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「またかよ」舌打ちしながらヤマザキ君が戻ってくる。 「どうしたの?」僕は業務日誌に点検印を押しながら言う。 「例のロッカーですよ、西口の」ヤマザキ君がうんざりした表情で、 小さな応接テーブルの上に、バサッと封筒を放り投げる。 「なんなんですかね?俺らに嫌がらせですか」 「まさか」と言いながら、僕はヤマザキ君の顔を一瞥してから テーブルの封筒に目を移す。 彼が言う通り、ここ何か月かの間に時々ロッカーに預けられたまま、 預け主の現われない封筒と同じもののようだ。 ヤマザキ君の表情には、俺は関わりたくないっすよと書いてある。 確かに、この意味不明な預かり物のせいで 報告書類作りに手間がかかるうえに、 ターミナルビルの管理会社からは現場の手落ちのように 突付かれるのだ。 「で、今日のお宝は?」 「いつもと同じっすよ」ヤマザキ君はそう答えて、 封筒の中身をトランプの手品のようにテーブルに並べてみせる。 写真。ただし、普通のプリントよりも大きな、 なんて言うのかは知らないけれど、よく刑事ドラマなんかで 「この写真に見覚えはありませんかね」と聞き込みに使うような 大きさの写真だ。 「ストーカーじゃないんすか、やっぱり」ヤマザキ君が 帰り仕度をしながら言う。 「おんなじマンションの写真ばっか撮って、馬鹿じゃねえの?」 「まあ、いろんな奴がいるから」 そんなことは彼も分かっていることだけれど、僕はそう言う。 他になんて言えばいいのだ。 コインロッカーといっても、まともな使われ方ばかりじゃない。 どうみてもゴミのようなガラクタが押し込んであるのは しょっちゅうだし、300円で処理できるのなら安いものかもしれない。 僕がじぃっと写真を見つめていると、 ヤマザキ君は何か言いたげな表情を浮かべながら「じゃっ」と 言って帰っていく。 取り残された僕は、ルノワールのリサイクル品のような ソファに埋もれて眼を閉じる。 同じように取り残された、引き取り手の現われない 荷物たちのことを僕は思う。 所有されているわけでもなく、完全に捨てられたわけでもなく 宙ぶらりんな状態に置かれているものたちのことを。 伊勢丹の包装紙に包まれたままの銀のスプーン。 紙袋に無造作に放り込まれたウィッグ。 花火セット(遊ぶ時は必ずバケツをして用意して大人の人と楽しみましょう)。 彼らは互いに何も喋らず、無言の夜を越えていく。 彼らはみんな、僕にはどうすることもできないことを知っているのだ。 そのことを考える時、僕の夜は一層深くなる。 やがて、コインロッカーに雨が降り始める。 コインロッカーに降る雨のことを知らずに眠る君の目にも涙 [+コトバを抱いて眠る+]カテゴリの最新記事│<< 前へ │一覧 │コメントを書く │ 一番上に戻る │ |
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