【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

近代日本文学史メジャーのマイナー

近代日本文学史メジャーのマイナー

Calendar

Archives

Recent Posts

Freepage List

Category

Profile

analog純文

analog純文

全て | カテゴリ未分類 | 明治期・反自然漱石 | 大正期・白樺派 | 明治期・写実主義 | 昭和期・歴史小説 | 平成期・平成期作家 | 昭和期・後半 | 昭和期・一次戦後派 | 昭和期・三十年代 | 昭和期・プロ文学 | 大正期・私小説 | 明治期・耽美主義 | 明治期・明治末期 | 昭和期・内向の世代 | 昭和期・昭和十年代 | 明治期・浪漫主義 | 昭和期・第三の新人 | 大正期・大正期全般 | 昭和期・新感覚派 | 昭和~平成・評論家 | 昭和期・新戯作派 | 昭和期・二次戦後派 | 昭和期・三十年女性 | 昭和期・後半女性 | 昭和期・中間小説 | 昭和期・新興芸術派 | 昭和期・新心理主義 | 明治期・自然主義 | 昭和期・転向文学 | 昭和期・他の芸術派 | 明治~昭和・詩歌俳人 | 明治期・反自然鴎外 | 明治~平成・劇作家 | 大正期・新現実主義 | 明治期・開化過渡期 | 令和期・令和期の作家
2017.01.16
XML
カテゴリ:昭和期・新戯作派

  『夫婦善哉』織田作之助(岩波文庫)

 例えばこんな小さなエピソードのまとめ方。

 よくよく貧乏したので、蝶子が小学校を卒えると、あわてて女中奉公に出した。俗に、河童横丁の材木屋の主人から随分と良い条件で話があったので、お辰の顔に思いがけぬ血色が出たが、ゆくゆくは妾にしろとの胆が読めて父親はうんと言わず、日本橋三丁目の古着屋へ馬鹿に悪い条件で女中奉公させた。河童横丁は昔河童が棲んでいたといわれ、忌われて二束三文だったそこの土地を材木屋の先代が買い取って借家を建て、今はきびしく高い家賃も取るから金が出来て、河童は材木屋だと蔭口をきかれていたが、妾が何人もいて若い生血を吸うからという意味もあるらしかった。蝶子はむくむく女めいて、顔立ちも小ぢんまり整い、材木屋はさすがに炯眼だった。(『夫婦善哉』)

 文のテンポには、もちろん独特のリズム感があります。でもよく読めば、流れるがごとき名文とまでは行かないような気がします。二文目の冒頭の「俗に」という言葉は、どこに掛かっているのかよく分からなかったりします。
 しかし最後の一文は、いかにも上手ではありませんか。
 主人公「蝶子」の魅力を描くだけでなく、嫌われ者らしい「材木屋」の人格にも深みを与えています。

 本短編集の解説に各作品の初出年月が記されているのですが、この『夫婦善哉』は昭和十五年四月となっており、これも解説に書かれてある実質上の処女作『雨』の昭和十三年十一月からわずか一年半しかたっていません。
 一年半でここまで上手になるんですねぇ。

 太宰治と、どちらが上手でしょうかね?
 いえ、ここに太宰を出してきたのは、もちろん同時期の作家で、どちらも文学史の上では「新戯作派」と並び称されているからでありますが、(「新戯作派」といえばもう一人、坂口安吾も有名人ではありますが、私の偏見かもしれませんが、小説に絞って述べれば安吾には「白痴」以外にあまり上手な小説はないんじゃないかとこっそり思っているからでありますが、)……うーん、面と向かって両者を比べてみると、これは、まぁ、やっぱり太宰治の勝ちかなという気がします。

 ほぼ同時期の(小説家として同じくらいのキャリアの長さとして考えても、)短編小説としての完成度にはかなり差があるように思います。
 本短編集に収録されているの作品(14作あります)の半分くらいは構成がいびつか、そこまで言わないまでも、展開がたどたどしい感じがします。

 (このたどたどしさはいったい何なのでしょうかね。わたくしこっそり思うに、伏線の張り方が下手なんじゃないでしょうかね。唐突な、かつ纏まるところのないエピソードが結構書かれてあったりします。)

 という風に見ていたら気が付いたのですが、この時期の織田作作品の中では「夫婦善哉」だけが(ほとんど奇跡のように)抜きん出てできが良く、その他の作品は習作の域をあまり出ていないんじゃないか、と。

 太宰の場合はこんなことはないですね。
 処女小説集の『晩年』の時点で、もう作品の完成度はかなり高いです。
 太宰のすべての本の中でも、この『晩年』が一番できがいいんじゃないかと言われるくらい、始めっからかなり完成されているように思います。
 これも太宰自身の文章で読んだのですが、『晩年』を出すまでに彼は衣装行李(昔の衣装ケースですね)一杯の原稿を書いたと書いていました。さもありなん。

 さて織田作に戻りますが、この短編集収録作品を抽出例と考えていいますと、第2次世界大戦が始まってから(昭和十六年以降)がどんどん良くなっています。
 だから、現在岩波文庫には本作ともう一冊、戦後の織田作の短編を中心にまとめた『六白金星・可能性の文学』がありますが、個々の作品のできはそちらの方がずっといいです。

 最後にもう一つ、小説のストーリーのことで気になる所があるのですがね。
 「夫婦善哉」の主人公夫婦に典型的に見られる生き方、つまり店を始めては遊んで潰し、また店を始めては遊んで潰しまた始めては遊んで潰しという懲りない生き方は(遊ぶのはもっぱら男の方ですが)、これはかなり、リアリティというか、感情移入のできる話しであるのでしょうかね。
 (ついでに触れておきますと、今回の文庫本の解説でわたくし初めて知ったのですが、「夫婦善哉」の夫婦にはほぼ完璧にモデルがあって、それは織田作の姉夫婦だということでした。へー、なるほどねー。)

 それにしても、この生き方の「懲りなさ」は、太宰作品にはありませんね。太宰はもっと「クラい」です。(もちろん、だからダメだなんてはまるで言っていません。)
 一方織田作作品の主人公達のこの生き方には、絶望を突き抜けた向こう側に思わぬ空間が広がっていたという感じがします。
 それは織田作作品の大きな魅力であります。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017.01.16 17:37:02
コメント(0) | コメントを書く
[昭和期・新戯作派] カテゴリの最新記事


PR

Favorite Blog

唐組 第73回公演『… New! シマクマ君さん

『鬼怒川』有吉佐和子 ばあチャルさん

Comments

aki@ Re:「正調・小川節」の魅力(01/13) この様な書込大変失礼致します。日本も当…
らいてう忌ヒフミヨ言葉太陽だ@ カオス去る日々の行いコスモスに △で〇(カオス)と□(コスモス)の繋がり…
analog純文@ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
√6意味知ってると舌安泰@ Re:草枕と三角の世界から文学と数理の美 ≪…『草枕』と『三角の世界』…≫を、≪…「非…

© Rakuten Group, Inc.