「シェイクハンド」
古尾谷雅人 31歳、渡辺徹 27歳のころのドラマです。 大阪で「横断歩道」という売れない漫才師をしている順(渡辺徹)と光夫(古尾谷雅人)。光夫は東京の大学を出て、いい会社のサラリーマンをしていたのに、今までの自分を捨てたくて、誰も知らない大阪に来たという。 周囲からは、才能がない、もう潮時だと思われているコンビだ。 貧しい生活の中、順が寝込んだとき、売血をした金で食べ物やら薬を順に届ける光夫。部屋に行くと、動かない順が。順が死んだと思い、愕然とする光夫。実は光夫を驚かすために死んだ振りをしていただけだった。それを知った光夫は順を殴り「冗談でも死んだ振りなんかするな!」と怒る。その言葉に涙する順。二人の絆を表すいいシーンだ。しかし、二人が世話になっている漫才師の春助師匠(田中春男)は、その仲の良さが、二人の漫才がつまらない原因だと見抜いている。 警備員のバイト先の病院で、光夫はおもちゃ工場の社長・江藤(ジャイアント馬場)と知り合う。なぜか社長には自分の心の内を話せる光夫。社長は「もし、有名にならなくてもよくなったらうちにおいで。世界中の子供たちを(おもちゃで)喜ばせるのも楽しいよ。」と話す。 地方営業に、春助師匠らと一緒に出かける二人。自分達の漫才は全くうけない。師匠の漫才は大うけする。そして、営業先の海で、師匠が自殺する。 大阪に帰ってきた順はアパートを引き払い、光夫の前から姿を消す。失意の中、一人アルバイトで生活する光夫のもとに順から連絡が来る。順は後輩の女漫才師・佳代(高橋ひとみ)と夫婦漫才をする、芽が出ない漫才はやめると告げる。何も言わず帰る光夫。泣く順。 すさんだ生活をする光夫。そんな中、「順&佳代」が新人漫才コンクールで優勝する。どうしても光夫に会いたくなった順は光夫の部屋に行くが、すでにアパートは引き払われたあとだった。「順&佳代」優勝の記事が切り抜かれた新聞と、江藤社長のおもちゃだけが残されていた。 「光夫は逃げた!」と思った順は、駅までタクシーを走らせる。順は、東京行きの新幹線に乗っていた光夫を降ろす。 駅のホームで並んで座る二人。何度も列車が通り過ぎていく。最初は無言だが、徐々に話始める。やがて笑顔も見られるようになる。そして、ついには固く握手する。ビールで乾杯をする二人。最終電車が行ったあと、ホームには順一人が座っている。新幹線の洗面所で顔を洗う光夫。かすかな希望の表情が浮かんでいる。「本日のこのホームの列車はすべて終了いたしました。」との放送が繰り返される中、いつまでもホームのベンチに座っている順。〈終〉 長々とあらすじを書いてしまいましたが、おそらくこのドラマを知っている方は、そう多くはないだろう、でも、すばらしいドラマだから少しでも知ってほしいと思い、書きました。 「横断歩道」の漫才、これがほんとにつまらないんですよ。光夫に才能がないのもわかる。でも、二人、夢を実現させようと身を寄せ合うように頑張っている。だけど、やっぱりかなわない夢もある。 最後の駅のホームのシーンは、手前のホームから列車をはさんで引きの画が延々5分ほど続きます。もちろん何を話しているのかはわかりません。でも、徐々に近づいてくる二人の距離、間に行き交う列車をはさんで見える二人の表情、しぐさ、だんだん夕暮れから暗くなっていく時間の経過、そういったものが見え、道は違ってしまったけれど、お互い苦しんだけれど、絆は変わらない、ということがわかり、非常にいいシーンになっています。 あと、ジャイアント馬場さんが出ていますが、古尾谷雅人さんとのシーンは、じーんときます。お人柄でしょうか。このお二人ともが亡くなってしまっているということが、とても残念です。『シェイクハンド』関西テレビ開局30周年記念番組ギャラクシー賞奨励賞受賞放送年:1988年(KTV)演出:林宏樹原作:難波利三脚本:山田信夫出演:渡辺徹、古尾谷雅人、萬田久子、奈良岡朋子、田中春男、高橋ひとみ、ジャイアント馬場、他