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第7官界彷徨

第7官界彷徨

ダム問題をめぐる情勢その2

2013年5月8日

=千葉県自然保護連合はきのう(8日)、八ッ場ダム問題で千葉県の担当課と交渉しました。県は水政課5人、河川整備課2人が出席です。

 最初に、県知事あての要望書を提出しました。
 要望書は、八ッ場ダム予定地の地域再生や生活再建に尽力することや、八ッ場ダム建設事業からの撤退、総合治水対策への転換を求めています。

 そのあと1時間半にわたって意見を交換しました。やりとりの
一部を紹介します。

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◎ダム予定地の地域再生や生活再建に尽力を

◇自然保護連合
 現地は疲弊の一途をたどり、住民は苦境に立たされている。千葉県もダム予定地の地域再生や生活再建に尽力してほしい。

◆県
 現地は付け替え道路や代替地の整備が着々と進んでいる。また、「道の駅 八ッ場ふるさと館」が4月27日に開業し、にぎわっている。
 川原湯温泉で営業している旅館は現時点では4軒だが、もうす
ぐ1軒が再開することになっている。
 ダムの早期建設が地域再生や生活再建につながると考えている。

◇自然保護連合
 代替地に新しい温泉街ができる予定になっているが、温泉街のイメージとはほど遠い感じがする。従来は大自然に包まれた温泉だったが、代替地はそんな感じがしない。経営者たちも先行きに不安を抱いているようだ。

◆県
 代替地にできる予定の温泉街は、旅館経営者たちが作成した構想にもとづいている。


◎これ以上の水資源開発は不要

◇自然保護連合
 千葉県の人口は減少に転じた。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、本県の2040年の人口は535万人で、2010年(621万人)に比べ14%も減少するとされている。工業用水の契約企業も減少傾向が続いている。本県の水需給はいまでも水余りである。水需要は増えないので、これ以上の水資源開発は不要である。

◆県
 人口推計は、さまざまな条件や仮定にもとづいて作成されたものなので、誤差が生じる。不確定なものだ。
 また、水は必要不可欠なので、十分に確保することが必要だ。


◎ダムによらない総合治水への転換を

◇自然保護連合
 本県の真間川流域では、全流域を考慮する総合治水対策が大きな効果をあげている。利根川の治水においても、ダム依存ではなく、遊水地増設など総合治水対策への方向転換が求められている。

 国土交通省が作成した利根川・江戸川河川整備計画(案)を見直し、総合治水対策を取り入れた利根川水系河川整備計画を策定するよう、国交省に働きかけてほしい。

◆県
 国交省関東地方整備局が八ッ場ダムを検証し、治水面の比較検討をした結果、八ッ場ダムの治水効果がいちばん大きいということになった。
 また、国交省は利根川流域で総合治水対策を進めるとしている。総合治水にはダムも含まれる。

◇自然保護連合
 八ッ場ダムの計画策定から60年以上がたつ。この間にさまざまな検討や努力、見直しがされている。そうしたものを無視し、「ダムありきの総合治水」を進めるというのは納得できない。過去の治水対策をしっかり検証してほしい。

◆県
 利根川では、ダムをはずした総合治水はありえない。ベストミックスをめざす。

◇自然保護連合
 ダムは自然や景観、文化、住民の暮らしを大規模に破壊する。また、八ッ場ダムは計画から60年以上たっても着工できない。だから、私たちはダムによらない総合治水対策を求めている。

 千葉県は、構造物によらない総合治水対策を真間川流域で先進的に実施している。また、「水需要の低迷で新たな水源開発は必要ない」とし、2000年は追原ダム計画、2011年は大多喜ダム計画をそれぞれ中止した。
 そういう経験を利根川にも取り入れてほしい。

◎利根川の放射能汚染が心配

◇自然保護連合
 利根川の水が放射能に汚染されることを心配している。利根川からの取水を減らし、地下水の使用を増やしてほしい。

◆県
 地下水は有限だ。やはり表流水が重要な水源となる。


◎地すべりの危険性と事業費の増加

◇自然保護連合
 八ッ場ダムが建設されると地すべりの危険性が高くなる。地すべり対策費など、八ッ場ダム事業費の増加が確実視されている。
 以前、事業費が2110億円から4600億円に増えたとき、県の負担金も増額した。さらに事業費が増えた場合、県の負担金もさらに増額するのか。

◆県
 仮定の話には答えられない。国交省からはなんの話もない。

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 以上です。
 話し合いは今後も続けることを確認しました。

 以下は、きのう提出した要望書です。


***
                  2013年5月8日


 千葉県知事 森田健作 様

                 千葉県自然保護連合
               

  八ッ場ダム建設事業と利根川の治水対策に関する要望書

 平素より県民のためにご尽力くださり、厚く御礼申し上げます。
 さて、群馬県長野原町の利根川支流・吾妻川に計画されている八ッ場ダムは1952年に計画されました。以来61年たちますが、本体着工にいたっていません。今後も工期延長や事業費増額が不可避とされています。

 八ッ場ダムのうたい文句は「現地再建方式」(ずり上がり方式)でした。
 新しくできるダム湖の湖畔に代替地を造成するというもの
です。しかし、代替地整備の遅れなどにより現地は疲弊の一途をたどり、住民は苦境に立たされています。また、首都圏の人口が減少に向かうなど、八ッ場ダムをめぐる状況は一変しています。治水対策も、ダムに依存するのではなく、流域全体を考慮する総合治水対策が求められています。

 こうしたことから、八ッ場ダム建設事業を推進してきた千葉県に対し、以下のことを要望します。


1.八ッ場ダム予定地の地域再生や生活再建に尽力してください。

 この10年間、水没5地区の住民は694世帯2004人から495世帯1326人に減少しました。
 川原湯温泉街の旅館は1980年代の22軒から4軒に激減です。代替地は温泉街のイメージとはほど遠く、移転しても旅館の経営は困難が予想されます。

2.千葉県の人口は減少に転じました。水需要は増えないので、これ以上の水資源開発は不要です。後述のように、利根川の治水においても八ッ場ダムは要りません。したがって、八ッ場ダム建設事業から撤退し、今後の県負担金は水没予定地の地域再生や生活再建に回してください。

 本県の人口は2011年、県の見込みより7年も早く人口減少に転じました。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、本県の2040年の人口は535万人で、2010年(621万人)に比べ14%も減少するとされています。工業用水の契約企業も減少傾向が続いています。

3.本県の真間川流域では、全流域を考慮する総合治水対策が大きな効果をあげています。利根川の治水においても、ダム依存ではなく、遊水地増設など総合治水対策への方向転換が求められています。

 国土交通省が作成した利根川・江戸川河川整備計画(案)を見直し、総合治水対策を取り入れた利根川水系河川整備計画を策定するよう、国交省に働きかけてください。

 真間川流域においては、大柏川第一調節池や国分川分水路などが洪水時に効果を発揮しています。流域が本来持つ保水・遊水機能を維持・増進するため、国分川調節池や大柏川第二調節池の設置も推進されています。
 
 利根川においても、遊水地が洪水時に大きな効果を発揮して
います。

 利根川中流部に設置された田中調節池(千葉県柏市、
我孫子市)、菅生調節池(茨城県常総市、守谷市)、稲戸井調
節池(茨城県守谷市、取手市)の3つの遊水地の治水容量は、
現況で計1億840万m3です。八ッ場ダムの治水容量6500万m3(計画)をはるかに上回っています。

☆というものです。
 まあ、最後にこそこそ書くけど、提出した要望書について細かく調べて、こちらの言い分を一つ一つつぶしていく感じで、感じ悪かったわね。

2013年10月21日


かつて、八ツ場ダムの問題を教えてくれたNさんのMLから、西村京太郎の新作の情報がきました。

 そのままご紹介します。(Nさん無断でごめん)

 八ッ場ダムを題材にした長編推理小説が先月出版されました。西村京太郎著『十津川警部 哀しみの吾妻線』(祥伝社)です。

 長野市、静岡市、東京都内で次々と殺人事件が発生します。十津川(とつがわ)警部が調べると、JR吾妻(あがつま)線と八ッ場ダムが共通点として浮上しました。八ッ場ダム工事の利権にからんだ殺人だったのです。

■現場に行ってショックを受けた

 ブックカバーの「著者のことば」で西村京太郎はこう書いています。

《吾妻線の取材に、上野駅から特急「草津」に乗った。列車は、前に乗ったときと変らず快適だった。しかし、いざ駅に下りてみると、周囲の景色は、すっかり変ってしまっていた。古くからの川原湯(かわらゆ)温泉駅の駅舎はそのままなのに、駅の周囲には、60メートルの高さのコンクリートの塔が何本も建ち、22軒あった旅館は4軒になっていた。長野原草津口駅では、駅前にあった賑(にぎ)やかな商店街が一軒残らず消えていた。こうした変化は全て、例の八ッ場ダムのせいなのである。私の頭の中では、吾妻線と、八ッ場とが結びついていなかったのである。現場に行ってみて、突然、その2つが眼の前で結びつき、私にショックを与えた。》

■小説の抜粋

 小説の内容を一部紹介させていただきます。
 長野市、静岡市、東京都内で発生した殺人事件について、十津川警部は共通点を見つけます。

「いずれの被害者も、以前、群馬県の吾妻線の沿線に、住んでいたこと、それは、同時に、吾妻川の近くに住んでいたことになってきます。
 吾妻線は、吾妻川に沿って、走っているからです。さらにま
た、三つの事件が、どうやら、八ッ場ダム建設に絡んでいることも分かってきました。八ッ場ダムは、吾妻川を堰き止めて造るという計画になっています。この八ッ場ダム計画は、今から60年も前の、1952年に、計画されたものですが、2009年になると、当の民主党政権が、建設の中止を決定しました。それが、2011年になって建設が再開されることになりました。

 現在までに、莫大な資金が、投じられています。その多くは、土地の買収費用ですが、それに絡んで動いたのが、経営コンサルタントを、自称している大河内昭という男です。

 この大河内昭は、用地買収に絡んで、莫大な利益を、手に入れたといわれています。そのために、大河内昭が、作ったと思われるのが、八義建設連合というトンネル会社です。
 このトンネル会社を利用して、大河内昭は、土地の買収に絡んで、政治家や土地の有力者に接触したと思われますが、表立って政治家や地元のボスが動いた記録はありません。


 おそらく、ダーティな部分は、大河内昭と、八義建設連合というトンネル会社が、一手に引き受けていたと考えられます。

 そこで、三つの事件の被害者たちと、大河内昭、あるいは、八義建設連合との間で、何らかの問題があったのではないかと私は考えます」

 長野市で殺されたのは、飲み屋の「のみすけ」で働いていた横山弥生という30歳の女性でした。弥生は吾妻線ファンクラブの会報にこんな文章を載せていました。

 タイトルは「吾妻線のファンのお願い」です。

「今日、八ッ場ダムの建設計画の全容が、明らかにされた。吾妻線ファンの、私にとっては、この八ッ場ダムが、国内最大の規模を誇るダムであり、4600億円もの、経費が投じられることなど、本当は、どうでもいいことなのである。

 私が気になっているのは、吾妻線のことだ。
 私は、中学高校の6年間、毎日、川原湯温泉駅から、吾妻線に乗って、高崎まで通っていたのである。

 列車は、美しい、吾妻渓谷に沿って走っている。通学の列車の中で、毎日、その渓谷の美しきに、見とれて、満足していた。
 今回の、八ッ場ダムは、その吾妻渓谷の流れを堰き止めて、ダムを、造るという。つまり、あの美しい吾妻渓谷が、ダムの底に、沈んでしまうのである。

 そうなれば、吾妻渓谷に沿って、走っている吾妻線だって、吾妻渓谷が、ダムの底に沈めば、いっしょに、ダムの底に、沈んでしまうことになるだろう。

 私が毎日、吾妻線に乗る川原湯温泉駅の場所だって、ダムの底に、沈んでしまう筈(はず)である。
 私が毎日、友だちと一緒に、そのホームで、電車を待っていた、川原湯温泉駅の建物だって、どこかに、動かされてしまうだろう。
 私たちが愛した吾妻線は、いったい、どうなってしまうのだろうか?
 ダム建設によって、変更される吾妻線の簡単な路線図を、見たことがあるが、はっきりとした新しい路線図は、まだ出来ていない。

 しかし、私には、はっきりと、分かっていることがある。
 それは、今までのように、吾妻渓谷の美しさを、車窓に眺めながら、吾妻線の列車で、高崎まで、通学することは、できないということなのだ。
 ここに、国内最大のダムが出来たら、どうなるのか? 満々と、水をたたえた巨大なダム湖が誕生し、吾妻線は、そのダム湖の線を、遠慮がちに、走ることになるだろう。
 小さくて、古めかしい、川原湯温泉の駅は、ダムが出来ても存在する。そんな嬉しい話を聞いたが、私は、信用していない。
 
 なぜなら、新しい、吾妻線の路線が、巨大なダムの縁まで、曲げられてしまえば、あの木造の、可愛らしい川原湯温泉駅だって、当然、ダムの中に沈んでしまうに違いないからである。

 別の場所に造られる、新しい駅は、たぶん、鉄筋コンクリートの、いかにも、近代的な駅になるはずだ。
 しかし、私には、あの、木造の小さな駅のはうが、ぴったりくるのだ。だから、私たち吾妻線ファンクラブは、役所とJR東日本の高崎支社に、吾妻線の現状での存続、すなわち、吾妻線の路線を、ひん曲げたりしないこと、駅も現在のままで残し、鉄とコンクリートの塊のような駅舎には絶対にしないことを訴え、要望書を渡して帰ってきた。

 役所もJRも、私たちに向かって、はっきりと、いった。
『吾妻線は、絶対になくなりませんよ。今よりも、もっと立派な駅舎になり、近代的な鉄橋やトンネル、そして、線路が出来て、むしろ今よりももっと、スムーズに、動くようになりますよ』

 しかし、私たちは、そんなことを、要望しているのではない。今のままの、吾妻線が好きなのだ。今のままの駅舎で、満足なのだ。
 巨大なダム湖の縁を、遠慮がちに走るような、そんな吾妻線では、困るのだ。
 役所の人間も、JRの人間も、どうして、そのことを、分かってくれようとはしないのだろうか? そのことが、私を、悲しい気持ちにさせるのだ」

「吾妻渓谷と、吾妻川は、今、紅葉の盛りである。
 この美しい景色が、消えてしまうことなど、私には、想像が、できないのだが、それが現実のものになるような、コンクリートの柱が何本か、すでに、造られて、天に向かって、伸びている。

 将来、あの高さのところに橋が架かり、道路が出来て、吾妻線のほうも、それと同じように、線路が、地面を離れて、高いところに、浮かんでしまうのだろうか?
 そんな悲しいことを、考えたくもない。

 吾妻線は、春は、満開のサクラの花の中を、5月には、線の中を、今の時期は、紅葉の中を、走るべきなのだ。決して、ダムの縁を、走るべきではない。
 私は、吾妻線を見るたびに、そう、願ってしまう。
 奇跡は、起きないのだろうか?」

            *

 ☆以上引用終わり。
 Nさんによれば、西村京太郎は八ツ場について、批判的に取り上げてくれているそうです。
 ぜひとも多くの人に読んでもらいたいです!
 


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