昔話・ぶんぶく茶釜ある年、いつになく寒い冬がやって来ました。 くる日もくる日も寒さは衰えず、 とうとうたぬき親子の食べるものが全然なくなってしまいました。 そこで、お父さんたぬきがお母さんたぬきに言いました。 「わしが茶釜に化けるで、それをお母さんが人間に化けて売ってくることにしようや。 そのお金で当分はなんとか食えるじゃろ。」 お母さんたぬきは迷いましたが、子供達を救うには仕方がありませんでした。 そうして道具屋の店先に並んだ茶釜はさっそく茂林寺の和尚さんに買い取られていきました。 ある日、和尚さんがその茶釜でお湯を沸かそうとして火にかけたところ 「あっちっちっ」という悲鳴とともに 茶釜から尻尾と手足が生えてきてたぬきが現れました。 驚いた和尚さんは小僧さんたちを呼びましたが、 たぬきはまた茶釜にもどって知らん顔です。 そこへ、ちょうど古物屋さんがとおりかかったので、 和尚さんはその茶釜を古物屋さんに売ってしまいました。 その夜、古物屋さんは、たぬきの姿に戻った茶釜に起こされました。 たぬきは今までのことをぜんぶ古物屋さんに話して、 「余所へわたしを売らないでください。 ご恩返しに、私がお金を稼いで上げますから・・・。」 とお願いしました。 願いが聞き入れられると、お父さんたぬきはさっそく母子を呼び集めました。 こうして古物屋さんのまえで始められたのがたぬき親子の曲芸でした。 「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい」 古物屋さんの店の前はたぬき親子の曲芸を見ようとするお客さんで 毎日まいにち一杯です。こうして古物屋さんは、あっと言う間に 大金持ちになってしまいました。 そこで、古物屋さんはたぬき親子にお礼を言い、 儲かったお金の半分をたぬきに渡しました。 それをもらって山へ帰ろうとしたのですが、 お父さんたぬきは元の姿に戻ることができません。 これはきっと、和尚さんをだました罰だと思い、 和尚さんに謝りにお寺に行きました。 そうして和尚さんに謝るのですが、それでも元に戻りません。 そこで、和尚さんは立派なふとんに茶釜をのせてとても大切にしてくれました。 やがて、この茶釜をおがむと、幸せになれるという噂が広まり、 「分福茶釜」と言われるようになりました。 分福茶釜は今もなお茂林寺に残され、大切にされています。 |