|
カテゴリ:がん医療について
みなさまこんにちは。
金曜日(8日)、月曜日(10日)、と、それぞれ全く立場の異なる臨床の最前線の方々とお会いしてきました。 そして、どんな問題を感じていらっしゃるか、それを乗り越えるために、どんな方法があると考えていらっしゃるか、などを伺ってきました。 それぞれに、お立場が異なるので、アイディアはさまざまでしたが、「壁」として立ちはだかっているものの正体のひとつは、はっきりしているように感じました。 とりあえず、今回は、私と会ってくださった方々のお立場を考え、あまり個別的なお話に言及しないでおこうと思いますが。 コワイ世界だな、と思うのが、皆さん一生懸命に、目の前の困っている患者さんのために出来ることをしているわけなんですが、はっきり言うと、皆さん、制限速度オーバーの状態なんですね。 白バイにつかまったら、マズイ。 「でも、私らのしていることは、患者さんを助けるためにやっていることで、裁判になったら絶対に勝てる!!」 と、自信を持っておっしゃっていたのが、救いです。 どういうことかというと、法律を遵守していると、患者さんを助けることが出来ない、という矛盾があること・・・ですよね。 例えば、海外の論文で、明らかな効果のある化学療法があったとき、日本では、日本独自の治験にこだわっている立場上、保険承認されていない。 全く保険で承認されていない「未承認薬」は使うことが出来ませんが、あるがんでは承認されている薬だったときには、使おうと思えば、使えないこともないんです。 さて、どうするのでしょうか・・・・? それは、病名を偽れば、使うことが出来るのです。 例えば、胃がんで承認されている「TS-1」。 あれはじつは、すい臓がんにも効果が期待できるのです。胆道がんにも。 そういうエビデンスが、海外の論文にはあるのです。 でも、日本では、胃がんの患者さんにしか使えない。(あ、肺がんで追加承認されましたっけ??してませんでしたっけ???) 混合診療も認められていない。 何もしないで居れば、3ヶ月しか生きられない、でも、これを使えば、生存期間を延長できる可能性がある!というような場合・・・。 自由診療にすれば使えますが、患者は莫大な費用を負担しなければなりません。 自由診療にすると、これまで保険でまかなえていた、CT検査、血液検査、X線写真。その他もろもろ全部、3割負担から10割負担になってしまいます。 日本の法律だと、患者さんがすべて自己負担する自由診療か、病院が全額面倒をみるか、どちらかしか許されていません。 胃がんの患者ならすべて3割負担でまかなえるのに、すい臓がんや胆道がんだと、全額自己負担の道しかないのです。 すい臓がんや胆道がんに、ほかに、保険承認の薬が、たくさんあるのなら、まだよいのです。 でも、稀少ながんで、しかも進行の速い難治ながんのため、治験のデータも揃わないのです。 だから、難しく進行も速いのに、「治療薬がほとんどない」状態にさらされています。 良心的な医師は、何とか、海外の論文でエビデンスのある治療を行おうとします。 そのためにはどうするか・・・? ちょっと、カルテを書き換えるしかありません。 医師にとっては、自分の手が後ろに回るかもしれない、恐ろしい法律違反です。 じつはこれ、患者には、何のお咎めもないのです。 良心の呵責に耐えかねて、患者を見捨てられなかった、よいお医者さんが、「スピード違反」を、しなければならないのです。 スピード違反って、100%つかまったりしませんよね。 運がよければ無罪だし、運が悪ければ、つかまります。 良心的なお医者様に、スピード違反を強いているのが、今のがん医療です。 法律を遵守するお医者様は、まだ、生存期間を延長する望みのある医療を行わず、患者を見捨てなければなりません。安全運転ですよね。 安全運転をする医師を、誰も咎められません。 だって、もし自分だったら・・・? 誰かを助けるために、万引きをしろっていわれたって、なかなかできるものではないですよね。 逮捕されるのは、怖いですよね。 また、ほかにも、こんな例もあります。 治癒切除できた進行がん患者に対し、再発や進行がんに有効だった化学療法(抗がん剤治療)は、補助化学療法(予防的な抗がん剤治療)としても、かなり効果が期待できますが、そういうものに対しても、日本はかなり遅れています。 例えば、乳がんの化学療法としてかなり有名な「ハーセプチン」ですが、じつは日本では、補助化学療法(手術後の補助抗がん剤治療)としては、まだ、保険で認められていません。 でも、海外の治験では、her2が陽性の人には、かなりの効果が報告されています。 海外での効果が報告されているのに、日本では、まだ、第3相試験(治験の最終段階)の最中です。 つまり、日本のほとんどの乳がん患者さんには、効果がわかっているのに、補助化学療法としては使うことのできない状態なのです。 治癒切除(がんの病巣を肉眼的に取りきること)が出来た進行乳がんの患者さんで、her2が陽性という方は、1万人ちょっとだそうです。その人たちにハーセプチンの補助化学療法が出来れば、かなりの再発を抑えられるはずなのに、それができない状態で、10000人ちょっとのうちの3割は、何もしないまま再発してしまいます。 つまり、何もしないせいで、年間3000人のher2陽性の患者さんが、再発していることになるのです。 再発を抑えられたほうが、予後が良いのは決まっています。 わかっているのに、何もしない・・・というのは、この場合のスピード違反よりずっと悪いのではないでしょうか。 私がお会いした臨床の先生は、はっきりおっしゃいました。 「こんなこと、絶対におかしい。ちゃんとエビデンスだってあるのに。 自分の奥さんがそうなったら、絶対ハーセプチンのアジュバント(補助化学療法)しますよ」 こういうことをこそ、患者団体の力で何とかして欲しい。 その訴えを聞き、無力な私ですが、何とかしなくちゃ、と思いました。 再発しないで、元気に暮らせるはずの、尊い3000人の命を、見過ごすわけにはいきません。 乳がんの患者団体の方々も巻き込んで、なるべく早く、厚労省に意見書など提出したいと思います。 必要とあらば、署名も。 これから予算の攻防もあるけど、やることは、次から次へとたくさんですねぇ~~~~。 どうかみなさま、ご協力をお願い致しますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[がん医療について] カテゴリの最新記事
|