⑭野良犬のクロ・・・さよならクロ
いつの日にか私は動物園が嫌いになっていました。
狭い檻の中で毎日いくつもの目に晒されて、ノイローゼになっている動物達。
死なないだけの食料を与えられ、やるべき事はなく暇な毎日。
これが本来の姿ではない事は誰が見てもわかります。
私は人間の勝手でこんな所に死ぬまで閉じ込められている動物達を見て、いつのまにかごめんね、ごめんねと謝りながら重い気持ちで動物園を出ます。
行方も告げず去って行ったクロの飼い主。
クロの子の熊に似た仔犬は、せめて名前だけでも可愛くと『愛ちゃん』と命名されました。
クロと愛ちゃんは、母の元で飼われる事になりました。
クロにも落ち着いた日々が過ぎていきます。
クロの避妊手術。
フィラリアの治療。
愛ちゃんの健康診断、予防接種。
できる事はほとんど終わったある日、「クロを迎えに行きます。」と電話がありました。
彼は言葉少なに言い訳をし、泣き叫ぶクロと愛ちゃんをトラックに乗せて去って行きました。
車の恐怖に怯え泣き叫ぶクロの声に耳を塞ぎながら、私と母は言葉もありませんでした。
でも、それこそ私達は全てクロの為にやった事です。
彼の為にやった訳ではないのです。
クロが幸せになるのならいいと思いました。
ちょっと変わった人でしたがそれは人間にとって変わった人であって、クロにはいい人だったらそれでいいのですね。
あれから何年たったのでしょうか。
久々に職場に姿を見せた彼がクロは死んだと・・・
少し早すぎる死のような気もしますが、きっとクロは幸せだったと思います。
あのまま一度もクロとは会えなかったけど、幸せな生涯を終えたと信じたい。
試練の多い大変な生涯だったけど、たくさんの人達に見守られ助けられ愛された犬でした。
クロは決して誰の事も忘れなかったに違いありません。
そしてみんなもクロの事を忘れないでしょう。
クロありがとう。
安らかに眠って下さい。