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カテゴリ:火山災害
「阿蘇山あり、其の石、故無くして火起こり、天に接すれば、俗以て異と為し因って?祭を行う」とは中国の史書『隋書』倭国伝にある阿蘇山の記載です。 隋の時代(西暦581-618年)と言えば、日本では女帝推古天皇の時代であり、聖徳太子(今の歴史学では存在を疑う説もあるようですが、ここでは触れません)が摂政として政務を取り仕切り、遣隋使を派遣し、十七条憲法や冠位十二階が制定されるなど、日本の国家体制が確立していった時代となります。 その時代の中国の史書に阿蘇山の記載があるのはとても興味深い話であると思います。 おそらくは遣隋使として隋に派遣された日本側使者の話だけではなく、答礼使として日本にやってきた隋朝の使者の記録をもとにして史書に記載したのだと思います。 中国には火山がないため(現在の中国領である黒竜江省や北朝鮮との国境地帯には火山はありますが、中国文明の中心である中原には火山はありません)、「火を噴く山」は相当珍しく、特に記載する価値があると判断されたのでしょう。 阿蘇山のある熊本県の旧国名は肥後国(ひごこく)ですが、もとは「火の国」が転じたものであり、阿蘇山を象徴としているというのが一般的な解釈となっています。 この阿蘇山、高校生の使う地図帳でも「カルデラ火山」や「火山の地形」などという見出しのところで必ず記載があるので、富士山と並んでほとんどの人が知っているメジャーな山ではと思います。授業で「世界一のカルデラ」というたい文句を聞かされた人も多いのではないでしょうか? 阿蘇カルデラは南北25キロメートル、東西18キロメートルの世界でも有数の巨大カルデラですが、ここより大きなカルデラは世界でたくさんありますので(日本だけでも、北海道の屈斜路カルデラの方が大きいです)、誇大広告なのですが、カルデラ内に国道が通り鉄道が引かれ、5万人以上の人が居住しているという意味では、世界に類を見ない「世界一のカルデラ」です。 阿蘇山は有史上大きな噴火をしていないおとなしい山であり、風光明媚な姿を夏目漱石や国木田独歩、徳富蘇峰(彼は阿蘇の美しさに魅せられ自分の雅号を阿蘇山を意味する「蘇峰」とします)ら文豪・文化人からも愛された阿蘇山ですが、巨大なカルデラ(「カルデラ」はスペイン語で大鍋を意味します。カルデラの出来方は色々ありますが、阿蘇の場合、噴火で山体を吹き飛ばし空っぽの鍋底状態になった後、再びマグマの上昇で中央部が隆起し現在の火口である中央火口丘群を形成しています。一時的には水がたまってカルデラ湖になっていた時期もありました)が物語るとおり、過去30万年間に4度にわたる破局噴火を繰り返してきた「荒ぶる神」としての素顔を持っています。 特に9万年前の噴火の規模が一番大きく、この阿蘇山最後の破局噴火 (この時の噴火は「Aso4」と名付けられています)の規模は想像を絶するものです 。 もしAso4が現代で起きた場合、どうなってしまうかを簡単に記したいと思います。なお今の阿蘇山はAso4レベルの噴火の可能性はきわめて低いので(恐らくあと数万年は起きないと思われます)、深刻にとらえないでくださいね(汗)。 噴火の瞬間 阿蘇市、阿蘇郡高森町などのカルデラ内の都市・街は消滅します。なにせカルデラ内と言うことは、火口の中であることと同じ意味ですからね・・・。 「本州の山口県にも火砕流が?」と驚かれる方も多いかもしれませんが、火砕流は海を渡れます。構成物質は火山砕屑物と火山ガスの混合体で気体に近いためです。温度も300~600Cぐらいで(威力は小さく常温に近い低温火砕流というのもありますが、それは除きます)、速度も勢いづくと時速200キロに達することがあります。特に海上では遮蔽物がないため、どんどん速度は上がります。 規模にもよりますが、迫ってくる姿は火の津波、火の壁と言っていい代物で、遭遇した場合の生存率は限りなくゼロです。 Aso4の場合、西は軽々有明海を突破して島原を焼き払い、さらに西進して長崎、佐世保などにも達しています。北を目指した方は、北西側は福岡市や唐津市を焼き払って壱岐上陸手前で停止しますが、北東に進んだ方は周防灘を楽々渡海し、山口市を突き抜けてしまっています。 これらの地域には1000万人を越す人々が住んでいますが、阿蘇山がAso4の規模で噴火した場合、発生から数時間の内に火砕流に飲み込まれるため、最悪1000万人が全滅の憂き目をみることになります。 また火山災害は火砕流だけではありません。大量の火山灰の降灰もあります。 火山灰は積もれば家屋の倒壊やラハール(土石流)を発生させます。Aso4の時の降灰は、本州四国、北海道、そして朝鮮半島にも及んでいます。九州から遙か遠い北海道でもAso4の地層は現代でも15センチ以上の厚さとなっており(恐らく噴火直後には40センチ以上は積もっていたのではないかと思われます)、沖縄と鹿児島、南宮崎を除く日本列島全部が阿蘇の火山灰で埋没してしまったと言っても過言ではありません(そのため、Aso4地層は年代測定の重要なものさしになっています)。日本列島は雨のたびに土石流が発生する危険地帯になってしまうことになります。当然日本の経済産業は壊滅し、国家そのものの存続も難しくなるでしょう。 さらには、成層圏まで舞い上がった火山灰は、ジェット気流に乗って地球を覆い、太陽光を遮断し地球規模の寒冷化も引き起こします。北半球は平均3Cは下がると思われます。 「なんだ3Cか」と思う方もいるかも知れませんが、あくまでも平均値です。平均3下がるとなれば、北海道・本州間は流氷が凍結して年中離れなくなるでしょうし、「夏」という季節は10年ぐらいやってくることはないでしょう。北半球の農業地帯は壊滅状態となり、世界的に億人単位で餓死者・凍死者が出ることになるでしょう。今もしAso4規模の噴火が起きれば、人類社会は滅亡の縁に立たされると言っても過言ではありません。 もちろん、この話は9万年前のAso4を現代の地図に当てはめただけのifであり、阿蘇山に破局噴火の予兆はありません。21世紀を生きる人たちがこの災害に遭遇する可能性はまずないでしょう。しかし10万年先の人類までには、ほぼ確実に遭遇している災害でもあります。 最後は足の裏がむずむずしてしまいそうな話になってしまいましたが、阿蘇山はそんな地球そのものの息吹を感じるが故に文豪だけでなく多くの人々も惹かれるのだと思います。 そんな予備知識を持ちつつ、阿蘇の自然を堪能してみるのも楽しいかなと思います(う、苦しいまとめだ)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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