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Lex0755の日記 [全15件]
忍ぶれど、色に出でじ我が恋は 幼きゆえに世に流れ 幼きゆえに色のつかぬ色のままに。 駅の雑踏の中。 人の群れの中。 人待ち顔の少女や忙しげに通り過ぎる大人たち。 駅のホームを抜け、人々が待ち合わせ、通り過ぎる時計台の下。 一秒が長く短く、大きな時計の秒針を動かし続ける。 一人の声から耳に届くのに、大勢の声はなぜ遠鳴りの様に 時計台広場に響き渡るのだろう。 遠くから鳴り響くクラクションや、人々の騒ぎ声笑い声ささやき声 一つ一つが意味のない振動の様に体の芯を揺さぶる。 時計の針が重なれば、おどけたように人形が飛び出し、賑やかな踊りと音楽を 広場に奏で出し、人々はそっと足元よ緩め、ひと時のカーニバルを楽しむ。 それを楽しめたのは最初の2回、3回を過ぎ4回になり5回になってしまえば それはただの苦痛で、悲しさだけを私の心に伝えて来る。 事故でも?何かあったのかも? そう思い携帯をかければ、コールは鳴り続け心配だけを心に伝えたものだけど 2度目の電話でパケット通信だと言われ、5度目の電話でそれが普通のコールになれば 自分の境遇も、なんとはなしにわかろうと言うものだ。 もう何度目になろうかという、コールを鳴らせば留守番電話。 別れたいなら、そう言ってくれたらいいのに。 にこにこといつも笑顔で優しい言葉で、曖昧にぼかしてその場を繕う。 そんな事わかっているのに、離れたくない、離れれない。 こんな気持ちをなんて言うかなんて知らないけど、離れたくない。 あなたいつまでそこにいるの こっちに来なさい。 不意に背後から声をかけられた。
物語の始めに私の自己紹介をしておこうと思うの。 私の名前はアン。 アン・グリーン。 ありふれた名前だと思うけど、綴りはanではなくanne そう、読書好きな人ならぴんと来ると思うだろうけど 赤毛のアンのanne。 私としてはanでもanneでもかまわないのだけど グリーンなのに赤毛をよく排出する私のママの実家では、誰よりも赤い髪の毛で生まれて来た子にはアンと名づける事が決まっているの。 曾祖母辺りが赤毛のアンフリークでもあったんでしょうね。 昔語りでママが私が産まれた時に、赤ちゃんにしてはあまりにも赤い髪の毛なのを見て お見舞いに来てくれたママの親族全員で「この子はアンだね」と一致団結で決まってしまったのだという。 赤毛の集団に詰め寄られてしまっては、私の意見など通りもしなかったよ、と ナチュラルブロンドのパパは苦笑していた。 そんなわけで私の名前はアン。 anneのアン・グリーン。 今年で13歳になるぴちぴちの女子中学生。 あだなはそのままレッド。 私としては、赤毛の赤と名前のグリーンでクリスマスをイメージして キャロルとでもあだ名をつけて欲しかったんだけど そんな洒落た発想の転換をする,気が利いた子が私達の住む田舎町にいるはずも無く レッドもしくは普通にアンと言われて過ごしているの。 人参頭? 赤い猿? そんな言葉を私に吐こうものなら、元祖アンに負けずにノートで頭をかち割ってあげるわ。 そんな私の家の隣に、ダイアナという老婦人が越して来たのはジュニアスクールの入学式のお昼の頃だった。 人口1000人足らずの、小さな村に新しい住人がといえば、大ニュースになってもおかしくないのだけどダイアナさんは、私が生まれる前、ほんの15年前程に引っ越していって戻ってきたという いわゆるでもどりさんで、引越し当日はさすがに近隣の人達がわさわさと挨拶に来ていたけど 三日もすればもう何十年も住んでたかのように、村の住民の仲間入り。 それってつまらなくない? ママにどんな人って聞いても「いい人よ」で終わっちゃうし パパにどんな人って聞いても「変わってるけどいい人だよ」で終わっちゃうの。 昔からの知り合いで、よく知っているから特に説明する事は無いと思ってるみたいなの。 大人達はよく知っていても、私には初対面よ?隣人なら仲良くなりたいわよね? もしかしたら、昔使っていたアクセサリーやドレスに綺麗なレースを、可愛い隣人さんねって 下さるかもしれないじゃない? そして、アンティークなドレスにアクセサリーをつけた私はパーティーで一躍脚光を浴びて 素敵な上級生とフォーリンラブ♪って事が可能性として無いとは言えないんだしさ。 素敵にスマートに出会う為に、夜中にお隣との境目の柵にハンカチを落としてみたり スクールからの連絡用紙、はたまたお気に入りのヘアピンを落としてみたりと私も頑張っているものの。 敵もさることながら朝目を覚ましてみれば、ポストにハンカチは糊を利かせて綺麗に返却されてたり、連絡用紙はラベンダーの匂いをしみこまされて返されていたりお気に入りのヘアピンには、可愛いレースがリボン結びされて返されていたりと中々手ごわいの。 休日や朝の通学時間、夕刻にふわふわと綿毛の様な白髪がお隣の窓から見えるのだけど 私はまだお隣さんに出会った事がない。 お年よりは朝早く夜早いから、出会う時間に被りがないのは仕方ないけれど・・ 私はため息をついて、窓辺から隣のお家を伺い見る。 お隣の窓の向こうで、綿毛の様に真っ白で所々染めたのか、薄紫の白い頭がぴょこぴょこと動くのが見える。 グランベリーソース アップルパイにフルーツケーキ シフォンケーキにカントリークッキー 近所の奥さん同士で噂になって、母も大好きなミセスダイアナのお菓子・・・。 レースの肩掛けに替え襟にポプリ パパの大好きなスープにチキンにスパイシーソース! 私にも甘受する権利はあるはずだわ! お隣なんだもの! 大人だけが、楽しむのはずるいとおもうの。 出窓に頬杖ついて、ため息。 日曜のお昼の日差しが明るくて気持ちよくてつまらないの。 私だってお隣のミセスダイアナのお菓子を食べたいわ。 大人があんなに楽しそうに美味しそうに話すんだもの。 続く
一話から読んで下さる方は こちらへ 酒に酔うように恋に溺れていた。 夢に溺れていた。 袈裟は優しく、いつも私を認めてくれていた。 年上の寛容さで優しさで、私はいつも甘えて我侭で 袈裟は困った顔をしながら、私を受け入れてくれた。 初めの頃は幾つ物喧嘩をし、そして泣き怒りそして受け入れた 私は私の言うことを聞く袈裟を可愛く思い、愛しく思い。 二人の未来に疑いも持たなかった。 夫を殺すと私に言われた時、袈裟はどんな気持ちであったか。 -困るわ。人を殺すなんて・・・駄目よ・・。 -じゃあ、どうしろと?お前から離縁を言い渡せよ -そんな事出来ないわ。夫は恩人だし嫌いになったわけじゃ -曖昧にして、私の気持ちなんて考えてないじゃないか -でも・・ -お前が離縁出来ないと言うなら殺すしかあるまい なじり怒鳴り泣く日々が幾日も続いた。 -某に任せてくださいよ 袈裟が私の言葉に静かに頷いた。 細く痩せた手で筆を取り、屋敷の間取りを書く袈裟。 会った時よりいくらかも細くなった薄い体。 静かな風情で、私に間取り図を渡し、夫の予定を言う袈裟。 -明日の夜。夫は宿直明けで夕刻帰り朝まで寝入っています。 -その時に 私は袈裟を抱きしめ頷く。 そして私は襲撃し、図面のままに袈裟の夫の寝室に入り込み 首を落とした。 無我夢中で落とした首を布にくるみ、屋敷を走り出る。 口から出そうな怒声を押し殺し、走り走り走り尽くした。 叫んでしまいそうな声を押し殺し、そして止まり。 首を見た。 布から溢れ出る髪の毛が風に靡いていたから。 男にはありえない長さで、艶やかに風に靡いていた。 夜明けの林の中で、鳥が鳴き、朝の風が優しく葉を揺らす音。 朝日が夜の冷ややかな帳を拭い去るその光の中で 腕の中に袈裟がいた。 いつもの諦めた様な微笑を浮かべたまま。 泣き叫び吼え叫び 体の中の水が干上がってしまうかのような涙の後に。 気がつけば牢屋の中にいた。 袈裟の頭は誰かに抜き取られ、彼女の血を行く筋かの髪の毛のみが布に彼女の痕跡を残していた。 -遠藤様へ。 強くなれない卑怯な私を許して下さい。 私は欲張りな女です。今の生活も壊したくない。 貴方の事も手に入れたい。かといって世の人々から 夫を裏切った女よとのそしりも受けたくない。 もし、貴方がもっと大人で権力があって、問答無用で 私を奪ってくれたらとそんな夢も見ました。 何もかも捨てても貴方と逃げようと思った事もありました。 でも、先の見えない生活が怖いのです。人々に悪く言われたら そんな中で生きていけるとも思えないんです。 ごめんなさい。 意味がわかりませんでした。 渡辺殿から、袈裟の夫からこの手紙を渡された時には。 裏切られたと思いました。 嘘をつかれたと。 石の牢屋の中で、海鳴りの様に私の鳴き声が響き震わせました。 自分の声の振動で、部屋が揺れ、私自身も揺れ 泣き叫び続けました。 袈裟は私を大事と言ったのに。 どうして大事な私を悲しませるのかと。 私を大事なら私を悲しませないでくれと 叫んで叫んで、そして何も考えられなくなりました。 好きだって言ったのに。 大事って言ったのに。 ずっと一緒だと、愛してると。 心臓の音が体に鳴り響き、耳にどくんどくんと響き渡りました -生きているだけなら、誰でも出来るんだな。 -飯を食って用を足し、そしたら生きている。 そんな私に声を掛けたのが、渡辺殿だった。 -弱い者は弱い者として一生懸命生きていた。 弱い者は心の弱い者はそうそう強くなれないんだよ。 だけど、その弱い自分として生きてきて生きていく。 それで良かったのに。 誰よりも袈裟をわかっていたのは彼だったんでしょうか。 -弱いなら強くなるべきだ -それは弱くても心の強い者の言い分だ。 袈裟はあれで良かったんだよ。 弱いけど、ずるいけど、その中で精一杯頑張ってた。 それを殺したのはお前だ。 彼の言い分は合ってるのでしょうか。 間違ってるのでしょうか。 私は何事も頑張れば強くなれると思います。 弱いのは頑張りが足りないからと。 そして思いついたのです、いつしか袈裟が全てを受け入れてくるようになった事を。 喧嘩するたびに、泣き怒る私を、可愛い人ねと許してくれた袈裟。 最初の頃の袈裟の反抗を力づくで抑えていたのは誰だったか。 若さゆえか、私は時節を曲げずに、袈裟の理由に反発し、押さえ込んでいたのは誰だったか。 最後の頃、喧嘩になりかけた時に、何かを言おうとして黙り込んだ彼女の表情を。 言いたいことを言わせなかった。 怒声で、そして体で自分の意見を押し付けていたのは誰だった そう、私だった。 大人しい優しい気質の袈裟を愛しながら。 私はいつしか袈裟の心を殺し、死に追いやっていった。 最初から最後まで、袈裟の気持ちなど思いもやらなかった。 平家は今、平家であらずば人にあらずと言っています。 そんな事は許していいのでしょうか。 貴き方まで追いやられ地位を乗っ取られ 平家の人々に心を売ってしまっていいのでしょうか。 私は思うのです。 人の心を殺して押さえつけてしまうのは 体を殺してしまうことより恐ろしいと。 人には人の天分があるのです、弱い者は弱い者で弱い人としてその人生で喜びを見出していく。 それを強き者が幸せはこうだと押し付けて路を作ってしまうのがよくないものだと。 平家が倒れた後、どうなるかはわかりません。 昔の様に貴族たちが幅を利かせるかもしれません。 それでも、平家ではないと人ではないと、身分も境遇も 全てを人が決めてはいけないと。 ひらにお願いいたします。 頼朝様。 平家追討を 人気blogランキングへ 一話から読んで下さる方は こちらへ
一話から読んで下さる方は こちらへ 秘密と言う物はどうして心を躍らせる物か。 特にそれが色恋沙汰で、秘密の恋という物なれば どうしてこんなに気持ちを昂ぶらせる物なのであろうか。 情事のけだるさを体にまといつかせ 渡辺殿へと忘れ物を届ける袈裟の腰に目が釘付けになった。 -わざわざ、送ってくれたのか悪かったな そう渡辺殿に声をかけられた時、やましさと共に起こった 高揚感はなんだったのであろうか 渡り廊下を二人で再び歩き 歩き揺れる体と共に触れ合う指先に意識が尖る。 触れ合う度に電流の様な痺れが走る。 -手紙を書きます -お待ちしてます そう心静かに答えたのは、夢でも幻でもなく現実の事であった。 そして、その夜、袈裟の侍女が私の屋敷のドアを叩いた。 -奥方様が手首をお切りに まだ春寒い深夜の事。 空気は甘く匂えれど、風は冷たく。 遠く星星の様に暗闇の中で、遠くの屋敷の明かりが見える。 そんな遅くも早くもない春の夜の夜更け。 慌てて侍女を前に乗せ、馬を走らせた私の頭の中にあったのは 袈裟の身の事でもなんでもなく、わが身の保身のみであった。 渡辺殿にばれたのでは ばれてしまえば、これからの仕事場でやりづらくなるな そんな事でいっぱいだった。 馬を人目のつかない場所に止め、嘶き封じの布を馬に噛ませたのも、そんな気持ちの表れだったのかもしれない。 袈裟の身を案じていたのも真実なれば 己の保身を案じていたのも真実なれど 人は一つの心で幾つの事を一度に考えれるのか 侍女の纏う白い衣を光の変わりに 侍女に導かれるままに、袈裟の元に歩む。 光の無い夜道、木に草に足を取られ衣を裂かれ 黄泉路を歩くイザナギの様に、暗闇を抜け歩き イザナミのように私を待つ女のもとへ。 -遠藤様・・ 侍女に導かれ、扉を開け暖かな空気と共に 脇息にもたれた袈裟が身を起こし手を伸ばそうとして引っ込める。 飛び込んでこれない心のいじらしさに、心を打たれ 部屋に押し入り手を握る。 素直に心のままに胸に飛び込めずにいる心根が 可愛らしく愛しかった。 -どうして自殺などと 袈裟の手を口にあて、なじる声さえも甘くなる。 泣きじゃくり、声にならない声を漏らすのもまた愛しくて。 -夫を裏切ったと思うと、胸が張り裂けそうで。 途切れ途切れに、低く答えるのもまた甘美。 -渡辺殿がいようと何もかまうものか、そなたを愛している 抱きしめ口付ける。 侍女も心得た物で、蝋燭を半分切り明るさを落とすと 音も立てずに部屋から消えていく。 二人だけになった深夜の部屋で、睦言だけが部屋を満たし 隙間から漂う冷気が二人の距離を埋めていく。 雰囲気に呑まれるのは、若い頃の特典みたいなもので 夫のいる女と、その夫を従兄弟とし上司とする子供達は お互いの悲劇と境遇に溺れていった。 駄目だと言われれば、燃え上がり。 いけないとわかっていたら、罪悪感が甘美を伴う。 -好きって言って下さい。愛してるって言って下さい。 何度も何度も袈裟はそうねだった。 -好きだよ愛してるよ そう言いながらも、心が冷静になるのがわかった。 だけど、もう逃げる事は叶わなかった。 袈裟の侍女達は得たり顔で我らを応援し 袈裟は我らの未来を嬉しげに語る。 昼は渡辺殿の妻と過ごし、夜になれば私の女となる そんな生活に疲れぬはずがないのに、袈裟は恨み言一つ 漏らす事はなかった。 -子供は何人欲しいわ。 一生傍にいたいわ。 あなたを愛してます。 ずっと一緒、永遠に一緒。 子供の様なたわごとを、会うたびに嬉しげに語る袈裟を 私は信じて、いつの間にか心の底から愛していた。 袈裟は夢の中に逃げていた事を私は知らなかった。 袈裟は夫に感謝して尊敬していた。 親を早く無くした袈裟を、妻とし保護していたのは 渡辺殿であった。 恋をしたのは私だったが、愛していたのは渡辺殿だったのだ。 嬉しげに語りながらも、日々、頬がこけ薄く儚くなる袈裟 抱きしめれば折れそうに細くか弱く消えそうな袈裟。 苦しめているのが私の存在としても、離れる事などもう 予想の中にも何もなかった。 -渡辺殿を殺そうと思う。 そう決めたのは、袈裟と出会って幾つかの日が流れた時だったであろうか。 -そして袈裟を奪って東国に逃げる。 そう袈裟に告げた時、袈裟は笑った。 -あなたの思うとおりについていきます。 そう微笑んだ。 気がつけば諦めた様に微笑む顔が癖になっていた。 幾つかの別れ話の後に、食い下がる私を許す袈裟の微笑み。 いつしか、袈裟は全てに諦めて微笑む事を覚えていた。 出会った当初の、慎ましい微笑みではなく 諦めた様な悲しい微笑み。 袈裟は誰かに抗ったり、自分の意見を通す強さを持った女ではなかった。 -俺のこと大事か?大事なら一緒に逃げれるよな -大事です。 そう微笑んだ顔が袈裟の最後の顔だった。 人気blogランキングへ 一話から読んで下さる方は こちらへ
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。 おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。 恋もまた春の夜の夢のごとく 美しき者、賢しい者、強き者。 遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。 文覚と。某は今名乗っております所以。 平に手を当て、お願い申し上げます。 平家の追討を。 挙兵を平にお願いいたします所以。 信じられぬと申されますか。 何、その思慮の深さ、感服すれこそ怒りなどと。 平穏無事に生きていかれたいと、なるほど。 それもまた生き方かと存じ上げます。 人には人の生き方があり、その人にしか出来ない生き方もまた 御座いましょう。 気の強き者は強きのまま、意地の悪い者は意地の悪いまま 愚かな者は愚かな人生を。 そして、貴き血筋の者は貴き血の誇りのままに。 褒めても何も変わらぬと申されますか。 賢き方でございますな。 身も知らずの、名も知らぬ僧の言葉など信じられぬと 何故、平家と滅ぼしたいかと? いえいえ、某は平家を滅ぼしたいわけではございません。 ええ、確かに平家を追討してくれるように願いました。 名誉?地位?官位? そのような物は僧のこの身には不必要な物。 おお、そこにおられるのは、北の方様でございますか 御懐妊と・・めでたきことです。 姫であれ、総領息子であれ、子は可愛く愛しき物で。 北の方様は不安顔でいらっしゃる。 お話を聞いておられたので? では、一つ。 理由になるかわからないのですが 私の若き頃の話などしてみましょうか。 某が僧になった理由を それがしは今は文覚などと名乗っておりますが 彼の頃、遠藤盛遠と名乗り、貴き方の屋敷を守る武士でありました。 若いというものは素晴らしい物で。 眼に移る物が美しく、輝き光に満ちていたもので。 どんな醜女でも、やれ太ももの張りが美しい やれ、俯く横顔が美しいと、夜毎花々に蜜を垂らしていたもの 時には高貴な身分の姫君と恋愛遊戯をしてみたりと楽しい日々でした。 北の方様はそんな男は嫌いだと? されとて、美しき花々が勝手に我等を誘惑なさるのですから それは、我ら男だけの責任ではないと思うのですが? 親方様も、ほれ頷いておられるわ。 そんな折、私は同僚の袈裟御前と言う女性と知り合ったのです 袈裟と名前が着くように、色目華やかなれど 華やかな場所では落ち着きすぎて、地味な静かな色目の中では はっとした様な存在感を出す、そんな慎ましやかな女性でありました。 美しき若き花々の中では、存在を見失っていたでしょうが 我ら武士の地味な色合いの着物に囲まれた時などは はっとした色気を感じさせるそんな女性でありました。 どんな女でも、武士の中にいれば目立つと仰りたいのでしょう しかし、女の色気とは抑えた時にこそ醸し出す物で。 小柄な体を男達の集団の中で、戸惑うように怯えるように 歩く姿が思い出されます。 -どちらへおいでか? いつもの好き心を抑えきれず、誰かを探すように 縮んだり、伸びたりとする姿に好奇心を覚え 声をかけたのが、すべての始まりでありました。 -渡辺渡様を。妻の袈裟と申します。お忘れ物をお届けに 小さい幼い体つきに似ず、低いかすれた声であった。 -渡辺渡殿の?なんと。遠い従兄弟であります、遠藤盛遠と申します。渡辺殿が近頃妻女を娶られたと聞いたが、こんな可憐な方だったとは。 女性を見れば褒めずにおれないのが、私の昔の長所でありまして、北の方を褒めていないと? 会って五分やそこらで褒めきれぬ美しさではありませんので 時間を待っているだけです。 -御従兄弟様でしたの? 袈裟はほっと、まるで久しぶりに知己にでも会ったかのように 私を見上げて微笑んだ。 武士の、男の。 特に猛々しい男達が住み込んでいる詰め所に来るのは 気の強い女でも、恐ろしい物。 袈裟のような、覇気の薄そうな大人しやかな女が来るのは 度胸のいった事でしょう。 私は袈裟から荷物を預かり、横に並び渡辺殿のおられる詰め所へと案内を申し出た。 貴き方の御所を守る武士の中でも、渡辺殿は地位も高く 人望も厚く、屋敷の奥のお屋敷様のお部屋近くにお部屋を 与えられていた。 同輩たちに声をかけ、かけられて屋敷の奥に歩み 屋敷に上がり廊下を歩く。 単調な動きとは、えてして卑猥な物で。 某の足が床に触れるたびにきゅっと鳴る。 続くように袈裟の足がきゅっとなる。 薄暗い廊下の中、足音だけがきゅっきゅっと鳴り続ける。 きゅっ きゅっ 横目で後ろを見れば 俯き加減で女がついてくる。 きゅっきゅっと。 まるで何かの動きのように 腰を打てば同じように打ち返す女の体の様に。 同じリズムで、同じ速度で。 きゅっきゅっと。 床が鳴り、音が続く。 屋敷の奥までどれほどの長さがあったであろうか。 お屋敷様の元まで行くのは初めてで、距離感も 終息さえもわからずに歩き続けた。 足音と単調な動きが私の何かを狂わせていたと 今なら思いますが。 私も若かった、幼かった。 同じ音だけ聞き続け、同じ動きだけを繰り返し 私の五感は狂っていたと。 頭の中には何も無く。 真っ白で目の前に女がおり 静かで誰もおらず、足音だけがなり続けていた。 気がついたら私は手近な部屋に袈裟を引きずり込み 組み敷いていた。 驚き泣き叫ぶ袈裟を押さえつけ欲望を果たした。 泣き叫ぶ袈裟の口を押さえつけ 抵抗していた袈裟も、最後は眼を閉じ 眼のふちから涙を流すのみであった。 -初めて見た時から好きでした。 どんな似非源氏の君かと。 男の常套句として、事の後、袈裟の髪を撫でながら 私はそう呟いた。 袈裟は何も言わなかったが、瞳に力が戻るのがわかった。 愛されていたから抱かれた。 それは袈裟の心に幾らの救いを与えたのであろうかは 男の私にはわからなかった。 袈裟は優しい女だった。 その優しさは自己弁護の優しさだった。 優しくされたいから優しくする。 嫌われたくないからいい子でいる。 自分の意思という者があまりない幼い女だった。 夫を裏切ったと言う責めの気持ちが 本当は夫を愛してなかったから仕方ないのと 本当の恋は私との物だと入れ替えるのは彼女の保身で 誰も責める事は出来なかったであろう。 人気blogランキングへ 一話から読んで下さる方は こちらへ
軍馬のいななく声がする、刀の触れ合う音がする。 人々の叫び声が断末魔のうめき声が。 そこは遠い西の国の出来事。 私達は戦を知らない。 言葉で人を傷つけ追い落とし そんな優しい戦しか知らなかった。 人の心は傷つくけど、いつか日々が癒してくれる。 治らない心の傷も、いつかは優しい誰かが受け止めて癒してくれる けど、失った魂は肉体は癒える事も戻ることもなく消えていく。 誰もが理想を掲げ戦い、生きてそして死んでいく。 戦場はどこにでもあって、どんな場所でも色んな形の戦があった。 平家の人々が西の海に沈んだと聞かされたのは3月も中ごろの頃だった。 京の都で、この世の栄華はこれほどかと輝きを放ち歩んでいた方々は 海の泡のように消えてはかなくなられた。 -めでたきことよ 不意に法皇に呼び出された宴の席で その報告が飛び込んで来た時、その場にいた人々は沸き立ち 喜びの声を交わしあった。 平家は憎まれていた、この京で。 貴族の方々の権力に対する姿勢には飽きがない。 追い落とし這い上がり、そして消えていく。 その中で、貴族でもない武士の出の方々が、権力と富を握り 皇族の姻戚にまでなり、血縁を天皇位にまでつけるというのは どれほどの憎しみと妬みを買っていたであろうか 今になって噴出すその憎しみのほとばしりを まじまじと見せ付けられ、恐ろしさを感じ得ないでいる。 -もうじき、義経の軍が報告に戻ってくるな -東武士もなかなかやりおるわ 侮りと軽蔑を隠し得ない口調で、貴族たちが言う 表向きは好意をもって、腹の中では軽蔑を持って なんて恐ろしい世界であろう 舞を舞いながら、人の心の闇を見る 舞の空気の中で刺すような人の悪意の風を受ける。 近いうちに義経様が帰ってくる。 法皇は義経様をどうするおつもりなんだろうか -この国に支配者は二人もいらぬ そういつか法皇様が呟いたのを思い出す 人気blogランキングへ 一話から読んで下さる方は こちらへ
手を上げて宙に思いを描く。 舞は祈りに似ている。 館での日々は平穏で穏やかな物だった。 時折こうして舞を舞い、そして家人が集まり宴になる。 なるほど、東の田舎者よと。 使用人は声もでかく、行動も粗野で最初静の舞とて 静かで難しいと不評であったが、意識して華やかな舞に練習を変えてみれば 大人子供に限らず、年寄りまで集まり手を打ち騒ぐ。 新しく建てられた建物は、木の匂いも優しく青々と気持ちよく 朝に夕に日向にと、手足を伸ばし舞を舞う事の楽しい事と日々をすごしていたものだった。 義経様とは最初の一日顔を合わせたのみで、すぐに戦場にと駆け戻ってしまわれた。 -菊のこと、許してあげてほしい。 慣れぬ京にて戸惑っているのだろう 見送りにでた私に、騎上からそう笑う。 -菊も舞をやるから、きっと気が合うと思ったんだけどな そういい残して馬を駆り、戦場へと向かわれた。 日々聞く町の噂で、平家の公達が海に沈み 源氏の軍が勝ち鬨を上げ、平家にくしと騒いでいた京の人々も浮かれ騒ぎ 義経様の御館にも、人が詰め掛け祝いの品で溢れる始末であった。 平穏な日々が続き、戦の話も遠い異国の噂話のように遥かに遠い。 私はただ、静かに館で舞を舞い、人の誘いに応じて舞を舞う。 時には、後白河の法皇様の誘いに応じて、義経様の館の話等をしていた。 これから何が起こるかなんて知りもしなかった。 京は穏やかだった。 遠い地で何が起こっていても、誰が死んでも泣いても 遠い異国の御伽噺の様に、ただ一喜一憂していた。 人気blogランキングへ 一話から読んで下さる方は こちらへ |一覧| |