「息子のまなざし」と「誰がために」
両方とも、大切な人を失わされた父または夫が主人公です。「息子のまなざし」LOVE!シネマ2500::息子のまなざしある日、フランシス(モルガン・マリンヌ)という少年が職業訓練所に入所してくる。彼は木工のクラスを希望したが、クラスを担当するオリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は手一杯だという理由で断ってしまう。ところが、オリヴィエはなぜかフランシスが気になる様子。結局オリヴィエは後日フランシスを自分のクラスに受け入れるのだったが…。(all cinemaより)「誰がために」誰がために東京の下町で、急死した父の後を継いで写真館を営む民郎(浅野忠信)。そのために諦めた報道カメラマンの仕事に未練を残し、満たされない日々を過ごしていた。そんなある日、幼なじみのマリ(池脇千鶴)が連れてきた友人、亜弥子(エリカ)と出会い心惹かれる民郎。そして2人は深く愛し合うようになり、やがて亜弥子は妊娠する。しかし、2人の幸せは唐突に終わりを告げる。亜弥子が見ず知らずの少年(小池徹平)に殺されてしまったのだ。怒りと悲しみに押し潰されそうになりながらも、マリの励ましもあってなんとか日常を取り戻そうと懸命な民郎。そんな時、民郎は少年が予想外に軽い刑で出所したことを知ってしまう…。(all cinemaより)「息子のまなざし」では、二人は一歩踏み出したように見えますが、それは新たな苦しみの始まりでもあるでしょう。オリヴィエは、憎しみの心と哀れみの心(受容しようとする心?赦そうとする心?)に引き裂かれてしまうかもしれません。フランシスは、ただ一人信頼できる人間の愛する人の命を奪ってしまったという事実を受け止めきれないかもしれません。「誰がために」では、民郎は、少年の首に手をかけるまでしたのに殺しきれなかった、妻と子供の無念を晴らしてやれない自分を責める気持ちから逃れられない。そして、友人たちとの当たり前の日常生活には戻れない自分に気付いてしまう。どちらも残された者は犯人を殺そうとしますが、結局果たせません。でも、赦したわけではない。赦せるはずもないけれど、「人を殺す」というハードルは、どんなに憎しみの心があっても普通の人間には容易に飛び越えられるものではないと思います。それだけに、そのハードルをいとも簡単に飛び越えてしまう人間の犠牲になった人たちの苦しみは、それが理不尽なものであればあるだけ癒しがたいものとなってしまう。また「息子のまなざし」では、息子が殺された後夫婦は離婚し家庭は崩壊してしまっています。「誰がために」では、周囲の励ましはあるけれど、その輪の中にはもう戻れない主人公の姿が描かれます。被害者遺族は大切な人を失うだけでなく、それまでの全ての幸せな人間関係からも疎外されてしまうということでもあるのでしょう。「なぜ彼は生きていて、自分の愛する人は生きていないのか?」この問いは残された人たちを苛み続けるのでしょう。国や宗教などの背景、置かれた状況・取り巻く状況の違いがあり、全く同じテーマというわけではありませんが、どちらも辛い映画でした。『息子のまなざし』2002年(ベルギー・フランス)監督・脚本:ジャン・ピエール・ダルデンヌ、ルック・ダルエンヌ出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール、他2002年第55回カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞 オリヴィエ・グルメ『誰がために』2005年(日本)監督・原案:日向寺太郎脚本:加藤正人出演:浅野忠信、エリカ、池脇千鶴、小池徹平、烏丸せつこ、香川照之、他2005年第60回毎日映画コンクール男優主演賞受賞 浅野忠信