美しいブナの林の山の中に、ひと夏限りのまぼろしのような花畑が出現しました。
十日町の市街地を離れ、日本一の大河「信濃川」にかかる鉄橋を渡って、上り坂になると山の中の長いトンネルにさしかかります。
トンネルのくらやみをしばらく進んで、やっと明るい出口に着いたと思えば・・・ちいさな集落のすぐ向こう側に、もうひとつ別のトンネルの入り口が見えています。
ここで直進せずに、わき道にそれてクルマでさらに山間部を走り、紆余曲折して10分ほど。
そこに、ぜんぶで17軒の家がある中平集落があります。
村の入り口には、名前じゃなくて昔からの屋号(通称)で、それぞれの家の位置が示された地図が掲げてありました。
ここに、今回の越後妻有アートトレンナーレ2006という大規模な芸術祭の象徴とまで云われることになった、ビーズ・アートフラワー3万本で構成された奇跡のような花畑が、ひっそりと展開されているんです。
作品番号58 作者 菊池 歩
作品名「こころの花-あの頃へ」
作者の菊池さんを信頼する集落の皆さんは、本格的に中平集落に長期滞在している作者といっしょにビーズの制作に取りかかりました。
当初2万本制作することを目標に頑張ってきましたが、集落のお母さんたちの頑張りで、1週間に2,000本を制作するほどの勢いだったそうです。
あれよあれよという間に、2万本を軽く突破し、それだったら3万本までいこうか!?とついに3万本を制作してしまいました。

(撮影9月17日)
集落の全員、お父さんたちや子供まで一生懸命ビーズの制作をしましたが、その一本、一本づつのビーズの花は感謝の気持ちも込めて、菊池歩さんが誰の手も借りずにたったひとりきりで上ノ段山(えんだやま)のブナ林に、最後まで通って植え続けたそうです。
毎日、毎日、暗くなってふらふらになるくらいまで山から下りて来ない、うら若い女性とは思えない作者の、根性と体力と才能のきらめきの執念が生んだ制作でした。
大地の芸術祭-越後妻有アートトリエンナーレ2006-
「会期:平成18年7月23日(日)~9月10日(日)」の50日間
広大な妻有地域を舞台とし、芸術作品が山、川、棚田と美しい集落に点在するという大変珍しく、大胆なアートの祭典が繰り広げられました。過去2回の開催で設置された恒久作品は130点、今回新たに40カ国200組のアーティストの作品が制作、設置されています。
この芸術祭にはアーティストだけでなく、地域住民との「協働」の世界が存在します。現代アートから地域住民は何を感じ、何をすべきかを学んでいるようです。それは、都会から来た作家や、観客たちにも同じことが言えそう。
(以下↓中平集落区長・尾身幸雄さんの談話)
2000年の第一回が始まる前に地元住民に説明会があり、現代アートについて様々な説明をして頂いたが、正直「ポカ~ン」として聞いていた人がほとんどではなかったでしょうか?
我々のように団塊の世代というのは、高度経済成長の波にのり、物を作れば売れる時代でもあり、また、子供の頃は食べることに困った世代でもあるからね~。ようは「花より団子」なんだよ!ましては、中山間地の奥まった所にある集落だったことで、同じ十日町市民といえども、市内まで働きに行くことすら昔は出来なかったんだから、そんな環境の中で芸術に触れる機会が有るわけないよね。
そんな状況の中、「こころの花-あの頃へ」の作者、菊池さんが中平集落にワークショップに来られ、作品説明をしたのが今から約2年前でした。
正直、ビーズで花を作っていったい何が出来るのだろうと半信半疑の状態ではあったが、集落に若い女性が来てくれることの物珍しさと、若い女性だといこともあり、受け入れる側の安心感もあったかもしれませんね。また、足掛け3年という月日を中平の住民と常に過ごしたことと、なにより菊池さんの人間性に惚れ込んだことも事実ですね。
作品の素晴らしさは勿論、中平集落だけを見つめ続け、集落の皆さんと本当の「人間づきあい」をしてくれたことが作品となって現れたのではないでしょうか。私は、菊池さんからこの年になって芸術に触れさせてもらって、なにより「住民の心にビーズの種をまいてくれた」と思ってますよ。この出来事は、中平集落に語り継がれる出来事として永遠に消えることはないでしょう。
山の上に咲く三万本のビーズの花は、地域の女性たちと日本人作家の力作。
枯れることのない、永遠のような群生。
けれど「豪雪に耐えられないから」と、役所の意向で撤去される予定だそうです。
その日は「雪が降る前に」との事。
どことなく日本人的な対応のような気がする。
もちろん地域の人たちは、このまま残してほしいと言っている。
おいらも、そう思う。
それを最終的に決めるのは、いっぺん雪を体験してからでも良いような気がするんだけどね。
はるるが現場の美しいブナの自然林を訪れたときは、会期が終了してちょうど一週間たった日曜日の午後遅くでした。原則的に50日間の展示を終えた作品は、数日のうちに撤去されて後片付け作業のあとは元通りにしてしまうものなんだけど、この「こころの花」に関しては地元住民の意向もあって、なんとか間に合ったみたいです。
人っ子ひとり見当たらない状態で、この目の覚めるような人工の花畑アートに対面できたのはラッキーだったかも知れません。なんせ、妻有アートの開催中は、たった17軒の山の中のどん詰まりの集落に、連日たくさんの人たちが押し寄せていました。週末にはさらに多くのお客さんが作品を見に来て、多い日には1,300人を超える人が中平を訪れていました。これは、中平の開村以来の大事件だと集落の皆さんが云ってましたし、爺ちゃん(博人さんのお父さん)なんか、「中平万博」だと家の前に列をなす車の数を見て驚いてたそうです。
ひとつ、残念な話を聞きました。
心無いひとたちが居て、妻有アート2006の50日間の期間中に、ビーズの花のかなりの本数が黙って持ち去られてしまったそうで、スタート時よりも花畑のビーズの花の本数がずいぶん減ったらしい。
ビーズ・アクセサリーにちょっと詳しいひとなら、けっこう高価なビーズを使用した花も、この中に混じってるのが判るんだとか。
どんなひとが盗んだりするのか判らないけれど、大人数の中で無償のボランティアで活動してる地域のひとやこへび隊のメンバーにも限りがあるので、しょっちゅう監視してる訳にも行かない。
こころを豊かにするための、美しい森の中で貴重なアート作品のビーズの花を平気で御土産なんかにしちゃう、そんなひとのこころの貧しさが、少しかなしい。
【はるるが過去に書いた大地の芸術祭に関係した日記】
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映像】棚田の風景と言葉を切取る~妻有アート2006
映像】江戸深川商店街と大地の芸術祭 と案山子の嫁入り
こへび隊は楽しそう~越後三山の静かな朝
映像】森の青空図書館~妻有アート2006
新潟県魚沼郡六日町から峠を越えて十日町へ
映像】初秋の空に作品番号257~ブログ5周年記念日
こへび隊の宿舎は里山の小学校~ムスメの成人式の着物
新潟も台風の影響 「こころの花」から「夢の家」
大地の芸術祭-越後妻有アートトリエンナーレ2006
【はるるが過去に書いたアート関係日記(の、一部)紹介】
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不思議☆アリスの庭 ~宮城県美術館~
スペインの旅★ガウディの懐しい曲線の街バルセロナ
映像アルバム】軽井沢セゾン美術館~再読・聖と俗
今朝の新聞記事~写真と彫刻の親子制作展スタート
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