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カテゴリ:アラビア語
「イスラーム世界のことばと文化」(佐藤次高・岡田恵美子編著)(成文堂)という本を年末にAmazonに注文していたのですが、在庫がなかったらしく、年初に届きました。イスラーム言語・文化の専門家14人の共著です。
本の構成は「イスラーム世界への旅」、「イスラームの言語と文化」、「イスラームの文化と芸術」、「異文化の中のイスラーム世界」の4つのジャンルに分けられ、それぞれの著者が15~20頁ぐらいの文章を書いています。必ずしもそれぞれの専門分野でないところでイスラームについて書いている部分があります。もちろん、全くイスラームの素人が書いた訳ではないので、専門外の分野でもおかしな指摘ではなく、逆に余り専門的すぎず面白く分かりやすいものになっています。 例えば、「イスラームの言語と文化」の中の『メディアのアラビア語』という題名で保坂修司氏(近畿大学教授、アラビア現代史専門)が現代アラビア語についていくつか指摘されています。 アラビア語はコーランの時代から現代までその文法構造は余り変わっていないような印象がありますが、彼は現代アラビア語はかなり変化していると言っています。 『現代アラビア語と正則アラビア語ではまず、語彙が違うこと、そして現代語は文法を大幅に簡略化している』 語彙が異なるのは当然のこととして、文法も変わりつつあるということです。主語を文頭に持ってきたり(主に見出しですが)しています。表記の仕方も変わってきています。例のビン・ラーデンという名前ですが、アラビア語をかじったことがある方には、これはイブン・ラーデンのことだと分かるのですが、実はアラビア語でもビン・ラーデンと表記されているとのことです。また、そちらの方がフツーになりつつあるとのことです。更に、現代文では関係代名詞を頻繁に使うようになったとも指摘されています。 アラビア語にも日本の国語研究所にあたる”アラビア語アカデミー”という組織がアラビア語標準化の作業を担っているのですが、現実ではメディアが先行しているという状況になっているということです。但し、その引っ張り方が必ずしも統一性に欠いているという指摘もあります。 『アラブ人たちがしゃべるフスハーとは厳密な意味でフスハーとは異なる言語、つまり「メディアのアラビア語」である。『フスハーとはある程度教養ある人のあいだでの共通言語、フスハーは公的な(パブリックな、あるいはオフィシャルな)アラビア語、一方のアーンミーヤを私的な(プライベート)アラビア語と考えた方がすっきりする。』と言われています。 どんな言語も時代によって変化してきていますが、クルアーンという余りに偉大な聖典の担い手になってしまい、少しの変化も許されないような雰囲気の中、身動きがとれなかった正則アラビア語が近年になってようやく変化の速度が上がってきたということでしょう。なぜそうなったのかその理由はよく分かりませんが、少し国際語への動きが出てきたのでしょうか、それとも比較的シンプルな文法の英語に引っ張られてきているのでしょうか。 まあ、正則アラビア語も分かりやすいアラビア語になりつつあるということで、アラビア語を勉強している人にとってはほんの少し朗報かも知れません。 この他にも面白い読み物があります。2,940円と少し高い本ですが、専門書と一般書の中間ぐらいの内容ですので、読みでがあります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.01.19 14:20:15
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