2-1「・・・私のこと、好きじゃないの?」 アカリは上目遣いで彼のことを見て、そう言った。このうるんだ瞳が彼女の最強の武器なのだ。 「そんなこと無い!アカリのこと好きだよ。好きだけど、でも・・・」 彼はそう言って口をつぐんだ。 アカリの最終兵器も、期待していた効果を発揮することは出来なかった。もうこの男はダメだな、とアカリは思った。 「・・そう。わかった。ごめんね、無理言って。」 「俺の方こそ、ごめんね。」 「いいよ、もう。」 彼はアカリが納得してくれたと思い、安堵の声を漏らした。しかしその安心も、次にアカリが言った予想外の言葉によってもろくも崩れ去ることとなった。 「もう・・私たち、会わないことにしましょ。」 アカリは茫然とする彼に背を向けた。そして、「ちょっと待ってくれよ」といって追ってくる彼を無視し、スタスタと歩き続けた。 少し離れた場所でそのやり取りを見ていた男が、「ほほう」と関心したような声を出した。 アカリは一人、バーのカウンター席に腰掛けてお酒を飲んでいた。 今日別れた彼のことを思い出しては心が切なくなった。喪失感と自己嫌悪がない交ぜになったような不快な切なさだった。 その切なさを消したくてグラスを口に運んでいるうちに、だいぶ酔いが回ってきていた。 「隣、いいですか?」 ふと見ると、隣に男が立っていた。 「どうぞ。」 バーに女が一人で居れば、声をかけてくる男もいるだろう。アカリはそんなつもりでお酒を飲んでいたわけではなかったけれど、別にそれもいいかなと思った。 どうせ私なんか・・・アカリが心の中でそうつぶやくと、隣に座っていた男が言った。 「あなた、なかなか見込みがありますね。」 その声を聞きながら、アカリは自分の目の前がぐらぐらと揺れるような感覚に襲われた。そして、飲みすぎたかなと思っているうちに意識が薄くなっていき、アカリはバーカウンターに突っ伏した。 ――――――― 『ダメ人間マン・第2話 <仲間>』 ピンポーンという来客を告げるチャイムを聞いた瞬間に、赤川は嫌な予感を感じた。 そっとドアの覗き窓から外を窺うと、そこにはメガネをかけた人懐っこい笑顔があった。 ああ、こんなことなら掃除や洗濯を後回しにしてあともう少しだけ早く外出していればよかったと、赤川は後悔した。 今日は久しぶりにバイトも約束もない日曜日だったので、買い物でもしようと今まさに家を出ようとしていたところだったのだ。 ピンポーン。 ドアの前で嘆きながら居留守を使うべきかきっぱり追い返すべきかと考えていると、もう一度チャイムが鳴り、どんどんと扉を叩く音がした。 「開けてください赤川さん。いるんでしょー。」 「・・・あー、わかったよ!」 赤川は覚悟を決めてドアを開けた。 「やっぱり、いましたね。」 「ガンガンドアを叩くなよ。近所迷惑だろ。」 ドアを開けると、そこにはいつものメガネをかけて珍しくスーツを着た司令官が立っていた。赤川が不満をあらわにしているのも意に介さず、いつもの人懐っこい笑顔だ。 この司令官という男は、戦隊ヒーローの司令官だ。 というと何がなんだかわからないが、簡単に言うと「ダメ人間マン」というヒーローを束ねる謎の人物であり、赤川を無理やりダメ人間レッドにした影の支配者である。 「・・って、影の支配者はないでしょ。正義の味方なんですから。」 と、突然司令官が言った。 「・・・何のことだ?」 赤川が聞くと、司令官は苦笑いを浮かべて答えた。 「いやいや、こっちの話です。初めて読む人のための説明にちょっとツッコミを入れただけです。」 「・・・?」 「まあ、とにかく詳しくは『ダメ人間マン第1話』を読め、ということで。」 司令官が何を言っているのかまったくわからず、赤川は首をひねった。 「・・・意味わかんねぇよ。」 その時、司令官の後ろで所在無げに立っている女性に気がついた。 「・・・って、その人は?」 「あ、こちら君島アカリさんです。」 「はあ。」 君島アカリさん、と紹介された女性は、どうも、と言いながらペコリと頭を下げた。 「で、こちらが赤川太郎さん。」 そう司令官が紹介するので、赤川も頭を下げた。そして下げた頭を上げると、赤川は聞いた。 「・・・それで?」 「とにかくここじゃなんですから、部屋の中で話しましょうか。」 そう言うと司令官はずかずかと部屋の中に入っていった。 「勝手に入るなよ!俺は今から出かけるところなんだから!」 そう赤川が抗議するのと同時に、司令官について君島アカリも部屋に入った。 「・・おじゃまします。」 「お前もかよ!」 「ま、適当にくつろいでください。」 「俺の部屋だっつーの!」 と、赤川はツッコミを入れた。 そんな突っ込みをいれさせながら作者は思った。ああ、この話(ダメ人間マン)書くの久しぶりだから調子でねえ。と。 つづく |