いだろう。リアの分は起きた後にでも食べて貰うように保存しておかないと。 「それにしても、リア殿は不思議な子じゃな」 「はい?」 唐突にリアの名が大爺の口から出てきたので、丁度私自身がリアの事を考えていた事も含めて少し驚いた。 「そうですね。あんな急に泣いたりとか、今まで無かったのですが」 「不思議と言ったのは悪い方向ではないぞ。あの涙もお前の何かを感じてではなかろうかと思っとる」 「私の事、ですか」 普段は的を得た物言いをする大爺なのだが、今の会話は要領を得てるとはとても思えず、話しの主軸が見えなくて私は戸惑ってしまう。 「せんの無い独り言になってしまったな。リア殿はお前の何かを見て心を動かされたと考えておるのじゃよ。そういった人の情緒に聡い子は魔術のように精神や見えない物を掴んで操る才に恵まれる事も多い。だから、リア殿は良い魔術師になるのではないかと思ったのじゃよ」 「頑張り屋でもあるから、しっかり鍛えれたら確実にそうなると私も思います」 「私の学園に欲しいぐらいじゃのぅ」 「あげませんよ?」 「残念じゃのぅ」 さほど残念がってなさそうな大爺。そんな漫才をやっているとリビングのドアが少しだけ開いて、その隙間からガトーが入ってきて、直ぐにドアの隙間へと振り返る。 「ほら、さっさと入りやがれ」 「でも、でも」 私がドアを静かに開けると、リアが小さくなっていた。 「師匠……」 「ほら、入って。グラタンを作ったから冷めない内にどうぞ」 リアはまだ気落ちしているようで俯いたまま大爺に会釈して席についた。リアの横で私は水汲みにさっきの事もあってお腹は空いてるだろうと思って、残り全部のグラタンを皿に取り分けてあげた。 「俺の分はどうした?」 ガトーの催促にグラタンの大皿を見たら当然からっぽ。 「ごめん、忘れてた。大爺が作ってくれた私の分を半分上げるから、それで我慢して」 「へいへい。我慢しますよ」 自分の皿のサーモンを半分に切ってガトーの前に置くと、何も言わずに食べ始めた。 「あの、師匠……」 リアの方を見ると、ガトーとの短いやり取りの間も俯いたままだったリアが私を見ていた。まだ目が赤くて眉も下がっていて、また泣き出してしまいそうだった。 「さっきはごめんなさい」 その言葉と同時に勢い良く頭を下げる。目元に浮いていた涙が勢いで何も無い空間に散る。 「色々言いたい事があって、でも、言葉が見つからなくて、それでも何か言わないといけないと思って、それで」 「リア、もういい、もういいから」 また泣いてしまいそうだった。そう思ったから、座っているリアの頭をなるだけやさしく抱きしめて言葉を紡ぐ。 「今言葉に出来ない事を無理に出そうとしないで。私はいつもリアの近くに居るんだから、その言葉が見つかるまで待ってあげられるから、だから、今は無理に言葉にしないで」 「師匠……はい」 「そうだぜ。せっかく美味い飯作ってあるんだから、それを冷めない内に楽しむのが先決ってもんだ」 ガトーが言葉を継いで慰めなのか冗談なのか分らない事を言うと、リアは「そうだよね」と呟いて、ちょっとだけ笑ってくれた。 -----------------------------
最終更新日
2008年07月01日 22時03分31秒
今日は朝から水汲みです。理由は塔の中に置いてる大きな水瓶の水が大分減ってたから。普段はちょっと減ったら継ぎ足し継ぎ足しで無くならないようにしていたけど、最近はほとんど毎日のように吹雪いてて補給できてなくて。だから、今日みたいに晴れてる内に済ませないと。 でも、これが物凄く大変。井戸なんてないから、歩いて10分かかる川まで行って桶を使って運んでこなくちゃいけないし、桶は持ち運びが楽なぐらいでそんなに大きくないから、空っぽの水瓶をいっぱいにするには20回ぐらい往復しないと。更に川まで出る道なんて無くて森を抜けなくちゃいけないから、弟子入りした最初の頃は木の根や下草に足を取られて何度こけて零した事か。もういい加減慣れてそんなヘマはしなくなったけど。 それに今は冬。昨日の吹雪で更に増して脛まで埋まる雪の上を足を引き抜くようにして歩かなきゃいけないから、疲労は私見で5割増。歩き方で体が上下に動くから、桶から跳ね上がる水で服が濡れて物凄い冷たくて追加で3割増。 「だったらレノールに全部任せちまえば良いじゃねぇか」 私がえっちらおっちら水を運んでる横で雪の上を普通に歩くガトーがうらめしい。どれだけ軽ければ雪に沈まないで歩けるんだろうか。 「そうっ、なんっ、だけどねっ」 さすがにきつ過ぎて、桶を置いてちょっと休憩。うう、服が濡れて気持ち悪くて冷たいのに息は上がって体は火照ってる。色々複雑な感じ。そんな私が居る森の上空を師匠が桶を両手で掴んでスイーっと飛んで行った。……ごめんなさい師匠。師匠は飛べて凄いと素直に思えるのより、この時ばかりは恨めしいって思う方がちょっと勝ちました。気持ちも色々複雑。 本当の所、確かに師匠に任せてた方が楽だし早い。師匠が飛ぶ速度なんて水を零さないように気を使ってたとしても、何も持ってない私が全力で平らな道を走るのより早いぐらいだし。だから、水汲みを楽にしたい一心だったと言う不純な動機を隠しつつ、直ぐに飛行の魔術を教えて欲しいとお願いした事がある。そしたら師匠は困ったような無表情、ガトーからは物凄いバカにされた。 ガトー曰く、魔術の知識と力の行使が未熟な私がこのまま飛行を憶えて使えたとしても、歩いた方が早いぐらいでしか飛べないし、仮に川まで飛んだとしても其処でぶっ倒れる。つまり、ばっちり隠し事はばれてた上に完全な駄目出し。それと師匠ぐらい飛べるのはこの国に10人ぐらいしかいなくて、更に師匠は一日中飛んだり出来るけどそんな人はこの国に師匠だけ、とガトーが教えてくれた。さすが師匠です。 「だからって師匠に水汲みさせる弟子なんておかしいじゃない」 「ふむ、心意気は買うが足引っ張ってちゃもともこうもねぇな。桶見てみ」 「へ? ああ!?」 ああああ、桶を置いた雪の下に石があり、今まさにバランスを崩して傾く桶に手を伸ばしてみたけども先にひっくり返って水をほとんど零す方が早かった。ショック過ぎて固まってしまった私にガトーから無慈悲な言葉。 「ほれ、師匠思いの弟子はもう一度川に向かえ」 そんな私の上を、師匠は心なしか心配そうな目でこちらを見ながらスイーっと飛んでいきました。 その後。 川に戻ったら師匠が待っていてくれて、後は全部やるからと言う師匠と断固拒否する私とでかなり揉めて、私がヒートアップのし過ぎで丁度頭が回らなくなった辺りでガトーが提案した「競争にしちまえ」って事に落ち着いて、桶を手にしてよくよく考えなくても勝てるわけないのに気付いた時には師匠が物凄いスピード(さっきまでがスイーなら、今はビュン)で往復する状態になって、今は敗北感に打ちひしがれながら歩いてる所です。 うう、結局の足手まとい。桶から跳ねる水もさっきより冷たい。 今度からは水の補給をこまめに、そして師匠が起きる前に終わらせておくと私自身に堅く誓いながら、師匠が私の上を飛ばない状態…水汲み終了…になって更に数分経って森を抜けると、塔の前で師匠とかなり背の高い方が話しているのが見えました。初めてみる方です。お客様かな? 「リア、ご苦労様」 「ありがとうございます。でも、ほとんどお役に立ててませんよぅ」 「今後に期待ね」 「はい。努力と根性が尽きるまで」 「だったら安心ね。とても頑張ってるから」 ううう、師匠の言葉が胸に沁みる! 「はっはっはっ、レノールが弟子を取ったと聞いて来てみたら、弟子と言うより仲の良い姉妹が出来たようじゃな。これは実にめでたい」 私と師匠のやり取りを面白そうに見ていたお客様、近くで見るとかなりお年を召された方でした、が何か凄く嬉しくなるような事を仰られました。外見だけ見ると私がお姉ちゃんだけど、やっぱりしっかりしてて優しい師匠の方がお姉ちゃんだよね。 あまりに嬉しくてちょっと心の箍が外れかけましたが、自制。初めてお会いするお客様なんだからしっかりしないと。 「そんな、師匠と姉妹だなんて、恐れ多い」 「そうなると弟子は出来の悪い妹だな。レノールの苦労が増えただけだ」 悪態を吐くガトーを師匠が軽く蹴っ飛ばして「そんな事思ってないわよ」と言ってくれたけど、ガトーが言ってるのは的確です。 もっともっと頑張らないと。 「さ、水汲みで冷えたし、まずは家に入ってお茶にしましょう。挨拶もその時に。リア、桶の水はそのまま厨房に」 「は、はいっ」 お客様をリビングまでご案内して、ついでに厨房に水を置いて、濡れた服を着替えて、紅茶を入れて、やっと一息つけました。私が忙しなく動いてる間は師匠がお客様の相手です。 そしてご挨拶。 「私は3ヶ月位前よりレノール師匠の弟子になりました、リア・トパーズと言います」 目上の方への正式な挨拶の方法なんて分らないから、とにかく丁寧に。内心ガチガチに緊張してますが、うまく出来たでしょうか。 「リア殿、御初に御目にかかる。私はコルネールと申す。見ての通りの老いぼれだよ」 代わって師匠と並んで座ってらしたお客様、コルネール様は気さくに返して下さいました。堅苦しいのは馴染みが無いのでちょっとほっとします。 「レノールとは40年ほど付き合いがあってな。名目上、私はレノールの保護者と言う事になっておる」 40年? ちょっと衝撃的な事を今日の天気の事を言ってるように軽く言われてましたよ? ポカンと口が開いてる感じがします。今の私は他の人から見れば、相当間の抜けた顔してるのではないでしょうか。自信があります。 私のお母さんだってまだ36歳でちょっと小皺が気になりだすお年頃。見た目私よりお子様な師匠が私のお母さんより年上。 コルネール様はそんな私を見てイタズラが成功した時にするような人の悪い含み笑いをしています。師匠の方はと言うと、私の反応は予想範疇にあったようで普段の無表情で紅茶を飲みつつ相槌を打っています。 「いやはや、素直な方で見ていて面白い」 「嘘でもなんでもなく、本当の事よ。ただ、あの頃から私も大爺…コルネールも姿変わってないから、あまり年月が経った実感はないけど」 またも驚くべき事をさらりと……! 「ええっと、じゃぁ、コルネール様は40年前からずっとお爺ちゃんで、師匠はずっとお子様」 「お子様ってのは酷くないかな」 師匠の目がちょっと細くなって私を睨んでます。ごめんなさい、師匠も体のサイズ的な事、気にしてたんですね。 「これこれ、事実は事実じゃ。あまり言葉に反応して弟子に要らぬ気苦労負わすものではないぞ?」 「……うわぁ」 ああ、もう頭がクラクラします。 だって、コルネール様が宥めるように師匠の頭を強めに撫でくりまわすと、師匠が頬をむくれさせてコルネール様を睨んだんですよ! それだけに留まらず、暫く撫で繰り回されている内に師匠の表情から険が取れていって、しまいには目尻が下がって恥ずかしそうに俯いてしまったじゃないですか!? 私が弟子入りして3ヶ月の間に師匠が見せてくれた表情と言えば無表情だけ。最近になってやっとその無表情と思っていた表情から若干の違いが出ている事に気付いて、感情を読み取れるようになってきたばかりだと言うのに。私だってその間に何もしなかったわけではなく、師匠に喜んで貰おうと、笑って貰おうと、一生懸命できる限りの事を、魔術の勉強を夜中にこっそりするだけに留めてまでやってきたと言うのにっ…! 今私の目の前に居る師匠はコルネール様と言うお爺ちゃんに宥められているお爺ちゃん大好きな孫娘のまさにそれ。私の事を素直だと先程称されましたけど、こんな内心グチャグチャになってる私なんかより、今の師匠こそが素直と言うに値するではありませんか。師匠って誰に対しても無表情でこれが普通なんじゃとかちょっと納得し始めてたりしてたのに、実はまだまだ分厚い心の壁がありましたーって事なんですね…… なんですかそれ! なんかずるいですよそれ! やっぱり時間が足りないのですか!? 「おめぇ、相変わらずレノール手懐けるのうまいよな」 「ガトー、う、うるさ」 「ほっほっほっ、年の功じゃな」 ショックを受けてる私を尻目にお二人と一匹は和んでらっしゃいます。何だかよく分らない涙が込み上げてきて、その涙は見られたくなくて、俯いてしまいました。 「リア、どうしたの?」 そんな私を不信に思ったのでしょう。師匠が私を呼んでいます。その瞬間、私の何かが耐え切れなくて弾けたような。気付いた時には師匠の両手を握っていて、師匠の驚いた表情がありました。師匠のこんな顔も私は今まで見た事が無くて、そう思うと何処かが脈打つような感じがします。 「師匠!!」 「うわっ!?」 「うう、師匠ぅぅぅ・・・」 何か言いたくても何を言えばいいかのか分らなくて、それで何も言えなくて、言葉の代わりにポロポロポロポロ涙が止まらなくて。そんな私を師匠は優しく頭を撫でてくれて、涙を止めようと思った心もなくなって、ボロボロボロボロ零れて零れて。涙で周りが何にも見えないほどで、それでも師匠が優しく笑ってくれてる気がしました。
最終更新日
2008年07月01日 22時03分07秒
私の師匠は可愛いです。 小柄な私より小さくって髪は艶があってサラサラで、肌はびっくりするぐらい綺麗で手足も細くて綺麗で、ちょっと無表情過ぎると思うけど、それもあってお人形さんみたい。 あ、無表情過ぎると言ったけど、弟子入りした最初の頃だけの話。最近は無表情に変わりはないけど、ちょっとだけ笑ってるとか、困ってるとか、怒ってるとか、本当にちょっとだけど分るような感じがする。ああ、でも、これは可愛いとかじゃなくて、私が嬉しくなるのかな。師匠と仲良くなれてるんだと思えるし。嬉しくて、仲良くなれて、それでどんどん可愛いと思えてくるんだけどね。 後、背の届かない棚に一生懸命に手を伸ばしている姿とか(ちゃんと取ってあげましたよ?)、 今日の紅茶の葉は何にしようと悩んでる時とか、今も私の隣で覚束無い手付きで一生懸命にジャガイモの皮を剥いて夕飯の準備してる姿を見ていると抱きしめてしまいたいぐらいに可愛いのです。 「ちょっと、ナイフ持ってる時に抱きつくと危ない」 訂正して、思わず抱きしめるぐらいに可愛いです。 そして、師匠の黒猫のガトーは…… 「けっ、何やってんだか」 猫なのにさっきの事で自棄酒する変な猫です。ちゃんと瓶から杯にお酒を注いで前足で握って飲んでるし、普通の猫ってこんな事しないよね。両方の意味で。 それともっと不思議な事があって、 「ガトー? 今はあんまりお酒飲まないで」 「あん? いいじゃねぇか、さっきの駄賃だ駄賃。そして今の俺の心を慰めてくれるのはこれしかねぇ」 「私まで酔いが来て手元が危ない」 「ささやかな報復と思えってんだ」 何故かガトーが酔っ払うと師匠も酔っ払っちゃうみたい。普段だと簡単にやっちゃう皮剥きに手間取ってるのも酔っ払ってるせいかな。 そんな訳で師匠には座ってて貰って、私一人で夕飯は作る事に。これぐらい私一人でも簡単簡単。 「私も飲む」 「おうおう、どんどん呑め」 「私は1杯で十分」 「師匠は良いとして、ガトー、あんまり飲み過ぎて夕飯入らないとか言わないでよ。勿体無いし」 「大丈夫、大丈夫」 ほんとかなぁ。それと、私は全然お酒飲めないから、あんなにおいしそうにお酒飲めるのはちょっと羨ましいな。 テキパキと夕飯を作ります。小さい頃からお母さんの手伝いをしていたおかげで家事は得意なんです。 そんなこんなで夕飯が出来ました。今日は寒いのもあって、ジャガイモ多めの熱々シチューに作り置きのパンを炙った物、それにさっき買ってきたチーズ。 ちょっと眠そうな師匠と全然平気そうなガトーと私、二人と一匹で夕飯です。 静かに食事は進み、ガトーのお酒も進んで……食事の終わり際、急に師匠の頭が大きく揺れたと思ったら、そのままテーブルの上にゴトン。 びっくりして師匠の傍に駆け寄ってみたら、師匠は真っ赤な顔で口元を緩るませて寝息を立ててます。寝言なのか口がモゴモゴ動くのが小動物みたいで可愛いらしいです。 「あ~、完全に出来上がったみたいだな。まだまだこれからってのによう」 「でも、師匠って1杯だけしか飲んでなかったような」 「俺が飲んでるからなぁ」 そうなのか。と、一瞬納得しかかったけど、やっぱり変。さっきからずっと飲んでるのはガトーなのに、師匠が酔っ払うのはどうして? 「それは、まぁ、あれだ」 ガトーは前足で機用に持ってるスプーンでシチューの器をコツコツと叩いて、 「これがレノールだとするよな?」 そして、シチューの中からスプーンでジャガイモをすくって、 「そしてこいつが俺だ。だから俺が酒を飲めば、レノールにも酔いが回る」 え?え?? 「あー? これでも分んねぇのか」 今のでどう分ればいいか分らないよ。 「俺はレノールの一部で、レノールと繋がってるんだよ。だから俺が飲むとレノールが飲んだ事になる。分ったか?」 ……う~ん、分ったような分らないような。 「人格がどうこうとかは気にすんな。そういうもんだと思っとけ。それよか、寝た子をベッドに運んでやりな」 うん、よく分らないけど、そういうもんだと思った。それより早く師匠をベッドに連れていかないと可哀そう。 師匠をお姫様抱っこ…出来ちゃうぐらい軽いもんなぁ…したところで、ちょっと閃いた。 「ねぇ、ガトー?」 「なんだよ」 「さっきの話だと、ガトーが食べると師匠が食べた事になるんだよね。そして二人共、今一緒に食べてたよね……」 「俺もレノールも動いてるから、その分だけ腹減るんだよ」 「あ、そうか」 「後、俺だけ食べれないのも癪」 ……そうだよね。どっちかが食べれば良くても、食べないで見てるだけとか寂しいし。 何となくガトーの気持ちも理解して、私は師匠を起こさないように気をつけながら寝室に運んだ。
最終更新日
2008年06月28日 14時38分18秒
風が吹く。 地上ではさほど強く感じられない時でも、地上より高い位置にくれば風の存在をはっきりと認識出来る。 この街で一番背の高い中央広場教会にある鐘楼。その屋根の上に人影があった。人型の闇。月明かりに照らされてもなお影が立ち上がったように見える漆黒の人影。 眼下には闇に沈んで眠りについた街。見上げる夜空には星々の光の瞬きと月の輝き。 貿易が盛んで活気溢れるこの街も、深夜と言える時間では一部の地区、施設を除き灯りも無く、天上からの光を受け静かに眠りについている。 その天上から音も無く降りる2つの光。 空と地の境界に佇む番人が見守るなか、それはゆっくりと街の一角に落ちた。 ――――――――――――――――――――――――――――――― 準備は万端にしておくものだ。昨夜や昼の件もあるしな。 腰には昔から使い込んでる長剣と短剣を下げ、胸、肩、肘、膝に鞣革の防具……さすがに金属製ではないが……更に足首まで保護するブーツ。これらを着込んだ俺の姿は傍目から見ても物騒なもんだろう。前々から俺を誘ってた夜警の連中にでも見られたら、ついに誘いに乗ったかと大喜びしそうでもある(もっともそんな気はさらさらないが)。 まぁ、今の俺の格好はその夜警の巡視とほとんど変わらない格好なわけだが…正味、これだけ揃えた所で、あの物騒な斧を振り回す狂戦士と出会って無事でいられるとは思えない。遭遇しない事を祈ろう。 今夜もやけに静かな夜だった。 下宿先から働いてる雑貨屋を通り過ぎ、中央広場までを歩いてきたんだが、人一人、野良犬一匹見えやしない。この道中には飲み屋や飯屋もそれなりの数出ていて、夜更けまで人が居る事が多いのだが。 中央広場、昨日白いのと黒いのとが暴れてた場所はまだその痕跡を色濃く残していた。砕かれて転がっていた石畳の欠片こそ取り除かれてはいるが、その砕かれ空いた隙間から地面が覗いている。新たに敷き直した場所には真新しい石がはめられてはいたが、かなりの数が壊されていた為に1日では終わらなかったのだろう。 俺が隠れてたごみ置き場も片付けられて何も無い。昨夜の跡を見て思い出してきたが、よく生きてたなぁ、俺。 それより日課だ、日課。 日課ってのは夜の優雅な散歩……とはさすがにこの格好では説得力が無いな。見回り。夜警の巡視の真似事を俺はほぼ毎日やってる。 夜警の連中から誘われるのも筋違いではない。彼等からしてみれば同じ事やるなら金も入る夜警を勧めて何が悪い、そんな所だ。親切心と言って良いだろう。 だが、俺は断り続けている。趣味、と言えるか習慣みたいなものか。脅迫概念に近いもんだから、仕事としたくなかったからだ。それに今やってる雑貨屋の店員ってのも悪くない。 「いやはや、あなたに会えて良かったですよ」 「気にしなさんな。これも仕事の内ってね」 今日は格好が夜警のそれだった。だから、夜警の連中と間違えられて真似事をするのも致し方ないと思うしかないだろう。 俺の横に並んで歩いている旅装の男が、連れ立って歩き始めて3度目になる同じ言葉にまた同じ言葉を返すのが面倒に思うのもだ。 見回りを始めて最初に会ったのが、静まり返った大通りの真ん中で突っ立ってるこの男だった。 この街には旅の途中に立ち寄ったそうな。聞くまでもなく頭まで覆う外套に大荷物を持ってたものだから、格好だけ見ても分るが。 着くのがあまりに遅くなったもんだから、宿を取るのを諦めて何処か野宿するには良い場所はないか……それの道案内をやってるわけだ。 無論、ここはそんな寂れた街ではない。わざわざ野宿するまでも無いだろうと、かなり遅くまで店を開けてる宿を勧め、そこまで案内したのだが、 「……やってませんね?」 閉まってた。 何度戸を叩いても誰も出やしない。 他を当っても全て駄目。何でだ? そういう具合なもので、諦めて野宿には最適と思える川原まで案内してる最中なわけだ。 川原なら周りに民家も無く野宿しても迷惑にもならないだろう。水も川から汲めるわけだから便利でもある。気がかりな天気も、今日は星空が綺麗に見えていて雲も少ないから万事問題ない。 「そう言えば申し遅れました。私、ギルバートと言います」 「ああ、俺はルドルフだ」 旅装の男……ギルバートは無言で歩くのも飽きてきたらしい。俺もだが。 「この街はかなり栄えてるようですね」 「ああ、丁度この街は東西に走る街道の中継地点みたいなもんだからな。色々な物が行き来してるもんだから、人も増えて街も栄える。お前さんはここは初めてかい?」 「ええ、この近くは初めてなもので。もっとずっと西の方から来たんですよ」 「へぇ、そりゃまた。何でまたこんな慣れない場所に?」 「知り合いを訪ねに来たんです。ただ、その知り合いの場所は大まかにしか分らなくて」 「ははぁ、それで野宿になったと……災難だね」 「はは、まったくですよ」 他愛も無い身の上話だが、昨日は殺されかけた時間にやってるのを考えると妙にほっとするもんだ。 思い出すだけで身震いがする。願わくば、このまま何事も起きないでほしい。 「どうかされましたか?」 「いやいや、何でもない。ちょっと嫌な事を思い出しただけで」 「はぁ」 相当なお人好しなようで、釈然としない顔でこっちを気遣ってくれるギルバート。 全部話せたらちょっとは気が楽になれるだろうかと思ったが、白いのとの約束があるからなぁ……どっから飛んできてぶちのめされるか分らんし。 「ところで、その探し人の名前を教えてくれるかな。知ってれば案内できるし」 「それは助かります。名前はレノールと言います。色白で黒髪の小柄の可愛らしい女の子なのですが」 「色白で黒髪の小柄な女の子で、名前はレノールねぇ……お前さんの娘さんかい?」 ギルバートは痩躯の長身でほっそりとした面立ちで若く見えるけれど、子供が居てもおかしくない年齢にも見えたのだが、あっさりと頭を横に振られた。外れたか。 「ははは、いえいえ、私には子供はいませんよ。レノールは私の姪っ子のようなものです」 「ふぅん」 外れたのは残念として、探し人に覚えが無いかあまり良くない頭で思い出してみるとしよう。 商売柄もそうだが、街の奴らからのオヤジさんの信頼もあってか、何くれにつけ人の出入りの多い雑貨屋の店員なわけだから、俺自身の顔も広い方だ。 他所から居ついた奴らの噂も耳にする。ギルバートの姪っ子(「のようなもの」って点が引っかかるが)となると、元から街に居た連中とは違い最近になって他所から移ってきたのかもしれない。 だが、暫く唸ってみたが思い当たるような人間は浮かばなかった。黒髪となると、焦げ茶や金髪の多い街の中では目立つ方なのだが。 歳が若いからかもしれない。さすがに子供まで全員知ってるわけでもない……降参だな。 明日にでもオヤジさんに聞いてみるか。それと、学校に行ってる娘さんに聞くのも手だ。 「ダメだな。知ってる顔には居ない。オヤジさん……この街で顔の効く人を知ってるから、その人に聞いてみるよ」 「そうですか、助かります」 ふと、昨日助けてもらった大鎌を持った少女が黒髪の色白で小柄だったと思い出した。とは言え、可愛らしいくはないだろう。どちらかと言えば恐ろしいの部類ではないか。 それに幾らなんでも化け物の知り合いを追っかけてきたとは思えない、と言うか俺が思いたくないので聞かないでおいた。 口止めしてきた白い狂戦士も怖いからな。 はぁ、まったくもって、今日は何事も起きないで欲しいもんだ。 歩いて行く内に商業ギルドの事務所が連なる、夜には人気が絶える寂しい(もっとも今日は何処も同じのようだが)通りに出た。もう直ぐで川原が見えてくる頃合。 「この通りを抜けると、もうちょっとで川原だ」 そう、もう直ぐ着くんだ。さっきから昨日より悪い予感がしてならないし、こいつを送り届けたら、さっさと帰って寝ちまおう。だから頼むから何も起きないでくれよ。 ガシャン そう思った矢先、遠く無い路地脇からガラスの割れる音が響いてきやがる。なんだってんだ、こんちくしょう。誰か俺が考えてる事でも知っててやってやがるのか? だったとしたら、無視してやろう。今の格好は準備万端と言えるが、昨日のような状況だったりしたら心許なさ過ぎる。 だから、ギルバート、 「おや? 何か物音が。さっきからどちらにも人気が全然しないのもちょっと気になりますし、見に行きましょう」 「ちょっと待てって……って、もう行きやがったよ。くそ、しょうがねぇ」 事務所荒しのコソ泥ぐらいだったら良いんだがなぁ。今の気分の捌け口にボコってやれるんだが。
最終更新日
2008年06月28日 14時35分06秒
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