「妖怪」はいずこより来るのか…。人の心は闇にあらねども、揺るぎないはずの世界が乱れたとき、その裂け目から恠しきものが湧き出し、取り憑く。他人の視線を畏れる者、煙に常軌を逸した執着をもつ火消し、「海」を忌む小説家…。日常に潜む恐怖を描く十の短篇から成る「京極堂サイドストーリーズ」。

やはり大長編を続けて読んだ後の短編集は読み易く、あっという間に京極夏彦さんの「百鬼夜行ー陰」を読み終わりました。
今作は１０編の短編からなる「京極堂」シリーズのサイドストーリーなので、当然ながらシリーズを読んでいないと楽しみが何割か減ってしまうのは仕方ないですね。
時期的には１作目「姑獲鳥の夏」から「塗仏の宴　宴の始末」までの話になっていますが、なぜか「狂骨の夢」の話がないのが少し残念でした。

語り手としては過去の作品に登場した人物が中心になっていますが、それが犯人や被害者であっても同様に日常の揺らぎが表現されている点が印象的です。
犯人が狂気に走ってしまう過程や本編では簡単にしか語られなかった被害者の横顔が表現されているのが、サイドストーリーならではですね。
全く本編に登場しない人物が語り手の話も読み応え十分で、特に「煙々羅」は「鉄鼠の檻」の後日談でありながら別の不気味さがありました。

他に気に入った短編は、意外な形で「魍魎の匣」の裏側が覗ける「毛倡妓」でしょうか。
あまり見せ場のない木下刑事が語り手ですが、まさに人に歴史ありという感じが良いですし、この話を始め、京極堂が落とすべき憑物盛り沢山ですねｗ
その中で改めて関口君の異彩が光る「川赤子」では、珍しく奥さんとのやり取りが多いのは素直に嬉しいのですが、相変わらず何だかなぁという反応ばかりでしたｗ
「姑獲鳥の夏」の冒頭に繋がるラストは今作の末尾を飾るのに相応しいと思います。

独特な世界観を広げる様な短編が多く、かなり面白い試みだと思います。
何時かまた何らかの形で、こういうサイドストーリーを読んでみたいですね。