|
|
|
|
| HOME | Diary | Profile | Auction | BBS | Bookmarks | Shopping List |
│<< 前へ │次へ >> │一覧 │コメントを書く |
省兵が支那の旅順工科大学へ進学して1年が経ったある日。 大学の休みを利用して、省兵は上海を訪れていた。 華やかな極東のヨーロッパを見て回った後、省兵はイギリス人居住区の中のカフェに入った。 省兵は明るいカフェテラスの窓際にいる女性を見てハッとした。 明るい髪の人間の集う中、その女性だけは艶やかな黒髪だった。 しかし省兵を驚かせたのは、そのことではなかった。 年はまだ10台の半ばくらいに見えるその少女の顔は、若い頃の母の顔にそっくりだったのだ。 省兵は考える間もなく、少女に近づき声を掛けた。 「失礼ですが、日本人ですか?」 しかし彼女に言葉は通じず、少女は振り返ってきょとんとしたまま省兵の顔を見上げるばかりだった。 省兵は少し考え、5歳の頃まで話していた片言の英語で言い直した。 彼女はそれに流暢な英語で答えた。 自分は訳あってイギリスで生まれ、そのままイギリス人夫婦に預けられ、育てられたが、本当は日本人だと… その答えを聞いて、省兵は抑えがたい興奮と期待を覚えた。 「もしや、君の名前は『アキコ』では?」 省兵は高鳴る胸の鼓動を必死で抑え、訊ねた。 少女はとても驚いたような表情を見せ、「yes」と答えた。 省兵は自分の名前を明かした。 明子は養い親から本当の家族の話を聞いていたようだった。 突然の思いがけない再開に、二人は涙を流して抱き合って喜んだ。 その後、そのカフェで待ち合わせをしていた明子の養母がやってきて、省兵はそのまま彼女たちが住んでいるフラットへ招待された。 そこで詳しい話を聞くことができた。 第一次世界大戦後、明子の養い親は明子を日本の家族の下へ返そうと、省兵の父親に連絡を取ろうとしたらしい。 しかしその時すでに省兵の父親は亡くなっていて、その家族も行方知れず。 仕方なくそのまま明子は養い親の許で育てられることとなった。 省兵の家族と連絡が取れなくなった背景には、省兵の父親が創った貿易会社はすでになくなっていた事にあった。 省兵の父親の会社は、秘密裏に軍の命を受け、イギリスとの取引に関わっていたことが、あの対戦で軍と対立することになってしまった政府の怒りをかい、立場上苦しいところへ追いやられてしまった。 その上、跡を継いだ叔父が、金輪際軍の密命を受けることはしないと明言したため、軍からも睨まれることとなり、貿易業からは手を引かなければならない状態になってしまった。 叔父はその会社の資金を元手に、今まで自分が手がけてきた化繊工場の事業を拡張し、そちらの方面で事業を展開していった。 一方、明子の養父も貿易商を営む商人で、1年ほど前にこの上海へやってきたそうだ。 イギリスの家族はとても親切で、明子は本当の家族の顔を知らない寂しさ以外は、何不自由なく育ったようだった。 省兵は残りの休日を明子たちと過ごし、すぐさま日本の母親の許に書簡を送った。 母は泣いて喜び、すぐさま迎えに来ると言ったが、実家に身を寄せている身では難しかった。 明子はもう暫くイギリス人の家族の下へ預けられ、旅順と上海は遠く、なかなか会えなかったが、それでも時間の許す限り二人は行き来し、14年の溝を埋めようとした。 省兵は妹と話すため、再び英語の勉強を熱心にはじめた。 To be continued... ![]() ついでにコチラもポチッとお願いします→ ![]() 掲示板の方でぶちぶち独り言も呟いていますので、お暇だったらお付き合いくださいませ。 [連載小説]カテゴリの最新記事
│<< 前へ │次へ >> │一覧 │コメントを書く │ 一番上に戻る │ |
|