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カテゴリ:本のこと
紹介文
「女」と名のつくものはたとえ動物であろうと入れない、ギリシャ正教の聖地アトス。険しい山道にも、厳しい天候にも、粗食にも負けず、アトスの山中を修道院から修道院へひたすら歩くギリシャ編。一転、若葉マークの四駆を駆って、ボスフォラス海峡を抜け、兵隊と羊と埃がいっぱいのトルコ一周の旅へ―。雨に降られ太陽に焙られ埃にまみれつつ、タフでハードな冒険の旅は続く。 なぜにアトス山とトルコなんでしょう? 取材だったんでしょうか? アトスのほうはともかく、トルコ編があまりに 唐突な終わり方をしているので。 いつもと同じく文体は読みやすいし、 苦労話も脱力した筆で淡々と描かれていて ファンにとってはこれぞムラカミハルキの紀行文! って感じで楽しめました。 今回発見したのだけれど、 ワタシがムラカミ本を好きな理由のひとつに きっと、ムラカミ氏も猫が好きなのだろうと思われるほど 猫に対する描写がアチコチに出てくること。 この本の中ではアトス山のダイハードな修道院で 「黴の生えたパンを洗面器の水でふやかして豆スープに酢を どぼどぼ入れたものにつけて食べる」場面があるのだけれど なんと猫がどこからともなくやってきておねだりをし 修道士が黴パンを分けてやったらおいしそうに食べた、という エピソード。 「猫は知らないのだ。山をいくつか越えると、 そこにはキャット・フードなるものが存在し、 それはカツオ味とビーフ味とチキン味に分かれ、 グルメ・スペシアル缶なんてものまであるのだということを。 (中略) そして黴パンなんてものは断じて猫の食べるべきものではないのだと いうことを。 (中略) きっと猫は“おいしいなぁ、今日も黴パンが食べられて幸せだなあ。 生きてて良かったなぁ。”と思いながら黴パンを食べているのだ。」 っていうくだり、 猫好きにはたまらない描写です。 ワタシは電車の中で笑いをこらえるのが大変でした。 黴パンと猫。 シュールだ。 あと、ギリシャ人は真面目、とあるけれど オーストラリアに住んでいるギリシャ人は特に他の国の人に比べて 真面目ってわけではないと思います。 少なくとも顔つきを見ればギリシャ人とわかる、ってほど 真面目ではないかな? 不真面目ってワケでもないのだろうけれど。 トルコ編でもやっぱり猫のエピソードがあって ヴァン湖のほとりに住む泳ぎのうまい白いヴァン猫。 泳ぐところは見られなかったそうです。 残念。 10匹くらいの白猫が湖で泳いでるとこ、みてみたいなぁ。 あとイラクとトルコの国境警備隊の検問でつかまり、 場を和ませるためにだめもとで“写真を取っていいですか?” と聞いたところ 「意外ににこっと表情を崩して“ああ、写真ね。いいよ。撮れよ” と言った。(中略)みんな結局写真をとられるのが大好きなのである。 こんな辺鄙な駐屯地だから、上官は中尉しかいないしその中尉がいいって 言うんだからもうなにも遠慮することはない。(中略) そのうちに浅黒い田舎顔の兵隊がやってきて “いち、に、さん、し”とにこにこと日本語で話しかける。 何かと思って聞いてみると、彼は空手の練習をしているんだそうである。 (中略)見るに見かねて松村君が型をつけてやる。 何しろ本場の日本人に型をつけてもらえるんだから、 これはもうミシシッピ出身の黒人にブルース・ギターの 弾き方を教えてもらうようなものである。 彼は感動に打ち震えている。こんな辺境の守備隊になんてあと10年待ったって もう2度と日本人がくることなんてあるまい。 (中略)帰りにはみんなで並んで手を振ってくれた。 多分今でもあの中尉は荒野の真ん中でいかにも面白くなさそうなさそうに 国境勤務を続けているんだろうなと思う。そしてあの田舎顔の兵士は “いち・に・さん・し”と叫びながら空手の練習をやっているのだと思う」 というエピソードが好きです。 トルコの、イラクとの国境と聞いてもイメージがわからないけれど そんな場所が地球上にあるってコトは地図の上ではわかるけれど 何の感情も持たない相手の顔も見えない遠い場所だけれど このエピソードを読んでから、そこにも人がいてこんなことをしているのかも となんだか自分が行ってきたかのような親しみすら覚えてしまいました。 突然の終わりが気になるものの知らない国を旅するわくわくを ムラカミ節で楽しむにはうってつけの1冊でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 27, 2008 03:44:51 PM
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