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山神地区のパッチワーク
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山神地区のパッチワーク [全32件]

朝日市教育委員会学校教育課課長 但馬さんの話  (1)
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 朝日市教育委員会学校教育課課長 但馬さんの話





 山神台小学校の門前に車を止める。
 以前だったら、門があけっぱなしだったのに、
 いちいち施錠しなくてはならない。
 あの痛ましい事件は今もこうして生きている。

 重たい鉄製の門を開けていると、
 休み時間の子どもたちのにぎやかな声が聞こえてきた。
 但馬さんは、ほっ、と胸をなでおろした。


『子ども校長』


 昨今の子どもブームにのって、
 わが市でも、今年から試験的に導入してみた。
 全国初の子どもの校長先生だ。
 但馬さんはその様子を視察しに来たのだ。


「お待ちしておりました」
 門の音を聞きつけたらしく、教頭があいさつに来た。
 今回の子ども校長もそうだが、
 実際は裏方の教頭が一番大変だと思う。


「教頭先生のおかげですよ、感謝しています」
 但馬さんはその労をねぎらった。
「いやいや、こちらこそ。すっかり楽しませてもらっています」
 教頭がほほえむ。それはおべんちゃらではなさそうにみえた。


「校長は今、休み時間です」
 教頭は、子どもたちでごった返す校庭を指差した。
 見ると校長は、みんなと鬼ごっこをしていた。
 やがて、教頭の姿を認めると、うれしそうに走ってきた。


「おじさん、久しぶり」
 但馬さんの前に立った男の子は、
 黒目がちな、まだあどけない顔をしていた。
 この前面接であったときとくらべると、
 肩の辺りがいくぶんがっちりしたたような気がした。


「校長、お久しぶりです」
 但馬さんが頭を下げるやいなや、校長がその腕をつかんだ。
「おじさん、遊ぼう。教頭も!」
 但馬さんはあっけにとられた。


 教頭は、わかっていたらしく、
 はいはい、とその白髪頭を何度か振った
「じゃあ、おじさんがおに。みんな逃げるぞ!」

 但馬さんは、校長から指名されて、その場に座り込んだ。
 校長のまわりにいた数人の子どもたちが、
 いっせいに逃げまわった。

「いち、にー、さん……」
 手で顔を覆い、数を数える。
 但馬さんの耳に子どもたちの歓声が飛びこむ。
 その甲高い声に自分がやたらと高揚していることに気づく。


「にじゅうっ!」
 但馬さんは立ち上がり、目に入った子どもたちを追いかける。
 指先が背中に届きそうなところを子どもがひよい、っとかわす。
 あと少しのところなのに。足がもつれた。


 荒い息のまま、辺りを見回す。
 子どもたちが楽しそうにこちらを見ている。
 躍動する鼓動にあわせて、自分の体が踊る。
 こんな気持ち本当に久しぶりだ。


 しばらく追いかけ回していたが、
 休み時間は一向に終わる気配はなかった。
「教頭先生」
「ハイ?」
「休み時間はいつまでなんですか?」


 教頭先生は、仕事人の顔に戻ると、真顔で答えた。
「子どもたちが遊びに飽きるまでです。
 校長が赴任して真っ先に決めたことです」
「えっ? 飽きるまでって、そんな……」
 但馬さんはいくらなんでも、と思った。
「子どもをそこまで自由にして、大丈夫なんですか?」


 但馬さんの中に校長に対する疑念が浮かびあがってきたときだった。
「さぁて、勉強でもするか」
「そうだね」
 傍らを通りかかった六年生の子どもたちから、そんな呟きが聞こえた。
 但馬さんは、何かの聞き間違いだと思い、教室に入った。
 何人かの子どもたちがすでに勉強をしていた。
 やがて、ぞくぞくと子どもたちが帰ってきた。
 その目の色の輝きは、どこの学校にも見られないほどだった。



「最初は、わたしも驚いたんです」
 但馬さんを追いかけて来た教頭がほほえみかけた。
「子どもって強制しなければ勉強するみたいです」
「……」
 但馬さんは、あらたな事実を受け入れるべく、ゆっくりと息を吸った。
 

 (もしかすると、
 この校長はわたしたちに大切なことを教えてくれたのかもしれない)


「いゃじゃ! 仕事はやりたくない」
 そのとき校長が何人かの教師に抱きかかえられて教室に入ってきた。
「よは……、よは、こんなところに来とうなかった!」
 
 但馬さんは子ども校長のせりふに思わずふきだした。
 子ども校長といえども、多くの学校職員同様、この仕事は嫌なようだ。
 (つづく)



Last updated Feb 09, 2010 07:09:47 AM
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Feb 07, 2010

笹尾さんの話  (1)
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 笹尾さんの話





「まいったなぁ」
 わたしは、情け容赦なく降る雨をながめていた。

 今朝はあんなに晴れていたのに……。
 たしかに、雨が降る、と天気予報では言っていたが、
 こんなに早い時間に降り出すなんて。
 

 中学の昇降口から、水の浮き上がったグランドが見える。
 ぼんやりとかすんだフェンスの向こうにつづく、
 駅までのだらだらした下り坂を傘の群れがゆっくりと進んでいく。
 

 都心から外れた田舎の駅にできた学校は、駅までさえぎるものがなく、
 学校から往来する生徒をながめることができた。

 今日はいつもと比べて、その数がまばらだった。
 今頃、それぞれの会場で、テストと格闘しているはずだ。
 公立の高校行きの切符を手に入れるために……。
 

 そして、その中にはわたしの大好きな池田先輩もいた。


 今から走っても追いつかないな。
 美術部のみんなに誘われたとき、傘に入れてもらえばよかった。
 つい夢中になって油絵を描いてしまったんだ。
 合格して、高校で部活をやっている先輩の絵を。

 

 いつになく、必死で描いたのはわけがあった。
 

 受験の日にそわそわする気持ちをかき消したかったこと。
 そして、不思議な夕べの夜中の出来事。
 


 何時ごろだろう?
 枕元に絵の神様が現れたんだ。
 毅然とした老人のような姿だった。
 神様は、わたしの肩揺り動かし、
 目覚めたわたしに微笑みかけていた。



「頑張ってるオマエに最高の一枚を描かせてやる」
 神様は、描く直前に、わしの名を呼べば、必ずかなうから
 と言い残し、姿を消したんだ。


 どうせ夢なんだけど……、
 先輩の試験の日だからね。

 つい、ムキになってしまったんだ。




 雨はますます激しくなる。
 試験を終えた先輩に濡れたままで会うのは心苦しいんだけど。
 (駅まで走っていこう)
 そう思ったときだった。

 
 だらだら坂を駅のほうからこちらにむかって
 傘の波を上手にかわしながら走ってくる制服姿が見えた。


 先輩だ。

 見覚えのあるスポーツバック、
 ちょっと猫背気味に走る姿。
 そして、あれは嬉しいことがあったときの走り方だ。
 わたしに報告に来てくれたんだ。
 

 きっとキットカット、いや、受カルピス、いやスベラーズ、
 なんだろう、手紙かな?
 とにかく、わたしの願掛けがきいたんだ。


「先輩も傘を?」
 絶句した。先輩に傘らしきものはなかった。
 どこまでわたしたちはズボラなんだろう。

 ふいに初めて会ったオリエンテーリングの日を思い出した。


 私は頭を抱えた。
 なら駅で待っていればいいのに、
 試験は明日もある、っていうのに。


 きっといつものように後先も考えず走ってきたんだ。
 オリエンテーリングの日、二人で選んだ3番の道を、
 わたしの手をぎゅっ、とにぎって走ったみたいに……。


「どうしよう?」
 傘が無いことを悔やんだ。
 傘箱を見回しても置き傘はなかった。
「どうしよう?」
 

 そのとき、昇降口の白い壁が目に飛び込んだ。
 ハイになっているせいかもしれない。
 今のわたしには、
 それが、何でもかけそうなキャンバスに見えた。



 わたしは手を合わせた。
「神様、どうかわたしに傘の絵を」
 

 わたしは指で壁に傘の絵を描いた。
 すると、壁の表面がぽろりと崩れた。
 そして、わたしの手には白い傘が握られていた。


「神様ありがと!」わたしは走った。



 口を開けると、雨水が飛び込んできて、
 いいたい言葉を次々に飲みこんでいった。
 

 先輩に会ったら、
 真っ先に描き終えたばかりのあの絵を見せたい。
 だって先輩を描いた最高の一枚なんだもん。
 

 それからもちろん、
 今握りしめているこの「絵」もね。


 サクラ、咲け!
 (つづく)



※いよいよ受験シーズンも山場に差しかかりました。
 受験生の夢の花が開きますように。





Last updated Feb 07, 2010 09:31:23 AM
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Feb 05, 2010

池田先輩の話
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 池田先輩の話





 ―試験会場に着いたら開けるべし―



 ぼくは、笹尾からそう言われた箱を机の上に置いた。

 靴箱大のピンクの箱に
 ブルーのリボンが巻かれていたそれは、
 ぴりぴりムードの試験会場に完全に浮いていた。


 辺りを見回すと、ほとんどの生徒が参考書に目を落としていた。
 天井を見上げて精神統一をしているやつは、
 その余裕が不気味で、やたら頭がよさそうに見えた。


 いよいよ高校入試、っていうときに、
 いっこ下の笹尾のくれたものなんか
 のんきに見てていいのかなぁ。


 箱をしまおうとしたら、
 ふいにあいつのふくれっつらが浮かんだ。

 しょーがない、開けてやるか……。



 箱を開けたら、プチプチのシートが見えた。
 一枚とると、チョコレートが見えた。
 手にする。『キットカット』お約束だ。

 ストロベリー味、ブルーベリー味、
 きなこ味、抹茶味。よく集めたもんだ。
 ご当地キットカットの
 埼玉行田フライ味、
 栃木しもつかれ味っていうのもある。


 さらにプチプチシートがあってそれをどかすと、
 カルピスのビンが一本入っていた。
 どおりでずしりと重たかったんだ。

 ラベルを見ると『受カルピス』と書いてあった。
 駄洒落だ。高校の水道で割って飲めというのか?


 他にも、だるま、階段につける滑り止め、
 『スベラーズ』って書いてある。
 さらには、道路においてあるスリップ止めの砂、
 刃こぼれしているスケート靴なんかが入っていた。
 高木美帆か? ぼくは。


「なんだかなぁ」
 ふいに笑みがこぼれた。
 なんでも凝り性なアイツらしいや。
「うふふ」
 気がつくと周りの視線が冷たい。
 あわてて箱に戻そうとした。

「おや?」
 箱の一番奥に緑色の便箋を見つけた。
 中には手紙らしいものが入っていた。


『迷ったら3番だよ』


 手紙にはたった一言、それだけが書かれていた。
 ぼくはその手紙を制服の胸ポケットにいれた。
 体が高揚してくるのがわかった。
 3番。
 それは笹尾とつきあうきっかけになった出来事だった。

 
 


 半年ほど前、
 全校遠足で行われたオリエンテーリングでのことだった。

 ぼくは、グループからはぐれ、
 なれない山の中をさまよっていた。
 よりによって地図がなく、すっかり困り果てていたところ、
 おなじようにはぐれた笹尾とたまたま出会った。


「集合時間まであと何分ですか?」
 笹尾は時計すら持っていなかったらしく、
 先輩のぼくに丁寧な口調で尋ねた。

「あと十五分くらい。でも……」
 目の前の道が三つに分かれていて、
 どちらに進めばいいのかわからなかった。

 おたがいに顔を見合わせる。
 はじめてあったはずなのに、なんとなく懐かしい感じがした。


「先輩、いっせーのせ、で決めましょう。
 向かって左側から、1番、2番、3番、と」
 笹尾は、てきぱきと道を指差した。

「大丈夫なのか、そんなやり方で」
「大丈夫ですよ、人生はギャンブルですから」
 大きな瞳が、すうっ、と細くなる。
 小柄なくせに、思いっきり大胆だ。


「いきますよぉ、せぇの」笹尾が腕を振る。
「さん!」
「3!」
 ぼくらの意見は一致した。


 そしてぼくらのつきあいがはじまった。
 後で『どうして3にしたの?』と笹尾に聞いた。
 すると彼女は笑ってこういった。

「先輩は、2でもなくて4でもない。
 3っぽいんですよ」
 その問いは、いまだに解けず、二次方程式を解くより難解だった。





「それでははじめてください」
 試験監督の先生の合図で、みんなが一斉に下を向く。
 問題のページをめくる音が、いつもより硬く響き、
 カツカツと気ぜわしい鉛筆が音を立ててすべる。

 ぼくは制服の胸のあたりをぎゅつ、とつかんだ。

 (笹尾、頼むぞ……)
 問題文を見る。
 よしっ。早速、選択問題だ。

 だがその出題に唖然とする。


「選択肢が1、2、3……じゃなくって
 イ、ロ、ハだ……」
 

 頭の芯がかぁ、って熱くなる。
 落ち着け!
 試験はまだ始まったばかりだ。
 (つづく)



Last updated Feb 05, 2010 08:47:06 AM
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Feb 03, 2010

パッチワーク中ですが……
[ インフォメーション ]  

いつもありがとうごさいます。

パッチワーク中ですが、
ちょっと寄り道させてください。


じつは、雑誌『児童文芸』(銀の鈴社刊)
という児童文学系の雑誌があるのですが、
このたび拙作が連載されることになりました。


『田んぼゲーム』という題名で、
一年間、隔月雑誌なので都合六回の連載です。


http://www.jidoubungei.jp/press/press_list.php

関係の方には本当に感謝しています。


テーマにしばりがなかったので、
大好きな田んぼのことを書かせてもらいました。


男の子がひょんなことで田んぼづくりを手伝うという話です。

きっかけは、栃木県茂木町にある
「まほろばの里自給自足塾」
で、農作業を体験させてもらったことです。

このブログの前に体験記を書きましたが、
人の温かみ、有機農の体験、自然の恩恵など
たくさんの経験をさせてもらっています。

まだまだ経験が浅いので作品の中に
どこまで反映されているのかわかりませんが、
田んぼを通して『何か』伝えたいという
『想い』だけはぎゅっとつまっているような気がします。


なんらかの形でごらんいただければ幸せです。


現在、三回目の原稿を書いています。
毎回書くたびに発見や気づきがあって、
物語と一緒に成長させてもらっています。
ありがたいです。


ちなみにおもいっきり夏場の話を書いています。
そとは雪景色なのに。

パッチワーク中に失礼いたしました。


Last updated Feb 03, 2010 06:41:52 AM
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Feb 01, 2010

宇宙人 ハモフニーSNPの話
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 宇宙人 ハモフニーSNPの話




「では、教科書21ページを開いて!」
 中年に差しかかった女の先生が、
 三十人の子どもたちに指示を与えている。


 わたしは、山神第四小学校の教室で、
 地元の民生委員を装い、
(五十五歳 つけものやのばあさん、梅沢さんとして)
 授業を参観していた。


 子どもたちは、何の疑いも持たずに、教科書を開いている。
 ときどき「何ページですか?」
 とわざわざ尋ねる物好きな子どもがいる。
 いいなりだ。最高じゃないか。


「チェック1 合格だ」
 わたしは、こっそり
 もっていたノッヂドタカスV―C(地球で言うところのチェックシート)
 にトンボ製の赤鉛筆チェックを入れた。



 申し遅れたが、わたしの名はハモフニーSNP。

 地球侵略のためにv;]p@-85y−ヒラゼムクヤイーFRQ星
 (以下長いので『よその星』とする)
 からやってきた。


 宇宙人は年間約五百五十固体ほど地球にやってきている。
 その多くは観光だが、ごくまれにわれわれのような侵略者もいる。

 侵略というとビームでバババハ、と撃ち合う、
 野蛮なイメージがつきまとうが、
 わたしたちはそんな非効率なことはしない。


 教育をのっとるのだ。


 やり方は簡単だ。たった三つ。
 1.先生の力を強め、言いなりにさせる。
 2.子ども同士話し合わせない。考えさせるのなんてもってのほか。
 3.常に子どもを競争させ、お互いを敵対させる。


 たったこれだけで二十年もすれば、
 こちらの思想がなんの造作もなく子どもたちに伝わる。


「先生、みくちゃんが、ぼくのノートをのぞいています。
 ズルです」
 と一番後ろの席の男の子が、隣の女の子のことを先生に告げ口した。

「人のものを見るなんて、ズルです。」
 先生にまで言われ、みくちゃんはうなだれた。
 なんと素晴らしい!
 話し合い、助け合いをことごとく否定している。
 考えて行動させよう、なんてみじんも思ってない。

「チェック2 合格だ」
 わたしは、こっそりもっていたノッヂドタカスV―C
 にユニ製の赤鉛筆チェックを入れた。



 教育による地球侵略。
 日本では、十五年前からはじめている。
 あとわずかだ。十分な成果が出ている。


 順調だ。早めに帰って休もう、そう思ったときだった。
「あ゛―、遅れてしまってすみません」
 教室に一人のおばあさんが入ってきた。


 おばあさんは入ってくるなり、
 さっきの男の子の頭をはたいた。
「こんガキ、手で囲まんと、
 ケチケチせんとノートをみせてあげんしゃい。
 となりの子が困っているだろーに」
 そう言って男の子からノートをひったくると、
 みくちゃんに見せた。

 (なんて余計なことを……。)


「ばあちゃんくらいの年になるとなぁ、
 ああ、もっと人に親切にしたらよがった
 と後悔するんさぁ」
 おばあちゃんの発言に子どもたちが一瞬、
 われをとりもどしたような顔をした。



「あれっ、梅ばあさんが二人?」
 子どもたちが、わたしを指差した。

 (しまった、気づかれてしまった。)

 本物のばあさんもびっくりしたまなざしでこちらを見ている。
 退散だ。わたしはかけ足で教室を飛び出した。



 近所の公園に駆け込み、水のみ場の水道でのどをうるおす。
 
 またまだ、地球征服には時間がかかりそうだ。


「でも、しんせつかぁ……」
 口の端からこぼれた水を手でぬぐう。
 
 ちょっぴりいい話だったなぁ。
 (つづく)



Last updated Feb 01, 2010 07:10:33 AM
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Jan 30, 2010

みれにちゃんのはなし  (2)
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 みれにちゃんのはなし





 わたしは、ひとりぼっちじゃないよ。
 だって、いつもとなりにみれにちゃんがいるもん。
 
 みれにちゃんは、いつも「いいよ」とわらっていってくれる。
 
 わたしが、「おにんぎょうさんであそぼうよ」
 と、いうと、「いいよ」と、いってくれる。

「おままごとしよう」 と、いうと、
「いいよ」と、いってくれる。

 わたしのすきなことがすきで、
 わたしのもっているものがすき。
 そして、わたしがすき。

 だから、みれにちゃんがだいすき。






「あっ、あいつ、またヘンなことしてる」
 てつぼうのまえで、
 わたしがみれにちゃんとおしゃべりをしていたら、
 たけるくんが、えんていのすなをつかんでなげつけた。
 すなは、わたしのかおにかかった。

「ヘンなやつ。みれにちゃんだってさ」
 まわりにいる子まで、くすくすと、わらいだした。

「たすけて、みれにちゃん」
 わたしは、てつぼうのうしろににげた。
 
 すると、みれにちゃんが、
 わたしのまえにりょうてをひろげてたってくれた。
(ユルサナイ)
 みれにちゃんが、ふりかえってにっこりわらった。
(ダイジョウブ。マリチャン、ダイジョウブ)
「ありがとう、みれにちゃん」
 わたしは、ちいさくうなずいた。

 みれにちゃんが
 わたしのひざこぞうについたすなをはらってくれた。
 どうしてみんなには、みれにちゃんがみえないのだろう?





 みんながかえったきょうしつで、
 わたしのママとせんせいがはなしをしていた。

 ママは、ずっとしたをむいていた。
 せんせいのこえだけが、えんていにいるわたしにきこえてくる。
「しんぱいしています」
 そのたびにママがちいさくなっていく。

 
 



 もどってきたママは、なにもいわなかった。
 だまってわたしとてをつなぎ、
 いつものようにしたをむいてあるいていた。

 わたしは、ママのかおをみた。
 めがあった。
 すると、うれしくないのににこっとわらった。

 わたしは、なきそうになった。
 どうして、せんせいみたいにおこらないの?
 それに、どうしてこんなときだけしかわらわないの?

 いつもいつもしらんぷりなの?

 


 ママがやってきたのは、いつもとちがうばしょだった。

 えきのホーム。
 ママは、さっきからてんじぶろっくのところにたって
 ものすごいスピードですぎていくでんしゃをみていた。

「しんじゃおうか?」
 ママがわたしのてをくいっ、とひっぱった。
 オレンジいろのでんしゃが、ホワン、とけいてきをならした。
「いや、いやょ」
 わたしがいやいやする。
 でもママは、てをはなし、
 ひとりでふらふらとまえにでた。

「いやっ、みれにちゃん、たすけて!」

 そのしゅんかん、
 みれにちゃんがかけより、
 ママをつきとばした。
 おもいっきりつよいちからで、
 ママが、ホームのほうにたおされた。

「ママ」
 わたしはママにしがみつく。
 かぜといっしょに、でんしゃがすぎてった。

 ママは、おおきなこえでなきだした。
 こどもみたいになきじゃくった。

 そして、ものすごいちからでわたしをだきしめた。
 
 うまれてはじめて。
 こわれそうなくらい。

 わたしもだきしめた。
「ママごめんなさい!」
 なんどもなんどもいった。

 まわりのひとがかけよってくる。
 えきいんがはしってくる。
 あっというまにひとにかこまれた。

「サヨウナラ」
 でも、みれにちゃんだけは
 うれしそうにてをふってはなれていった。

 (つづく)



Last updated Jan 30, 2010 09:17:04 AM
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Jan 27, 2010

篠山さんのお母さんの話  (4)
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 篠山さんのお母さんの話




 ドアを開けると、スーツ姿の男が立っていた。


「はじめまして、
 『にこにこ教育コンサルティング』の菅野です」
 男はそういうと、両手を添えて名刺を出した。


 電話では、もっと年のいった、恰幅のいい人を想像した。
 が、目の前の男は大学を出たての新入社員のようないでたちだった。
 年齢を聞くと、三十歳なのだという。


「本庄さんからお話は聞いています。お嬢さんをどこの小学校に
 通わせるかでお悩みだと……」
「は、はぁ」


 昨今、公立の小学校なのに、学区選択制、というものがあるらしい。
 上の子なのでよくわからず、越してきたばかりでなじみもない。
 どこに通わせたらいいのか迷っていると、
 友達の本庄さんがこのコンサルを紹介してくれた。
 

 子どもの学校を決めるのにコンサル?
 こんな時代になったんだ、と驚嘆していると、
 男はかばんからノートパソコンを取り出し、
 あがりかまちで、電源を入れていた。


「ご安心ください。初回相談は無料です」
 男は、にっこりと笑ってパソコンのキーをたたき始めた。
 やがて、
「篠山様ですと、山神小学校、山神北小学校、山神中央小学校の
 3校がお子様の足で通えるところです。ただ、
 親御さんによっては、将来『箱根駅伝を』と考え
 健脚に育てたい、とあえて遠方を選んだり、
 『山の神に』育てたい、と登下校に山道や坂道のある学校を
 選択されたりする方もいます」
「はぁ」


「ところで、篠山様は、どんな学校にお子様を?」
「そうですねぇ。まぁ人見知りが激しいので、先生がやさしい
 といいですね」
「それはいい!」
 菅野さんが嬉しそうに手をたたいた。


「距離的には山神北小がおすすめなんですが、
 この学校は、教師のスパルタ度が七十ポイントと高いんですよね。
 特に、鬼軍曹、と異名をとる山田先生。
 鬼ばばぁ、と容姿を恐れられている望月先生。
 鬼太鼓とその口調を揶揄されている
 岡島先生の『三鬼』のスパルタ教育は北小のウリになっています。」
「はぁ」
「そのてん中央小では、スパルタ度は50。どうも厳しいのは苦手、
 っていうお子様には好評です」
「はぁ」


「ここは、先生が個性的なんですよ」
 そういって菅野さんは、液晶画面をこちらに向けた。
 みると、先生の顔写真つきプロフィールがあり、その下に、
 くもの巣みたいなグラフがあった。
 先生の総合力を数値化したものらしい。
 時代はここまで進んでいるのか。


「この長谷川先生、※1 マギー司郎先生の弟子だったこともあり、
 手品が得意です。零点のテストを百点に変える手品なんて
 もう大ウケで。おまけに茨城弁まで教えてもらえますよ」
 菅野さんは腹を抱えて笑い出した。


 写真を見る。
 先生たちの顔がどれも同じに見えた。
 個性が感じられない。
 最近ますますそうなのだ。
 じっと見つめていたら、なんだか気持ち悪くなってきた。


「それから動物好きな、陸奥 五郎(むつ ごろう)先生、
 なんていうのもいますよ。
 職員室で、しょっちゅう犬に甘噛みされていますよ」

「あのぉ、いいです」

「はぁ?」
「うちの子と二人で考えます。子どもと私たち家族の問題ですから……」
「何をおっしゃっるんですか。これからの小学校選びは情報ですよ、
 全国学力テストの平均値や不登校率、気になるところでしょ」
「……、別に」

「ダメですよお母さん、小学校段階で七割ですよ。
 お子さんの教育が成功するのか否かは?」
 菅野さんが身を乗り出した。
 小学校段階で何が決まるか! なんだかカチンときた。


「とにかくお帰りください」
 篠山さんのお母さんは、パソコンをたたみかけの菅野さんを
 ドアの外に押し出した。





 ドアの向こうに人の気配を感じなくなると、
 篠山さんのお母さんは、ふうっ、と息を吐いた。
「学区通学選択って、
 ※2 縦じまのハンカチを横じまにする手品みたい。
 なんだか胡散臭いわ」
 そう言うと、玄関に盛り塩をした。
 (つづく)



  ※1 北関東なまり口調でしゃべる手品師。
  ※2 その方お得意の手品。
     縦じまのハンカチをただ横にしてみせる。
     今市市(現日光市)では評判らしい。




Last updated Jan 27, 2010 07:03:23 AM
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