『街角の入り口』から読む 元谷(もとや)はその日、珍しく残業もなく定時で退社することが出来た。 不景気の呷りを受けたままの会社は、社員全員を正社員から外し、フレックス制を敷いたにも関わらず、時間外であっても関係なくサービス残業が延々と続く毎日だった。 予想できなかったわけではない。 不景気で単価が下がっていても、仕事の内容が減るわけではない。 今までと同じだけの仕事量をこなさなければならないのだ。 結局いつも貧乏くじを引くのは弱い立場の一個人だ。 そんな職場だったので、途中で身体を壊してしまう人間も少なくなく、脱落していった人間の穴を埋めるために、残された人間にその負担が掛かってくる。 そういう日々だったので、職場の中もだんだんと暗く陰鬱になって、出勤も精神的に苦痛に感じきていた。 政府は何とか景気回復をアピールしようとしているが、どこを見ればそんな明るい光の一筋でも見えるのか、元谷は激しい怒りを旨の内に隠しながら家路を急いでいた。 以前はマイカー通勤をしていた元谷だったが、会社がそんな状態になり、少しでも負担を軽くしようと維持費の掛かる自家用車を手放し、電車通勤するようになっていた。 駅から家までは20分掛けて徒歩だ。 自転車という手もあるが、駐輪場を借りるにもお金が掛かる。 普段運動をする機会がない分、これで運動不足解消ができると考えたら悪くはない。 そう自分に言い聞かせて、元谷は毎日歩いていた。