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山田維史の画像倉庫

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AZURE8080

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2005/09/17
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カテゴリ:カテゴリ未分類
『映画の中の絵画』
連載23 『オリエント急行殺人事件』

英・EMIフィルム=パラマウント/CIC:1974年
シドニー・ルメット監督

【あらすじ】
 1930年、ニューヨーク・ロングアイランドの大富豪アームストロング家の3歳になるひとり娘ディズィーが誘拐され、20万ドルという巨額の人質料を払わせられた後、無惨にも殺害された。そのとき第2子を妊っていた母親のアームストロング夫人は、ショックのため胎児を死産し、自らも亡くなった。アームストロング氏も絶望して自殺してしまった。逮捕された容疑者は、きわめて真犯人らしく思われたが、莫大な金力と政治勢力を動かして釈放され、事件は未解決のままついに迷宮入りになってしまったのである。
 それから5年後の12月のある日。
 イスタンブール発カレー行きのオリエント急行1等寝台車の個室は12名の乗客でいっぱいになった。有名な探偵エルキュール・ポアロ(アルバート・フィニー)は、ロンドンへ帰るために乗車してくるが、すでに個室はなく、ようやく旧友である鉄道会社の重役プーク(マーティン・バルサム)のはからいで、アメリカ人富豪の秘書(アンソニー・パーキンス)と同室になることができた。
 銀色の屋根、濃紺とクリーム色に塗りわけられた車体。その濃いブルーに金色の飾り線、そしてワゴン・リ社の輝く黄金の紋章----月桂樹と鉄のリボンの輪のなかにWとLの重ね文字を両側から支える2頭のライオン。オリエント急行はゆっくりとイスタンブールを出発する。3日間の旅の始まりである。
 第1日の深夜、ポワロの隣室で男のうめき声がした。車掌(ジャン・ピエール・カッセル)が扉をノックして問うと、ただうなされただけだと返事がきこえた。
 翌朝、アメリカ人の大富豪ラチェット氏が刃物を12カ所も刺されて死んでいるのが発見された。ラチェットこそアームストロング家誘拐殺人事件の犯人、カセッチだった。この1等寝台車は他の車輌とは鍵をかけて閉鎖されていた。列車の周囲の雪の上にも犯人らしい足跡は見当らない。となると、犯人はこの寝台車の乗客12人と車掌のなかの誰かということになる。
 鉄道会社の重役プークは、ユーゴ国境に着くまえに解決することを望んで、友人のポワロに犯人捜査を依頼する。----
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 これを読んでくださっている方は、映画『オリエント急行殺人事件』というタイトルをご覧になって、不審に思われたかもしれません。この作品はTVでも何度も放映されているし、名優たちがずらりと登場するので、多くの映画ファンが各場面をよく記憶されている。第一、豪雪に立往生した列車のなかのいわゆる密室劇。絵なんて飾られているわけがない。
 なんだかここで書くのをストップして、お分かりになった方がいるかどうか、クイズをやりたくなってしまいました。
 この『映画の中の絵画』では、これまでにも何本かの作品で、画面の隅々まで興味しんしんで見つめて記憶していないと見のがしてしまう絵の存在を指摘してきました。しかしそれにもましてこの『オリエント急行殺人事件』は難しいかもしれません。まァ、私もフェアでゆかなければなりませんから言いますが、絵といってもポスターです。
 「アッ!」
 ハハハハ、そうです。おわかりでしょう? あすこのシーンです。この映画、密室劇といっても、全部が全部列車の中ではないですからね。

 『オリエント急行殺人事件』は、おそらく知らない人がいないだろう。アガサ・クリスティーの代表的ミステリーだ。原作は1934年に出版された。
 物語の舞台は1930年代のシンプロン・オリエント急行内。列車は21時に始発駅イスタンブールを出発する。
 映画の冒頭は、イスタンブールのアジア側のボスポラス・フェリーの乗り場。フェリーはオリエント急行に接続する。船は暮れなずむ桟橋を離れてゆく。
 そして、乗客でごったがえすイスタンブール駅の待合室。人ごみの頭越し、突き当たりの奥の壁に、1枚の大判のポスターが貼ってある。シンプロン・オリエント急行とタウルス急行の宣伝用ポスターである。機関車の黒にそのバンパー(緩衝器)の深紅が印象的だ。映画のなかでほんのつかのま見えるこのポスターは、当時、実際に使われていたものである。
 映画のなかでは年代設定を明示していないが、原作とあわせて考えると、1930年、あるいは多くてもそれより1,2年の間と断定してもいいかもしれない。原作の第1行目に、[シリアの冬の朝の5時、アレッポ駅のプラットホームには、旅行案内にタウラス急行と太文字で名が出ている列車がとまっていた。]とある。
 旅行案内に特記してあったのは、小説では何の説明もないが、タウルス急行が開業したばかりだったからである。それが1930年である。開通を予告宣伝するポスターは、開通前の1929年にはすでに製作されていて、ヨーロッパ各地ばかりでなくアメリカでも宣伝されていた。しかもユーラシア大陸の鉄道を幻想的に描いたデザインだったので、ポスターそのものも注目されたのだった。
 映画(小説)の年代設定は、オリエント急行をめぐってまさに微妙な時代であったが、混雑する駅の待合室に、それも遠く人の陰にまぎれるかのように見え隠れするポスター1枚が、この映画の美術がいかに隅々まで時代考証がゆきとどいているかをしめしているのである。

 オリエント急行が開業したのは古く、1883年10月4日。その日、19時30分、パリのストラスブール駅を数千人の歓呼とオーケストラの奏でる祝典曲に送られて、5輛編成の列車は終着駅コンスタンチノープルに向けて、貴婦人のごとく静々と動き出したのだった。開業当初、オリエント急行の名称はフランス語表記だったので、EXPRESS D'ORIENTすなわち「エクスプレス・ドリアン」と呼ばれ、「オリエント・イクスプレス」と英語表記に変ったのは1891年のことである。
 ちなみに、昔、レオナルド・ダ・ヴィンチが理想郷として憧れを込めて書いた空想旅行記にでてくる「タウロ山」というのは、オリエント・タウルス急行が通過するバルカン半島のコーカサス山脈のタウルス山のことである。
レオナルドはこう書いている。
 [このタウロ山嶺の影は非常に長く、6月なかばの正午に日が照るとその影は12日行程のサルマツィアの辺境まで及び、12月なかばには北方へ1ヵ月行程のイペルポレイ山脈までのびる。----]
 彼は実際には行ったこともないユーラシアを空想し、その旅行はいつまでもつづく。
 オリエント急行の開設は、ヨーロッパ人の数百年にわたる東方への熱烈な夢がこめられていたのである。

 アガサ・クリスティー自身は、1928年、バクダッドへ行くために初めてオリエント急行に乗った。そして1929年には、イスタンブール行きオリエント急行がトルコ国内で豪雪にみまわれ、雪中に10日間も立往生すると言う事件が実際におこっている。このことをアガサ・クリスティーは『オリエント急行殺人事件』のなかで言及している。原作の冒頭部、シリアのアレッポ駅のプラットホームで寒風に吹きさらされながら、見送りにきたデュボスク中尉はポアロに言う。「タウラス山中で、雪に閉じ込められるようなことが、なければよろしいですが」「そんなことがあったんですか?」とポワロ。「ございました」----と、中尉がこたえているのだ。
 翌1930年、クリスティーは14歳年下の考古学者マックス・マローワンと再婚し、再びオリエント急行でギリシャへ新婚旅行に出かけた。クリスティーはこのとき40歳。その後、彼女は夫の遺跡調査を助けて何度もオリエント急行を使った旅をする。そうしたなか、1931年の旅行で、彼女は大洪水に遭遇し、オリエント急行のコンパートメントに12時間にわたって閉じ込められるという経験をする。また同年、パリ行きの列車がハンガリー国内でテロの一団に襲われ、乗客20人が殺害されるという事件があった。
 『オリエント急行殺人事件』は、このように当時実際に起った事故や殺人事件、それに彼女自身の体験をもとにして執筆されたのである。もちろん物語の骨子はリンドバーグの子供誘拐殺人事件であることはいうまでもなかろう。
 世界中で最も有名なミステリーとはいえ、やはりミステリーを語るうえでの約束事、犯人を明かすわけにもゆかない。映画もその点は最後まで引っ張っている。登場人物全員をスター・クラスの俳優をそろえたのも、シドニー・ルメット監督の苦心で、そのバランスを崩すと、すぐに犯人がわかってしまうからだ。アルバート・フィニー、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス、イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、リチャード・ウィドマーク、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャンピエール・カッセル、ジョン・ギールグッド、ウェンディ・ヒラー、レイチェル・ロバーツ、ローティン・バルサム。密室劇を映画にすると、映画的にはあまり面白くないものだが、これだけの数のスターたちを操る監督の手腕を見るのも一興であろう。
 





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Last updated  2005/09/18 02:59:50 AM
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