コスモス気付いた時、僕は月に座っていた。僕は目を開いたまま寝ていて、目を開いたまま起きたのだ。 何処を見ても輝く星々しか見えない。 僕が座っているのはゴツゴツとした岩肌のような月のクレーターの淵。 鉱石が、光をいくつもの方向に反射させ、幻想的な空間をさらに色づける。 時折凄まじい破壊音を轟かせて彗星が頭上を去っていく。 彗星には青白い光の尻尾があり、残り火のように静かに消えていくのだ。 月の輪を形作るいくつもの岩石は、互いに自己を主張し合い、粉々になってやみに吸い込まれていった。 僕が出している酸素もあっという間に闇に溶ける。 僕は静かに笑った。 僕は今まで何をしていたのだろう。 毎日のように学校に通い、毎日のように会社に通った。 僕には何も残らないじゃないか。 何故なら、僕は今まで何も考えたことは無いのだから。 僕とい人間は、答え―あるいは応え―の在る問題をただひたすらこなしてきただけなのだ。 来る仕事を消化していけば全て上手くいったのだ。 必要なものを買って必要なものを売れば会社の経営と言うものは簡単に済んでしまうものだったのだ。 ある意味勉強が出来るやつと言うのは平凡な人間ではないだろうか。 彼らは口から新しい言葉さえ出す方法さえ分からないのだから。 僕は暫く笑った後、漂っている星の欠片をひとつつまんだ。 しかし、その星の欠片は僕に触れるとまるで蛍が死んでいくように儚く消えてしまった。 なにもそんなすぐに消えなくたっていいじゃないか。 僕は今はここにいるかもしれないけれど、いつかは完全にいなくなってしまうのだ。 その間だけは存在に触れさせてほしい、と思う僕は異常だろうか。 月の土は乾いている。 いくら手ですくっても、全て指の間からこぼれていってしまうのだ。 まるで人間だな、と僕は思った。 取り敢えず僕は立ち上がって大きな声で叫んでみた。 もちろん声は出ない。 媒介が無いんだから、どうしようもないじゃないか。 「ただいま。帰って来たよ。」 僕は彼らに呟いた。 しかし、星たちは自らの光を増すばかりで何も応えてはくれない。 やれやれ、と僕は思った。 君達が望んできたことを全て叶えてやったら、最後には捨てられてしまったんだよ。 僕は振り返って、遥か彼方に浮かんでいる地球と言う星を見た。 青い綺麗な星だ。 でも、もう僕は要らないな。 僕は再び振り返って、今度は太陽を睨んだ。 そして二つの眼球を焼いた。 凄まじい苦痛だったが、僕は全てを受け入れるよ。 地球の周りを回り続ける月。 僕らはゆっくりと彼らから離れていく。 ゆっくりと、生クリームが溶けるように。 「おかえり。」 と僕は言った。 |