『街角の入り口』から読む 『逢(お)う魔が時』という言葉がある。 元々は『大禍時(おおまがとき)』が転じた言葉といわれているが、日が暮れかかり周りが薄ぼんやりとしか見えなくなった時、一番大きな禍が起こりやすい時間帯という意味だ。 夕日の残照が目の前ののっぺりとしたビルの一片を紅く染め上げ、全てのものを焼きつくし闇に変えてしまおうというその瞬間、確かに何か得体の知れない魔に遭遇しそうな気が起こる。 いつもは真っ暗になってしか通らないその道を元谷は落ち着かない面持ちで足早に歩いていた。 普段は車が時折通り過ぎる以外、全く人通りのない界隈に、突如として前方のビルの横から多人数の人々が現れた。 その人たちは一同に無言のまま元谷の方に向ってくる。 一見団体のようにも見えたその人たちは、バラバラに広がって元谷の脇を通り過ぎる。 もしかしたらそれは別に妙な光景ではなかったかもしれない。 そう、その人たちが出てきた先が定時に終わる会社か、電車が到着したばかりの駅ならば… 駅…そういえば前方のビルは昔モノレールの駅舎だった。 元谷がまだ物心が付く頃までは走っていたらしいが、赤ん坊の頃乗ったことがあると両親から聞かされたことはあったが記憶にはない。 開業から僅か10年足らずで廃線になってしまったそのモノレールは、幻のモノレールと市民から呼ばれていた。 前方のビルの3、4階部分が駅になっていて、モノレールの軌道の一部分がビルから約100mほど今も延びている。 マンションになっているそのビルの上階にはまだ住人たちが生活してるのだろう。 しかし不思議なことに、元谷はそのビルから人が出入りしてる様子を見たことがなかった。 元々人通りの少ないこの通りだけに、今日のこの突然の人の群れの出現を不可思議に感じたのも無理はない。 また時間帯が魔と出逢ってしまいそうな黄昏時であったことも、その奇妙さに輪をかけてしまったのかもしれない。 元谷はそう自分に言い聞かせて、もういつものようにひっそりと人気のなくなったビルの横を通り過ぎた。 辺りはもう夜の帳が下り切っていた。