秘密の場所に住むアントニオじいさん
2018年11月の現地訪問の旅の報告をしていなかったので、忘れないうちに、私の心に残る場所の話を記しておこう。【秘密の湖へ】その場所はモトタクシーで集落から1時間半くらいだっただろうか。ベロニカの夫のダビッが運転するモトタクシーは何度も止まりエンジンをかけ直しながら未舗装のひどい道路を走った。メスチソ(混血の移住者)が勝手に畑にしたという荒れた地の後、郷土料理のファネというチマキのような料理に使う葉(ビハウ)ばっかりがキラキラと巨大に揺れる見たことない畑が続いていた。【外国人の侵入者】おじいさんの家に車を置いて、歩いて細い道を抜けていくと、目の前がパッと広がって湖に出る。ほとりにたたずむこの大きな木が私は大好きなんだ。到着するなりおじいさんが世間話を始めた。外国人なども滅多にこないはずのこの湖に、グリンゴ(白人)カップルが来て、何やら湖のほとりにテントを張って生活を始めたと。この地をすっかり気に入ってしまったらしく、昼間は女も男も素っ裸で湖で泳いでいたんだ、とケラケラと笑った。グリンゴのカップルはなかなか出て行かず、ある日、この湖の入り口に住んでいるアントニオじいさんのところに来てこの土地が気に入ったので売ってくれと言い出したという。ベロニカに言わせると、外国人が住み着くと、自分たちだけの土地のように囲いを作り、所有化するため、みんなが自由に来て魚を釣っている湖でも、入り口に門ができて誰もが訪れることができなくなるだろう、とのこと。とんでもないことだ。何てこったと思って聞いていたら、おじいさんの話は続いた。ある日とんでもない暴風雨があって、湖の水位が上がり、グリンゴたちのテントも潰され水浸しになった。何日も雨が続き、それは恐怖でしかなかったそうだ。それでグリンゴたちは住み続けるどころではなく、息絶え絶えに荷物をまとめて出ていって、もう戻らなかったそうだ。そんな話をして笑っていた。そこがおじいさんの土地のはずもないが、このじいさんは、明らかに、この土地をみんなのものとして守ろうとしているようだった。訪れる人がたまにいるが、おじいさんがまず尋問して、何しに来たか、魚を獲るつもりなのか、などまるで管理人のように確認している。ベロニカの旦那のダビはこの人と長い付き合いなので安心だった。先住民の住居地に外国人が侵入することは御法度だ。だが、ここは実はシピボ族の集落ではないんだ。おじいさんもシピボ族じゃないし、どこから来たのか誰も知らない。【なんでもある。自給自足とは】船も漕ぐためのオールも、当然手作りで。それで仕留めるほど大きな漁ではなかったので内心がっかりだったのだけど。獲れたのは、仕掛け網にかかった小さな魚ばかりだった。だけど、とにかく何かしらの魚は必ず取れるため、街へ行かなくとも腹が減って餓死することもなさそうだ。写真を改めて見ると、人の家の中のものを隅々まで観察してるみたいで悪いと思うのだけど、その時全く見えなかったものが全部見える。ちゃんと組まれた茅葺き(椰子の葉)の高い天井、いろいろなものがぶら下がってること、おじいさんが座ってるハンモックが、漁をする時の網で、両端をロープでぶら下げているだけで完結していること、床の下に鶏もいたことなど。ごちゃごちゃ物があるようだが、ベロニカが言うに、最初に住み始めた時、家もなければ鍋もハンモックもない何もなかった。そこで暮らしていたと。ベロニカたちが鍋や色々なものを持ってきてあげたという。一体何者なんだろうか。とっても気になる。こう見えて、実は、分かりやすく的確な話をし、すっごい冴えてる頭の良さそうな人物なんだ。【木の実を食す森の自給自足】カカオを食べた跡がそこらじゅうに散らばる。食べると言っても、種の周りにまとわりついた繊維質の白くて甘い水分をしゃぶるだけだからお腹にたまらない。動物が食べた跡だろうか、分からないけど、この類の果肉の少ない木の実がそこらじゅうに落ちていた。それらを食べて暮らしているとしたら・・・・そういう自給自足してる人を知らなかったので、なんかすごいなあと思ったんだ。木の実が好きで、その実りや種のことが、ただ好きな私は、それらが散らばっているのがワクワクした。ベロニカがじいさんの家の鍋を借りて、魚のスープを作るといった。最後に調味料として、「レモンないわよね、持って来ればよかったー」すると、「そのへんに実ってるだろ、レモン」確かにあるよ。今度は「クラントロ(パクチー)があればよかったんだけど」すると「そのへんにあるだろ」野性のクラントロはより香りが強かった。本当になんでもそのへんにあるのだった。魚は鱗をとって、洗ってから、塩をたっぷり擦り付けて持ち帰ることになった。炎天下を持ち帰るために。本当はもっと色々な魚がとれた。魚つりの様子はまたの機会に詳しく続きを書きます。多分、そのうちに。