ワインを一杯いかが?隣のベランダに靴が干してある。降り注ぐ太陽の光を体いっぱいに浴びてとても気持ちが良さそうだ、とは思えない。 その靴はぐっしょりと濡れていた。 靴の外だけではなく内側までも、とにかくぐっしょりと濡れていたのだ。 時折、思い出したようにポタポタと雫が垂れる。 おそらく昨日の大雨で濡れてしまったのだろう。 隣の少年はよく、いかにもサッカー的な服装をしてどこかへ出掛ける。 昨日も雨の降りしきる中、サッカーをやり続け、この有り様になってしまったのだ。 僕はその靴をじっと見つめて、儚い推測を続けた。 しばらくして、僕は起き上がってリビングに行くと、熊のぬいぐるみが床に転がっていた。 昨日彼女が置いていったものだ。 茶色の生地の真っ黒な目を持つ熊のぬいぐるみ。 何も見ないし何も見れない目。 どうしようもない哀れみを感じた僕はそれをゴミ箱に投げ捨てた。 そして、洗面所に行き、顔を洗った。 リビングに再び戻ると、ピーターラビットがそこにいた。 「やあ。」 とピーターラビットは言った。 「やあ。」 と僕は言った。 「今日はいい天気だ。トンボの羽が千切れるくらい本当にいい天気だ。」 「そうだね。トンボの羽が千切れるくらい本当にいい天気だ。」 確かに、そんな天気だった。 青い空は、はちきれるくらい膨らみ、無様な格好で浮かんでいた。 雲は原型を忘却の彼方に捨て、融合と決裂を繰り返していた。 「この目がね、いかすだろう。」 とピーターラビットは言った。 黒くてまん丸い大きな目。 僕は何も言わなかった。 「にんじんでも食べるかい。」 と僕は言った。 「けっこう。もう拝借した。」 冷蔵庫を見ると、中身が散乱していた。 人間が腹に銃弾を食らったように、内臓が飛び出してしまったように。 僕は一人椅子に座り、コーヒーを飲んだ。 彼はそんな僕をしばらく眺めて、オレンジジュースをコップに注いだ。 彼はサイズの大きな白のワイシャツを着ていた。 しわ加工とまで疑われるほどのしわを持ったワイシャツ。 「血ってさ、あまり美味しくない。」 と彼は言った。 「ふうん。」 と僕は言った。 |