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2001/01/31、静岡県焼津市付近の海上の上空でDC10型機とB747型機の間にニアミスが発生し、衝突回避動作の際にB747型機内の乗員乗客が多数負傷するという事故がありました。 この記事を書くにあたり、以下のブログを参考にさせていただきました。 筍ENTの呟き 酔うぞの遠めがね 新・Masterの徒然日記 航空・鉄道事故調査委員会の報告書は、以下のようになっています。 航空・鉄道事故調査委員会 報告書 事故の経過を自分なりに要約してみると、以下のようになります。 (1) 管制官が、便名を言い間違えたために、降下指示が、 水平飛行中のDC10型機に行かずに、上昇中のB747型機の方に行ってしまう。その結果、 本来、DC10降下、B747上昇 となるべきところ、DC10水平飛行、B747降下となってしまう。 (2) B747型機の機長は、降下を開始するために推力を絞る。←【これ、キーポイント】 (3) 管制センター、DC10型機、B747型機で、ほぼ同時に異常接近警報が鳴り響き、 DC10型機では警報装置が降下を指示し、B747型機では警報装置が上昇を指示する。 (飛行機の方は、正確には「TCAS」ですが、読みやすさを優先して異常接近警報と書きます) (4) B747型機の機長は、推力レバーを上げても推力が回復するまでに時間がかかるため、 充分に上昇できずに回避できなくなることを懸念(推力不足で無理に機首上げすると失速)、 DC10型機の下方向に避けようと思い、警報装置の指示に従わずに降下を開始する。 (5) B747型機の機長は、DC10型機の近くに来て下方向への回避量が足らないことに気付き、 慌てて操縦桿を押してDC10型機の下をくぐる。そのときマイナスのGが発生し負傷者が出る。 本件では管制官の刑事責任を問う裁判が2回開かれ、1審では無罪、2審では有罪とされました。 1審で無罪とされた理由は、簡単な言い方で書くと、 異常接近警報が鳴り響く状態になったことは大した問題ではないし、原因でもない。 だから、便名を言い間違えたことは、原因とは関係ない。 原因は、あくまで、異常接近警報が鳴った後の、操縦士の対処の仕方にある。 というもののようです(判決文ではこういう言い方はしていませんが...)。 ネットを眺めていると、1審の無罪を支持する方も大勢いらっしゃいますが、 1審の無罪を支持する場合は、以下の2つを混同しないように注意した方がいいと思います。 (a) 便名を言い間違えたことは、原因とは関係ない。 異常接近警報が鳴った時点では少しも危険な状態ではなかった。危険な状態になったは それが鳴った後であり(原因は操縦士の対処)、管制官はそもそも本件とかかわりさえない。 (b) 便名を言い間違えたことが原因だが、言い間違えたことに対して刑事責任は問えない。 あの環境下では、言い間違えたのはやむ得ない。 1審で無罪とされた理由は(a)なのです((b)ではありません)。 今回、2審で有罪とされてしまいましたが、弁護士が(a)で争ったことが関係あるかもしれません。もし(b)で争っていたら結果は違っていたかもしれません。 本件を有罪にすべきか無罪にすべきかは、私にはわかりません。 ただし、(a)については言ってることがおかしいと思います。理由は後で言います。 (b)については、そうだとも思えるし、違うような気もするし、裁判に出て来る「過失」という言葉の意味合いが、私にはよくわからないのです。 管制官は、何かを故意に手抜きしていたわけではないので「未必の故意」にあたるようなことは何もしていません。あくまでミスです。 この件に限らず、故意の手抜きを何もしていない、ミスのみ場合、そういう場合に刑事責任を問えるのか、また逆に、そういう場合には、被害者は泣き寝入りしないといけないのか、難しい問題だと思います。 そういうわけで、有罪にすべきか無罪にすべきかは、私にはわからないのです。 それで、(a)については言ってることがおかしいと思う理由ですが... 航空・鉄道事故調査委員会の報告書によると、シミュレータを使った検証の結果、推力を絞った後に推力レバーを上げた場合も、推力の回復遅れ(5秒)が影響して上昇は鈍るものの、回避できる程度には上昇できることがわかりました。 機長の懸念は完全に間違えで、機長の判断は間違っていたわけです。 しかし、機長は、これまでに、実機でもシミュレータでも、そういう場面を体験したことがなく、推力の回復遅れが上昇にどの程度影響するのか知らなかったのです。 それと、もう1つ、異常接近警報が鳴ってから実際にすれ違うまで55秒くらいあったようですが、私達一般人には、充分余裕のある時間に思えます。 ところが、航空・鉄道事故調査委員会の報告書を読んでみると、操縦室で異常接近警報が鳴ってからは、操縦室内は非常に逼迫した状態であったことが読み取れます。管制官からの通信を聞く余裕するらなったようです(だから応答がなかった)。 こういう逼迫した状態になったことが原因と関係ない、というのはおかしいと思います。 (こういう状態になるミスをしたことに対して、刑事責任が問えるかどうかは別の問題) ところで、もし、訓練の項目に、異常接近警報が鳴ったときの訓練があり、機長がその訓練を受けていれば、機長が今回のような懸念を抱かず、警報装置の指示に従い、この事故は起きなかったかもしれません(だからと言って、異常接近警報が鳴るような状態を防ぐ対策が要らないというわけではありませんが...)。 訓練の項目にないのなら、足した方がいいと思います。 ところで、管制システム自体のことですが... 今の、この、口頭に頼ったやり方、何とかならないのでしょうか? 航空機の操縦に関しては、ILSやらGPWSやら様々な保全設備が開発されていますが、管制に関しては、ほとんど何も開発されていないように思えます。 技術的な問題、例えば、「搭載してくれない飛行機も居る筈で、搭載しているものとしていないものが混在していると余計に大変になる」という問題があるからだという人も居ますが、真剣に考えれば両立させられる方法もあるように思えます。 技術的な理由よりも、むしろ、社会的な背景が原因のように思えて仕方ありません。 航空機の操縦関連のものを作れば、航空機製造メーカの収益に繋がる(セールスポイントになる)ので、航空機製造メーカががんばるけれど、管制関連のものを作っても収益に繋がる人がいないので、開発しようとする人(前述の混在の解決方法を真剣に考えようとする人)がいないとか... マンパワーにばかり頼らずに済む方法が、何かないでしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.07.12 23:33:57
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