2194616 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

第7官界彷徨

第7官界彷徨

チラウラ短歌

 2006年末、短歌の会で1日1首を詠んでみようということになった。実行できなかったが、2007年1月の歌会で、2人が挑戦した成果を持ってきた。肩の力が抜けていい感じ。
 数を作るのが大切だと思い、気楽に作ってみることにした。

・ミックスの血統持ちてわが犬は花曇りの下スキップで行く
・野の薫り立ちくるジャムは草木瓜の実の熟しくる時を思わす
・おしゃべりが過ぎれば逮捕になるかもと共謀罪を1日怖れる
・渓谷の細道に数多花落とし藤は高みに花開くらし
・過去の「過」を過ちと読むを思いおり戦争賛美を強め来る国
・摘出されし姉の腫瘍は膿盆に主張なき白き肉片にして
・夜を継いで原文で読む平安の紫式部の吐息は深し
・長いこと留守の家ありその家のポストもよけずビラ入れていく
・東路の果てに条里の名残りありふるさとはこんもりと九条塚立つ

2月
・駅前に子規の句のありこの町が戦争準備の町になる頃
・市街地用の迷彩服着て九条を罵倒する声の幼きを聞く
・九条の会の戦跡めぐりは小半日街宣車の声を従え歩く
・戦争に松脂採られし木の幹は大きくV字の傷跡を持つ
・肉弾戦の訓練をせし養成所は「学園通り」とその名を残す
・長病みし人の遺体か療養所に見送る顔に安堵の気配
・この先は墓なり春の沖縄のチビチリガマに黄の花揺れる

2008年4月
/売れ残りを買われ来し隣家の小犬なり声を出さずにしきり尾を振る
/春浅く輪廻の形に巻くショール麻混紡は陽を吸い溜める
/密やかな花見にあらず名所にて公園墓地に人ら集まる

5月
*東路に初めて下りし仏たち薬師寺展は静謐にして
*詰めかける人らを救う形して薬師寺展の御仏の立つ
*満州で軍医の過去持つ人と知りその後の厳しき生き様思う
*お別れの会の献花は折り鶴にて平和の空に飛び立つ形
*豊漁の度に新しき道出来て九十九里の村は真横に長し
*9条世界会議の会場前に人らみな旧知の如く会話して待つ
*地元なれば9条世界会議に会う人の遠き住所を眩しく聞けり
*9条スプーン9条せんべい9条緑茶も買い込みて満員の分科会に席探しおり
*初めて会うブログの友と待ち合わす9条世界会議の受付付近

7月
*急ぎ行く車の流れに追われつつもみじマークの軽トラが行く
*売国奴と糾弾されつつ帰還兵はイラクの悲惨をつぶさに語る
*少しづつ若き人らの増えてきてにぎわうこの町の9条の会

9月
*ダムに沈む村あり民家の植木鉢に花は無心に咲き誇りおり
*ダムのため千年欅は伐られいてそばに新芽の数本育つ

11月
*中身など論外として古書店にハードカバーは105円なり
*口中に渋み残るも懐かしく柿はふるさとの山を呼び来る
*縄文のはるかな時代思う行き詰まる人の歴史のこの2千年

12月
*季節ごと部屋飾りいる友の家クリスマスの頃いよよ華やぐ
*映画「蟹工船」の主役は松田龍平というこれを多喜二に知らす術なし
*山の田に稲わら燃やす煙あり秋深まれば低く流れる


2009年


8月
「野の仏」
*雨降れば沈む橋ありて八犬伝の頃の街道は今も川を横切る
*ふるさとを守る野仏あらかたは人目につかぬ道下に居り
*集落の外れに彫られし磨崖仏地層の形に衣の残る
*旅を行く人らの安寧守り来し足踏み地蔵なり踏み石窪む
*由来書きし標示の板も立てられて野仏は村おこしの役も負わさる
*分かるかしらと駅の雑踏に友待てば笑顔駈け来る少女の頃の
*華やかな来歴語るは寂しさか同窓会で出会いたる友


10月
*障害者の営む町のレストラン客たちが皆癒されており
*余命数日と宣告されし兄嫁と最初で最後の握手は悲し
*気がつけば「歩けるうちに」が合い言葉旅の計画も熱入り来る

11月
*小松菜も金町小かぶも生産地はデンマークという種子を購いおり
*真っ先にその名に惹かれ購入す九条ネギの種子はイタリアの産
*発泡スチロールの純白の箱を宇宙とし神の気分で蒔く野菜のいのち
*種蒔く人は背を伸ばし蒔き落ち穂拾いは背を丸め拾う

2010年
3月
*放送禁止されたる高田渡の特集の歌流れおり時代は進むか
*難病の妻を亡くせし人にして遺骨は日常の如く置く食卓の脇
*山村で育ちしというタイの留学生九十九里浜に歓声あげる

6月
*待合室にロック流れてこの町の歯科医院にも跡継ぎできる
*わが義歯をセットするのはプラモデルで鍛えし指か若き歯科医は
*車椅子の子どもが来れば歯科医師は少ししゃがんでハイタッチする
*海岸に工場を誘致するために県が造りし海水濾過池
*失敗に終わりて放置の濾過池は海鳥たちの楽園となる
*丸池と人ら呼びいる濾過池に全て無造作なウミウの巣あり
*無造作なウミウの巣には親鳥と同じ大きさの雛坐りおり
*ウミウの巣幾つも並ぶ木の下にハマダイコンは大きく育つ
*海風にハマダイコンの花が揺れウミウの雛の筒毛もそよぐ

7月
*いちめんの食虫植物の群生地花野は水田となりし戦時に
*近隣の農家の嫁といいながらボランティアガイドは専門用語
*言葉なく動きもせずに虫を捕るタヌキ藻は水槽の中に生き次ぐ
*花野守る歴史を語る中に聞く次の世代に手渡す決意

8月
*井上ひさしの遺影の笑顔に見守られ黙阿弥オペラの開演を待つ
*明治という時代の罪の残酷が昭和に及ぶと黙阿弥オペラ
*若きらは人気俳優の熱演に手を打ち笑う黙阿弥オペラ
*テレビドラマの日本兵は髪長けれど今の言葉で平和を語る
*靖国を書けばたちまち声あふれ若き俳優のブログ炎上す
*施餓鬼会の法話に平和を語りたる僧より受けし散華ひとひら
*故郷の老思いつつ葉の薄き法蓮草茹でる酷暑の昼に
*自らの戦争語る人多し65年目の酷暑の夏に

9月
*6歳までの「いぬのしあわせ」という餌が好き7歳になれば何を与えん
*主従との自覚もたねどお散歩は我を引き連れ足早に行く
*何事の不思議なけれど犬も人も家族の形に毎日が過ぐ
*どう見ても究極の雑種の我が犬の犬種を聞き来る人の不思議さ
*赤犬の肉は旨しという時代に闇鍋にされし先祖もありや
*満州の兵隊さんの防寒着の毛皮となりし犬の時代も
*供出を拒むことさえ出来ざりし戦下の犬の不幸を思う
*いぬのしあわせがいつまでも続いてほしいから「わんこ9条の会」の立ち上げをする
*服着せる習慣なけれどお揃いの犬の法被に9の字を書く

10月
*開発のため移転せし集落の新しき墓にも地蔵尊立つ

*熱中症で死にたる人はガス電気止めたる家に住みおりしとう
*死にてのちの体内温度は三十九度熱中症で死にたる人の
*セーフティネットよりもれたる人の孤独死をテレビにて知りすぐに忘れる
*田中一村の全生涯を網羅せし展覧会を見る心躍らせ
*魅かれおりし忍冬と尾長の絵の前は人だかりして遠くより見る
*級友の魁夷が勲章を受けしころ失意のうちに奄美の島へ
*3年働き5年絵を描く生活を受け入れてくれし奄美の人ら
*絵の具入れは千葉の煎餅の缶にして奄美の海の群青残る
*中央の画壇の評価は受けずとも神宿る絵に人ら群がる
*奄美にてライ療養所に身を寄せし頃に描きし兵士の遺影
*眼光の鋭き軍鶏のふすま絵は援助を受けし軍鶏師の家に
*精魂を込めたる絵には落款を押す事さえも忘れしという
*細かなる画材絵の具の価格表暮らし切り詰め絵を描きしとう
*食わず芋の花咲き散りて実となるを描き快心の絵を完成す
*群青の海中に立つ神の岩風葬の聖地より描きしという
*旅姿の若き人らも多くして一村の絵の前に群がる

2010年12月
*金子兜太の妻の句に咲く曼珠沙華八十歳にして人恋いており
*転勤の医師を追い転院せしという獅子座流星群降る海辺の町に
*人を恋う妻の命の煌めきを望み遠くより見守りしとう
*死人花墓場の花と疎まれし曼珠沙華咲く色とりどりに
*ダイヤモンドリリーという名の曼珠沙華老人施設の玄関にあり
*セーフティネットよりもれたる人の孤独死をテレビにて知りすぐに忘れる
*大まかな数のみ残る空襲の犠牲者の名を残す取り組み
*空襲の犠牲者の名簿作るため墓石の日付確かめ歩く
*畑中にひときわ大きな墓石あり戦死者の名が二つ並びて

2011年1月
*男女格差の少なくなりし時代にて女子会という集まり流行る
*人らみな同じ形に歩み行く肯うという字に似し背中丸めて
2011年3月
*友の建てし町の小さな教会に日野原重明師の講演を聞く
*北に行くハイジャック事件に遭遇し後はおまけと言う日野原師
*地下鉄のサリン事件の被害者を引き受けし聖路加病院のこと
*試練から人への思いやり育てよと語る日野原師はキリスト者の顔
*99歳の日野原重明師の伝導は「基地なき日本に」で締めくくられぬ
*質素なるかんざしひとつ美しく舞妓を描きし松園のもの
*公民館の源氏物語の講座にて亡き師の名前を懐かしく聞く
2011年6月
*なぜ戦争を止められなかったかと聞きし我らなぜ原発をと子らに問われる
*いちめんの黄の花悲し出荷停止のキャベツ畑なり放射能禍の
*原発の事故さえなければ復興の槌音は明るく響きしものを
*希望なり津波に耐えし一本の松救うべく動く人たち
*避難所の隣の荒れ地に夏野菜の苗を植えており人ら笑顔に
*大きなる余震続けば外犬もリビングの隅を定位置とする
*市原の石油工場燃えるらし夜通し空を赤く染めおり
*難病の夫を持てば被災地の病者の家族の苦労を思う
2012年5月
*病癒えし友とふたたびの奈良に来て都大路をゆっくり歩く
*二月堂の階上れぬ友にして戒壇院の邪鬼に涙す
*古びたる湯船の中に香りたつ紫根湯満ちて奈良の銭湯
2012年6月
*「月光」と名札のつきしヤマボウシしきり知覧の初夏を思わす
*生協にて切符を買えば折々の能楽堂への道近くなる
*沖縄の慰霊の日なりトベラ咲く海辺の小さき壕を思えり
2012年7月
*イケメンの生産者に主婦ら群がりて山の直売所に花の鉢買う
*べるばらを読みて育ちし吾子の行く二泊四日のパリ祭ツアー
*原発の直下を走る活断層指摘する人らの声も高まる
2012年11月
*95歳の表彰状にぎやかに飾られて施設の姑の部屋は明るし
*目も見えぬ耳も聴こえぬといいながら姑はテレビのニュースに怒る
*春の雪夏の酷暑を越え来しと青森よりのりんごが届く

2012年12月
*新米を食みつつ思う我が裡に日々積もりゆくセシウムのこと

2013年1月
*一陽来復心嬉しく町に出て蕾小さき菜花も買いぬ
*「帰郷は30年後」と双葉町長の決意悲しき原発の町
*路上の人に送る毛布に陽を入れる雪の明日の晴れ渡る朝
2013年2月
*思いがけず老いがせまるか使い易き薄きタオルにまた頼りゆく
*カレンダーをめくれば菜の花黄に咲きて3月11日がまた近づきぬ
*足利義満の対明交易の研究者がおりおり安倍氏の批判広げる
*たくましく育てと「絵のぼり」立てし町 原発事故で子らも去りゆき


2013年3月
*平家物語を読み進みゆけば「知盛最期」作者の思い冴えゆく哀れ
*放射能灰の千葉の捨て場は沼地なり命に関わる水源地なり
*修羅を舞う姿すべてが極致の美能楽堂に「頼政」を見る

2013年6月
*ネットにて買いし古書なり「山田あき」とサインの丸文字の優しき歌集
*哲学する夫に尽くしし一生か屋台を引きし歌も残せり
*ともどもに老いに至りてそののちも百寿に近く生き通したり
2013年9月
*二回目の盆来てもなお被災地の手つかずの場所夏草茂る
*「原発止めて」の無数の祈り背負い来て国会前はキャンドルの海
*空見上げ原発反対の声上げれば歴史の試練に勝てる気がする
2013年12月
*新米を食みつつ思う我がうちに日々積もりゆくセシウムのこと

2014年2月
*母失えば小学5年の女の子手芸と料理の話題を好む
*二人暮らしの父が仕事の毎朝に我が家の犬を少女見に来る
*夜明け前の散歩は少女と我と犬大寒の町は未だひっそり
2014年3月
*暖まりし車両に居眠れば花冷えの空気まといて人ら乗り来る
*血管年齢八六歳の数値ながら「他に異常なし」の混沌にいる
*発熱も気丈に耐えて母の喪い少女は友と登校をする
2014年4月
*国指導の平和祈念資料館に加害の歴史は語られずあり
*冷戦の陰引きづりて資料館に樺太・シベリアありて広島・長崎・沖縄は無し
*表紙手擦れし軍隊手帳なり戦線で書かれし文字はなべて小さく
*引揚げ船のジオラマ哀れなり新宿の資料館での長きたたずみ
*小さくて重き兵士の防寒着無謀な戦さの果てを思えり
*手縫いなる大小リュックは母子のらし紐繕いし痕なまなまし
*勇ましく読者鼓舞する文字踊る戦中の新聞は書架に黙せり
*静かなる資料館出れば当然のごとく平和な雑踏がある


2014年5月
*毎年の基地の祭りに基地横で基地反対の宴を囲む
*コンクリートの瓦礫の土地をあてがわれし引き上げ農家の歴史を聞けり
*掘り起ししコンクリートとセメントを混ぜて作りし家の庭先
*入植後初めて植えし大根も芋も落花生も育たざりしと
*入植の仲間が徐々に去りし日の寂しさ言わず平和を語る
*楔形の農地は美しく耕され自衛隊基地に深く入り込む
*丹精の土地への愛と戦争に加担をしない決意聞きおり
*買収を拒否せし土地に豆の花はつ夏の風に溢れ咲きおり

2014年7月
*「梅雨空に九条守れの女性デモ」の句を拒否する記事に世情を怖る
*まだ若き管理栄養士にわが暮らしの盲点突かれれば思わずたじろぐ
*新しき体重計買えば体脂肪など我の秘密も暴かれてゆく
2014年9月
*最高気温二十五度の日唐突に故郷を思う猛暑も過ぎて
*「九条おじさん逝く」と東京新聞一面に簔輪喜作さんの記事あり私も続く
*カジノ誘致企む市長の幕張の防風林の伐採怒る

2014年10月
*菩提寺の施餓鬼の席で住職が得意げに合同墓地の計画を言う
*子を生めぬ若きが増えて介護も墓も大きく揺らぐこの国の今

2014年11月
*「パーキンソン病友の会」の運動会なりこの一年亡くなりし人の遺影も並ぶ
*玉入れも生きる力の発露にて籠の角度にクレームがつく
*仮装行列の股旅姿は杖ついて声を張り上げ「大利根月夜」

2015年1月
*「集まろう赤のファッション身につけて」ネットに溢れる「女の平和」
*赤き花飾りのフラダンスグループの人らいて女性たちの昼デモ愉し
*辺野古での政府の無法訴える日焼けせし髪美しきひと
*二重三重に国会包囲の女性たちその列守る女性弁護士
*家々の灯りやさしき小寒の夜に出奔の犬探しゆく
*幾つかの赤ちょうちんの店もあり我が住む町の夜の貌知る
*草の実とけものの臭い身にまとい出奔の犬凛々しく帰る
*ポアロさん科捜研の女右京さん殺人事件で今日も昏れゆく

2015年2月
*安倍首相のニュースを聞けば怒り、泣く戦中に女学生たりしわが姉
*軍需工場に動員されし姉と友ともに独りにて戦後を生きる
*独り身で病む友のため姉が購う蜂蜜・葛湯・レトルトの粥
*戦中を生きたる姉と知らぬ我微妙に緩し我の反戦
*葬儀にて兵卒たりし日を知りぬ僧侶の叔父も銃構えしか

2015年3月
*老人農家にバイトの友の土産なり葉の色鮮やかな春のにんじん
*難病の夫のためににんじんを千六本より細かく刻む
*にんじんの天ぷらうどん食べており春雨の降る一人の昼餉
*春雨に畑のにんじん太るらん友は納屋にて何作業する
*TPPの怖れ振り払う如くにてにんじんの
*じゃがいもは早や煮くずれてにんじんがゴロゴロ残るカレー三日目



2015年5月
*喝采より納得選ぶ生き様を小説に書きし若き芸人(又吉直樹・火花)
*号令を嫌いし我も毎朝のラジオ体操の輪の中にいる
*辺野古埋立に土砂提供の心辛し奄美・屋久島・小豆島など
*辺野古への座り込みに行くバスに乗る友は頼もし拍手で送る

2015年6月
*鹿渡の香取神社は花あかりまず参拝して歌会に向かう
*香取神社の暗き歴史も記憶して今にぎやかに歌会お茶会
*三十一文字も知らぬスタートから十余年合同歌集に師の笑顔あり
*歌のリズム覚えるために山手線の駅名づくしの歌も作りぬ
*合同歌集に活字となれば友の歌我の歌また存外に良し
*啄木の歌に学べとの師の言葉聞きてまず読む十五の心
*「夕川に葦は枯れたり」啄木の歌を読みつつ生き様を知る
*第一歌集への師の言葉なり「新しき山に向かって出発せよ」と

2015年12月  (母と暮らせば)
*「母と暮らせば」の初日を待ちて人ら並ぶ「父と暮らせば」の思いつないで
*「爆風の瞬間に浩二の見たものは」山田洋次監督は静かに語る
*戦争は文化への冒涜と思う熱線にインクの壜の熔けゆくを見て
*「兵隊の死ぬるやあはれ」竹内浩三と浩二の青春戦禍に消える
*命あれば浩二が文字を紡ぎゆくインクの壜の青さ目に染む
*「生ましめんかな」命生み出す手助けをして吉永小百合の伸子生き行く
*子を奪われ苦難の戦後を生きてゆく数多の母の一人の伸子
*書店には「母と暮らせば」の本並ぶやさしいピンクと青のポップで

2016年1月 (15年前)
*ビデオテープをDVDに録りなおし友の送り来し昔の動画
*ふるさとの野山がダムに沈むことに惜しさ悲しさ抱きしあの頃
*映像に十五年前の我がいて夢中で語る故郷への思い
*渓流のつり橋渡れば苔むした石垣つづく廃村のあり
*大和朝廷より追われし人らのアジトなりと古代史好きな友の力説
*県議会に陳情に行きて保守派議員の揶揄の視線にたじろぎしこと
*計画より五年が過ぎて無駄なダムと「時のアセス」の該当となる
*運動はつながり広がり守られし渓流は今も命息づく

2016年2月 (行動範囲)
*夫の介護我の病気と重なりていよいよ狭まる行動範囲
*欠かされぬ金曜日のデモ「千葉でも」の様子は友の電話にて聞く
*「戦争法」の反対署名集めねばと籠る夕べに焦燥つのる
*長時間の外出できねば思いがけず隣近所の人の輪の中
*外出はどこでも嬉し病院の坂道を行く春の日浴びて

2016年2月 (成田梅まつり)
*晩年の母の手に似し姉の手に我が手並べて昔語りする
*親子ほど年の離れし姉なれば我の生まれし雪の日を言う
*幼き日連れられ嬉しき梅まつり今日は私が姉連れて行く
*真言を唱える少女の声低く講堂の静寂いよよ深まる


© Rakuten Group, Inc.