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君の世界が終わるまで

君の世界が終わるまで

記憶の香り

【記憶の香り】白哉×一護

何かが俺の中から消えた。
そんな感覚を一週間前に感じてから俺は、とうとう死神化することが出来なくなっていた。
霊は前と変わらずに見える。
けど、虚は見えない。ほんの少し気配を感じる程度。
”誰か”が死神の力を失うと言っていたけど、それは本当だった。
今はまだ辛うじて死神の姿は見えるけれどそれもいつかは見えなくなるンだろうと思うと寂しくなる。
現世に平和が訪れると共に尸魂界にも平穏が訪れたのだろう、忙しいはずの隊長・副隊長が頻繁に現世に来ては俺の所へ来てくれる。
毎日毎日入れ替わり立ち代りやって来ては他愛ない話をして帰っていく。
昨日も、恋次とルキアが来てギャーギャー騒いで帰っていったっけ。
今日は誰が来るンだ?と思いつつも、もしかしたら来ているのに俺が見えてないだけなんじゃないか、という不安を感じた。
昨日はまだちゃんと恋次たちの姿が見えた。
けど今日はどうだ?
突然霊力がなくなってたら、今まで見えていた存在も見えなくなるンじゃねぇか?
一応、霊はいつも通り見えるから霊力を失ったわけではないようだけど、死神が見えるほどに力は残ってるのか?

「一護っ!」

呼ばれて、ハッと立ち止まる。
その声の主を知っているから、声が聞こえてホッとした。
けど、こんなに声を荒げて呼び止める声を初めて聞いた。

「どうしたのだ一護。何度呼んでも聞こえていないようだったが・・・。」

不安が、全身を侵食していく。

「一護?」

いつもなら空気すら乱さない声音で呼びかけて、それに気づくのに。
今日はそこらにいる霊を驚かせるくらい空気を震わせた声で気づいた。
やっぱり、終わりは近くに来ていたンだな・・・。

「悪ぃ白哉、ちょっと考え事しててさ。」

体中に巣食う不安を悟られないように精一杯いつも通りの表情をして振り返って声の主を見る。
護廷十三隊の六番隊隊長、朽木白哉。
ルキアの義兄で恋次の上司で尸魂界の中でも一番有名な貴族で当主。
んで、俺の、一番・・・・・・・。

「さ、帰ろうゼ。」

白哉の姿を見ていられなくて、ずっと見てたら堪らなく震えそうで、俺は逃げるように踵を返して歩いた。
白哉は何も言わずについてくる。
ついて来ていると、まだ、まだ分かる。
俺がこうして力を失う前から、白哉は帰り道に突然現れて一緒に帰っていたけれど、今みたいに何も言わずにただ俺の後をついて歩いてきていた。
白哉は普通の人には見えないから、俺と喋っていたら俺が独り言を言ってるように見えるからと、気を遣って何も話さなかったのを俺は知ってる。
そういうさり気ない優しさが何だか嬉しくて、何も話してなくても、触れていなくても、白哉が来た時の帰り道は何かスゲェ、楽しかった。
何も言わなくても、触れていなくても、いつも其処にいるって感じられたから。
でも今は、背中に気を張り巡らすように集中しねぇと白哉の気配を掴み損ねてしまいそうで。
しばらく、背中に意識を集中させながらいつもの帰り道を歩いてから家の前に着くと、集中を途切らせた。
家に入っちまえば、話をしても大丈夫だ、と思ったから。
意識を霧散させたから白哉の気配は感じなくなったけど、変わらず後ろにいるものと思って俺は

「白哉。」

と言いながら其処に居るはずの場所を振り返り見た。
居ない。
居ない?
見えない?
勝手に部屋に入っちまったかな、と不安を払うように早足で家に入り、お帰りと出迎えてくれた妹への返答もそこそこに急いで階段を上って部屋のドアを乱暴に開けた。
けれど、居ると思っていた存在が居なくて。
いや、居ると思っている存在が見えないのかもしれない。

「ああ・・・急用が出来て尸魂界に帰っちまったとか?」

ハハッ。
それなら一言言ってけっての。
ああ、それとも俺が聞こえなかっただけなのか?

「一護・・・?」

何か、声が聞こえた気がした。
でもハッキリとは聞こえない。
もしかして、まだ其処に居るのか?

「白哉・・・白哉?居るのかよ?まだ、居るのか?」

俺はどこに居るかも分からない白哉を探すように部屋の中を見回して言った。

「一護・・まさか、見えないのか?」

俺の目の前で手を翳された時の様な小さな風が起きた。
もしかしたら白哉が目の前に居るのかもしれない。
でも、見えない。

「ゴメン白哉・・俺、死神の力、失ったンだ。」

声に出すとやたらにリアルで、堪えてたものが堰を切ったように溢れてきて全身を震わせた。

「本当に、本当にたった今・・さっき会った時は微かだったけど見えてたンだ・・・でも、今はもう・・・気配すら感じられねぇ・・・。」

部屋の中を探すことも無意味に思えて、いつも白哉が来る時に通る窓をじっと見つめた。

「一護・・・だから先ほども私の声が聞こえていなかったのか。」

一人で呟いても、何も答えなんて返って来なくて・・。
いや、もしかしたら白哉は何か答えてくれてるのかもしれない。
何て、もどかしいンだろう。

「力が完全になくなると、死神に関わる記憶も失うって・・・だから、死神代行だったことも、アンタたちとこの世界を護ったことも・・・・アンタとの思い出も全部、全部忘れちまうって・・・っ!」

堪らなくて、奥歯を噛みしめながら泣いた。
誰も見てないから、いいか。
いや、白哉が見ているかもしれない。
・・・白哉になら、見られても良いけど。

「・・・アンタが俺にくれた想いも、俺がアンタに抱いた想いも全部全部、忘れちまうって・・・」

そんなのは嫌だ。
嫌だけど力を失っていくことを止められない。
消えていく記憶を繋ぎとめることも出来なくて。
せめて、せめてもう少しだけ時間が欲しかった。

「忘れたくねぇ・・・忘れたくなんかねぇよっ!アンタのことも・・・アンタとの思い出も、アンタへの想いも全部っ!!」

俺はこれを一体誰に言ってるンだろう。
叫んでる先から記憶を失い始めてるのか・・?

「アンタの名前も、アンタの温もりも・・・ずっと忘れたくねぇのにっ!!」

叫びが宙を舞う。
受け止めてくれてるのかが分からないから、もっと涙が出てくる。

「どうして・・・どうして忘れていかなきゃなんねぇンだよぉぉぉぉっ!!」

力を失っても良い。
姿が見えなくなっても・・・百歩譲って良い。
でも、アンタのことを忘れることだけはしたくなかった。
思い出がなくなっても、ただアンタのことを忘れさえしなければそれで良い。
なのに・・・なのにっ!!

「白哉・・・白哉っ!!」

忘れないようにと、名前を叫んだ。
叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫びまくった。
下から遊子が何か言ってる気がしたけどそんなことはどーでも良くて叫んだ。

「白哉!白哉!白哉!びゃくっ――・・・」

俺の体を、何かが通り過ぎる感覚がした。
それが白哉だと察して俺はその場にへたり込んだ。
声が聞こえない。
気配を感じない。
なのに、
通り過ぎた時にふと鼻腔を擽った白哉の香りだけはヤケに鮮明で。
もう、空気のように当たり前だった白哉の香りだけが残って、色んなことが俺の中から、

消えた。



Next→【記憶の別れ】
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長いことお付き合いくださいまして有難うございました(^^;
一護視点での話なので一護の口調がらしくないかもしれませんがお許し下さい(-_-;)
※兄様Verも書きました~!【記憶の別れ】お読み下さい♪
読んでくださって有難うございました★


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