Mさんは現在83歳、私が尊敬する年上の友人です。郷里(鹿児島県いちき串木野市)出身の先輩でもあります。28歳の時に当時アメリカが与えた難民救済法に基づく永住移民枠に応募して渡米しました。三年間の契約労働を終了した後は、庭師をしたり、七面鳥の雄・雌鑑別の仕事をしたり、証券会社の営業をしたりして、一家を支えました。娘さん三人が生まれ、それぞれ長女は中国系アメリカ人と、次女はメキシコ系アメリカ人と、そして三女はアイルランド系アメリカ人と結婚しました。長女夫婦には二人、次女夫婦には五人、三女夫婦には二人、合計九人の孫がいます。六十年連れ添った80歳の奥様と穏やかで幸せな日々を過ごしていらっしゃいます。
今夕はある用事で訪ね、夕食をご馳走になりながら、いろいろお話を聞きました。一生懸命身体を粉にしながら働いた人生でしたが、十数年前に引退なさってからは地域社会での各種のボランティア活動に務めて来られました。「お世話になったアメリカ社会のためにささやかでも恩返ししたい」とのお気持が根本にあるようです。「アメリカ社会の良さは何だと思いますか」と尋ねたら、「自由である事、他人の干渉が少なく自分の思った事が出来る」との返事でした。
その彼が今年6月23日から二週間、長女、次女、三女の家族を含めた全員十七名で日本旅行を行うそうです。Mさんと奥様が案内役で、旅行手配などは長女が行っているそうです。孫たちは7歳から18歳まで、人種もいろいろですが、きっと楽しい、意義ある旅になるでしょう。東京から始まり、富士山に登り、京都を訪れ、広島で原爆に付いて学び、そしてMさんの郷里の鹿児島を訪れるそうです。鹿児島ではMさんの生まれた枕崎市、そして渡米前に開拓農民として働いていたいちき串木野市なども全員で訪れ、Mさんと奥様の渡米前の生活を偲ぶそうです。
28歳のMさんが先に一人太平洋を渡り、その後、奥様を呼び、そして三人の娘が生まれました。そして55年が経ちました。今までもMさんは何度も里帰りした事はありますが、恐らく今度が最後の旅になるだろうとおっしゃっています。子供三人、その配偶者三人、そして孫たち九人と一緒の日本の旅はきっとMさんに取り、感慨深い旅になるだろうと思います。孫たちが自分のオジイチャンとオバアチャンの生まれ育った土地を訪れて、どんな思いを持つか、尋ねるのを今から楽しみにしています。(終り)